ウォーター

第三百七十九部

 
「それで、洋恵ちゃんが新しい彼と上手くいってるって言うのは、香奈ちゃんがここに来たのと関係があるの?」
「あるって言うか・・・無いって言うか・・・・」
こんな話し方は、香奈にしては歯切れが悪い。
「香奈ちゃん、どうしたの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
香奈は何も言わずに黙り込んでしまった。
「香奈ちゃん?」
宏一が改めて聞くと、香奈はそっと背中から宏一にくっついてきた。明らかに何か言いたいのだが言えないという感じだ。
「どうしたの?」
宏一はなるべく言葉がきつくならないように、そっと言った。
「何でも無い。少しこうしていて。落ち着いたら帰るから。分かってる。嫌でしょ?私がここに居るのが。分かってるの。だから少しだけ」
香奈は小さな声で囁くように言った。確かに宏一は香奈が来たことが迷惑だと思っていたが、改めてそう言われると怒る気など無くなってしまう。
「うん、正直に言えば、洋恵ちゃんと一緒じゃ無くて一人で来たのが気に入らなかったけど、分かった。もう良いよ。だいじょうぶ。もう嫌じゃない。安心して。とにかく今香奈ちゃんはここに居るんだから、話も聞くし、相談があるなら乗るよ」
「・・・・ありがと・・・・」
「だけど、俺にくっつきたくてここに来たの?」
宏一がそっと香奈を後ろから抱きしめて耳元で囁くと、香奈はコクンと頷いた。
「大人の男にくっついてみたかったの?」
「たぶん・・・・」
「もしかして、洋恵ちゃんが上手くいったから気に入らないの?それとも、洋恵ちゃんにしたことと同じ事をして欲しいの?」
「そんなことは・・・・・・気に入らないって言うより・・・・・私って何なんだろうって・・・・・・・思って・・・・・」
「洋恵ちゃんが羨ましいんだ」
「もしかしたら、そうかも・・・・・・」
「どうして洋恵ちゃんに彼を紹介したの?」
「だって、あんな事になれば普通洋恵の居る場所が無くなるでしょ?それはさすがに可愛そうだって思ったから。そして、せっかく面倒見たんだから、アフターケアまでしないと、後でまた問題が起きるから」
「凄いね、香奈ちゃんはまるで大人が話してるみたいだ」
「そんなことは・・・・、あっちこっちで世話を焼いてれば自然にこうなるわよ」
ぶっきらぼうな言い方だが、愚痴のようでもある。
「だからみんな香奈ちゃんを頼るんだね」
「私の所に来るから私も安心するし、その分私から頼み事だってできるし・・・・・」
「きっと、香奈ちゃんは将来政治家になれるね。政治家のしてることと同じだもの」
「そんなもの、なりたくないわ」
「ごめん、忘れて。それで、香奈ちゃんに紹介した彼って言うのは香奈ちゃんの友達なの?」
「友達の友達。前にちょっと付き合った彼の友達。前から彼女を紹介してって頼まれてたから」
「香奈ちゃん自身が付き合おうとは思わなかったの?」
「ぜんぜん。だって私の好みじゃ無いもの」
「洋恵ちゃんには合うと思ったの?」
「もしかしたら、ね。でも、あんなに直ぐにくっつくとは思わなかったけど」
「そうなんだ。洋恵ちゃんは寂しかったんじゃ無いの?」
「洋恵って言うより、あっちね。洋恵はそう言うのは大人しい方だから。洋恵はどんどん乗せられていったって感じ」
「それなら香奈ちゃんは洋恵ちゃんが上手くいったって言うより、その彼が上手くいったことの方が寂しいんじゃ無いの?」
「それは・・そうかも・・・・。時々カラオケとか行ってたから」
「二人で行ったこともあるの?」
「あるよ。だいぶ前だけど」
「香奈ちゃんの目の前で、二人の知り合いがくっついちゃったから香奈ちゃんの前から二人がいなくなったように感じたのかな?」
「・・・・・・・・・・・」
「でも、きっと二人は香奈ちゃんにすごく感謝してるんじゃない?」
「・・・・・・・・・・・」
「まぁ、それくらいは当然だけどね。紹介したんだから」
「・・うん」
「それでも香奈ちゃんはやっぱり寂しいんだね」
「そう」
香奈は宏一のところに来て良かったと思った。実は今日、洋恵は最初、凄く渋ったのだ。しかし、香奈には頭が上がらないのだから仕方ないし、まさか宏一のところに抱かれに行くかも知れないからとも言えない。正直に言えば断る理由が見つからなくて、仕方なく香奈を連れてきたのだ。もちろん、香奈は最初から洋恵が断れないことを承知で頼んだのだった。
「それで、香奈ちゃんはここに来てどうしたいの?もう少しじっくり話したいなら、それでもいいけど、なんか香奈ちゃんは気持ちが疲れているみたいだから、少し寝ていきたいなら一緒に居てあげるよ」
「ねぇ、少し甘えても良い?」
「え?うん、いいよ」
「エッチがしたいわけじゃないの。宏一さんも私は好みじゃないんでしょ?それは分かってるから。この前のことは謝る。ごめんなさい。だから、もう少しここに居ても良い?」
「うん、分かった。エッチがしたくないわけじゃないけど、香奈ちゃんとの関係だとそう言う雰囲気じゃないかもね。それより、先ず香奈ちゃんが甘えたいならそうした方が良いね」
「そうなんだ。それを聞いて安心した。それじゃ・・」
そう言うと香奈は宏一にしっかりと背中からくっつき直してきた。そして宏一の手を取ると自分の前に回してきた。
「こうして・・・・これでいい」
「ねぇ、香奈ちゃんはいつから世話好きになったの?」
宏一が香奈の耳元で囁いた。それは香奈の心に優しく響いた。
「わかんない。小学校の時だって、あっちこっちからいろいろ頼まれてたし」
「彼とかを紹介してって話?」
「それもいっぱいあった。ダブルデートの連続だったこともあったし・・・」
「小学生でもそうなんだ」
「でも小学生って付き合ってみるのが憧れだから。でも一対一じゃ不安だからそうなるの。でも、何度もしてると、なんかガイドさんみたいだなって思ってた」
「はは、そうだよね。次々にダブルデートじゃ。その時の香奈ちゃんの彼って言うのはどんな男の子だったの?」
「それは・・・・決まってなかった・・・・・」
「そうなんだ。香奈ちゃんには彼がいなかったの?」
「うーん、居なかったって言うか、決まってなかったって言うか・・・・・好きって言うのとは・・・・・・わかんない」
「そうか」
「でもね・・・・その時の彼って、宏一さんみたいな感じだった」
「大人って事?」
「ううん、そうじゃなくて、好きじゃないけど・・・一緒に居たい・・・見たいな・・・・感じ・・・・かも。だいぶレベルは違うけど」
「でも、好きだった彼だっているんでしょ?」
「うん」
「それなら洋恵ちゃんが羨ましいって事もないかな?」
「どうして?」
「だって、女の子が憧れる恋愛だって香奈ちゃんは経験してるって事だから」
「そんなことはないよ。だって洋恵の彼って言うか、宏一さんは特別だもの」
「俺が特別?」
「そう・・・・だって、中学生を相手に何度もいかせるほど・・・・・・・女の子の身体を開発するなんて・・・・・・」
「凄いこと言うね」
「だって、そうでしょ?」
「まぁ・・・・」
「私の所にはいろんな子が来るけど、洋恵みたいに徹底的に教え込まれた子なんて他に居ないもの。聞いてびっくりした」
「香奈ちゃんもそうして欲しいの?」
「・・・・・ううん・・・・ちがうけど・・・・・」
「違うけど?」
「だから、こうしていたいの」
「こうしてるのがそれ?」
「そうかも・・・・・。こうしてくっついて話してると安心するから」
「うん、よかった」
宏一は軽く抱いている香奈が可愛いと思った。いつも友達から頼られてばかりで気持ちが疲れているのだ。そして、香奈がここに居たいのならそれでいいと思った。
「でも、香奈ちゃんは俺のところに来て怖くないの?大人の男だよ?」
「ぜんぜん」
「身体を触られたりしたら嫌だろう?」
「もちろんそうだけど、宏一さんはそんなこと絶対にしないもの」
「どうして?」
「洋恵から聞いてるから」
「でも、洋恵ちゃんにはそうでも、香奈ちゃんにはどうするか分からないよ?」
「それはそうかも知れないけど・・・・・でも、宏一さんはしない」
「どうして?」
「だって、こうやって話しているもの。それが証拠でしょ?」
本当に香奈と話していると、とても中学生とは思えない。大学生みたいだと思った。
「参ったなぁ、確かにそうだね」
「だから、宏一さんに無理に会いに来たの」
「よっぽど心が疲れてたんだね」
「うん・・・・ちょっとね・・・・」
「それじゃ、甘えていっても良いよ」
「・・・・・・優しくしてくれる?」
「うん、できるだけね」
「洋恵には言わない?」
「もちろんこれは俺と香奈ちゃんの間のことだからね」
「ねぇ・・・・・ちょっとだけ・・・・・甘えてもいい?」
香奈が小さな声で言った。それは、恥ずかしいことを打ち明けるような感じだった。
「うん、いいよ」
「ちょっとだけ、優しくして?でも、ちょっとだけよ。できる?」
「そうなんだ。いいけど・・・」
「エッチをしたいわけじゃないの。分かる?」
「うん・・・・なんとなく・・・・」
「それなら、脱がさなければ良い?」
「触られるのは・・・・・うん、少しだけなら・・・・」
「わかったよ」
「でも、もしかしたら、私が我慢できなくなるかも知れないから、その時はちゃんと止めてね」
「本当に香奈ちゃんは平気で凄いこと言うね」
「だって、宏一さんは洋恵にそうやって教え込んだんでしょ?そんな凄いこと、私にはしないで」
「何でも知ってるんだね」
「洋恵から全部聞いたから。もともとあんなことになったのも、宏一さんが洋恵を夢中にしたのが原因なんだから。それくらい知ってるし、はっきりしてるし」
「分かったよ。安心して」
「うん、よかった・・・・・・」
香奈はそう言うと、身体をずらして宏一の膝の上に横になって下から見上げてきた。改めて香奈の顔を見ると、可愛らしいしきれいだと思った。
「そっとね」
そう言うと香奈は目をつぶった。そして身体を軽く伸ばして宏一が触りやすいようにする。
「嫌になったらいつでも言うんだよ。必ず止めるから」
宏一の言葉に香奈はコクンと小さく頷いた。ただ、香奈は宏一に甘えたかっただけで身体をどうこうしてもらおうとは思わなかったので、内心は安心していた。宏一が触りたいなら少しは許すという感じだ。宏一なら無理に脱がされたり触られたりする心配はないことが分かっているからだ。
宏一は香奈を膝の上で横にすると、いつものように首を左手で支えて右手は自由にした。しかし、今は胸を触るわけではなく、軽く髪を撫でて香奈を安心させる。
「こう言うこと、いつも洋恵にしてるのね」
「香奈ちゃん、洋恵ちゃんみたいにはして欲しくないんでしょ?違うよ、今は香奈ちゃんに安心して欲しいから、こうしているだけ」
「それじゃ、結衣にはしたの?」
「香奈ちゃん」
「知ってるのよ。結衣のところに行ってるでしょ?家庭教師って事で。本当は違うのに」
「ふぅ・・・・、いつも周りのことばっかり気にしてるから、どうしてもそっちに意識が行っちゃうんだね。今はここに居る自分のことだけを考えてごらん。洋恵ちゃんも結衣ちゃんも関係ない。周りのことを考えると、心が疲れるよ」
香奈は、宏一の言うことはあくまでも理屈だと思ったが、上手に首を支えられて身体を横たえ、更に首を支えている宏一の指の感覚や、髪を撫でられるのが気持ち良くて、それ以上何か言う気にはならなかった。
「こうされるの、いやじゃない?」
「だいじょうぶ」
「よかった」
「もう少し、近くに寄っても良い?」
「近く?こうかな?」
宏一が軽く結衣の身体を引き寄せると、結衣は宏一に軽くしがみつくような格好を採った。
「甘えたいの?」
「・・・・・・・・」


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