ウォーター

第四十六部

 

宏一はホックを外すと、そのまま両手で一気に膨らみを包んでい

く。

「あーっ、凄いッ」

宏一の手の中で史恵の身体がビクッ、ビクッと反応し、激しく身

体が悶えているのが分かる。少女の頃とは全く違う激しい反応に

宏一は史恵の女の部分を見たような気がした。すでに十分に膨ら

んでいる先端のつぼみを親指と人差し指で軽くつまんでひねるよ

うに愛撫する。

「ダメッ、そんなの、我慢できなくなる」

史恵はそう言うと、宏一の右手を掴んで下に押し下げようとする。

「痛かった?」

とぼけて史恵の手を払うと、

「そんな、違うの・・・、あう、あっ」

と身体を持て余したように宏一の愛撫に耐えようとする。

「こうしてあげるから」

そう言って、乳房を外側から手で集めるようにしておいて、乳首

を舌でねっとりと味わう。

「あーっ、そんなーっ、あーっ」

史恵の声が一段と高くなり、身体がグイッと大きく仰け反る。左

右の乳首を丹念にしゃぶり始めると、史恵の身体の我慢の限界に

来てしまった。さっきよりは強く宏一の手を掴み、

「ね、こっちも、触って、下も」

と小さな声で宏一におねだりをする。史恵はこんなことをしたの

は初めてだった。自分でも恥ずかしくて思わず顔をそらせてしま

う。

「こうして欲しいのかな?」

宏一がゆっくりとパンツの中の茂みの奥に指をくぐらせていくと、

すでにそこはたっぷりとあふれた液体でぐっしょりと濡れていた。

茂みの中を進んでいくと、指先が敏感な秘核を捕らえる。

「アアーッ、イーッ」

史恵は夢中になって宏一の愛撫に溺れていく。ゆっくりと何度も

秘核の周りを撫で回し、軽くからかうようにほんの先端だけ触る。

次第に史恵の膝が上がって、足がベッドから浮き上がってくる。

「宏一さん、お願い、中も、指を入れて」

史恵が大胆に要求してくる。宏一は体を起こすと史恵のパンツを

脱がしてやる。

「こんなこと言ってびっくりした?」

史恵が荒い息の下から宏一に心配そうに問いかける。

「そんなこと気にしなくて良いよ。感じていてご覧。もっと夢中

にさせてあげるから」

宏一はそう言うと、史恵の両足を開いて茂みの中を丹念に愛撫し

てやる。秘核の周りだけでなく、秘口の周りや入り口も何度も丁

寧に、あふれている液体を拭うように何度も愛撫する。

「はぁっ、ああん、こんなこと、させるの、んっ、宏一さんだけ、

なのよ」

史恵は息を弾ませながら宏一に身体を任せる。

「感じてくれてるの?」

「うん、とっても。あん、でも、早くうぅっ、指で、して」

史恵は余り焦らされるのになれていなかった。相手が宏一だから

ここまで我慢しているが、我慢できなくなって気持ちがかえって

沈んでしまうのが怖かった。

「こんなになっちゃったね。さあ、気持ち良くなってごらん」

宏一はゆっくりと中指を差し込んでいく。

「ううーん、あん、そんな、アアン」

史恵の反応は今一歩のようだ。しかし、すでに中はとろとろに

なっている。宏一はすかさず、

「この方が良いのかな?」

と人差し指と二本差し込んでいく。

「アアーッ、イイッ、これっ、アーッ」

史恵の身体が仰け反り、グイッと腰が突き出され、待ちに待った

感覚が身体に満ちていく喜びを表す。宏一は史恵が喜ぶように、

ゆっくりと出し入れしてやる。

しかし、史恵は快感が身体を満たしていくことで還って我慢でき

なくなってきた。宏一はゆっくりと残酷な愛撫を続けている。自

分の身体が変わったことを自分から告白しているようで、少し悲

しくなってきたが、最後には史恵は自分の欲望を正直に告げた。

両手を宏一に伸ばして荒い息の下から、

「宏一さん、ね、お願い。我慢できない、来て」

と宏一をねだる。

「もう欲しくなったの?」

「うん、来て欲しいの。一つになりましょう」

「その前に、少しだけ口でしても良い?」

「ダメ、それだけは絶対ダメ」

「俺じゃイヤなの?」

「誰でもイヤ。嫌なものはイヤなの。それより、早く来て。今、

そんな事されたら、宏一さんを嫌いになっちゃう。お願い」

史恵がそう言うのなら、無理にしても絶対に良いことはない。

宏一はトランクスを脱ぎ捨て、史恵の足を大きく開くと、ゆっく

りとあてがい、いとおしむように肉棒を擦り付けながら、

「入るよ」

と言う。史恵は最後の我慢をしながら

「来て、奥まで」

と宏一に抱きつこうとする。宏一がゆっくり腰を進めていくと、

「はあーっ、宏一さんなのね。ゆっくり入ってきて」

と、安心したように宏一の首に手を回してくる。

「これが、宏一さん。やっと、あ、そんなに」

安心して身体の緊張を解いた史恵が少し驚く。

「こんな、これが宏一さんなの?こんなに、あっ、アアン、そん

な奥まで、アアッ、はうう、ん、はあッ、はあッ、はあッ、おっ

きいっ」

史恵は宏一が自分の一番奥まで入ってきたことに少し驚いた。今

まで感じたことのない、新しい感覚が身体の奥から沸いてくる。

何とも言えない深い愉悦が史恵を満たしていく。

「いや、そんなにゆっくりしたら、いや、もっと、早く、いや、

我慢できない、早くズボズボして、ああっ、堪らないッ、ねっ、

もっとっ」

宏一が奥まで入ってくるたびにズーンと深い快感が身体を駆け抜

ける。

宏一がふと気が付くと、史恵は足を大きく開き、両足の裏で宏一

の腰を挟んでいる。宏一がグイッと奥まで入ると足の親指が宏一

の腰に食い込むのが分かる。

「だめよ。こんなにされたら乱れちゃう」

史恵は自分が更に貧欲に求めたがっていることに戸惑っていた。

夢中になりたくて仕方がない。いきなりこんな姿を宏一に見せた

くなかった。自然に息づかいがグッと堪えたようになる。

そんな史恵を暗い部屋の中で見下ろし、宏一は史恵の身体を改め

て感じていた。もちろん、処女のようにきつくはない。まるで暖

かい海の中の波打ち際のようだった。

「いいんだよ、いっぱい感じてごらん。お互い、4年ぶりなんだ

から。もっと早くした方がいいの?」

そう言いながら、少しずつ腰を早く動かしていく。

「アアーッ、もう、堪らない。知らないッ」

史恵は自分でも腰を突き上げて、より深く宏一を迎え入れようと

する。自分でもどうしようもないほどの快感があふれ出してくる。

宏一は史恵が夢中になってくれることが嬉しく、次第に大胆に腰

を動かして史恵の要求に応える。しかし、史恵の身体が登りつめ

ることはなかった。今度は息が苦しくなってくる。

「アアッ、宏一さん、まだ、まだ終わらないの、はう、はうぅ、

あん、早く、終わって、許して、はう、ウウン、ねぇ、終わって、

こんな、凄いの、持たない」

史恵が激しい息の下から宏一に許しを請う。

しかし、宏一は昼過ぎに発射したばかりなので持続時間は長かっ

た。そして、史恵の締め付けは余り強い方ではなかったので、ま

だまだ先は長そうだ。

「史恵ちゃん、素敵だよ。こんなに夢中になってくれるなんて」

そう言いながらさらに腰を大きく打ち付ける。

「もう、もうだめ、許して、息が、できない、だめ」

史恵が苦しそうに言うので、仕方なく肉棒を抜き去る。

「はあ、はあ、はあ、こんな、凄いなんて、宏一さん、はあ、

はあ」

史恵はしばらく息を弾ませたまま身体をぴくりとも動かさない。

宏一も一服することにして身体を史恵の横に並べる。そっと腕枕

をして、ぐったりとした史恵を抱き寄せると、史恵も身体を寄せ

てきた。

しばらく二人は何も話さなかったが、次第に史恵の息が落ち着い

てくると、史恵が話し始めた。

「宏一さんが、あんなに凄かったなんて、びっくりした」

「そんなに凄かったの?」

「あんなに夢中になったのなんて初めて」

「嬉しいな、そう言ってくれると。でも最後までいかなかったね」

「最後までいったことって無いの。途中で頭が痛くなっちゃうし、

絶頂感てどんなのか分からない」

「一緒にいる間にいけるといいね」

「無理よ。だめだと思うわ」

「そうかな、かなり感じてたみたいだけど」

「感じてるけど、たぶん絶頂感とは違うの。でも、満足よ。とっ

ても。嬉しかった」

そう言って宏一の胸に頭を載せてくる。

「私の身体、驚いた?」

「何が?史恵ちゃんのままだけど」

「でも、宏一さんの知ってる私じゃなかったでしょ」

「それはそうだよ。でも、バージンの史恵ちゃんじゃないのは仕

方ないよ。四年間もずっと恋をしないわけじゃないだろうし。で

も、こうしていてくれるのは間違いなく史恵ちゃんだよ」

「そうかしら」

史恵は納得いかないようだったが、宏一の言うことも分かった。

史恵の身体を撫でながら話をしていると、宏一はまた史恵を愛し

たくなってきた。史恵は腰の辺りの宏一の身体の変化に気が付く

と、

「宏一さん、またしたいの?」

と史恵が聞いてくる。

「うん、でも、我慢するよ。疲れたろ?」

宏一がそう言うので、史恵は手を下に伸ばして優しく肉棒を握っ

てやる。

「いいのよ。したくなったら入ってきて」

そう言いながらみるみる堅くなっていく肉棒を握る手に力を込め

る。

「ああ、史恵ちゃん、こんなにしたら我慢できなくなってくるよ。

ほんとにいいの?」

「いいわよ、いつでも」

史恵自身もこんなに自分が優しくなっているのが嬉しかった。宏

一が体を起こすと、軽く両手を宏一の首に回す。宏一は優しくキ

スをすると、再び胸からゆっくりと愛撫を始めた。

胸を優しくそっと揉み、乳首を優しく舐めると史恵の息が次第に

荒くなってくる。暗くて良く分からないが、両足はゆっくりと擦

り合わされているようだ。

宏一が史恵の両足を開いて再びゆっくりと入っていくと、

「アン、宏一さん、そっとしてね」

と、甘い声で史恵が宏一の頸に手を回し、両膝を上げてより深い

挿入を助ける体勢を取る。しっとりと濡れている中で宏一はゆっ

くりと動き続けた。次第に史恵の声が荒くなり、

「はあ、はぁ、はぁ、アン」

と感じていることを表す。しかし、ある程度以上にはならないよ

うだ。史恵が余り強く感じないので、次第に宏一の肉棒も力を無

くしてくる。宏一が抜くと、

「ありがとう。うれしいわ」

そう言って疲れた身体を宏一に預けてくる。

 結局、その夜は何度も史恵を求め、お互いに最後までいかない

まま、身体を繋いでは離す事を繰り返した。何度求めても、史恵

は嫌がらずに素直に宏一を受け入れてくれた。しかし、さすがに

6度目には、

「宏一さん、まだするの?なんてタフなの?もう、私、身体が疲

れて、アン、許して、これ以上は持たない、ごめんなさい、あ

う、あぁ、入ってきた。ゆっくり動いてね」

そう言って許しを請うた。宏一は最後の力を込めて動いたが、史

恵の身体は同じ反応を繰り返すだけだった。

 朝、宏一が目を覚ますと、史恵はグッタリとしたまま寝息を立

てていた。窓から南国の日差しが入ってくる。しばらく、ベッド

の中でじっとしていたが、史恵は起きる気配を見せないので、仕

方なくシャワーを浴びてからバルコニーに出てみた。むっとする

南国の熱気と湿気が身体を包むが、思ったより不快ではない。そ

のまま小さなバルコニーで一服しながら日向灘から遥か太平洋へ

と続く海を眺めていると、九州に来たという実感が湧いてくる。

何と言っても海の色と青空が素晴らしい。これは絶対に関東近辺

の海では見ることができない。心が洗われるような清々しい気分

だ。それに今日から史恵と旅行ができる。そう思うと何かしたく

なってきて、タバコに火を付けてもゆっくり吸う気分ではない。

部屋の中に入ると、史恵はまだぐっすり寝ていた。早起きの史恵

だが、よほど宏一に何度も求められて疲れたのだろう。早く出発

したかったが、宏一を受け入れてくれた史恵を無理に起こすのも

可哀想で、もうしばらく待つことにした。宏一が応接セットで本

を読んでいると、次第に空腹である事を思い知らされてくるが、

じっと我慢する。

 史恵が目を覚ましたのは、何と9時を廻ってからだった。

「宏一さん、もう起きてたの?ごめんなさい。今何時?」

「9時だよ。よく寝たね」

「エッ、もうそんな時間なの?ごめんなさい」

宏一は史恵のベッドに行くと、髪を優しく撫でながら

「疲れはとれた?」

と、聞いてみる。

「うーん、まだ疲れてるけど、何とかなりそう。宏一さんたら、

あんなに激しく求めるんだもの。シャワーを浴びなきゃ」

そう言う史恵に宏一はキスをして、再び胸元から愛し始める。

「アアン、だめ、こんな汗くさいのは。今したら起きていられな

くなっちゃう。宏一さん、私、車の中で寝てて良い?」

「いいよ。ゆっくり寝てて」

「でも、軽くシャワーだけ浴びてくる。少しだけ待ってて」

そう言うと、史恵は体を起こしてシャワーを浴びにバスルームに

入っていった。シャワーを浴びると曇ったような意識が次第にはっ

きりしてくる。宏一に抱かれるためにシャワーを浴びている自分

がどこか不思議なような気がした。

史恵は、バスタオル一枚の姿ですぐに出てきた。そうして、先ほ

ど宏一が開けたカーテンを引くと、宏一の待つベッドに入り、宏

一の頸に手を回してくる。宏一の愛撫を受けながら、

「朝は少し反応が遅いからゆっくりしてね」

と、小さな声でささやいた。宏一は既に臨戦状態になっていたが、

「入っても良くなったら教えてね」

と言うと、宏一の肉棒を史恵に握らせた。

「もうこんなになってるの?こんなの入れたら痛くなっちゃう」

史恵は少し戸惑ったようだったが、胸を手と口で愛されていると

次第に自分の中が潤ってくるのを感じた。宏一が、手の愛撫を胸

から茂みに移し、秘丘全体をゆっくりと揉みほぐすようにしてや

ると、次第に快感が沸き上がってくる。

 「宏一さん、良いわよ。入ってきて」

史恵はそう言ったが、宏一にはまだ余裕があった。

「もう少し待とうよ。十分に濡れないと痛いから」

宏一はそう言ったが、史恵を焦らしたかっただけだった。しかし、

史恵は、

「そう?大丈夫だと思うけど・・・」

と宏一の気持ちが分からない。次第に史恵の腰が反応を始め、両

足が少しずつ擦り合わされてくる。

「アアン、宏一さん、早く。入ってきて。もう十分だから」

史恵は少し苛ついているような声を出した。

「じゃあ、ゆっくり入るからね」

宏一はそう言うと、正面から史恵の足を持ち上げ、少しずつ、焦

らすように入っていく。

「あ、入ってきた。アン、もっと深くぅ。あ、はぁーッ、これ、

あーっ、か、堅いッ」

宏一がゆっくりと奥まで入ってじっと史恵の反応を待つと、史恵

は恥ずかしさで快感の中に逃げ込みたくなってきた。

「あっ、ねえ、動いて、早く、こんなので焦らされるのはいや。

早く動いて」

そう言いながらも史恵の腰は既に動き始めていた。

「まだそんなに濡れてないから、今動くと痛くなっちゃうよ。も

う少し待ってからね」

「いや、痛くなってもいい。早く動いて」

史恵は求めた。

「最初はゆっくりだからね」

宏一はそう言うと、まず一番奥までゆっくり入っていく。

「はあッ、こんなに奥まで堅いのが、入ってくるぅー」

史恵はグッと押し込まれた肉棒に驚いていた。少しずつ肉棒の周

りの湿りが増し、動きが楽になってくる。史恵の中は次第にゆっ

たりとした暖かい海のようになってきた。若い由美のような肉壁

の硬さはないので、これなら長持ちしそうだった。

しかし、落ち着いてじっくり楽しむつもりの宏一とは違い、史恵

自身はすでにかなり感じていた。既に宏一の肉棒を深く受け入れ

ようと、足を宏一の腰に巻き付かせて自分から腰を押しつけてく

る。

「早く、早くもっとズボズボして。いっぱいして」

上半身を仰け反らせてうわごとのようにおねだりを繰り返しなが

ら、腰は何度も突き上げてそのたびに声が出ている。史恵がまだ

高校生の処女だった頃しか知らない宏一には驚きの連続で、どう

扱って良いものか、少し迷っていた。しかし、いつまでも史恵を

待たせておくわけには行かない。ゆっくりと深い出没を開始する。

「アアーッ、こんなっ、深くて、いいっ、宏一さん、いいの、とっ

ても」

史恵は宏一の大きな動きに合わせようと、宏一が奥まで来た瞬間

に腰をグッと突き出す。その度に、

「あうッ、奥まで届いてる。くーっ、突き抜けちゃう」

と夢中になって宏一を求める。次第に宏一は動きを早くして史恵

をより深い愉悦に誘い込んでいく。

「アアッ、あうッ、もっとっ、宏一さん、あう、イイッ、はあッ」

史恵は身体を仰け反らせ、頭を時々左右に振って快感に必死に耐

える。腰を何度も突き上げ、

「イイッ、宏一さん、いっていいのよ、あう、息が、できない、

いって、息が」

と最高の快楽をさまよう姿は宏一が初めて見る女の史恵の姿だっ

た。

「いいかい、いくよ、出すよ」

史恵が激しく悶えるのを見て宏一も激しく興奮していた。

「出して、早く、もう、アアーッ、そんなにしたら、くぅっ、出

して、いって」

「そうら、こうだ」

宏一が最後にグッと深く入れると、

「あーっ」

史恵の身体の動きが止まり、次にグッタリとなった。

「どう?いけた?」

宏一が荒い息の下から史恵に聞くと、

「はあ、はあ、まだみたい。でも、こんなの最高、だったわ。初

めて」

史恵がまだいってなかったことを聞いて少しがっかりしたが、史

恵が満足なら仕方ないと納得する。

「ごめんなさい、少し、休ませて、ちょっと、疲れたから、あん

なに、するんだもの」

史恵はそう言いながら、少し嬉しかった。今までなら、先に息が

苦しくなって頭が痛くなり、次第に感じなくなってしまうのに、

今日はあんなに激しかったし息が苦しかったのに最後まで感じ続

けた。本当の女として感じられたようで嬉しかった。

 史恵をギリギリまで寝かせ、あわてて支度をしてホテルを出発

したのは10時を回ってからだった。最初こそ宏一と話をしてい

た史恵はいくらもしないうちにウトウトし始める。宏一は史恵を

起こすことなど考えなかったが、地図を見るナビがいなくなった

ので、仕方なく記憶だけで運転していく。とは言っても、しばら

くの間は昨日来た道を引き返すだけなので特に難しいわけではない。

宏一自身も昨夜は何度も求めたので頭の中に少し霧がかかった感

じだったが、まさか宏一まで寝てしまっては余裕を持って高千穂

峡にたどり着くことはできない。頭の中の予定では3時前に着き

たかった。宮崎から高千穂峡までは車で直行すれば3時間半ほど

だが、昼食を取る時間を考えると余りゆっくりはできない。国道

10号線をひたすら北上して日向に戻る。

 

ちょうど日向に戻った頃、史恵が目を覚ました。

「宏一さん、だいぶ寝ちゃった?」

「うん、よく寝ていたね。今、日向に入ったところだよ」

「ごめんなさい、ちょっと寝るだけのつもりだったのに」

「気にしないでいいよ。それよりお腹減ったろ?お昼にしようか」

「私、どこでもいい」

「わかったよ」

宏一は国道沿いにある田舎風のドライブインに入ることにした。

国道を逸れてしまうと、どこで食事にありつけるか自信がない。

国道を走っている内に済ませておいた方が安心できると思った。

お昼は二人ともエビフライ定食とキノコハンバーグ定食と言った

ありふれたものにした。しかし、冷凍物を暖めて法外な値を取る

東京近郊のドライブインよりはよっぽど手の込んだ丁寧な料理だっ

た。

「高千穂峡に行ったら何をしようか?少し予定よりは遅れるけど、

夕食まではだいぶ時間があるよ」

「みんなアベックはボートに乗るみたい」

「ボート?手漕ぎの?」

「高千穂峡で一番きれいなところだから、少し待っても乗る価値

はあるって聞いたけど。写真なんかで良く紹介されてるから、行

けば宏一さんもわかると思うわ」

「そう言えば断崖絶壁の中をボートが進んでいくのをテレビか何

かで見たことあるような気がするけど。小さな滝がある・・」

「それよ。とっても綺麗なところ。楽しみだなぁ、前から行って

みたかったんだ。後どれくらいかかります?」

「今、半分くらいだから、後2時間弱という所かな?」

「次は私が運転する」

「いいよ、もう少し休んでいて。大丈夫だから」

「宏一さんたら、そんなに私のこと大切にすると我が儘になっ

ちゃって手が付けられなくなるわよ」

「うーん、それは困るけど・・、ま、もう少し運転するよ」

「もう、ほんとに優しいんだから、後で後悔しても知らないから」

「後悔するのかなぁ」

「今さら言ってもダメ、のんびりさせてもらいますからね」

「じゃあ、そろそろ行こうか」

二人は再び史恵の車に乗り込み、国道10号線を外れて山の方に

進路を取った。

のんびりと昼食を取ったので、1時をだいぶ過ぎてしまった。こ

のままだと予定の3時までに到着できるかどうか妖しくなってき

た。しかし、食事をとって休憩したので宏一は元気満々で、給油

以外は止まらずにどんどん進んでいく。

国道を外れてしばらく進むと五十鈴川沿いにでて、しばらくは川

沿いを上っていく。

 しかし、それまでは順調だった二人の旅行もふとしたことから

問題が起こってしまった。高千穂峡に行くには、しばらく川を上っ

てから途中で右折しなくてはいけないのだが、史恵との話に夢中

になった宏一は曲がるべき所を通り過ぎてしまった。

その手前にはちゃんと表示もでており、普通なら間違うはずのな

いところだった。

「あれ?さっきまで出ていた高千穂峡の表示が無くなったみたい。

嫌な予感がするけど・・・あ、やっぱりそうだ。反対車線の表示

に高千穂峡が出てる。曲がり角を通り越したんだ」

「え?そうなの?じゃ、戻らなきゃ」

宏一は車をUターンさせながら、

「通り過ぎたなんて、全然気が付かなかったよ」

と気軽に言った。

「宏一さんたら私との話に夢中になっていたんだもの。ちゃんと

表示をみなきゃ」

何気なく史恵もそう答えただけだったが、宏一にはカチンときた。

「史恵ちゃんだって地図を見ていたじゃない。ちゃんと言ってく

れればいいのに」

「だったら、そう言わなきゃ。私は全部宏一さんがしてくれると

思っていたから」

「初めて走るのにそんなに詳しくは分からないよ」

「それさえ私は知らないんだから」

史恵は少し怒った声で言うと、

「だから私を甘やかすと後悔するって言ったのよ。ちゃんと地図

を見ていてって言えばそうしたのに」

と不機嫌につぶやいた。

「それにしても、狭い道だね。Uターンするのも楽じゃないよ」

宏一は苦労して切り返して元来た方向に走り始めた。

「さっさと戻らないと」

史恵は気軽にそう言っただけで何の悪気もなかったが、宏一は我

慢できなくなった。

「ちゃんとやってるじゃない。これ以上どうしろって言うのさ。

史恵ちゃんにだって責任があるんだから、もっと優しく言ってく

れたっていいじゃない。何で俺ばっかりそんな風に言われないと

いけないの」

「私は何もそんなこと言ってない。宏一さんが勝手にそう思って

いるだけよ。いいわ、もう何も言わない」

史恵も完全に怒ってしまい、それ以後は何も言わなくなった。宏

一はしばらく怒りながら無言で運転していたが、高千穂峡が近づ

く頃にはかなり怒りは収まってきた。しかし相変わらず史恵は黙っ

たままだ。

「史恵ちゃん、そろそろ着くよ」

「そうね」

「まだ怒ってるの?」

「そう」

「せっかく二人で旅行に来たのに。きついこと言ってごめんね」

「宏一さんが怒らせたんじゃないの」

「ごめんね。謝るよ」

「今は話したい気分じゃないの」

そう言うと史恵はぷいと外を向いてしまった。

 小さな街なので、予約した宿を探すのは簡単だった。車を止め

て荷物を降ろそうとすると、史恵は、

「宏一さん、私のは降ろさなくて良いわ。夕食を食べたらバスタ

ーミナルからバスで帰るから。車はそのまま使っていいから。帰

るときにフェリー乗り場にでも置いておいて下さい。鍵はあるか

ら」

と言った。

「そんな、まだ怒ってるの?謝るよ、ごめんなさい」

「とにかく中に入りましょう」

と史恵はさっさと宿に入っていく。民芸調の宿なので風情はある。

「こんにちは、予約してある三谷ですけど」

史恵の明るい声からはそんなに怒っているとはとても思えなかっ

た。愛想良く歓迎してくれる宿の人に、

「済みません、急に一人だけ今日中に帰ることになったんですけ

ど、食事はそのままにして、一人だけの宿泊に変更できますか?」

と平然と尋ねている。

「急におっしゃっとか。一応奥さんに聞いてみっとが、むつかし

かとよ」

「はい、わかっています。ダメならしかたありませんね」

宏一は史恵の様子から、はっきりと決めてしまっていることを感

じ取った。こうなるとそう簡単には史恵を引き留められない。

 史恵は一度帳場に戻って何か少し話をしてから部屋に戻ってき

た。そして、史恵はお茶を入れながら、

「宏一さん、夕食が終わったらバスターミナルまで送って下さい

ね」

と言った。

「そんな、帰っちゃうなんて。せっかく二人で旅行に出たのに」

「今、電車の時間を調べてもらってるの。夕食の後、できるだけ

遅いバスで帰りたいから」

「それなら泊まればいいじゃない」

「一度帰ることにしたの」

どうやらこれ以上話をしても無駄なようだ。

 しばらく二人は黙ったままだったが、

「さぁ、散歩に出かけましょう。せっかく来たんだもの」

そう言って史恵が立ち上がったので、宏一も腰を上げた。玄関で、

「さっきお願いした電車の時間はわかりましたか?」

と聞くと、宿の人は困ったような声で、

「ほんとに鹿児島まで帰っとか。だどん電車、なかとよ。宮崎ま

でしか出とらんたい。それも遅かよ」

となにやら引き留める気配だ。宏一は内心喜んだが、

「わかりました。後は何とかしますから、最終のバスの時間を教

えて下さい」

と一歩も引く構えを見せない。

「8時前ですか。それなら夕食を6時にしていただけませんか。

お願いします」

「どうしても帰っとか」

と宿の人も残念そうだが、仕方がないと思ったのだろう。

「食事は離れの方に用意しとくけんね」

と言うと、

「気い付けて」

と送り出してくれた。

宏一は史恵と一旦車に乗って地図を見ると、まだ時間は4時前な

のでゆっくりではないにしても一通りは見られそうだと思った。



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