ウォーター

第五十三部

 

「有紀さん、後ろを向いて、レターデスクに手をついてくれない?

このまま後ろからしたいんだ」

有紀が口を離し、言われたとおりに机に手をついて、宏一にプル

ンとした尻を突き出す。

「来て」

少し足を開いて有紀は誘った。胸の膨らみは少し下を向いて宏一

の手を待ちわびている。宏一はゆっくり入ると、そのまま奥まで

進み、手を前に回してゆっくりと乳房を可愛がり始めた。有紀の

締まった腰が左右に動いてきゅっきゅっと内部の動きで肉棒を締

め上げる。

「はぁッ、はぁッ、はぁッ、はぁッ、アアッ、んんんっ、はあッ、

はああっ、ダメ、我慢できなくなる、三谷さん、ふ・・・深くて、

はあっ、堅くて、お・・・お願い・・・動いて」

「有紀さんを感じていたいんだ。もう少しだけ・・・いいだろ」

宏一は、ゆっくりと腰を廻しながら有紀の中で肉壁が締め付ける

感触を味わっていた。

「はあッ、はあッ、ああ、あん、気持ちいい、ああ、こんなに、

このままずっといたい、アアッ、そこ、くうん、いや、もっと奥

まで、そうッ、イイッ」

有紀は細い腰に似合わないプルンと丸い尻をクイッと突き上げて

宏一の肉棒を奥へ奥へと飲み込んでいく。

宏一が指で乳首を可愛がるとキュッと入り口が締まる。次第に有

紀の身体は宏一を求めて燃え上がり、我慢できなくなった腰は何

とか刺激をえようとくねくねと悶え始めた。

「お願い、もう、いっぱいして、アアン、早くぅ」

有紀は宏一に何度もおねだりを繰り返し、出没を促した。宏一は

もう少し有紀の腰がうごめくのを見ていたかったが、有紀が何度

もねだるので腰を前後に動かし始める。

「アアッ、イイッ、こんなに、アーッ、すぐに、いっちゃう」

我慢を続けていた有紀は待ちに待った感覚が来たので一気に登り

つめていく。宏一が動き始めてから有紀がいくまではいくらも時

間がかからなかった。有紀の身体が一瞬硬直すると、机の上にグッ

タリと身体が崩れ、肉壁の締め付けが断続的なものになる。宏一

はこのまま更に動けば放出も可能だと思ったが、有紀の身体から

力が抜けたのでゆっくりと引き抜く。ベッドの上と違い、この体

勢はいってしまった女性を愛し続けるには不自由だ。

 宏一が身支度を整え終わる頃、有紀はやっと体を起こし、宏一

に最後のキスをした。

「私の方が夢中になっちゃった。ごめんなさい。最後まで持たな

くて。でも、ありがとう」

宏一はキスを返しながら有紀の身体を軽く抱き、別れの言葉を口

にする。

「元気でね」

「三谷さん、宏一さん、ありがとう」

宏一は有紀の部屋を出るとゆっくりと歩き出した。途中ロビーを

抜けるとき、誰かが宏一を見たような気がしてチラッと見ると、

薄暗いロビーのソファから一人の男性がじっと見ている。有紀の

グループの一人だ。宏一が通り過ぎると部屋の方に向かって歩き

出す。宏一はどうなるにせよ、有紀が望むような幸せを掴んで欲

しいと願った。

 宿に帰ると勝手口に回る。言われたとおりに鍵は開いていた。

部屋には既に布団が敷いてあった。風呂は開いていたので軽く汗

を流してから不思議な出会いを思い返しながら宏一は自分の身体

に休息を与えた。

 

 翌日は、宿を出るとそのまま別府に向かった。史恵のいない一

人旅になってしまったが、今更後悔しても仕方がない。気を取り

直してハンドルを握っていた。このまま史恵の車を運転していれ

ば史恵がまた現れるような気がしていたし、そうでなくても史恵

の置いていった車を大切に乗っていたかった。しかし、あれ以上

高千穂にいると、有紀のことをまた考えそうな気がしたので、新

しい土地を目指して早めに出ることにしたのだ。

 今日の目的地の別府は、最短距離で行けば4時間程度で行ける

距離だが、昼過ぎに着いても仕方ないので、阿蘇に寄ってから行

くことにした。

 ほんの2時間も走ると雄大な景色の中に宏一はいた。さすがに

世界最大のカルデラである。雄大としか言いようがない。

巨大な河口の中に町があり、鉄道が走り、縦横に道路が走ってい

る様は、何か不思議な別世界を見ているようだ。晴天で、ちょう

ど午前中だったので、南東に向かって走る宏一はカルデラの絶壁

をはっきりと見ることができた。ついでに火口も見ようとしたが、

さすがに夏休みだけあって火口に行くロープウェーには長い列が

できており、とても簡単に上れそうもない。残念だったが駐車場

のレストランで昼食を済ませると、お土産をいくつか買って、そ

のまま別府に行くことにした。

 別府までは大分を通るルートと、以前はやまなみハイウェイと

呼ばれていた新しい高速道路を通るルートがあるが、新しもの好

きの宏一は新しいルートを通った。だから、別府に着いたのは4

時前であった。1時過ぎに出たので3時間はかかっていない。高

速道路ができてだいぶ時間が短縮されたようだ。

別府温泉は古い温泉だが、特に戦後、修学旅行などの団体客

相手の商売が始まってから急速に拡大した温泉で、大規模な宿が

多い。宏一が取った宿はその中では中位のホテルで、料理を重視

しているのが気に入って特別料理とともに予約してあった。場所

は鉄輪温泉の近くで、思ったより簡単に見つかった。ホテルを探

しがてら見物でもするかと思っていた宏一は、先に宿が見つかっ

たので、とりあえずチェックインだけする事にした。

 宏一は、もしかしたら史恵と逢えるかも知れないと思って少し

期待して宿に入ったが、史恵は来ておらず、がっかりして荷物を

置いた。まだ4時である。このまま風呂に入ってごろりとするの

もいいが、どうもゆっくりとすると気分がめいりそうなので、地

獄巡りでもすることにして車を出した。

 しかし、宿で付近の詳細な地図をもらってこなかったので、い

ざ車で出ると方向が分からない。『近くのはずなのだが』と、宿

の駐車場を出たところでちょうど歩いてくる制服を着た高校生

の女の子に道を尋ねてみた。

「すみません、山地獄ってこの辺りだと思うんですけど、どう行

けばいいんでしょうか?」

高校生は一瞬驚いたようだったが、

「山地獄?」

と考え込んでいる。とても有名な場所なので地元の人が知らない

はずはないから、不審に思われたのかと宏一が心配していると、

「あの、観光にいらした方ですか?」

と、聞き返してきた。

「ええ、今、そこの宿に着いたばかりで、時間があるからどこか

に出かけようと思って・・・」

「それなら、案内しますよ。あの、乗ってもいいですか?」

「え?あの、もちろんいいけど・・?」

宏一が不思議に思いながらも助手席のロックを外すと制服の女の

子が乗り込んできた。

「ありがとう。わざわざ案内してもらって」

「いいえ、こちらこそ。あ、この先を右です」

「この近くの方ですか?」

「はい、そうです」

「あ、初めまして、三谷宏一と言います」

「あ、平野めぐみです。めぐみって呼んで下さい」

「えーと、めぐみさん、急に乗ってきたから驚いたよ。ええと、

このまま真っ直ぐ?」

「次の信号を右です。案内しますから、そのあとで一カ所連れて

いって欲しいところがあるんです。お願いできますか?」

「もちろん、いいけど、道は教えてくれる?」

「はい、道は知ってます。ほら、あそこに看板が出てます」

「何だ、ほんとに近くだったね。アッという間だ」

宏一が車を止めるとめぐみはさっさと降りて先に歩いていく。

「ここは別府の地獄の中でも一番規模が大きくて、温泉の湧き出

す量も多いんですよ」

めぐみは自慢げに話しながら宏一を案内していく。

 とても親切に案内してくれるめぐみに宏一は少し不安を抱いた。

『見知らぬ人の車に自分から乗り込んでくるのはどういうつもり

だろうか?あとで暴力団でも出てこなければいいが。携帯でどこ

かに電話するようなら、さっさと放り出して逃げ出した方がいい

かもしれない。でも、そんな風にも見えないが・・』そんなこと

を考えていると、

「あの、面白くありませんか?何ならこのまま帰ってもいいけど。

私じゃ気に障りますか?」

とめぐみが心配そうに聞いてきた。こうして立っていると身長は

165センチくらいで、スラッとした感じの少しセミロングの可

愛いと言うよりは美人系の高校生だ。キュッと尖った顎が大きい

目を引き立てている。

「そんなこと無いよ。どうしてこんなきれいな人が案内してくれ

るのかなって不思議だったものだから。ごめんなさい。先に行き

ましょう」

「それなら気にしなくていいですよ。三谷さんが安全な人なのは

分かってるから安心したんです」

と不思議なことを言う。

「俺が安全?どうして?」

「そうか、そうですよね。じゃ、まだ内緒にしておこうっと」

めぐみはニッコリ笑うと隣接する海地獄の方に案内した。

 見物が終わって車に乗っても、宏一はめぐみの言う意味が分か

らなかった。別府には初めて来たのだし、知り合いなどもいない

し、宏一のことを知っている人などいるはずはないのだ。それに

偶然めぐみが通りかかったから声をかけただけで、それはめぐみ

にしても同じはずだ。この車だって借り物だ。いくら考えてもめ

ぐみが安心する材料などあるはずはなかった。

 それでも、いろいろ話しているうちに雰囲気は和やかになり、

宏一は、『どうやら安心しても良さそうだ』と、何となく思い始

めていた。

そのまま二人はかまど地獄、鬼山地獄、白池地獄と見て回り、宏

一が、

「もういいよ、ありがとう。めぐみさんの行きたいところに行こ

う」

と言ったので、九州横断道路に出た。

「でも、三谷さん、間欠泉て見たくありません?」

「見たいけど、まずはめぐみさんの方が先、あとで時間があれば

寄ればいいよ。家まで送っていくのに時間はかからないの?」

「ええ、帰りはさっき乗せてもらったところで降ろして貰えれば

いいです。行きたいところはすぐですから。もうすぐ自衛隊が右

に見えますから、その先の信号を右に曲がって下さい」

とめぐみは気軽に答えた。

 大きな道を逸れてしばらく山道を走ってからめぐみの案内で着

いたところは、展望台にでも出来そうな見晴らしの良いところだっ

た。別府温泉が眼下に広がり、海まで一望の下だ。

「あー、久しぶり。やっぱりここは良いわぁ」

と、めぐみは楽しそうだ。

「前はよく父に連れてきてもらったんです」

「へえ、良いお父さんだね」

「でも、最近は仕事が忙しくて全然来てなかったんです」

「そうか、お父さんは何をしていらっしゃるの?」

と何気なく聞くと、

「家はホテルをやってるんです」

と答えた。さすが別府だと思いながら、

「それじゃ、おっきなホテルの跡取り娘か何かなの?」

と宏一が少しおどけて聞くと、

「跡は姉が継ぐから私は良いんです。でも、うちくらいの大きさ

だと生き残れるかどうか」

と高校生にしてはシビアなことを言う。

「そうか、生き残るのって大変なんだね」

と宏一が何とか話を合わせると、

「ここでは規模が勝負ですから。少なくとも千人くらい入るよう

なところでないとダメだって言われてますよ」

「その『言われてる』って言うのはどこでの話?」

「学校です」

とめぐみは平気で答えた。

「学校?学校でそんなこと教えるの?」

「三谷さん、ここは別府ですよ。観光は最大の産業なんです。ク

ラスメートにだって大きなホテルをやってる家の子だっています

し、ほとんどの人はこれくらいのことはいつも話しますよ」

と言われてしまった。



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