ウォーター

第四百八十六部

 
『本当に三谷さんは何もしなかったんだ』奈緒子は安心したが、同時に少し呆れた。そして、自分に女の魅力が無かったのかも知れない等と余計なことを考えた。確かにバージンの15才の女の子と比べれば肌の張りや新鮮さなどは比べものにならないだろう。横で大の字になって静かに寝息を立てている宏一を眺めながら、『それにしても・・・』とほんの少しだけ自尊心を傷つけられたような気がした。
しかし、それでも奈緒子は嬉しかった。そして『もう少しだけ三谷さんを貸してね』と心の中で結衣にお願いすると、再び静かに目を閉じた。心の中に、何か温かいものが満たされている感じが幸せだった。
心の中に余裕ができた奈緒子は、少しだけ冒険してみようと思った。正直に言えば、結衣のことがあろうとなかろうと宏一は魅力的な男性だと思ったし、そんな宏一に自分は魅力的な女性だと思って欲しかった。それは女としての本能とも言える。しかし、母親としての理性が強力に自分の意識を縛っていた。それは、宏一とは一時的な関係なのは明らかだが結衣とはずっと続く親子関係だからだ。だから今まで奈緒子は宏一を男として受け入れようと思わなかったが、結衣も宏一もぐっすりねている今なら少しだけ女に戻ってみても良いような気がした。
それに、結衣はあれだけ宏一に優しくして貰うように言っていたのだ。いいわけかも知れないが、少しでも宏一に優しくして貰った気になれば結衣の気持ちも受け入れられるような気がした。
そこで奈緒子は、結衣の方を向いたまま身体を少し宏一にくっつけてみた。そして、そっと頭を上げて外れていた宏一の左手を再び腕枕にした。これで寝る前と同じ体勢なのだが、今度は奈緒子の方からこの体勢に入った事が大きな違いだ。
腕枕にした宏一の肘から先の手をそっと引き寄せて抱きしめると、久しぶりに男に抱かれているという感覚が沸き上がってきた。ゴツゴツした手と背中で感じる宏一の身体はまさしく男だった。奈緒子はその感覚を五感を研ぎ澄ませて静かに楽しんだ。男の腕の中に居る実感など。本当に久しぶりだ。そして自分は今、女だと思った。このまま奈緒子は幸せな眠りに落ちていこうと思った。
すると突然、抱きしめた手が少し動いて浴衣の上から胸に触れた。
「ん???・・・・・・奈緒子さん????」
宏一の微かな声が頭の後ろで聞こえた。どうやら起こしてしまったらしい。奈緒子は一気に緊張して身体を固くした。『どこから目を覚ましていたんだろう????』奈緒子は自分からこの体勢に入ったことを知られてしまったのかを気にした。できれば寝た時と同じ体勢を続けていたのだと宏一に誤解して欲しかった。すると、宏一は軽く奈緒子の身体を抱きしめて更に引き寄せた。
「少し寒かったですか?そのままじっとしてて下さいね」
そう耳元で囁かれた。それを聞いて奈緒子は『最初から目を覚ましていたんだ』と気づいた。実際には宏一は奈緒子が腕枕をした時に目を覚ましたのだが、奈緒子が身体をすり寄せてきた様子からそう思っただけだった。
宏一が感じる今度の奈緒子の身体は寝る前の固く緊張に満ちた身体ではなく、明らかに女性のしなやかな身体だった。宏一は奈緒子が嫌がっていないと確信すると、口元を奈緒子の耳の後ろに近づけた。
「結衣ちゃんは寝てますか?」
奈緒子は宏一の位置からは自分が邪魔になって結衣がよく見えないことに気が付くとはっきりと大きく頷いた。すると、宏一は布団をかけ直して奈緒子の首だけが布団から出るようにした。奈緒子は自分の身体がほとんど隠れたことで安心したが、同時に宏一を男として強烈に意識し始めた。
奈緒子は自分から入った姿勢だとは言え、宏一に抱かれているのを拒むことはできた。はっきりと身体を動かしていやがれば宏一はそれ以上何もしないのは分かっていた。それに、そのままベッドから降りて洗面所や風呂に行く事だってできた。しかし、奈緒子ははっきりと嫌がらなかった。それどころか、宏一に後ろから抱きしめられて布団の中に居るのを受け入れた。どうしてなのかは自分でもよく分からなかったが、いつでも嫌がれば逃げ出せると思ったからかも知れないし、それ以上宏一が何もしないと分かっていたからかも知れない。とにかく奈緒子はじっとしていた。
「良かった。結衣ちゃんはきっと疲れてるから熟睡ですね」
奈緒子は『誰のせいで?』と思ったが、何も言わなかった。さすがに耳の後ろで囁く宏一に比べれば話しづらいのは仕方が無い。それに、今回の宏一は容赦無く息と声を耳に掛けてくるのでくすぐったくて仕方ない。
「もし、こうしてるのが嫌だったらはっきり嫌がって下さいね」
宏一はわざと熱い息を奈緒子の耳に掛けた。奈緒子はゾクッとするのを感じたが、何も言わずに小さく頷くと、そのままじっとしていた。そして、頷いたと言うことは自分がはっきりとこうしていることを認めたのだと気が付いた。
「でも、こんな事してるのも偶然みたいなものだから、きっと奈緒子さんだって驚いてるでしょうね」
奈緒子は素直に頷いた。
「それでも良いんです。こんな素敵な人をこうやって腕の中に入れてるんですから」
奈緒子は結衣よりも背が低いので、宏一と並んで寝ているとすっぽり宏一に覆われているような感じになる。『その『素敵』って、外見の事?それとも結衣の母親として?』と思った。
「少しの間だけ、こうやっていましょう。結衣ちゃんには秘密の時間ですね」
何度も息を掛けられて奈緒子の耳と項はかなり敏感になってきた。思わず首をすくめたくなる。それに、耳と項もそうだが、奈緒子が抱きしめてしまった宏一の手の指先が浴衣の上から胸に微妙に触れているのが気になる。もちろん指を動かして触っているのではないが、位置が乳首に近いので布地の上から触れているだけでも気になるのだ。
奈緒子から話しかけることができれば、きっと会話を楽しむことで自然に身体の触れ合いは気にならなくなっただろうし、自然に離れていったことだろう。しかし、なまじ奈緒子からの意思表示が制限されているだけに、身体の感覚が気になってしまう。
奈緒子は宏一の腕を引き離そうかと思った。しかし、それでは自分が感じ始めているのを白状するみたいで、宏一に何か言われてしまいそうだ。奈緒子がどうするべきか悩んでいる間に、宏一の息は更に熱くなり、ほとんど宏一の口元が奈緒子の項に触れそうになってきた。奈緒子は、このままでは感じてしまうと思って宏一の息から少しでも距離を取ろうと首を動かした。すると、髪が触れたのか快感が走り抜けた。
「あ・・・・・・」
奈緒子の口から微かな声が漏れ、慌てて奈緒子が手を口に当てて口を閉じると同時に首を左右に振って嫌がったつもりだったが、その動きで宏一の口が奈緒子の項に触れ、奈緒子は更に首を捻りながら必死に声を堪えた。こんなにも感じるとは奈緒子自身も驚いた。奈緒子は身体を固くしてじっと耐えた。
宏一は奈緒子の身体がピクッと震えて微かに声が出て奈緒子がじっとしているので、奈緒子が感じたのが分かった。だからそのままそっと項を唇で可愛がってみた。奈緒子の小柄な身体が微かに震えている。
「少しだけ、このまま、良いですよね?」
宏一は耳元で囁くと、優しくねっとりと項に舌を這わせ始めた。奈緒子は声を出すと変な声になりそうで声を出せなかった。じっと耐える。気持ち良かった。力強くたくましい宏一の手とは対照的に、愛撫はとても繊細だ。
『このままじゃ身体が溶ける・・・・・』奈緒子はじっと愛撫を受け入れながら夢中になりたがっている身体の感覚に戸惑っていた。そっと目を開けてみても結衣は完全に爆睡状態だ。
宏一は奈緒子の反応が可愛らしいと思った。必死に感じるのに耐えているのがよく分かる。何より奈緒子が愛撫を嫌がっていないのが嬉しかった。宏一は更にねっとりと項から肩の方へと愛撫を少しずつ広げていく。
奈緒子はこのまま続けると引き返せなくなると思った。しかし、優しく安心感のある愛撫を強制的に打ち切ればそこで終わりになってしまう。奈緒子は引き返せなくなるかも知れないと思いながらも、『きっといつでも引き返せる。だからもう少しだけ』と宏一の愛撫を受け入れていった。
すると、腕枕にしている宏一の左手が少し動いた。肘から先を抱きしめた格好になっているのだが、その手の指が動いて浴衣の上から胸を愛撫しようとしたのだ。もちろん寝る格好なので浴衣の下にブラジャーなど付けていない。だから、浴衣の上からほんの少しだけ触られただけで身体に鈍い快感が走り抜けた。
奈緒子は胸への愛撫は身体が暴走すると思って首を何度か振った。首を振るだけでも気持ち良い。すると宏一に意思は伝わったようだ。
「こっちはダメ?」
耳元で甘い声がした。奈緒子はコクコクと頷いて胸の前で交差させている手で襟口をぎゅっと押さえた。そして、こんな愛撫を受けて、それを断るなどどれだけぶりなのだろうとふと思った。
しかし、項を舐められながら息を感じているだけでも気持ち良い。奈緒子は結衣のことがなければ確実に身体が溶けていく喜びに埋もれていくだろうと思った。
すると、胸に触れている宏一の指先がほんの少しだけ動き始めた。『あっ』と思ったが、布地の上からほんの少し指先が動いているのを感じるだけでも気持ち良い。
『だめ』と首を小さく左右に振って宏一の手を上から抑えたが、抑えきれなかった指はまだ動いている。本来なら手をつねるなり引き離すなりするべきなのだろうが、奈緒子はそれ以上しなかった。
『気持ち良い・・・・』と思った。これほど限定された愛撫でも、優しさに溢れた愛撫なので心まで気持ち良い。奈緒子はうっとりと愛撫を受け止めながら『結衣が夢中になるはずよね、こんなに安心できて気持ち良いんだもの』と思った。
しかし、身体はゆっくりだがどんどん快感を膨らませていく。最初はくすぐったいくらいだったのに、今はもうじっといているのが辛いほど気持ち良い。特に項をねっとりと愛撫された快感が胸の僅かな愛撫で快感を増幅させる。奈緒子は自然にゆっくり仰け反って喜びを表した。
宏一は奈緒子が仰け反って喜びを最大限に受け止める体勢に入ったことを知り、更に愛撫のレベルを上げた。耳元から項までたっぷりと舐めあげ、指先で胸を可愛がる。すると、奈緒子が大きく仰け反ったために浴衣の襟元が指先に触れた。宏一はそのまま指を浴衣の下に滑り込ませる。そして、奈緒子の乳房へと指が伸びていった。
『ああっ、だめっ』奈緒子は思わず宏一の指を抑えようとしたが、宏一の手は浴衣の中に入ってしまったので上手く抑えられない。更に項を徹底的に愛撫されたことで更に快感のレベルが上がってきた。そして、あの感覚が沸き上がってくる。『あっ、このままじゃいっちゃうっ』奈緒子は慌てて宏一の腕の中から逃げ出すようなそぶりを見せた。しかし、浴衣の中に入った手はそのまま滑り込むようにして乳首へと伸びていく。『触られたらいっちゃうっ』と直感した。しかし、奈緒子は宏一の手を抑えることも逃げ出すこともしなかった。そして、宏一の指先が奈緒子の乳首に触れた途端、あのプロセスが始まった。
宏一の指先がクリクリと乳首を可愛がると、奈緒子は身体を硬直させてあの瞬間を待った。そして、すぅーっと身体を持ち上げられるようにして最後の瞬間が来た。
「っ・・・・・・・・・」
奈緒子は歯を食いしばって一言も発しなかった。そして身体を固くしたまま絶頂を迎えた。宏一の指先が更に伸びて奈緒子の乳房全体を優しく揉み解す。奈緒子の身体は硬直したまま、更に高みに持ち上げられた。
「・・・・っっ・・・・・・はぁぁっ・・・・・はあぁぁ・・・・・」
息を弾ませることさえ我慢したが、壮絶な絶頂だった。気持ち良いなどと言う言葉では表せないくらい深く、大きな絶頂だった。奈緒子はしばらくそのまま、じっとしていた。宏一の右手は奈緒子の髪を優しく撫でてくれる。それだけでため息が出るほど気持ち良かった。奈緒子は終わったあともしっかりとケアしてくれる宏一の愛撫に、完全に身体を許していた。少しの間だったが、幸せな時間だった。
すると、軽く髪を撫でていただけの宏一の右手がスッと動いて下半身へと伸びていった。『それだけはだめっ』と思った奈緒子は、慌てて布団を撥ね除けると起き上がった。
「お風呂へ・・・・・・・」
それだけ小さな声で言うと、少しフラつく足で洗面所へと向かった。
宏一は『これで結衣ちゃんの希望も叶えたし、奈緒子さんも恥ずかしがったけど喜んでくれたから、役目は終わりだな。寝るか・・・・』と思ったが、まだ手の中に最後に包み込んだ奈緒子の乳房の感覚が残っている。それに奈緒子は最後に『お風呂へ・・・・』と言ったが、あれは誘っているのかも知れない。それなら男として奈緒子の誘いに乗るべきではないのか?宏一は隣のベッドで爆睡している結衣を見ながらそう思った。
一方、奈緒子は、洗面所の奥の小さな方の露天風呂に入ると、まだ興奮が収まらない自分の身体をゆっくりと湯に浸けた。正直に言えば、ああなってしまう前に拒む機会はいくらでもあった。しかし、自分は拒もうとしなかったし、そのまま簡単な愛撫だけで宏一の腕の中で感じてしまい、そのままいってしまった。恥ずかしかったのもそうだが、それよりも自分の中で優しくして貰いたいという欲望がどれだけ強かったのか、はっきりと思い知った。そして、結衣は自分が拒まないと思ったからこそ、宏一と一緒に寝ることを望んだのだろうと思った。そして、あのままもし、自分がベッドから出なかったらどうなっていただろうと思った。その答は考えるまでもない。それに、今の自分に後悔の気持ちがぜんぜん無いことが不思議だった。後悔するどころか、今はすっきりと解放された気分なのだ。
奈緒子は結衣が自分の中の隠された気持ちまで気づいていたのだろうかと思った。
すると、洗面所に人影が現れたのが波ガラス越しに見えた。奈緒子はドキッとした。そして、ベッドを離れる時に口にした言葉を思い出し、宏一を誘ったように聞こえたかも知れないと気が付いた。
すると、ガラス戸が開いて案の定宏一が入ってきた。浴槽に入っていた奈緒子は慌てて胸を隠して宏一に背を向け外を向いたが、脳裏にはしっかりと宏一の身体が焼き付いていた。たくましく引き締まった男の身体だった。そして、タオルで隠してはいたものの、はっきりとそそり立った肉棒が少し顔を出していた。
「一緒に入っても良いですか?」
「いや、あの・・・」
奈緒子が浴槽の外に出るには、宏一の横を通り抜けていかなくてはいけない。それは宏一に身体を晒すことだった。そして『またはっきり断らなかった・・・・』と思った。
奈緒子がはっきりと断らなかったことで、宏一は奈緒子に引き寄せられていった。静かに浴槽に入ると、背中を見せている奈緒子の後ろからそっと寄り添う。そして奈緒子の小さな肩に両手を当てると、そっと引き寄せて耳元で囁いた。
「さっきは嬉しかった・・・・。とっても綺麗でしたよ」
「・・・・・そんな・・・・・・」
奈緒子はなんと言って良いのか分からなかった。肩を掴まれているだけなのに身体がどんどん熱くなってくる。そして再び宏一の口元が耳の後ろに来るのを感じた。
「感じてくれて、嬉しかった・・・・」
「あれは・・・・・そう言うことじゃ・・・・」
「違うんですか?感じてくれましたよね」
宏一の息が項にズーンと響いた。そして、宏一の唇が項から肩へと優しく刺激し始めた。奈緒子は『危ないっ』と思った。このままではまた流されてしまう。
「だからあれは・・・・違うんです・・・・」
奈緒子はそう言ったが、その言葉に説得力が無いのは自分でも分かった。
「何が違うんですか?」
「んんんっ、そんなことをして欲しいわけじゃなくて・・・・・」
「それなら、何をして欲しいんですか?」
「だから・・・・ああっ、そんなにしたら」
「どうなりますか?止めたほうが良いですか?」




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