ウォーター

第四百三十部

 
二人のキスは長かった。たっぷりと時間を掛けてお互いを確認し合っていった。そして、キスが終わった時、香奈の身体は宏一の膝の上で宏一の探検を待っていた。
しかし、宏一はこのまま直ぐに香奈を裸にするつもりは無かった。今始めると、夕食がどっかに飛んでしまうと思ったからだ。学生ならそれも情熱のままで良いのだろうが、社会人になってしまった宏一には単なる暴走に思えてしまう。
「香奈ちゃん、ここから先は後のお楽しみ。夕ご飯、食べようか?」
宏一が耳元で囁くと、香奈はコクンと頷いた。香奈にも宏一の考えが分かったのだ。そして『そうね、お腹空いたのを我慢しながらなんてやだもん』と思った。
「それじゃ、ちょっと待っててね。準備するから」
「私も手伝う」
香奈はそう言って宏一の膝の上から起き上がった。そして、香奈は買ってきたのもを並べ、宏一は冷蔵庫に飲み物をや什器を取りに行った。
「なんか、いろいろ・・・ある」
「何が食べたいか分からなかったから、いろいろ買ってきたんだ」
「どこで?」
「東京駅のデパートだよ」
「それでこんなに色々あるんだ」
「そう、だからいっぱい食べてね」
「バカ、そんなこと女の子に言うもんじゃないわよ」
宏一は最初香奈の言う意味が分からなかったが、体重を気にしていることに気が付いた。全く、どこで地雷を踏むか分からない。それでも香奈は牛タン弁当と握り寿司を平らげたし、宏一は洋食セットとイタリアン弁当をつまみにビールと酎ハイを飲んでリラックスした気持ちになった。
「香奈ちゃんは、いつも洋恵ちゃんみたいにいろんな子からの相談に乗ってるの?」
宏一の質問に、香奈は宏一が洋恵の存在にけじめを付けたがっていると直感した。
「そう、一人の女の子の相談に乗ると、そこでまた繋がりができて、その相手から相談が来たりもするし、周りで見てた子からも相談されるし、相談されるために学校に行ってるようなものよ、全く、会社でも作ればきっと儲かるわね。中学生相手じゃ何百円だけど」
香奈は宏一の想像以上に大人びていた。由美のような大人っぽさでは無く、背伸びのようなものだが苦労していることに変わりは無い。おまけにこのルックスだ。目立たないはずが無いと改めて思った。
「でも、中学生だけじゃ無くて高校生からも相談されたりするんだろう?さっき、洋恵ちゃんの相手からもどうこうって・・・」
「そうね。そんなに多くは無いけど、ウチの中学の子の知り合いとかでね、洋恵の時みたいに」
「毎日どれくらいの子が香奈ちゃんのところに来るの?」
「数?それだったら、簡単なのとか合わせて一日十人ちょっとかなぁ?」
「毎日十人も来るの?」
「それくらいはね。でも、いろいろだから」
「本当に香奈ちゃんは忙しいんだね。勉強してる暇はあるの?」
「学校ではあんまり時間は無いけど、家で勉強するから」
「成績は良いんだろう?」
「うん、結構良いほうだよ。だからね、こうやってエスケープしないと持たないかも」
二人はそんなことを話しながら食事を終えた。香奈はちゃんと食べた弁当の容器を洗ってくれたし、片付けも積極的にしてくれた。だから宏一が風呂の準備をして香奈に声を掛けた時、まだ7時過ぎだった。
「香奈ちゃん、お風呂入っておいで」
その途端、今まで朗らかに笑っていた香奈の表情が固くなった。その後のことを意識したからだ。
「うん、それじゃ、入ってきまぁす」
香奈は返事をすると着替えを持って風呂に行った。まず香奈は浴室を確認して、そこに女性の影が無いことを確認してから服を脱いだ。しかし、男性のものしか無い浴室というのも女の子には落ち着かないものだ。そして『たぶん、洋恵はそんなにここに来てなかったのかも知れないな。女の子のものが無いもの』と思った。香奈は長風呂したつもりは無かったが、それでも女の子なので髪まで乾かせばそれなりの時間は掛かった。そして、香奈が勝負Tシャツを着て戻ると、宏一の視線が一瞬だけ自分に釘付けになったことを視線の端で確認した。
宏一は香奈が上がってきたので替わりに風呂に入った。ただ、風呂上がりの香奈のTシャツ姿にはドキッとした。Tシャツなのに少しだけウェストが絞られており、胸の膨らみが強調されていたのだ。それに長さがあるからかジャージのパンツは穿いていない。ブラジャーの上からでもロケット型の完全に前に突き出して横に広がっていない乳房がよく分かった。もちろん宏一はそんなことはおくびにも出さなかったつもりだが、香奈は宏一の視線が胸に来たのをはっきりと感じていた。
「冷たいものでも出すよ」
そう言うと宏一は香奈にはオレンジジュース、自分には酎ハイを持ってきた。
「私もそれ飲みたい」
「ダメだよ。飲み慣れてないだろ?直ぐにぼうっとなって寝ちゃうよ?」
その子供扱いの言葉に香奈はカチンときた。そこで挑むように宏一に返した。
「私が寝たら、どうするの?」
宏一も受けて立つ感じだ。
「そうだね、もちろん香奈ちゃんが寝たら、いろんな事が香奈ちゃんが寝てる間に起こると思うよ」
その言い方に香奈はもっとカチンときた。
「それって、寝てる女の子に手を出すって事?サイテー」
「思うってだけで、本当に手を出すかどうかは分からないよ」
「それじゃぁ、どうするって言うのよ」
「取り敢えず寝た香奈ちゃんをベッドに運んで、それから考えるかな?香奈ちゃんの寝顔を見ながら」
「やぁ、寝顔なんて見ちゃダメ」
「どうしろっていうのさ、寝たら寝顔になるのは当たり前だろ?見られたくなかったら寝なきゃ良いんだよ」
「それはそうだけど・・・・・でも、お酒を飲んだら・・・」
「ははぁン、飲んだことあるんだね?寝ちゃっただろ?」
「そう・・・・・ぐっすり・・・・」
「それじゃ、お酒は止めてオレンジジュースにしなさい」
「何か悔しいけど、そうする」
そう言いながらも、香奈は宏一の隣にくっついて座ってからジュースを飲み始めた。
「香奈ちゃんは、俺のこと好きだっていってくれたけど・・・・」
「うん」
「俺に甘えたい・・?」
「・・・・そうかも知れない・・・・・甘えたいだけじゃ無くて、もっと・・・・上手く言えないけど、満たされたいって言うか・・・そんな感じかも」
宏一が香奈の背中から横に手を回して軽く引き寄せても、香奈は自然に宏一にくっついてきて嫌がらなかった。
「いつも学校で友達の手助けばっかりしてるから、心が疲れちゃうのかな?」
「疲れちゃうって言うか・・・・・心が空っぽになってく感じって言うのかな・・・もちろん疲れるのもそうだけど、気持ちの方がもっと疲れる感じなの」
「いろんな友達がたくさんいて、見かけは華やかなのにね」
「見かけはね。友達はたくさんいるよ。見る?」
そう言うと香奈は携帯を取ってきて、アドレス帳を見せた。
「すごい。こんなにたくさん・・・・全部友達なの?」
たぶん、2百人では聞かないくらいの膨大な数だった。
「そうよ」
「遊びに行く友達もたくさんいるの?」
「もちろん。でも、いつもおんなじ子といるって事は無いかな」
「そうなんだ。女の子って、仲良しとはいつもずっと一緒だよね?」
「私の場合、そう言う子はあんまりいないから」
香奈はちょっと寂しそうに言った。
「・・・・・ねぇ、甘えても良い?」
香奈は小さな声で聞いてきた。殺気までの自信に満ちた声とは大違いだ。
「うん」
宏一がそう言って香奈の小さな身体を引き寄せると、香奈は自分から宏一の膝の上に仰向けになって寝そべってきた。そのまま宏一がキスにいくと、香奈は静かに応じた。今度は一生懸命に舌を差し出して絡めてくる。宏一は膝の上の香奈を自然に抱きしめてキスを続けた。
二人が満足してやっと唇を離した時、香奈の目は潤んでいた。
「こんなキスされたら立てなくなっちゃう・・・・」
「その必要は無いからね」
そう言うと宏一はもう一度キスをしに行った。香奈も素直に応じる。香奈にキスをしながら宏一は、この少女とこの先、きちんとやっていけるのだろうかと少し不安になった。洋恵の場合は自然発生的に時間を掛けて関係を持ったが、香奈は向こうからのアプローチだからだ。しかし、洋恵を引き留めるわけにはいかない以上、ここで考えてこんでも仕方が無い。洋恵は過去になってしまったのだという複雑な思いを抱きながら、宏一は腕の中で素直に舌を指しだしてくる少女を優しく可愛がり始めた。
一方香奈は、宏一とのキスに心が包まれて身体の隅々までリラックスしていく不思議な感覚に驚きながらも、宏一が自分をどう感じているのか少し不安を感じていた。どうみても洋恵との間に無理やり割って入ったのは明らかだし、今の時点では宏一が自分を好きでも無ければ嫌いでも無いのは分かりきっているからだ。そして、今宏一が自分を抱いているの自分を好きだからでは無く、洋恵を思いやってのことだと分かっていた。
しかし、自分はそれでも良いと思ったし、それでも宏一のそばにいたいと真剣に願っている。だから、宏一の手が優しく胸の膨らみを探り始めた時、香奈はきちんと宏一の彼女としてヒロインを演じたいと思った。宏一の手は優しく香奈の身体を撫で回し、少しずつ身体が熱くなっていく。この感覚は久しぶりだった。
「宏一さん・・・・・」
香奈は宏一の身体を探られながら、目をつぶったまま小さな声で聞いた。
「どうしたんだい?」
「どうして宏一さんは、直ぐに脱がして触ろうとしないの?」
「それはね、香奈ちゃんに感じて欲しいからだよ」
「男の人って普通、女の子の身体に触ると直ぐに裸にして入れたいと思うものじゃ無いの?」
「香奈ちゃんの経験ではそう思うんだね?」
「私、今更処女だなんて言うつもり無いし、何も知らない女の子じゃ無いもの。それでもいいの?」
「うん、もちろん。第一、香奈ちゃんだって最初の人以外は好きに慣れないなんて思ってないだろう?覚えてはいるだろうけど」
「うん」
「それじゃぁ、俺の考えを言っておくと、経験の少ない若い男は一回全部すれば女の子はぐったりして男の言うことを聞いてくれるようになるって思ってるんだ。そんなこと無いって気が付くまでには意外に時間が掛かるよ」
「一回すればぐったりね・・・・どうして?それは確かに・・・・・疲れるから・・・・そうはなるだろうけど・・・・でも言うこと聞くなんて・・・・・」
「うん、気持ちと身体は別だよね。女の子は最初から最後まできちんと男がどんな風に自分を扱うか、冷静な目で見てるよね」
「もちろんよ。いい加減な気持ちで許したりしないもの」
「でもね、男はそう考えないんだ。一回全部してしまえば女の子は自分のものになると思ってるんだよ」
「そんな都合の良い話ってあると思う?」
「もちろんそうだよね。でもさ、女の子だって自分の彼は自分のものだと思うし、だからこそ、彼女のいる男の子には近づかないだろう?その女の子のものだと思うから。彼女のいる男子に近づかないのは、男子のことを考えているんじゃ無くて、女の子同士の取った取らないって言う持ち物みたいな感覚があるからだろう?」
「・・・・・・・・・・・・うん」
香奈は優しく宏一の手が乳房の周りを撫で回すの感じながら、確かにそうかも知れないと思った。
「そうか・・・・結局男子も女子も自分のものとか他人のものとか、そう言う関係しか考えてないんだ」
「俺はそう思うよ」
「ねぇ、それじゃぁ、さっきから宏一さんがしてくれてるのはなぜ?」
「こうされるの、いや?」
「ううん、とっても気持ち良い。でも、このままで良いの?」
「もし、香奈ちゃんがずっとこうしていたいと思えばそれでも良いよ。学生の頃と違って大人になれば少しは女性のことを優先して考えられるようになるし、直ぐに女の子を裸にしたいって言う激情みたいなものは弱くなるから」
香奈は、宏一の話は確かに上手にできているが、どこか話ができすぎているような気がした。本当に好きなら、それでも好きだという思いに突き動かされてしまうのが男の人の気持ちなのでは無いだろうか?宏一がこれ以上しないのは、自分への想いが弱いからでは無いかという気がした。
幸、宏一の優しい愛撫で自分の気持ちの準備はできている。香奈は先をねだることにした。
「ねぇ、もう少し・・・・・・して」
「うん、わかった」
そう言うと、宏一の愛撫がはっきりと変わった。それまでは優しく撫で回すだけで何の意思も感じられなかったのだが、今度は明らかに感じさせようとしているのだ。乳房の周りを撫で回してから、敏感な乳首をそっとゆっくり可愛がる。香奈は『違うっ』と気が付いたが、自分の気持ちを確認するとそれを受け入れた。
「はぁぁぁぁっ」
香奈の身体が自然に大きく仰け反り、乳房を突き出してもっと可愛がって貰おうとすると同時に、小さく足を擦り合わせた。
「宏一さん」
「なんだい?」
「きもち、いい・・・」
「そのまま感じていてごらん」
「うん・・・」
香奈は宏一の愛撫に身体を委ね、とうとう始まった愛の時間に少し胸をときめかせた。
宏一の愛撫は優しかった。しかし、かなり嫌らしいとも思えた。『女の子の身体を知ってるからこんな事ができるんだ』と思った。左右の乳房を撫で回して乳首が敏感になると、そっとブラジャーの上から摘まむように優しく愛撫してくれる。『まだ一枚も脱いでいないのにこんな風になるなんて』と思った。そして、洋恵が宏一に夢中になった理由と忘れられない訳が何となく分かった気がした。


トップ アイコン
トップ


ウォーター