ウォーター

第二百三十五部

 

「めぐみちゃん、何か相談したいこととか言いたいことがあれば教えてくれる?」
「どうして言いたいことがあると思ったの?」
めぐみは仰向けになって目をつぶったまま聞き返してきた。
「だって、東京に来て俺に会いたいって思ってくれたんでしょ?」
「東京に来たいとは思ったけど、三谷さんに相談したいって思ってたかどうかは分からないわよ」
めぐみは小さな声でそう言うと、少し考え込んでいるようだった。
「そうなの?」
「嘘。すごく会いたかったし、相談したかった」
「あんなことがあったから?」
「あんなこと?」
「そう、彼のこと、相談してくれたでしょ?」
宏一に帯を解かれながら、めぐみは静かに答えた。
「そう、それもあるかな・・・・・」
「それだけじゃないの?」
「進学のこともあったし、別のこともあったし・・・」
「別のことって?」
「あの後、直ぐにあの彼とは別れたの」
その言い方は既に過去の彼の話だと感じた。
「うん、それで?・・・・・もしかして、新しい彼ができた?」
「そう、よく分かったわね・・・」
「あの彼って言ったでしょ?それに高校生の女の子で、めぐみちゃんみたいに可愛かったらさ・・・。それで、今の彼とはうまくいってないの?」
「そう・・・・ぜんぜん・・・・・」
「良かったら話してくれる?」
めぐみは帯を解かれて大きく浴衣をはだけられて下着姿になったが、部屋が薄暗いからか、めぐみはじっと宏一に寄り添ったままだった。淡い部屋の灯りの下でめぐみの大胆なプロポーションが露わになる。
宏一の目の前に静かに横たわっているのは、由美や洋恵の15歳の少女達とは明らかに違う乳房の膨らみ方やくびれのラインが魅力的な大人びた身体だった。めぐみの身長は由美よりも少し高く、洋恵よりはずっと高いが、身体のラインが全然違う。宏一は素早く自分も浴衣を脱ぐと、めぐみの浴衣をそっと脱がせた。ブラジャーとパンツだけになっためぐみは静かに宏一の腕の中に入ってきた。それは逃げ込んできたという感じだ。
「ゆっくりしてね・・・・。この前みたいにされて直ぐに話せなくなったらせっかくの時間がもったいないから」
その言い方は、まるでめぐみ自身は抱かれて挿入されることを望んではいないみたいな言い方だった。はっきり言えば、宏一がしたいのなら勝手にどうぞ、とでも言うような感じだ。
「そっとよ」
めぐみはちょっとだけ目を開けて宏一を見つめてそう言うと、再び目をつぶった。
「うん、わかったよ」
どうやらめぐみは宏一に身体を任せる代わりに話を聞いてほしいのかも知れないと感じた。その時のめぐみの本心は、身体を任せる代わりと言うよりは、宏一に身体を優しく愛撫してもらい安心した雰囲気で相談したかったのだが、さすがにそこまで宏一には分からなかった。
宏一はめぐみに腕枕をして軽く抱き寄せると、ブラジャーの上から胸全体にゆくりと指を這わせ始めた。めぐみはまるで気にしていないかのように話し始めた。
「あのね、新しい彼は静かな性格で、勝手に自分で決めたり独りよがりに押しつけたりはしないの」
めぐみは宏一に胸を触られながらも、『どうして三谷さんだと安心して話せるんだろう?こうしているのがとっても不思議。でも、やっとここまでこれた』と思っていた。
「いいことだね。前の彼とは違うんだ」
「それは良いんだけど、私がそういう性格の人を選んだのに、なんか満足して無くて・・・・・っていうか、全然満足してないの」
「それはそうだろうね」
「どうして?自分で選んだ彼なのに、どうして自分で満足できないの?」
めぐみは胸の上を宏一の指がゆっくりと這っていくのを感じながら、ふと『どうして私って下着になって抱かれながらこんな相談してるんだろう?それも触られながら・・・』と思った。
「だって、めぐみちゃんが彼の性格全部を気に入って選んだわけじゃないんだろう?めぐみちゃんが選んだのはおとなしくて勝手に決めたりしない性格ってだけで、他の性格は知らなかったんだろう?」
「他って?ちゃんと優しい性格の人を選んだのよ」
「それはそうだろうけど、例えば周りに気を遣う性格とか、優柔不断な部分がどれだけあるかとか、わがままな部分とかさ、そこまで分かってたわけじゃないんだろう?」
「人にはいろんな性格があるのに、一部分だけで選んだってこと?」
「そういう言い方すると、なんか喧嘩を売ってるみたいだけど、ちょっと考えてごらん。元々人にはいろんな性格があるんだから、性格の全部を知ってから選ぶなんて無理だと思うんだ。どこかで見切りを付けなきゃ一人の彼を選ぶだけで一生かかっちゃうよ。優先順位と許容の問題だと思うんだ」
宏一の言葉を聞きながら、めぐみ自身意外なことに、宏一の話を聞きながら指で丁寧に胸を愛撫されていると宏一の言葉が静かに心地よく響いていた。そして、これこそが東京に来た目的で、こういう風に宏一に相談したかったんだと思った。
彼と話していると、直ぐにめぐみは怒り出してしまって自分でも収拾が付かなくなることが結構あるが、こういう風にされていると安心して話を受け入れられる。やはり宏一のところに来たのは正解だったと思った。
すると、胸の上を動き回っていた指が掌に変わった。今度は暖かく包まれる優しい愛撫が始まった。めぐみはその愛撫を心の中で喜びながらも、もっと話をしたいので感じるのはもう少し先にしようと思った。もし感じすぎるようなら宏一に愛撫を弱くしてもらえば良い。
「そうね・・・・優しいのが優先順位で一番なのは今でも同じなの」
「そう、それじゃその次は?」
「・・・なんて言えば良いのかな?私の気持ちを察して欲しいって言うか・・・、あんまりなんでも聞かないでほしいって言うか・・・・・」
「その彼って、どうすれば良いかを何でも聞いてくるの?」
「うん・・・・結構・・・・・でも、それは嫌じゃないんだけど・・・・。聞いてくれるのは嬉しいのよ、本当に・・・。でも、うまく言えないけど、最初は嫌じゃないんだけど、だんだん嫌になってくるって言うか・・・」
「イライラしてくる感じ?」
「そう・・・・だんだんそんな感じ・・・かな?」
「そうなんだ・・・・」
「でも、本当に最初は嬉しいの。お互いに話をして決められるんだから。それなのに、だんだん自分で聞かれるのが嫌になってきて・・・・怒りっぽくなって、そんな自分が嫌で・・・・」
「これ、ずらすよ。もっと話して」
そう言うと宏一はブラジャーのショルダーストラップを横にずらし、新たに現れた部分を丁寧に愛撫し始めた。
『あっ、そこは』とめぐみは思った。普段ブラジャーに包まれている部分は今までと感じ方が違うのだ。しかし、今は話を中断したくはなかったし、愛撫も続けて欲しかった。
「だから、きっと彼から見ると何にも悪いことしてないのに、だんだん私が不機嫌になっていくように感じてると思うの」
「それで彼も機嫌が悪くなるの?」
「そう、そこまで聞かなくても良いのにって言ったら、最初はいろいろ考えてくれてたみたいなんだけど、最近はまたかって感じで・・・・」
「それで、めぐみちゃんはいつも同じパターンで気まずくなるのが嫌になったのかな?」
「それもそうだし、せっかく自分で選んだ彼なのにうまくいかないってことは、これからもずっとそうなのかなって思って・・・・」
「怖くなった?」
「そう・・・・」
「彼と仲直りにエッチはしないの?」
「仲直りにするの?」
「そういうことも良くあると思うけど・・・・」
「それは考えたことなかった。お互いに好きな時って思ってたから」
「彼はそう思ってなかったのかな?」
「そういえば、そんなこともあったかも・・・・・・でも・・」
「でも?」
「それならそう言ってくれれば良かったのに・・・って、今思ったの。仲直りしたいからって言えば私だって・・・・・」
「それはお互い様だね。めぐみちゃんだって、彼にはもっと察して欲しいって思ってるんだしさ」
「そうか・・・・」
めぐみは、宏一に言われると全然腹が立たないのはなぜだろうと思った。それに、何となく股間がぬるぬるしてきたような気がする。既に肌は敏感になってきているし、正直に言えば今は相談したい気持ちと同じくらい宏一にして欲しいと思っている。
すると、めぐみに腕枕していた宏一はそっと腕を抜き取り、めぐみを斜め上から見下ろすような感じで愛撫し始めた。めぐみは宏一の愛撫が本格的に感じさせようとしていることを感じ取った。
「三谷さん、そんなにされたら・・・・」
「いや?」
「ううん、そんなことない。でも、このまま続けられたら・・・・」
「話ができなくなる?」
「まだできるけど・・・・・でも」
しかし、宏一はもっとめぐみの身体を愛したいし、感じて欲しいと思っている。このまま話だけをして服を着て帰れば、めぐみは良いのかも知れないが、さすがに宏一にはきついと思った。
「めぐみちゃん、ごめんね。もう少ししてもいい?」
めぐみは宏一の言い方はとても正直だと思った。それにめぐみ自身も先に進みたい気持ちはある。
「うん」
めぐみはそう言うと、宏一の唇が胸へと移っていくのを受け入れた。宏一はめぐみの両手を枕に挙げると指と唇を使って可愛がり始めた。
『あん、始まっちゃった』めぐみは乳房を宏一に差し出しながらそう思った。これ以上先に進めば完全に彼に言えない秘密ができてしまう。もちろんそれは最初から分かっていた。しかし、それでもめぐみは彼との間で何をしてもうまくいかない閉塞感から抜け出したいと思っていた。そして、そのためにここに来ることを選択したのだった。
正直に言えば、彼とはどこか今だけのことだろうとうっすら感じていた。もう一人の自分が心の中で、大学に進学すればきっと消滅するだろうと言っており、それよりも自分の選択が正しかったのか、何を間違えたのかを知ることの方が大切だと思ったのだ。それに、宏一ならここで何があっても別府に戻ればまた切れてしまう。そんな自分に嫌悪感を抱きながらも、この状況に心を許しているめぐみだった。
正直、こんなことをしている自分をめぐみ自身、『私って怖い女』だと思った。ただ、今は宏一に相談することが何となく一番大切な気がしていたし、その相談にはこうなることも含まれていた。
自宅のホテルの部屋で宏一に抱かれていたのはほんの数時間、正味2,3時間しなかったが、めぐみにとっては強烈な印象を残していた。出会い方もあまりに不思議だったし、仲居姿で宏一の部屋に行ってから起こったことは、まるでめぐみのために宏一が来たとしか思えないくらい印象的だった。
そして、短い時間だったが宏一に抱かれた時、めぐみは初めてはっきりとした絶頂を体験した。あの鮮烈な感覚は今でも忘れない。今ではそれは宏一が自分の心と身体をしっかりと支えてくれた結果だと思っていた。あれ以来、あれほどセックスに夢中になることはなかったし、たとえ服を脱いでもあの時の宏一にほど彼には心も身体もを開けていないのだ。
宏一の唇と指が乳房の上を這い回り、少しずつブラジャーが下げられていく。
「ン・・・・・・三谷さん・・・・・・・」
めぐみはそう言ったが、それ以上は何も言わなかった。嫌だと言えば宏一が直ぐに止めてくれるのは分かっていた。だからそれ以上言えなかった。
「めぐみちゃん、これ以上進んだら後悔しない?」
「・・・んん・・・・だいじょうぶ、しない・・・・・・・んあ・・・・」
身体の中に甘い感覚がどんどんたまっていくのを感じながら、めぐみは宏一の愛撫に身体を委ねていた。めぐみの気持ちを確認できた宏一は手をめぐみの背中に回すと、ブラジャーのバックストラップを外した。しかしまだブラジャーを脱がしてはいない。
「それじゃ、こうしちゃう。もう聞かないよ」
「三谷さん・・・・・大丈夫だから・・・」
身体がどんどん熱くなってくるのを感じながら、めぐみは軽く喘ぎ始めた。
「他には言いたいこと、ないの?」
宏一の指がブラジャーのカップの中に入り、乳房の上を滑ってだんだん乳首へと近づいてきた。
「ん・・・・それは・・・・・・んんっ」
「言ってごらん?」
宏一はそう言いながらも外したブラジャーをずらして乳首ぎりぎりまで唇をサワサワと這わせていった。
「あの・・・・わたし・・・・・」
「どうしたの?」
めぐみは早く夢中になりたくなってきた。しかし、もう一つ聞かなければいけないことがある。だから肌を愛撫される感覚におぼれそうになりながらも、気になっていたことを聞いた。
「彼に内緒でこんなことして・・・・・、三谷さん、軽い女だって・・・・・思ってない?」
「どうしてそう思うの?」
「だって・・・・んんんっ・・私が選んだのに・・・・・彼には内緒だし・・・・」
「めぐみちゃんから言ったの?付き合ってって」
「はっきりとは・・・・・でも、雰囲気はそんな感じで・・・・」
「それでも、めぐみちゃんは気になってたんだろう?優しい彼を自分で選んだのに不満がたまる理由を」
宏一の唇と指の愛撫は乳首ぎりぎりを丁寧に愛撫し続けていた。じっと我慢しているめぐみの肌はどんどん敏感になり、もう我慢の限界に近づいている。
「そうだけど・・・・・んあ・・・・だめ・・・・・・」
「俺に言わせれば、その時点で、つまりめぐみちゃんが不満がたまる理由を知りたくなった時点で、もう彼には夢中になってないってことだと思うんだ。本当に夢中ならそんなことどうでも良いだろう?」
「・・・・ん・・・・んん・・・・そう・・・・・かも・・・」
「その時点でめぐみちゃんの意識は彼にじゃなくて自分に向いてるんだよ。彼を好きな理由じゃなくて、彼に不満がある自分のことを考えてたんだ。だから今はこうしてるんだと思うよ」


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