ウォーター

第四十五部

 


 二人はしばらく身体を浮かせたり、潜ったりして遊んだ。中学

時代に水泳部だった宏一は逆立ちで歩いて見せたり、水面でくる

くると何回も連続して回ったりして史恵を喜ばせた。少しだけの

つもりが、あっという間に一時間近くが過ぎてしまった。

 史恵が無邪気に笑っている姿は本当に可愛かった。再会してか

ら何度も影のような表情でじっと黙り込んでいる史恵の姿が気に

なっていただけに、こんなに楽しく笑っている史恵を見るのは楽

しくて仕方なかった。

 四年の時間を超えて、今の宏一は史恵のためになら何でもしよ

うと言う気持ちになっていた。たぶん、ここに来るまでにはいろ

いろ考えたろうし、今では宏一よりも史恵に近い人がいるはずだ

ったにもかかわらず、宏一の誘いを快く引き受けてくれた史恵に

対するお礼がしたかった。

 人口の波が出てきた。大きな波が来たとき、史恵は水の中にじっ

としゃがみ込んで宏一を心配させてみた。宏一は史恵の姿が見つ

からないので少し心配したが、波が退いた後は水が少なくなるの

で史恵の頭が水面の近くに見えて安心した。それでも、史恵の気

持ちを大切にしてやらなければと、わざと慌てたふりをして史恵

を探し回るふりをした。史恵の息が続かなくなって史恵が水から

飛び出してきた。

「バー、私はここですよー」

「心配したんだから、もう!」

「宏一さんだって心配かけたんだからお互い様ですよーだ」

 宏一は史恵を抱き寄せると軽くキスをした。史恵はあまりこん

な所でするのを喜ばないので一瞬だけの軽いものだった。しかし、

史恵の腕が宏一に回され、史恵の方から唇を求めてきた。宏一に

はどうしてこんなに史恵が情熱的なのか分からなかったが、嬉し

くなって繰り返してキスをした。

 宏一が腕時計で時間を確認したときは、既に九時近くになって

いた。

「史恵ちゃん、お腹空かない?」

「空いたー、とっても」

「御飯にしようか」

「賛成」

「何が食べたいの?」

「美味しいもの」

「あのね、誰だってそうなの」

「じゃあ、聞く必要ないでしょ」

「そう言うんじゃなくて、何料理が食べたいのって聞いたの」

「美味しい料理」

「あのね、もしかして、人のこと馬鹿にしてない?」

「してない」

「じゃあ、からかってるとか?」

「分かった?」

「こいつ!」

今、四年の空白を越えて再び心が結びついていた。

 楽しかった食事も終わったので二人は席を立ち、ゆっくりと歩

いていた。

「これから、どうする?何かしたいこと、ある?部屋に行っても

いいけど」

そう言われて部屋に行きたいと言えば、まるでベッドに行きたい

と言っているようなものなので、史恵としてはプライドにかけて

もそうは言えない。

 「少し歩きましょうか?」

史恵は少しだけ期待していたが、素直に外に出ることを提案した。

「うん、そうだね。でも、バーでいろいろカクテルを楽しみたい

んじゃないの?それでもいいけど・・・・外の方が気持ちいいか

な?」

史恵は、『どうしてバーに行かずに外での散歩にしたのか、本当

に分かっているのかしら、宏一さんて良く気はつくのにこういう

ことには鈍感なんだから』と思いながらホテルの外に出た。

 外は南国の潮風が吹いて、さすがに湿っぽかったが結構気持ち

良かった。しばらく歩いてスカイドームの裏あたりまで来るとさ

すがに人通りは少なくなる。時計を見ると既に10時近い。すれ違

うのも宏一達と同じようなカップルばかりだ。お互いにそっと避

けるようにしてすれ違っていく。

 「宏一さん、あのね?」

「うん?なんだい?」

「二人で前に良好したとき、日光の東照宮に行ったでしょ?」

「うん、楽しかったね」

「あの時、長い階段を上がっていったのを覚えてる?」

「エーと、徳川家康のお墓に行った時かな、確かずっと階段を上

がっていったと思ったけど」

「あの時、頂上に着く前に、急に甘えたのを覚えてます?」

「うん、そう言えば、突然て言う感じで甘えてきたね、キスし

たっけ?」

 「どうしてだか分かってました?」

「え?理由?えーと、分かんない。好きだったからじゃないの?」

「やっぱり知らなかったんだ」

「え?知らなかった?違うの?教えてよ。好きだからじゃなかっ

たの?」

「そんな理由じゃあそこでキスなんてしないわ。あのね、あの時、

宏一さんの後について上っていたら、上から降りてくるカップル

が途中で休んでたの」

「そうだっけ?全然、覚えてないや」

「それで、女の人が、甘えてキスをねだっていたんだけど、その

時、私の方を見て凄い顔で睨んだの。邪魔するなーって」

 「気がつかなかったなぁ」

「宏一さんは男だもの、一瞬だったけど、凄い怖い顔で睨んだの」

「それで、史恵ちゃんもキスをねだったの?」

「あの時は、ただ怖くなっただけ。だって、突然睨まれたんだも

ん?」

「ふーん、そうか、愛情からキスして欲しくなったわけじゃない

んだ」

「そう、特にそういう訳じゃなかったの」

 宏一は史恵が何を言いたいのか分からなかった。ここに来たの

は、特に宏一のことが好きだと言うわけではないと言いたいのだ

ろうか?それにしても、突然こんな事を言い出すのはどうしてな

のか?

「それだけ?」

「うん、それだけ」

「特に何か言いたいこと、無いの?」

「無い」

 「どうしてそんなこと、突然言い出したの?」

「分からない?」

宏一は少し腹が立ってきた。『言いたいことがあれば言えばいい

のに、何ももったいぶって』と少しだけ口調が荒くなった。

「宏一さん、怒ってるの?私がこんな事言ったから」

「怒ってると言うよりは、分からなくてイライラしてるってとこ

かな」

「ほんとに分からない?」

史恵はそう言って立ち止まり、宏一を見つめる。

 大学時代の宏一なら怒り出すところだが、さすがに今は振り返っ

て考えるだけの余裕があった。日光に行ったときほど史恵のこと

に夢中になっていなかったからかも知れないし、単に年齢が上に

なったからかも知れない。

 「そうか、さっきすれ違いに誰かに睨まれたんだ」

「当たり、で?」

「え?まだあるの?」

「もちろん」

「えーと、分かんない」

「そうか、さすがに無理かな?」

「だって、ここまで分かっただけでも大したもんだと思うけど・

・・」

 「まだ、先があるんだけど」

「そんな・・・」

「いいわ、ここまでにしておきましょう」

史恵はまた歩き出した。宏一は後からついていきながら、『これ

以上、何があるんだ』と、史恵の謎めいた態度にとまどっていた。

何度も繰り返して考えていたので口数は少なくなってしまった。

 「宏一さん、怒ってるの?」

「ううん、そんなんじゃなくて、どうしてかなって思って考えて

いたから・・」

「もういいわ、忘れて」

「そんな、だって・・」

「だって?」

「絶対に正解だって思ってたから、ご褒美にキスでもしてくれる

かなって期待して・・・」

口ごもる宏一を見て、史恵はあきれてしまった。『ほんとに宏一

さんて全然変わってないのね・・・』

 宏一は、それでも史恵が、『ごめんなさい、気がつかなくて』

とでも言ってキスをしてくれるのを密かに期待していた。しかし、

史恵は何もなかったかのように涼しい顔をして歩いていく。少し

ずつ、宏一は何とも言えない寂しい気持ちになってきた。『やっ

ぱり、史恵のことを理解するのは無理なのだろうか?』そんな想

いが広がってくる。

 一方の史恵は、そんな宏一の想いも知らずに嬉しい気持ちでい

っぱいだった。『宏一さんて昔のまんまだ。私のことをちゃんと

思っててくれるし、一生懸命考えててくれる』そう想うだけで心

の中が暖かくなってきた。宏一が二つ目の答えを出せなかったこ

となど、まるで気にしていなかった。

 しかし、宏一はいたたまれなくなった。何かをしないと前を歩

いている史恵がまるで知らない女性になってしまうような気がし

た。何か後ろめたい気はしたが、人通りが途絶えたところを見計

らって史恵を抱きしめてキスをする。嫌がられるかと想ったが、

史恵は素直に応じてきた。お互いの唇と舌が相手を求め合う。

 唇を離したとき、宏一は

「好きだよ」

と言った。しかし史恵は、

「宏一さんて、子供みたい」

と言ってクスッと笑った。史恵にはまるで悪気はなかった。宏一

がおもちゃをほしがる子供のようでとても可愛かった。しかし、

その一言は宏一の心に突き刺さった。

 そのまま史恵を抱きしめていた腕の力が抜け、自然に身体が離

れる。仕方なく史恵はまた歩き始めた。宏一は、自分でここまで

来てこうして史恵と会っているのに、まるでそれが無駄なことだっ

たかのように感じられた。四年の間に史恵は知らない女性になっ

てしまったのだろうか、そんな想いが宏一の心に広がる。ただ、

じっと史恵のあとをついて歩いて行くのが精一杯だった。

 史恵は宏一の顔が突然曇り、悲しみが広がるのを見て後悔した。

自分は安心して心を開いたつもりだったのに、宏一には理解して

もらえなかったようだ。もう一歩、宏一に包容力があれば、その

まま『こうしているときは子供なんだよ』とでも言って優しく抱

きしめてくれれば安心して腕の中に飛び込んでいけたものを、欲

しいものが手に入らないときの子供のように急に黙ってしまった。

 史恵は『自分の考えを全て分かって欲しいなんて、宏一さんな

ら全て分かってくれるなんて都合が良すぎるかな』そんな風に考

え直し、宏一の心をどうやって癒そうか考え始めた。

宏一にはそんな史恵の考えは分かるはずもなく、どこか楽しげな

史恵に比べて宏一は悲しそうだった。

 宏一が何も言わずに、ただ歩いているだけなのを見て、

「宏一さん、部屋に戻りましょうか」

と言うと、

「うん、そうだね」

と気のない返事をするだけだ。

「元気を出して、きっといいことがあるから・・」

と言っても、

「うん・・・、わかった・・」

とまるで元気がない。

 『もう、しっかりしてよ!』そんな気持ちで軽くキスをすると

史恵はホテルに向かって歩き始めた。本当は、宏一に話したいこ

とがあった。宏一にだけは話せる史恵の心の中の葛藤があった。

静かなところで宏一に聞いて欲しかった。そして、宏一が何とい

うか聞いてみたかった。

わがままな自分を、宏一になら笑われてもいい、とまで想ってい

た。しかし、史恵のことになると、宏一はまるで子供のように甘

えたくなるところまでは気が回らなかった。

 部屋に戻ると、史恵は

「シャワーを浴びてくるから、少し待ってて」

と言って、手早く支度をするとバスルームに入っていった。普段

の宏一なら、お気に入りの本でも読みながら史恵が出てくるのを

待つところだが、今日は何もせずにただ、応接セットのイスに座っ

てじっとしていた。

 自分でもどうしてこんなに気分が沈むのか良く分からなかった。

特に史恵に嫌われたわけでもないのは良く分かっていた。それど

ころか、史恵が宏一のことを気にして優しくキスをしてくれたの

はとても嬉しかった。それでも、史恵が宏一の理解を超えたとこ

ろにいるような気がして、これから過ごす時間に自信がもてなく

なっていた。

 「宏一さん、どうぞ。今、お湯を入れてますから」

そう言って史恵が出てきたとき、ジャージ姿なのに気がついた。

何かこの場には似合わないような気がしたが、きっとさっさと寝

るつもりなんだろうと思って、

「まだ一杯になってないわよ」

という史恵の声も無視してさっさとバスルームに入った。

 宏一がバスルームに消えると、史恵はクローゼットの前に立っ

てバスタオルで髪の水気を取りながら鏡の向こうの自分に話しか

けていた。『宏一さんを傷つけたままにしておくの?謝るつもり

が無いなら何かしてあげなくちゃ・・・』しかし、もともとわが

ままな自分にできることなど大したことはない。

『でも・・・』と考えて、自分が宏一を今でも大好きなことに気

がついた。いつもなら、『それなら別にいいや・・・』と考える

のに・・・。

 宏一が出てきたとき、部屋はスタンドの電気だけになっており、

史恵は既にベッドに入っていた。宏一は、いったん応接セットで

タバコに火を付けたが、吸いきらないうちに火を消すと隣のベッ

ドに入ってスタンドの電気を消した。史恵はじっとベッドでそれ

を見ていた。

 宏一がベッドに入ってしばらくすると、

「宏一さん、起きてる?」

と史恵の声がした。

「ああ、大丈夫だよ」

「そっちに行ってもいい?」

その声はとても優しく宏一の心の中に響いた。

「いいけど・・・、どうしたの?」

宏一の声には明らかにとまどいが感じられた。

「ううん、ただ、そっちに行きたいの。いい?」

そう言うと、史恵はそっとベッドを抜け出して宏一のベッドにも

ぐり込んできた。

 「宏一さん、ごめんなさい」

そう言うと、史恵は心を込めて優しいキスをした。宏一は、どう

していいか分からない自分の心を持て余していただけに史恵の心

遣いが嬉しかった。心を込めてキスのお返しをする。二人は抱き

合い、身体を寄せ合って、次第に情熱を伝えるかのように求め合っ

た。

 宏一が史恵のジャージに手をかけると、史恵の身体が一瞬、堅

くなった。

「どうしたの?いやなの?それなら・・」

「ごめんなさい、そんなんじゃないの、ただ、心の準備が上手く

できてなかっただけ。いいのよ」

「でも・・・、いいの?もしいやなら・・・」

そう言って、手を止めて優しく抱きしめようとする。史恵はあき

れると言うより少し腹が立ってきた。

「もう、自分でする」

と言うと、上着のジッパーを降ろしてしまう。小麦色の肌の上に

白いブラジャーが見えた。

 「宏一さんたら、こうでもしないと抱いてくれないんだもの」

そう言うと、少し自信のない声で、

「あとは宏一さんがして・・・・、でも、がっかりしないでね」

と言って宏一の首に手を回す。

 

 やっと宏一は安心して史恵を愛せるようになった。どうも史恵

が相手だと史恵のペースでしか進んでいかないような気がする。

それでも、キスから首筋、胸元へと唇を移していくとだんだん激

しく反応するのが嬉しかった。

 「アアッ、ダメ、もっとゆっくり、慌てないで・・、ううっ」

宏一が史恵の胸に顔を埋め、両手で一気に胸を揉みしだくと、史

恵は受け入れながらも宏一が荒々しいことに戸惑っていた。宏一

も、なぜ自分がこんなに急いでいるのか分からなかったが、早く

史恵の全てを愛したいという思いが強く、どうしても愛撫が荒く

なってしまった。

「そんなに急がなくても、宏一さん、ああん、だめ、ゆっくりし

て」

「ごめんね、でも、とっても欲しいんだ」

「やっと話をしてくれた。優しくして、ね」

「ごめんよ。何か、懐かしくて」

「私も」

やっと息を付いた宏一が史恵の顔を見ながらゆっくりと両手で可

愛い膨らみを撫で回す。

「見ないで、恥ずかしいわ、電気を消して」

「このままが良いんだけど・・・」

「消してくれないと気が散るから」

「分かったよ」

宏一がスタンドをスモールランプにすると、

「それも消して」

「真っ暗じゃ、せっかく会えたのに分からないよ」

「大丈夫よ。こうしているんだから」

史恵の心の中には、宏一に見られても良いという気持ちと、安心

できるまでは自分のありのままの姿を見せるべきではないと言う

気持ちが混在していた。これからの数日を大切に過ごすために、

今は闇の中で安心したかった。

「分かったよ。でも、その分離さないよ」

「うん、嬉しい。一緒よ」

宏一が電気を消してベッドに入り直すと史恵が身体を寄せてきた。

「宏一さん、会いたかった」

「やっと会えたね。綺麗になってたんでびっくりしたよ」

「ウソばっかり」

「ほんとだよ。だって、とっても大人びてるし、髪型から服装ま

で全部違ってたから」

「私、今日会うまでは宏一さんの知らない生活をしていたんだか

ら。宏一さんがびっくりしたのも当たり前。まだ驚くことがある

かも・・」

「驚くこと?」

「私、彼がいたの」

宏一はこの言葉になぜかぞっとした。何とか平静を繕って、

「いて当然だよね。史恵ちゃんは可愛いんだし」

「うんん、そんなんじゃなくて・・・」

「寂しかったんだね」

「そう、寂しかったの。一人でいるのが」

史恵は体を起こすと、宏一を上からのぞき込むようにして唇を押

しつけてきた。

「だから、しばらく安心させて。宏一さん」

そう言うと、ゆっくりとキスをする。宏一は最初、史恵にリード

されることに戸惑っていたが、しばらく史恵のしたいようにさせ

ることにした。ゆっくりと単純なキスを何回も繰り返す。史恵を

下から抱きしめると、ゆっくりと宏一の上に身体の全てを乗せて

くる。

史恵はキスをしながら、自分から求めていったことに少しだけ驚

いていた。しかし、宏一は優しく受け止めてくれた。今は宏一を

感じているのが嬉しかった。

ふと、自分の頬が濡れていることに宏一は気が付いた。闇の中の

史恵の息も少し荒いようだ。手探りで史恵の頬を探り、指で涙を

拭ってやる。

「気が付いた?」

「うん」

「ありがとう。でも気にしないで」

そう言いながら更に唇を押しつけ、可愛い舌を遊ばせてくる。宏

一には史恵の心の緊張が解けてくるのが伝わってきた。喜ばせて

やりたいという思いが次第に強くなってくる。

「下になりたい」

「分かった」

両手でしっかりと史恵を抱きしめて、そのまま身体を入れ替える。

宏一が上になると、

「宏一さん、好きにして」

と両手を首に廻し、宏一の唇を首筋に受け止める。

「ああっ、宏一さん、あっ、ううっ、あん」

史恵の身体が次第に熱を帯びてくる。宏一は次第に自分の身体も

その気になってきたことに気が付いた。一度ゆっくりと身体を離

すと、自分の服を脱いでトランクス一枚になる。

史恵は何も言わずじっとしていたが、宏一がはだけたままの史恵

のジャージも脱がし始めると、自分からも手伝って脱いでしまう。

宏一の指が一瞬だけ胸の辺りの肌に触ると、ピクッと身体が反応

した。

 史恵をブラとパンツだけにすると、再びゆっくりと抱きしめる。

史恵も何も言わず応じてくる。ゆっくりとブラジャーの上から膨

らみを撫で始め、首筋から胸の方へと唇が下りていくと、

「アアッ、ねえ、宏一さん、はうっ、早く、して」

と熱い息をもらす。

「急がないでって言ったのは史恵ちゃんでしょ。もう少しだから」

「アアン、早くぅ」

史恵は両足を擦り合わせて宏一の愛撫を待ち続ける。それでも宏

一はもう一度ゆっくりとブラジャーの上から上半身を愛し続ける。

史恵は待ちきれなくなってきた。もともと自分のしたいこと以外

は受け入れにくい性格なので、こんなことに慣れていなかった。

「宏一さん、ブラ、外そうか?」

「我慢できなくなった?」

「もう、早くぅ」

宏一がゆっくりと背中に手を回すと、

「残念でした。前ですよ。気が付かなかった?」

と少しだけ得意な声で笑う。

「真っ暗じゃ分かる分けないだろ」

そう言って宏一がフロントホックを外そうと、真ん中を両手でつ

まんで軽く持ち上げる。

史恵の身体がビクッと震えて、

「アッ、そっと、パチって、ね、パチって外して」

と身体を仰け反らせてうわごとのようにねだる。


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