ウォーター

第百四十五部

 


二人が宏一の部屋に入ると、そこには別世界が広がっていた。ゆったりとした上品な部屋の奥の窓には夜景が広がっている。部屋も素晴らしかったが、恵美は思わず窓際に近づいた。

「綺麗!」

恵美は窓の外に広がる夜景に目を見張った。大きな窓の向こうには港が眼下に綺麗に広がり、その向こうにベイブリッジが光の点に彩られて大きく見える。こんな景色は恵美も見たことがなかった。先程までいた中華街とは別の方向が見えているのだが、港の灯りと高速道路の光の帯が恵美の心に焼き付いた。

「恵美さん、どう?」

「こんな素敵な景色を見たのは初めて」

「良かった。恵美さんがそう言ってくれて」

「でも、私を誘うつもりでこの部屋にしたの?」

「違うよ。この部屋しか空いてなかったんだ」

「そうよね。週末だもの」

宏一はこの瞬間しかないと思った。思い切って恵美の斜め後ろからそっと寄り添う。恵美はちょっと気にしたようだったが、何も言わなかった。

「恵美さん」

「なあに?」

「好きになっても良い?」

宏一の吐息が恵美の耳元から項を優しく刺激した。

「え?それは今夜だけ?」

「ううん、これからも」

「どうしようかな?」

「ゆっくり考えると、たいていあんまり良い答にはならないよ」

そう言うと宏一はそっと後ろから恵美を抱きしめた。恵美はハッとして身を固くしたが、そのままじっとしている。そして甘い感覚が項から湧き上がるのを感じながら、ここまで来てもまだどうしようか迷っていた。

「宏一さん、私のこと、好き?」

「もちろんだよ。これからも恵美さんの近くにいたいな」

「私の、どこが好き?」

「話していて知性を感じる所、仕草、口調、言えと言われればもっともっと並べるけど、好きって言うのは理由があるからじゃないよ」

「どうしようかなぁ・・・・・・・」

恵美はそう言うと、フェリーの時のように宏一の手を自分の前で交差させて、その上から自分の手を載せた。恵美の前には素晴らしい夜景が広がっている。恵美の目の前で闇の中をたくさんの光の点が動いていた。恵美はそれ以上答えずに、しばらく夜景を眺めていた。宏一は恵美の前に手が回ったので、宏一の手には少しだけ恵美の胸の膨らみを感じていた。小柄な身体には少し大きめな感じだが、ツンと尖った感じは形の良さを感じさせる。

宏一は少しだけ両手を狭め、恵美の膨らみをよりはっきりと感じようとした。

「もう、女の子が静かに夜景を見てるのに我慢できないの?今日は寒くないのよ」

恵美はじっと夜景を見ながらそう言ったが、静かに宏一の手を引き上げて胸へと導いた。

「だって、こんなに素敵な子が腕の中にいるんだもの」

そう言うと宏一は両手の中に恵美の膨らみをすっぽりと入れ、優しく包み込むようにして大きさを確かめた。確かにかなりの大きさがあるし、綺麗に突き出している。宏一は更に手に力を込めようとした。

「それはダメ」

突然恵美はそう言うと、宏一の腕の中で向き直った。自然に恵美は抱きしめられた形になる。

「これ以上はだめよ」

そう言うと恵美は両手を宏一の胸に置いて軽く距離を取ろうとしたが、突き放すことはしなかった。恵美は嫌がっていない、どころか、まだ宏一の腕の中にいる。宏一はまだいけると思った。

「恵美さん、フェリーの時とは逆かな?今度は俺からいくよ」

宏一はそっと顔を近づけていく。

「ん、あの時は・・・・あ・・・でもまだ・・・」

恵美は少し横を向いて宏一を避けようとした。まだ迷っているのだ。恵美は今すぐに宏一に応じるか決めなくてはいけない瞬間を迎えてしまった。ここまで来ると、今までのように中途半端なままで雰囲気を楽しむわけにはいかなくなった。しかし、恵美の心の中は真っ白になって何も考えられなかった。

「恵美さんに会えて良かった。恵美さん、もうダメ。好きになっちゃったよ」

宏一はそう言うと恵美のちょっとだけ尖った顎に指を当てて振り向かせ、軽くキスをした。

「っ!」

恵美は宏一のキスを受けたことに驚き、それを嫌がらない自分に驚き、とにかく何かしなければ、と思いながらも宏一の胸に当てた手に力が入らず、何もできない自分に驚いた。

最初のキスはほんの2,3秒だった。宏一が唇を離すと恵美は不思議そうな顔をしている。

「これはフェリーでのお返し」

宏一はもう一度キスをした。既に宏一は恵美に夢中になっていた。

「んっ!」

恵美は二度目のキスを受け入れた時、心が解けていくような気がした。恵美の心が宏一を受け入れていく。宏一の唇に合わせて自分の唇が動き始め、自然に宏一の胸に当てた手が宏一の首へと伸ばされていく。そのまま二度目のキスは次第に二人の心が一つになっていく濃いものになっていった。

やがて宏一の唇から舌が繰り出され、恵美の口の中へと入り、歯の周りを探り始めた。

「んんっ、うぐっ・・・・」

恵美の小さな唇は最初それを押し返そうとしたが、宏一の舌がそれを追いかけ始めると小さな鬼ごっこのような感じになった。そしてとうとう宏一の舌が恵美の舌を捕まえると、恵美の小さな舌が宏一の舌と絡み始めた。

ただ、恵美の心臓は爆発寸前だった。フェリーの中でキスをしたと言っても、旅先で好意を持った人へのほんの一瞬、どちらかというとお礼の気持ちの方が強かった。確かにあの時から宏一には好意を持っていたが、それに比べて今はどんどん恵美の心の中に入ってくる。更に恵美を抱きしめていた宏一の右手が胸の膨らみへと回ってくると、恵美はそれを押し下げようとしたが、上手く力が入らない。すると胸から抵抗できない甘い感覚が湧き上がり始めた。

「んんんっ!」

恵美は少し嫌がった。しかし唇は離れない。しかし、心の準備ができていない中でこれ以上は絶対に無理だった。とうとう足がガクガク震え始めた。

「待って・・・・もうこれ以上はだめ」

恵美はグイッと身体を反らせて宏一から離れたが、足がふらついてしまう。そのままヘナヘナと近くのベッドに腰を下ろすと、息を整えようとした。

「三谷さん・・・、じゃなくて宏一さん、もう、びっくりさせないで、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、急にこんなこと、するなんて・・・・」

恵美は胸に手を当てて息を弾ませていた。その右側に宏一が座ると、その重みでベッドが沈み、恵美は自然と宏一の方に寄りかかってきた。

「恵美さん、怒ってないの」

「そんなこと無いけど、びっくりしちゃって・・こんなことするなんて久しぶりで・・・私、何言ってんだろ」

「良かった。俺だってこんなことになるなんて思ってなかったけど、でも、正直な気持ちなんだ」

「そうね・・・、それは・・・・そう・・・・私ったら、何言ってんの」

頭の中はぐるぐる回っていて考えがまとまらない。しかし、恵美には自分の気持ちだけは分かっていた。この部屋に来てみたいと言ったのは自分だったし、宏一に近寄られても嫌がらなかったのも恵美自身だ。それならキスされても仕方がないと思った。

「恵美さんも俺のこと、好きになってくれたって思っても良いの?」

「うん、・・・たぶん・・・・」

恵美は驚きの方がまだ強くて心の中の整理ができていなかった。しかし、恵美にだって恋愛経験はあったし、自分の気持ちが分からないわけではない。宏一に対してかなり強い好意を持っていることは間違いなかった。好きと言っても良い。ただ、展開があまりに急だっただけだった。

「それじゃ、もう一回キスしても良い?」

「ええ、後で。その前に少し休ませて。足がガクガクしちゃって」

「それなら、少し横になると良いよ」

宏一はそう言うと恵美を抱き寄せてからそっとベッドに倒していった。

「え?それってもしかして、ああん、だめよぉ」

恵美はゆっくりとは言え強引に宏一が押し倒してくるのに嫌な感じがしないことに安心し、ある程度心を決めた。恵美が嫌がらずに身体を倒したので、そのまま宏一はしっかりと恵美を抱きしめながら恵美をベッドに横たえていく。しかし、靴を履いていては足を下ろせない。恵美は半分仕方なく自分で靴を脱ぎ捨てるとベッドに身体を移した。

そのまま宏一は恵美にしっかりとキスをしながら恵美の胸の膨らみを右手で確かめ始めた。恵美は宏一の唇を受けるのに精一杯だったが、その唇が項へと移っていくと、

「今日はここ迄よ。ね?宏一さん、ああアン、だめぇ、そんなにしないで、ね?ここまでにして・・・、休ませてくれるって・・・、アンッ、こんなにされたら・・・んんんっ、ダメ、そんなに上手に・・・。ああん、お願い、これ以上は・・・・」

と喘ぎ始めた。とても心地良い。安心できる優しさが恵美を包み込む。それはここしばらく恵美が求めていたものだった。どんどん心が解放されていく。宏一の胸への愛撫はとても優しく安心できるものだった。そして少しの間だけ恵美は迷っていたが、次第に宏一の愛撫を受け入れていった。ゆっくりと恵美の腕が宏一へと回されていく。

宏一は恵美の手が宏一の首に回され、恵美が少しずつ感じ始めるのを見て有頂天になった。そのままゆっくりと胸への愛撫を続け、恵美が更に感じるまで待ち続ける。

恵美は矢継ぎ早にシチューえーションが進んでいくので心の方が追いついていかないと思った。しかし、キスを返しながら『こうやってくれないと、私ってきっと逃げ出したくなるだろうな』とも思った。

ただ、安心すればするほど恵美の身体は宏一の愛撫に反応し始めた。最初は胸を撫でられている程度だと感じていたのが、いつの間にか強い快感の予感が恵美の身体の中を走り始める。恵美はいつの間にか足を何度か擦り合わせるようにして喘ぎ始めていた。

宏一の右手は、恵美のブラウスの下の布地から固い突起が突き上げてきたのを見つけた。そこを何度か更に撫でると突起は更にはっきりとしてくる。

「アン、ダメ、宏一さん、これ以上はだめ、止まらなくなる。ああんっ、お願い、少し待って」

「恵美さん、フェリーだってここまで許してくれたのに」

「あの時は・・・、こんなにしてないし。だめぇ、ああんっ」

「恵美さん、好きだよ」

宏一は恵美の項をたっぷりと唇で刺激し、更に舌で優しく舐め上げ始めた。宏一は恵美の上にいるので逃げられない。

「ああぁぁっ、宏一さん、こんな強引にする何てえ、ああん、もう我慢できなくなる。お願い、あうぅんっ」

恵美は本当にこのままでは我慢の限界を超えると思った。

「本当にこれ以上はだめぇっ」

そう言うと恵美は思いっきり身体を捻って俯せになり、宏一の愛撫から逃れた。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、びっくりした。・・・・宏一さんたら、強引なんだから」

俯せになった恵美の姿はとても綺麗だった。カールした恵美の髪が肩を覆い、胸の膨らみは見えなくなった代わりに背中から腰にかけてのラインがとても綺麗だ。そして腰から尻と足へのラインは宏一が初めて見る素敵なカーブだった。

宏一はどうやら恵美が嫌がっているわけではなく、単に感じているのを恥ずかしがっているらしいと思うと、もう少し恵美を可愛がってみたくなった。第一、中途半端で止めるのは後の想い出も中途半端になってしまう。宏一は恵美の項にかかっている髪を掻き分けると、恵美の耳元で囁いた。

「恵美さん、もう少し触っても良い?」

 

 

 

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