ウォーター

第百六十二部

 


「由美ちゃん、やっぱり由美ちゃんと食べる食事は最高だよ」

「はい、とっても美味しかったです」

「食事もそうだったけど、一緒にいるのが由美ちゃんだからね」

「私も。宏一さんと一緒にいられるのがとっても楽しいです」

「お腹も一杯になったし、そろそろ出ようか」

「はい」

宏一はそう言うと、由美を連れてレストランを出た。

「ラウンジに行ってみたい?」

「いいえ」

「美味しいケーキがあるらしいよ」

「もうお腹一杯で食べられません」

「そうか、それじゃ・・・・・」

「お部屋に行きましょう」

「うん、そうしよう」

二人は自然に腕を組んで笑顔で部屋に向かった。それはどう見ても恋人同士にしか見えなかった。

部屋に入る時、宏一は由美の方を振り返った。自然に由美が宏一の首に手を回し、宏一が由美をお姫様抱っこする。

「ひゃぁ、宏一さんたらぁ」

「由美ちゃんだってこうして欲しかったんだろう?それじゃ、部屋の鍵を開けて」

「はい。しっかり抱いてて下さいね。落としちゃ嫌ですよ」

「こうかな?」

「いやぁぁ、落ちちゃうぅぅぅ」

「はは、ごめんごめん。もうしないから鍵を開けて」

「もう、こんな時でも意地悪するんだから」

由美はそう言って部屋の鍵を開け、二人が中に入ると由美を下ろす前に二人はそれまで我慢してきたことをたっぷりした。

「んんっ、んぷっ、はぁっ・・・」

宏一の唇が由美の首筋を這い回り出すと、由美はゆっくりと身体を伸ばし、宏一はそのままそっと由美を下ろした。

「宏一さん、お願いです。もう一回シャワーを浴びさせて下さい・・・」

「もう離したくないよ」

「ダメ、もう一回だけ。良いでしょ?」

「いや」

「ああん、夢中になっちゃう、これ以上されたら夢中になっちゃいます・・・・。お願いです。宏一さん」

由美があまりにそう言うので、宏一は由美をシャワーに行かせることにした。

「分かったよ。言っておいで。どうせならゆっくりとお湯に浸かっておくんだよ」

「宏一さん、嬉しいです。大好き」

由美はそう言うと宏一にもう一度キスをしてからシャワーに向かった。シャワーをたっぷりと浴びながら由美は、今日一日の汗をしっかり流しておこうと思った。今日は今までゆっくりシャワーを浴びる時間がなかったから何か汚れているような気がする。だから、ベッドで思い切り夢中になれるように丁寧に身体中を洗った。

宏一は由美がシャワーを浴び始めた音を聞いたので、もう一度ジャグジーに入ることにした。一人で入るのは味気ないが、最初から一人で入りたいと思って入るのなら、それはそれでまた良いものだ。

確かに夜のジャグジーは良い気分だった。泡を作るための低いモーター音と泡の弾ける音の他、余計なものは聞こえない。おまけに夜の月はセクシーな色をしている。宏一は由美をどうやって愛してみるか、月を見ながら考えていた。

由美はやっとゆっくり宏一とベッドで愛を確認できることに胸をときめかせていた。京都に行った時はまだ由美に少し戸惑いがあったので、二泊もしたのに正直に言えば余り夜のことは覚えていない。どちらかと言うと、早朝、恥ずかしがりながらホテルの庭園で愛された時の記憶とブルートレインの中での記憶が強い。しかし、今夜は由美自身の望みとして宏一とベッドで愛し合う初めての夜と言えた。シャワーを浴びながら、宏一が明日、一枝を抱くことに対抗心を燃やしているのかとも思ったし、どこか嫉妬しているのかとも考えてみた。しかし、出てくる答えは宏一と一緒にいたい、宏一に愛されたい、宏一の望み通りに受け入れたい、その思いばかりだった。

由美は身体を洗い終わると、シャワーブースを出て髪を乾かし始めた。

宏一は屋外のジャグジーを満喫していたが、一人で入るのにだんだん飽きてきた。話し相手がいないので、ものの数分で部屋の中に戻りたくなった。しかし、直ぐに部屋に戻るのも癪なのでもう少しだけ一人でジャグジーを楽しむ。しかし、ジャグジーはお風呂ほど温度が高くないので余り身体が温まらない。部屋に入る時、軽く吹いた風で思わずくしゃみをしてしまった。やはりジャグジーは由美と入るのが一番良いようだ。

宏一が部屋のソファでゆったりとすると、由美の携帯が鳴った。さすがに出るわけにも行かず放っておくと数回鳴っただけで携帯は静かになった。

「宏一さん、私を呼びましたか?」

そう言いながら由美が出てきたので、

「別に?」

と言うと、

「なんか、さっき宏一さんの声がしたような気がしました」

と由美が髪を乾かしながら言った。

「ううん、なんでもないよ。それより、さっき携帯が鳴ってたよ」

「え?気が付かなかった」

「そう、それより、俺も簡単にシャワーを浴びるからちょっと待っててね」

「はい。でも、早く戻ってきて下さいね」

「うん、わかってるよ」

由美は宏一の首に手を回し、キスをねだってきた。宏一が由美の細い身体を抱きしめてたっぷりと唇と首筋を愛してやると、

「ああん、早く戻ってきて下さいね。宏一さん、あぁぁ」

と由美がうわずった声で身体をくねらせた。一瞬、宏一はこのままベッドに入ろうかとも思ったが、やはり一度しっかりと身体を洗っておきたかった。これからお互いの全てを確認し合うのだし、数分で済むのだから。

「じゃ、ベッドで待っててね」

そう言うと、宏一はシャワーを浴びに行った。

由美は宏一に言われた通り、ベッドに入って待つことにしたが、携帯のことが気になって着信を確認しておくことにした。やはり一枝からだった。この時間には良く掛けてくるのだ。ちょっと迷ったが、無視するわけにも行かないので由美から電話しておくことにした。そうすれば宏一とベッドに入っている時にかかってくる心配もいらない。ベッドに身体を投げ出し、携帯で一枝を呼び出す。

「一枝ちゃん、どうしたの?」

「ねぇ、ゆん、昨日なんだけどね?」

「昨日?マックで?」

「ううん、その後、帰りの話」

「どうしたの?」

由美は拙いと思った。これは話が長引くパターンだ。何とか話を短く切り上げなくてはいけない。

「電車の中でオヤジが肘で胸をつついてくるの」

「大丈夫だった?」

由美は思わず心配した。由美より背が低い一枝は電車の中で見えにくいので触られやすいのだ。

「大丈夫よ。ギロッて睨んで『止めてよ』って言ったら逃げてったわ」

「よかっった」

「でもね。周りの視線を浴びちゃってさぁ」

「隣の車両に移ったの?」

「そうなんだけど、何だか気味悪くて武蔵学園前で降りちゃった」

「それで?」

「気分転換しようって思って、駅前のコンビニで読書してさぁ」

由美は何だかおかしいと思った。たぶん、一枝はそんなことを話したくて電話してきたわけでは無さそうだ。何て言うか、単に由美と話をしたいだけ、そんな感じだ。それで由美にはピンと来た。明日のことを気にしてるのだ。由美達の女の子には単なる通過儀式とは良いながら、やはりそうと分かっていれば気になる、そんなものだ。しかし、由美だっていつまでも一枝のとりとめのない話に付き合ってはいられない。そこで、

「一枝ちゃん、いよいよ明日ね」

と思い切って言ってみた。

「・・・・・そうなの・・・・・」

「どうしたの?心配なの?」

「私・・・・、上手にできるかなぁ?」

由美は一枝のあまりにストレートで分かり易い不安にほっとした。

「大丈夫。宏一さんに任せておけばいいのよ」

「ゆん、ごめんね」

「ううん、良いの。私から言い出したことだから」

「そう?でもぉ、・・・・あのね・・・・・うーんと・・・・」

「どうしたの?」

「・・・・・・・・・・・・・・宏一さんが・・・・・・私を好きになる事なんて無いかな・・・・無いよね?大丈夫だよね・・・・・ゆんがいるものね」

由美には一枝の言いたいことが分かった。一枝は、宏一が一枝に夢中になってしまっても良いかどうか聞いているのだ。うわべ自信家の一枝らしい言い方だ。しかし、ここで由美が『そんなこと絶対にないわ』と言ってしまえば一枝の自信は消し飛んでしまい、真っ暗になって宏一の前に行くことになる。由美は一枝にとってそれくらい影響力が強いのだ。だから由美はなんと言っていいのか少し迷ってしまった。

「ゆん・・・だいじょうぶだよね・・・・・・」

電話の向こうで一枝が息を殺して由美の言葉を待っているのが良く分かった。

その時、宏一が身体を拭きながらシャワーから上がってきた。由美は、いくら何でもこんなに早く宏一が戻ってくるとは思わなかったが、ふと時計を見ると既に十分以上経過している。しかし、とても今すぐに一枝との話を終えられる状態ではない。これは正に京都の夜の再現だった。

その時、由美の中にある考えが浮かんだ。それは決して一枝には言えないことだったが、今の由美には宏一が必要だった。俯せで話をしていた由美はさりげなく足を少し開いた。

「私にだってどうなるか分かんないの」

「ゆんにも?」

「そうよ。だって、今までどんなことがあったのか私、知らないんだもの」

「それはそうよね」

「だから、雰囲気だって分からないし、ましてやこれからどうなるかなんて聞かれても」

「だったら、ゆんはどうするの?このまま私と宏一さんが離れられなくなっても」

「私にそんなこと聞かないで。心配になって来ちゃうじゃないの」

由美のその言葉が一枝を元気づけた。通過点に過ぎないと分かっていても、今の一枝にはロストは大切な意味があるのだ。できれば心ときめく想い出にしたいと思うのは悪いことではないはずだ。そして、この体験が新しい世界への扉になってくれればもっと嬉しい。

「そうよね。今までゆんにはちゃんと話したこと、無かったもんね」

その時宏一は由美が誰と話をしているのか分からなかった。、しかし、無防備な由美の姿に吸い寄せられるようにベッドの上に上がり、由美の可愛らしい尻を撫で始めた。

「ねぇ、そんなに良い雰囲気だったの?」

「そうねぇ、結構良かったんじゃない?」

由美は尻を軽く左右に振った。宏一の手が一瞬離れたが、直ぐにまた触ってくる。それも、今度は尻の中にゆっくりと手を入れてきた。

「そうなの?義務的なものかと思ってたわ」

嘘だ。由美は宏一が、例え由美に頼まれたにしても一枝をそんな風に扱うはずがないことくらい百も承知していた。しかし、一枝はますます元気になった。

「ううん、絶対違う。とっても優しく教えてくれたのよ」

「どんなこと?言える?」

「それは・・・・、言って良いのかなぁ・・・・・聞きたい?」

「うん」

宏一の手が由美の敏感な所へと入ってきた。

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