ウォーター

第百二十八部

 

「ほう、今日は生物か、珍しいね」
「生物は少しだけ好きだから・・・」
由美の言葉は少し沈んだ感じに響いた。『やっぱりそうだよな』宏一は昨夜一枝にしたことを思い出しながら、由美の綺麗に輝く髪を見つめていた。
「元気、ないね」
「そう・・・かな?・・・わかんない・・・」
「まずはお勉強だよね。わからないところはあった?」
「・・・・宏一さんの気持ち・・・・」
つぶやくように言葉を出した由美は、思わず言ってしまったことにハッとして、
「なんでもありません。えーと、ここのところです」
と急に元気な声を出して質問し始めた。
「でんぷんの体内での消化なんですけど、この乳酸との繋がりが分からなくて・・・」
「えーと、グルコースの吸収と分解の話だね」
「そうなんですけど、どうしても結びつかなくて・・・」
「でんぷんが分解されてグルコースになってからどうなる?」
「小腸でグルコースに分解されてから全身に運ばれます」
「そうだね。それから?」
「えっと、細胞質の基質内で分解を受けます」
「それで何になるの?」
「ピルビン酸・・・だっけ????」
「それから?」
「合ってるんですか?自信ないんですけど・・・」
「合ってるよ」
「確か・・・電子伝達系で・・・・」
「どこで?」
「基質・・・」
「違うよ」
「・・・わかりません」
「おしいなぁ、もう少しなのに」
「ごめんなさい。教えてください」
そう言いながら由美は、宏一が手を伸ばしてくるのを心待ちにしていた。しかし宏一は静かに勉強を教えている。宏一がまじめに勉強を教えてくれているので、しっかりと頭に入れたいのだが、由美の心はどんどん乱れてまともに考えられなくなってくる。『昨日、何があったの?』『宏一さんは私のこと、もう好きじゃなくなったの?』『こうやって勉強を教えてくれるだけの関係になってしまったの?』そんな想いが頭の中で渦巻いている。


「・・・・ミトコンドリアに入って、そこで電子伝達系で分解されるときにATPを生成して、これが活動エネルギーになるんだ。だけど、この反応は一定速度でしか進まないから・・・」
『宏一さん、宏一さん、私のこと・・・・』
「・・・・ピルビン酸が分解されないで筋肉に蓄積されると筋肉内ではこれが還元されて乳酸が生成して・・・・・」
『宏一さん・・・・こんなに好きなのに・・・宏一さん、宏一さん』
由美の頬を一筋の涙が滑り落ちて行った。しかし、後ろに立っている宏一はまだ気がつかない。
「・・・その乳酸が蓄積するからスポーツの後は筋肉が膨らんだり、硬くなったりするんだよ。だから、でんぷんがグルコースに分解されてから吸収されても、細胞内のミトコンドリアでの分解が進まないとATPが生成しなくて、乳酸が溜まっちゃうんだ。わかった?」
「・・・・・・・・」
「由美ちゃん?」
「・・・・・・・・」
「どうしたの?」
宏一は由美の顔を覗き込んで、いく筋もの涙の跡を見た瞬間、由美の気持ちを理解した。
「由美ちゃん」
そっと顎を上に向かせ、小さい唇にそっとキスをした。心を込めたキスだったが、すでに心が乱れている由美にはあまり効果がなかった。それどころか、もっとたくさんの涙が溢れ出て来る。宏一は舌を入れてみたが、いつものように可愛らしい舌が絡み付いてくることもなく、何も反応しない。
宏一は椅子から由美をそっと抱き上げると、そのままベッドへと運んで行った。しかし、由美は宏一の腕の中で、
「いや・・・いや・・・」
と抵抗した。由美が嫌がったことなど最近は全く無かったので宏一は驚いた。
「どうしたの?由美ちゃん、嫌なの?優しくしてあげたいのに」
「待ってください。こんなのは嫌です。少し待って・・・」
「どうしたの?」
宏一はベッドの縁に腰掛けさせると、自分も横に座った。しかし、由美の顔を覗き込んでもすっと横を向いてしまう。
由美にしてみれば、こんな心の乱れた状態で抱かれたくは無かった。今なら何をされてもただ泣く事しかできない。そうなったら、宏一が愛してくれているのに愛を返せなかったら、本当に宏一は自分に興味を無くしてしまうかも知れない、そんな漠然とした思いが乱れた心の中を走り回っている。
宏一はしばらくの間、由美の肩を抱くだけで何もできなかった。由美自身が嫌がっているのに抱いても意味が無い。この時宏一は、由美に嫌われたのかもしれないと思った。学校で一枝に昨夜の事を詳しく聞かされ、由美の想像以上に親密に一枝を抱いたことで、由美の心が宏一から離れて行ったのかもしれないと思った。そうだとしたら、やはり自業自得と言うべきなのだろうか?しかし、それをセットしたのは由美自身だ。静かに肩を震わせて泣き続ける由美の横で、由美がどう言おうと一枝とのことは断るべきだったと後悔し続けた。
それでも、少しの間由美の髪を撫でながら抱きしめていると、少しずつ落ち着いてきたと見えて由美は大人しくなってきた。そっと何度もキスを繰り返していると、ちょっとだけ唇が反応してくる。少し舌を入れてみると、小さな舌がちょっとだけ突き出されてきた。そのまま少しずつ舌を深く入れ、歯茎を舌で撫でてみる。由美は嫌がっていないようだ。宏一は時間を掛けてゆっくりとキスを繰り返した。
由美は宏一のキスを受けながら、やっと心が落ち着いてきた。やはりこうしていると安心できる。宏一の腕の中で愛情に包まれているのが一番だ。余り宏一が積極的にキスをしてこないので、由美は身体に火が点くよりも心が解放されてゆったりとした気分になっていった。
昨日、一枝の相談を受けて宏一に電話してからずっと由美の心は乱れっぱなしだった。やっと緊張から解放された。宏一の腕の中にいるのが一番だ。緊張から解放されて一気に疲れが出てくる。優しく髪を撫でられながら軽くキスを受けていた由美は、すうっと意識が薄れていく事に少しだけ気が付いたが、そのまま何もせずに宏一のキスを受けていた。宏一の唇が自分に触れている事を感じているだけで、心は安心していられる。ずっとこのままで居たいと思った。そして、この時間が永遠に続いたらどんなに良いだろうと思った。心のどこかで『ダメ、寝ちゃうわよ』という声が聞こえたが、宏一に抱かれているのがあまりに心地良いので、そのまま意識に霧がかかっていくのをどうしようもなかった。
優しくキスをしていた宏一は、ふと気が付くと由美が反応していないので不思議に思って由美の表情を探ってみると、どうやら眠ってしまったらしい事に気が付いた。『俺がキスをしているのに』と少しだけ腹が立ったが、考えてみればそれだけ由美の気持ちが乱れていたという事なのだろうと気が付いた。『少しの間だけ眠らせてあげよう』そう思うと、唇をそっと離したが、キスをやめるとまぶたがぴくっと動いてしまう。キスをすればすっと閉じられる。宏一がベッドから降りればスプリングが動いて由美の身体が大きく揺さぶられるだろうし、そうすればせっかく眠りに入ったのに目を覚ましてしまうかも知れない。そう思った宏一は、少しの間だけこのままキスを続ける事にした。
『眠ってる女の子にキスをするなんて、初めてかな?』そんな想いが心を巡っているが、『やっぱり由美ちゃんの事、大好きだから』と思うと、それほどイヤな事ではなかった。
由美は宏一に優しく髪を撫でられ、キスを繰り返されながらしばらく浅い眠りに入っていた。それはとても心地良く、身体が雲の中でふわふわと浮き上がるような不思議な体験だった。
それから少しの間、宏一はキスを続けていた。確かに軽くキスをしている時は由美の目が閉じられているのに、キスをやめるとうっすらと目が開きかける。何分の間、そうしていたのか分からなかったが、宏一は由美が目を覚ますまで優しいキスと髪の愛撫を続けた。
少し経った時、突然由美の舌が宏一の舌に絡んできた。ちょっとの間、お互いの舌を探り合ってから顔を上げると、由美が不思議そうな顔をしている。
「宏一さん、私・・・?????」
「目を覚ました?」
「私・・・・どうしてたの?」
由美は自分が何をしていたのかよく分からなかった。記憶が飛んでいるような気がしていたし、何より目を覚ました時にキスをしていたというのも経験が無かった。
「少しの間、眠ってたみたいだね」
「私、寝ちゃったの?」
「そうみたいだね」
「宏一さんは何してたんですか?」
「分かってるでしょ、キスしてたよ」
「私・・・寝ちゃったんですよね・・・」
「そう」
「その間、ずっとキスしてたんですか?」
「そう、だよ」
「どうして?」
「だって、キスをやめると瞼がぴくって動いて目を覚ましそうだったから、髪を撫でながらキスしてたんだ」
「宏一さん・・・・・」
由美は目を覚ましたばかりだったが、時間も短かったらしく、頭は直ぐにはっきりしてきた。そして宏一の心遣いを理解した。
「宏一さん、嬉しい・・・」
由美は宏一の首に手を回すと、心を込めてキスをした。その心の中には最早一枝の不安はなく、宏一を心から信じ切っていた。そして、そんな宏一を疑った自分が恥ずかしかった。
二人は濃厚なキスをたっぷりと楽しんでから、次の段階へと入っていった。宏一は由美の心の変化がよく分からなかったので、そのまま優しく髪を撫でてキスをしていたのだが、由美の方から宏一の手を胸の膨らみに導いていった。
ゆっくりと宏一の手が由美の小振りの膨らみの上を撫で始めると、由美の身体は直ぐに反応を始め、直ぐにブラの下からポツッと突起が出てきた。由美は既に馴染んでいるあの感覚が身体の中から沸き上がり始める。
いつもの由美なら、この感覚が身体を走り始めると、おねだりをしなくてはいけない事に戸惑うのだが、今の由美は素直におねだりができそうだった。
「宏一さん・・・・」
由美が何か言いかけると、
「由美ちゃん、今の由美ちゃんはとても心が疲れてるんだ。何も言わなくて良いよ。大丈夫」
そう言うと、宏一は由美の唇を塞いで言葉を奪ってしまった。そしてゆっくりを愛撫を続けながら、制服のホックを外し、ジッパーを下げていく。由美は今までになかった愛され方なので少し戸惑ってしまったが、宏一の心遣いが嬉しく、大人しく宏一に身体を任せる事にした。
宏一の愛し方はいつもながら絶妙だった。制服を左右に開き由美の上半身に自由に触れるようにしてからブラジャーのカップを丁寧に撫で始める。時々左右を換えて、両方の乳房が同じように硬く膨らむように愛撫しながら、由美に腕枕をしている左手の指先では耳元から首筋をなぞるように愛撫し、更にキスを続けていた。

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