ウォーター

第四百六十五部

 
「三谷さん、どうしてそのワインにしたんですか?」
担当者が聞いてきたので宏一は答えた。
「次に来る肉料理は脂身のある肉のグリルだからちょっと脂っこいからね。頼んだバローロと、ワインリストのもう一つのワインのバルバレスコは、どっちもイタリアを代表する渋みの強いワインなんだ。だから、脂の多い肉には合うと思ったんだ」
「そんなことよく知ってますね」
さとみが珍しく突っ込んできた。
「え?水野さんはどんなワインを飲むの?」
「特に決めてないんです。友達と一緒に食事に行くときに時々飲むくらいで。でも、何に合うとか、ワインの名前とか、あんまり考えたこと無くて」
「そうなんだ。それじゃ、今回のバローロが肉料理に合うと良いね」
「はい」
「なんか、水野さんは俺より三谷さんと一緒に話したい見たいですね」
担当者がそう言って妬けるほどさとみは宏一にしか話しかけなくなってきた。
「何言ってるの。俺だって水野さんと食事に出るなんて初めてなんだからね。彼女はガードが堅いんだ。直ぐに会話が弾むなんて無理だよ。こんなにたくさん話したのだって初めてだよ」
宏一に言われてさとみはちょっと困ったような表情をした。
「そうだったんですか。それじゃぁ、水野さんと一緒に食事できただけでも喜ばなくちゃいけないんだ。ごめんなさい。今日はこちらの接待なのにわがまま言っちゃって」
担当者は改めて謝意を示した。その後、肉料理をワインと一緒に楽しんだが、宏一とさとみはワインをお代わりするほど渋めのワインが肉料理に良く合った。そしてデザートとなり、接待の食事会は終わった。
担当者と別れて店を出ると、宏一は話しかけた。
「水野さん、今日はお疲れ様。緊張してたみたいだけど、食事は楽しめた?」
「はい、美味しかったです」
「もし、次の機会があれば参加する?」
「はい」
さとみは酒が少し回っているのか、明るく返事をした。いつもの慎重な会社での表情は影を潜めている。宏一は一応礼儀だと思って可能性は低いものの聞くだけ聞いてみた。
「どうする?まだ時間があるなら、もう一件くらい軽くいく?」
すると、さとみは予想外の返事をした。
「はい、いいですよ。簡単になら」
「それじゃ、近くのバーにでも寄っていこうか」
そう言うと宏一は、さとみを神田の駅に近い小さなバーに連れて行った。そこはちょっとしゃれたショットバーという雰囲気で、立ち席主体の小さなバーだった。2人はカウンターに席を取ると、宏一は自分にソルティドッグ、さとみにはテキーラサンライズを頼んだ。
「三谷さん、今日はごちそうさまでした」
「いやいや、ごちそうさまって言うのなら会社だけど、その分働いたのは俺たちだしね」
「でも、私はまだ日が浅いから、私の働いた分なんて・・・。どっちかって言うと斉藤さんの分がずっと多いはずだから」
「それはそうかも知れないけど、居なくなっちゃった人のことを言ってもね」
「三谷さん、斉藤さんが居なくなって寂しいですか?」
「ドキッとするようなこと言うね」
「ちょっとお酒が入ってるからかな?こんな事、普段は聞けないから」
「そうだよね。水野さんのキャラじゃない感じだね」
「それは別の話として、で、どうなんですか?」
さとみは酒の勢いを借りてかなり強引に突っ込んできた。ただ、宏一はさとみが興味を持ってくれた方が嬉しいので敢えて受けて立つことにした。
「そうだね。それじゃ、答えるけど、その前に一つお願いを聞いて貰ってもいい?」
「いいですよ」
「それじゃ、会社の外では下の名前で呼んでも良いかな?」
「え?それは・・・・・・いきなりなんて・・・・・・」
「だめ?」
「う〜ん、それじゃ、今日だけ」
「上手いなぁ、さすが。ま、良いか。分かった。それじゃ、さとみさん、教えてあげる」
「なんか危ない感じだけど、今日だけだから良いですよ。それで、どうなんです?」
「斉藤さんとは、時々慰め合ってた、って言う感じだったから、慰めてくれる相手以外無くなった分、寂しいよ。でも、恋人じゃなかったし、付き合ってたわけでも無いから、失恋というのとかとはぜんぜん違うけどね」
「それじゃ、好きな人を追いかけて退社したって言う噂は本当なんですね」
「すごい噂が流れるんだね。斉藤さんはそう言うことに敏感だから気をつけたらしいけど」
「三谷さん、そう言うことは社内の人に言っちゃだめですよ。敏感だって事は、相手が社内に居るって言ってるのと同じじゃないですか」
「そうかなぁ?そうとは限らないんじゃない?」
「限ります。今更リカバリーは無理です」
「それならそう言うことにしておけば良いよ。でも、さとみさんはそう言う話に敏感なんだね」
「怒らないで下さい。これでも私は三谷さんの味方なんですから」
「え?そうなの?」
「私、だいぶいろいろ言われてるみたいなんですよ。あそこに行くとみんなくっついちゃうとか、食われちゃうとか、身を焦がすとか・・・・」
「女の子の中だとみんなすごいこと言うんだね。そんな話に乗ってるなんて、会社では大人しいさとみさんとは思えないよ」
「大人しくしてるんです。それくらい分かりますよね」
「そう言われても・・・・・」
「まぁ、男の人はそれくらい鈍感なほうが良いけど。女性と同じ感度だったら疲れちゃって持たないから」
「それって、褒められてるわけじゃないよね。水野さんは斉藤さんと同じ年次ですか?」
「いいえ、入社は二つ下です。ただ、経歴が違うので年の差は二つじゃないですよ」
実は宏一はさとみが来ることに決まったとき、人事資料の抜粋を見せられているのでさとみの年を知っていた。さとみは実は友絵の年齢より4つ下で新卒ではなく途中入社なのだ。さとみは正直に答えているのが好感を持てた。
「そうか、それじゃ、社内では誰と一緒?」
「それは教えられません。年がバレちゃう」
「そんな、若いんだから年くらい教えてくれても」
「三谷さん、そう言うところが危ないとか何とか言われる原因なんですよ」
「ちょっと無防備だった?」
「無防備って言うよりは、危なさ満載です。言っておきますけど、私には興味持たないで下さいね。三谷さんには落とされないですから」
「彼がいるの?」
「それも含めて興味持たないで下さい」
「そうか、それじゃ今度社内で聞いてみるかな?」
「不可能です。誰も知らないですから」
「って言うことは、会社の外に居るんだね」
「どうとでも考えて貰って良いですよ。私は構わないですから」
「なんか、完璧にシャットアウトされてるみたいだなぁ」
「そのほうが良いですよ。私に興味持つとろくな事にならないですから」
「それは、この先に別れが待ってるって事?まぁ、世の中のカップルの9割は別れるんだからなぁ」
「そう、結婚するカップル以外は全部別れるんですからね。それに私はまだ結婚しませんから」
「確かに、まださとみさんの年で結婚する人は少ないよね」
「私の年、知ってるみたいな口ぶりですね」
「見た目でそれくらい分かるよ」
宏一は慌ててフォローしたが、さとみは来週、会社で宏一が自分の年を知っているのかどうか調べてみようと思った。それくらい、さとみのネットワークと実務能力があれば簡単なことだ。
「見た目で?どんなことが分かるんですか?」
「う〜ん、それじゃぁ、俺の考えを言うね」
「はい、どうぞ」
「さとみさんのガードが堅いのは、家族や彼氏と同居とかで、とにかく一緒に住む人が居るからだと思う。だから今日の接待に参加したのも、会社公式の接待なら一緒に住む人に堂々と言えるから。そして、こうやって二次会に来てくれたのも、俺に興味があったからでもなんでも無く、接待の後なら二次会に行っても不思議はないからだろう?」
「へー、当たってないけどすごいですね。ちょっと三谷さんの認識を改めなきゃ」
さとみは余り感情を出さずに抑揚のない声で言った。
「外れたか。まぁ、すごいって言われただけでも喜ぶべきだろうね」
「私達、こんな夜遅くにお互いの探り合いって言うのは、どうなんですかね。なんか寂しい感じ」
「最初だから仕方ないんじゃないの?だって、会社ではこんな事絶対話さない雰囲気だろう?飲み会だからだと思うな。こんな話、しない方が良かった?」
さとみは直ぐに同意しようかと思ったが、やられっぱなしでは癪なので少しだけ逆襲することにした。
「それじゃぁ、私のことばかりじゃなくて、三谷さんのことも話しましょうか。三谷さんは斉藤さん以外に彼女がいるんですよね?」
「斉藤さんは彼女じゃないよ。それは斉藤さんが一番よく知ってた。斉藤さんには別に居たからね。俺と知り合う前から」
「そうなんですか」
さとみは予想通りだと思ったが知らん顔をして相づちを打ってから言った。
「それで、三谷さんには彼女が居るんですか?」
「うん、正式って言う感じじゃないけど、好きな子が居るよ。向こうも好きで居てくれる子が」
「やっぱりそうなんだ。予想通り」
「え?どこまでが予想通り?」
「そんなこと言えませんよ。当然じゃないですか」
「おやおや」
「それで、どんな子なんですか?」
「それは言えないな」
「それじゃ、おあいこですね、私達」
「そうかもね。もう少しして、もっと親しくなったらお互いに自然に話すときが来るかも知れないけどね」
「そんな時なんて永遠に来ないですよ」
「そうかなぁ?そういうもの?」
「たぶん・・・・・ですけど・・・・・」
「それじゃ、そう言うときが来ることを祈って乾杯って事で」
宏一は断られるかと思ってドキドキしながらグラスを持ったが、さとみもグラスを持った。
「その来るかどうか分からないですけどね」
「乾杯」
2人はそのままグラスを飲み干した。
「それじゃ、時間も時間だし、話も纏まったことだし、帰りますか」
「時間も時間て、まだ9時過ぎだよ」
「最初の飲み会ならこれくらいが良いんですよ」
さとみはそう言うと席を立った。宏一は、『最初の』と言うことは次もあると言うことなのかと突っ込もうと思ったが、さとみはその隙を与えずに店を出て、宏一が出てきたところできちんと礼を言った。
「今日はごちそうさまでした」
「グラス一杯だけだけどね。どういたしまして」
「それじゃ、私はこっちなので」
宏一は途中まで一緒に帰ろうかと思ったが、最初なのでやめておいた。
翌日は土曜日で休みだったが、今日は洋恵と香奈が来るので早めに起きて待っていた。実は洋恵は午前中から来ることになっていたのだ。1時には香奈も来るが、洋恵は香奈が来るよりも前に来ると連絡が来ていた。その辺りは洋恵が一計を案じたという所だ。ただ、洋恵は宏一のところに来る正確な時間は分からないそうなので、宏一はじっと待っていなければならない。たぶん10時くらいだと予想していたが、それ以上細かくは分からなかった。きっと洋恵にも色々都合があるのだろう。
幸いにも洋恵は宏一が余り待つこと無く、10時よりもだいぶ前にやってきた。いつもの制服姿だ。
「やぁ、ごめんね。午前中から来て貰って」
「ううん、それはいいの」
洋恵は香奈が来ていないことを確認すると、安心したように部屋に入ってちゃぶ台の前に座った。もちろん、洋恵がちゃぶ台の前に座ったと言うことの意味することは一つしか無い。しかし宏一は、その洋恵の後ろから洋恵を抱きしめると小さな声で囁いた。
「洋恵ちゃん、今日はいつもとは違う特別な日にしようね」
そう言うと、宏一は洋恵の脇に手を入れて後ろに引っ張ってベッドの方に移動し、座ったままベッドに寄りかかった。そして洋恵を宏一が開いた足の間に入れ、真後ろから抱きしめた。
洋恵が軽く振り向こうとすると、宏一は洋恵の耳を軽く唇で挟んだ。
「あっ」
洋恵の身体がピクッと反応し、洋恵の中に甘く怠い感覚の波が走り抜けた。
「大丈夫。じっとしてて。優しくしてあげる」
「ああん、来たばっかりぃ、いきなりはダメぇ」
洋恵は甘えた声で言ったが、宏一が再び耳元で囁いて脇から手を入れ、洋恵の胸の膨らみをすっぽりと包んで撫で回し始めると、洋恵は安心して身体の力を抜いた。
「早く来てくれて嬉しいよ。香奈ちゃんが来るまでは二人きりだね」
「うん」
「香奈ちゃんは何時頃に来るの?」
「たぶん1時頃」
「それより早く来ることは無いの?」
「他の子の相談に乗ってから来るから、たぶん1時過ぎなの。それ以上はないよ」
「そうか、香奈ちゃんは忙しいんだね」
「うん」
洋恵は早くも乳房が焦れったくなってきたことに気が付いた。宏一も洋恵の乳房が硬く膨らんできたのが分かった。
「洋恵ちゃんのおっぱい、固くなってきたね」
「うん」
「わかるの?」
「うん・・・・なんとなく・・・・先生も分かるの?」
「うん、ほら、洋恵ちゃんのおっぱいがつきだしてきただろう?下を見てごらん?」
洋恵が下を見ると、確かに少しだけ胸が前に突き出してきた。ただ、それは本人や宏一だから分かる程度の違いだ。宏一は洋恵の乳房を撫でるのが大好きだ。特に下側のカーブをなぞるのが楽しい。一方洋恵も撫でられるのが好きだった。ただ、洋恵の場合はだんだん焦れったくなってきて我慢できなくなるが。




トップ アイコン
トップ


ウォーター