ウォーター

第六十八部

 

「ああ、ああん、あああぁ、ああうぅ、ああん」

敏感になっている史恵は、それだけで激しく感じていた。肉壁の

締め付けは少し弱くなっていたが、入り口はまだ何度も軽くきゅ

っと締まっている。宏一は史恵が愛しく、その想いを伝えるため

に再び腰をバウンドさせ始めた。

「ああっ、まだするの?アアンッ、凄すぎるわ、ああぁっ、あ

あっ、ああーっ」

史恵は何度も、死んじゃう、と言いながら必死に宏一にしがみつ

いていた。宏一は最後までいこうと思って腰を動かしていたが、

史恵が何度も、

「許して、お願い、死んじゃう」

と言うので、史恵が更に2回いってから史恵を解放した。

宏一の上を降りた史恵は、しばらくぐったりとして激しく息をし

ていた。そして、史恵が息を整えて、再び宏一の腕の中に入って

くるまではしばらく時間がかかった。

「宏一さん、もう、許さないわよ」

優しく宏一の胸に抱かれて髪を撫でられながら史恵は言った。

「私にあんな事させるなんて」

「あんなことって?」

宏一はとぼけた。

「もう、誰にもあんな格好、見せたこと無いのに。上でしたこと

だってないんだから」

「そうなの?」

「宏一さんに見られるなんて・・・もう・・・」

「もう・・・何?」

「うそ、許してあ・げ・る。最高よ」

史恵はそう言うと、宏一の胸に顔を擦り付けた。

「私の身体をあそこまで自由にしたのは宏一さんだけ」

「嬉しいよ」

「私も」

「史恵ちゃんのあの姿、最高だった・・」

「もう言わないで・・・。少し寝てもいい?」

「いいよ。目覚ましをかけておくから」

「ずっと抱いててね」

「うん、離さないよ」

「目を覚ましたら、もう一回だけして、・・・最後は上になって

ね」

「うん」

「あんまり・・・凄くしないで、・・・優しくして」

「そうするよ。運転もあるしね」

宏一がしばらく髪を撫でていると、史恵の小さな寝息が聞こえて

きた。史恵は身体の芯まで疲れ切っていた。『途中で何回か休憩

しないとだめだな』と思いながら夢の中に入っていった。

宏一は手を伸ばして時計を見る。3時を回っていた。4時半に目

覚ましをかけて、宏一も目をつぶった。しばらくそうしていると

、宏一自身、かなり疲れていることに気が付いた。どうやら自分

でも疲れるくらいに激しく史恵を愛していたらしい。そのまま深

い眠りの底に引き込まれていくまでにさほど時間はかからなかっ

た。

途中で何か音がしたような気がした。しかし、宏一は目を覚まさ

なかった。もうろうとした意識の中で、史恵を抱いていることだ

けを確認し、再び目をつぶってしまった。そして更に時間が流れ

たような気がした。

「宏一さん、起きて」

史恵の声がして目を開けると、目の前に史恵の顔があった。

「5時過ぎよ。大丈夫?」

「もうそんな時間?」

「目覚ましの音は聞いたけど、そのまま寝ちゃった」

「俺も気が付かなかったよ。何か音がしたみたいだけど。いつも

はちゃんと目を覚ますのに」

二人はゆっくりとキスをしながら何度か上下を入れ替える。

「すぐに出る?」

「史恵ちゃんは?」

「宏一さんが決めて」

「約束は守るよ」

「いいの?」

「いや?」

「まさか」

「じゃ、しよう」

「お願いがあるの」

「いいよ」

「良く宏一さんを見ておきたいの」

「うん」

史恵はゆっくりと起きあがると、部屋の明かりを付けて宏一にキ

スをしながらゆっくりと全身を舐めるように愛撫しながら足下ま

で下がっていった。

「背中も」

宏一が俯せになると、再びゆっくりと指でなぞり、キスをしなが

ら頭から足まで丁寧に愛撫していく。

「ありがとう」

宏一がその声を聞いて仰向けになると、ゆっくりと再びキスをし

てきた。ねっとりと長いキスが終わると、宏一は史恵の手を肉棒

に導く。史恵は半分くらいの中途半端な肉棒を丁寧に指で愛して

くれた。眠りから覚めた肉棒は、たちまち最大硬度に膨れ上がる。

「お口もして欲しい?」

「うん」

宏一が答えると、史恵は丁寧に全体を舐め上げ、含み、指でも愛

してくれた。それは心のこもった温かい愛撫だった。やがてそれ

が終わると、

「今度は宏一さんがして」

と言って史恵が横になった。宏一が起きあがり、史恵の全身をゆっ

くりと愛撫していく。首筋から肩を愛し、乳房の周りを丁寧に指

でなぞり始めると、

「宏一さん、焦らさないで、ね、お願い。感じ過ぎちゃうから」

と史恵が言った。最後は静かに愛して欲しかった。

「分かったよ。そっとするからね」

宏一はそう言うと、ゆっくりと乳房を揉み上げながら乳首を口で

転がす。

「は、はぅ、はっ、ああ、あん」

史恵は夢中にならないように必死にブレーキをかけていた。まだ

身体にだるさが残っている。あまり疲れると、本当に運転に自信

が持てなかった。明日は仕事で車を使うので、途中の駅に車を置

いて列車で帰るわけにもいかないのだ。しかし宏一の愛撫は感じ

てしまう。これ以上されたら声を上げて夢中になる、と言うぎり

ぎりのところで宏一は更に下に移っていった。

腹からへそに移った時、史恵はくすぐったくて声を上げた。脇腹

は身体をくねらせてしまった。宏一は的確に史恵の感じるポイン

トを突いてくる。下腹からいよいよ茂みに移った時、史恵は覚悟

して足を開いた。

しかし宏一はそれをすりすり舌だけで通り過ぎ、足の方に移って

いった。足の指を一本ずつ丁寧に舐め上げられた時、史恵は声を

上げて悶えた。とても気持ち良い場所だと初めて教えられた。

それから俯せにされ、丁寧に指と舌で愛された。膝の裏はかなり

感じた。尻の上は史恵がとても感じる場所だったので枕に顔を押

しつけながら腰を振って喘いだ。背中と脇腹の後ろをツーッと指

や舌が走り抜けた時、史恵はとうとう喜びの声を上げてしまった。

そして首筋を愛されながら、

「こっちを向いて、最後は丁寧にするから」

と言われた時、史恵は喜びと小さな絶望を感じながら上を向いて

足を開いた。宏一は大きく史恵の足を開くと、一つずつのパーツ

を丁寧に舐めていった。それは決して乱暴ではなく、心のこもっ

た愛撫だったが、史恵は何度も声を上げて身体を仰け反らせて喜

んでしまった。

腰が何度も突き上げられたが、もはや史恵にそれを止めることは

できなかった。最後に宏一は、開ききった史恵の秘唇全体に顔を

埋めてたっぷりと味わった。史恵は堪らずに宏一の顔をぐいぐい

押しつけながら乳房を揉まれて喜んだ。

「入ってきて」

宏一が顔を上げると、史恵は両手で宏一の首に手を回し、大きく

足を開いて迎え入れた。宏一が入ってくると、

「ああんっ、奥まで入れて」

と深い結合を望んだ。宏一はすぐに動かなかった。ねっとりとし

た肉壁が宏一の肉棒を軽く撫で上げている。それは弱いもので、

本当にじっとしていないと分からないくらいのものだったが、史

恵には十分快感を与えていた。それでも史恵はじっとしていた。

「あ、あ、あ、あん、宏一さん、気持ちいい」

「好きだよ」

「私も、大好き」

それ以上の言葉は必要なかった。史恵はむさぼる性ではなく、満

たす性に満足していた。こんなに優しいセックスは初めてだった

。心の奥まで満たされるような満足感が二人を包んでいた。やが

て史恵の身体が宏一を求め始めた。

「動いて」

宏一がゆっくりと腰を使い始める。

「ああっ、やっぱりこれ、いいっ、お、奥まで入れて」

「こうかな?」

宏一がぐっと腰を史恵の中に差し込む。

「ああーっ、突き抜けちゃうっ」

史恵は持ち上げた両足の裏を宏一の腰に押しつけ、一番深く結合

できる姿勢で宏一を受け入れた。最高だった。全てが最高だった。

何も気にすることなく宏一と愛し合えた。それが一番嬉しかった。

宏一は次第に腰を大胆に動かしながら、感じて声を上げる史恵を

心から愛しいと思った。本当に史恵の全てを受け入れて支えたい

と思った。

濃い血が何度も腰を動かすたびに、史恵は腰を突き上げて、より

深く迎え入れた。宏一の出没は激しすぎなかったが、史恵を確実

に頂上に誘う。史恵は目をつぶって宏一にしたから抱きつきなが

ら、その時が来るのを信じて待ち続けた。二人の激しい息だけが

部屋に響き渡る。やがて史恵に最後の時が来た。思ったよりも小

さな頂上だったが、二人にはそれで十分だった。

「ああーっ、いっちゃう、宏一さん、いっちゃうわ」

「いいよ。このままいってごらん」

「ああんっ、これが宏一さんっ」

史恵はクッと顔を仰け反らせると、一瞬硬直し、そしてベッドに

沈み込んだ。宏一自身は最後までいくつもりはなかった。それで

は史恵に負担が大きすぎるし、時間も迫っている。史恵の息が収

まるまで、何度も何度も史恵にキスをしていた。

やがて二人は起きあがると服装を整えた。部屋を出る時、史恵は

宏一の手をスカートの中に導いた。ストッキングははいていなかっ

たので、スムースにパンツの中に入り込み、茂みの中の秘芯に指

が届く。

「濡れてるでしょ。このまま鹿児島まで帰るの。そうしたいの」

そう言って史恵は最後の深いキスをした。やがて二人は車に乗り、

史恵の運転で日向に向かった。既に時刻は6時近かったが、日向

まではあっと言う間だ。15分もかからずに日向港に着いた。既

にフェリーターミナルは多くの客でごった返している。ターミナ

ルの前に車を止めるのかと思ったが、史恵はその前を通りすぎて

、端の方まで行って空いているところに車を止めた。

「宏一さん、元気でね」

運転している間、ずっと考えていた言葉で宏一を送る。

「史恵ちゃん、次は史恵ちゃんが東京に遊びに来る番だよ。それ

まで元気でね」

史恵は敢えて何も言わず、笑顔で宏一に答えた。軽い一瞬だけの

キスをする。そして宏一はドアを開けると荷物を持ってターミナ

ルの方に歩き始めた。史恵はそれを見ながらずっと小さく手を振っ

ていた。

ターミナルに着いた宏一は、早々に乗船券の手続きをする。思っ

たより混んでいなかったので、すぐに乗船券を手に入れることが

できた。まだ洋恵も来ていないようなのでしばらく土産物屋を回

りながら時間をつぶすことにする。

さすがに旅慣れた宏一でも九州の土産物には珍しいものもの多く、

誰に何を買っていこうかなどと考えながら見ていると簡単に時間

が過ぎてしまう。だから、いくつか買い物をして乗船口に戻って

きた時には、見慣れた小柄な少女がうつむいて立っているのを見

つけることができた。

「あ、洋恵ちゃん、久しぶりだね。楽しんだ?」

宏一が声をかけても、

「はい、楽しかったです」

と言う洋恵の表情は全然楽しそうではない。近くに立っている親

戚のおじさんは、

「ああ、先生、お久しぶりでごあんど。洋恵ちゃんをよろしゅう

に。家の方には電話ばしとくけん。それじゃ、洋恵ちゃん、お父

さんによろしく。おいは電車の時間ばあるけん」

と言って何度も宏一に挨拶すると早々に帰っていった。

「洋恵ちゃん、どうしたの?面白くなかったの?退屈した?」

宏一が聞いても洋恵はあまり口を利こうとはしなかった。やがて

乗船時間になり、二人がボーディングブリッジを渡り始めると、

「先生、私たちの切符は2等にできるの?」

と洋恵が聞いてきた。

「え?2等が良いの?もう、一等でチェックインしちゃったのに

・・・・」

その様子から宏一は、洋恵が宏一に抱かれたがっていないことが

分かったが、今となってはどうしようもない。それに、宏一には

何故洋恵が嫌がるのか想像できなかった。

「わかりました・・・いいです・・・」

洋恵は仕方ない、と言うより諦めたと言う感じで大人しく宏一の

あとを付いて部屋に入った。部屋は来る時と同じ、フェリーにし

ては豪華なツインルームだ。

ただ今回は見送る人もいないので洋恵は窓際に行かなかったし、

宏一も洋恵に手を出さなかった。やがて出航の案内が部屋の中に

むなしく流れるが二人とも何も言わない。と言うより、雰囲気的

に何も言える感じではないのだ。宏一はとにかく洋恵と会話しな

いことにはどうにもならないと思った。

「洋恵ちゃん、こっちにおいで。何もしないから、ね?洋恵ちゃ

んとゆっくり話をしたいんだ。おいで」

そう言って宏一は洋恵を自分の近くに呼び、自分の隣に腰掛けさ

せて、腰に手を回す。この体勢では少し手を上げれば乳房まで手

が届くが、今はそう言う感じではなかった。

「どうしたの?何か悲しいことでもあったの?言ってごらん?」

宏一は辛抱強く洋恵の話を聞くことにした。しかし、じっと黙っ

ているだけでなかなか話をしようとしない。

「あのおじさんに叱られたの?」

宏一は一人ずつ例を挙げて尋ねていった。洋恵は首を振る。

「それじゃ、おばさん?」

やはり首を振る。

「それじゃあ、あの彼とケンカしたんだ」

洋恵がピクッと反応して、見る見るうちに涙が溢れてきた。宏一

は迷った。いとこ同士のケンカの話を宏一が聞いても何にもなら

ないのではないかと思ったし、二人のプライベートなことだから

聞くのはマナー違反かも知れない。どうしようか迷っていると、

静かに涙を流しながら洋恵は宏一に寄りかかってきた。

今はとにかく優しく受け入れてやることが必要らしい。優しく膝

の上に横抱きにしてやると、洋恵は嫌がらずに宏一の腕の中で泣

き始めた。宏一は何も言わずに、しばらく髪を撫でたり、肩や腰

の辺りを優しく撫でていた。それは決して感じさせるためのもの

ではなく、宏一の気持ちを素直に表したものだったので、洋恵も

嫌がらずに身体を宏一に任せていた。

そのまましばらく洋恵が泣いている間に船は出航してしまい、乗

船時の案内や安全事項がむなしく部屋に響く。部屋の中が妙に広

く感じられて、もったいない気がした。

洋恵はしばらく宏一の膝の上で泣いていたが、しばらくすると突

然、

「先生、抱っこ」

と言った。

「うん、いいよ」

宏一は洋恵をそのままベッドに寝かせ、自分も添い寝をする形で

優しく洋恵を抱きしめてやる。もちろん、二人共服は着たままだ。

髪を撫でながら、抱きしめた手で背中を軽く撫でてやる。それは

洋恵にとって嬉しかったようで、しばらくはぐずっていたが、や

がて息も整ってきた。

「先生、何にもしないの?」

小さな声が腕の中から聞こえた。

「洋恵ちゃんがして欲しいって言えばするけど、今はこうしてい

よう。洋恵ちゃんはそれどころじゃないでしょ。まず元気になら

ないとね」

宏一が応えると、洋恵がまた一気に泣き出した。良くは分からな

いが、とにかくとても悲しいことがあったらしい。これでは明日

までこのままかも知れないな、と宏一は密かに思った。洋恵は宏

一の腕の中が暖かく、とても安心できた。だから、宏一が、

「一人になりたければしばらく出ているよ」

と言っても宏一を離さなかった。そのまま二人は1時間以上、ベッ

ドの上で服を着たまま抱き合っていた。

「先生、お腹減った?」

洋恵が宏一に口を利いたのはだいぶ経ってからだった。

「それほどでもないよ。お昼をたくさん食べたから」

「何食べたの?」

「スパゲッティとカツサンド」

「二つも食べたの?」

「うん、ちょっとお腹減ってたから。洋恵ちゃんは?」

「おそうめん」

「それだけ?」

「うん」

「じゃあ、洋恵ちゃんの方がお腹減ったんじゃない?」

「そうでもない」

嘘だった。本当は泣き終わって少しすっきりしたら猛烈にお腹が

減ってきていた。しかし、抱かれて泣いているのに『お腹が減っ

た』とはさすがに言えなかった。宏一もその辺りはだいたい見当

が付いたので、

「それじゃ、お腹減ってないかも知れないけど、一回食堂に行っ

てみようか?」

「レストラン」

「そうか、レストランに行ってみようか。それで、一応何か注文

して、食べられなくても仕方ないから、食事の時間だけは守ろう

ね。洋恵ちゃんと話をしたら、俺もお腹減ってきたような気がす

るから。ね、行くだけ行ってみようよ」

宏一は洋恵がなるべく傷つかないように気を遣って誘った。洋恵

は特に何も言わなかったが、宏一が起きあがってそっと洋恵をベ

ッドから降ろすと、嫌がらずに部屋を出た。

レストランは出航してしばらくで開くので、もうだいぶ時間が経っ

ている。だから二人が注文を終わって席に付いた頃には空き始め

ていた。宏一はカツ丼とビールを注文し、洋恵はハンバーグ定食

とフルーツパフェを取ってきた。

席に着くまでは大人しくしていた洋恵も、注文の品が届くとあっ

という間に食べてしまった。それは隣の宏一が驚くほどの食欲だ

った。宏一は食事の間、いっさい洋恵に泣いた訳を聞こうとしな

かったが、洋恵にはその宏一の心遣いが痛いほど分かっていた。

「あのね、今のうちに言っとくね。嫌われちゃったの。それだけ」

パフェを平らげながら洋恵がさらっと言ってのけた。

「そうか、嫌われちゃったんだ」

「うん、東京の女の子は進んでるって」

そう言う洋恵をふと見ると、目がまた赤くなってきている。

「洋恵ちゃん、とにかく食べるものを食べちゃおうね。涙で美人

が台無しになるよ」

「美人は泣いても美人なの」

「じゃあ、その美人さん、まだ何か食べられる?何か買ってこよ

うか?」

「飲み物がないの」

「そうだったね、コーヒー?」

「紅茶」

洋恵は強がっているみたいだったが、宏一はとにかくコーヒーと

紅茶、それにケーキとサンドイッチまで買ってきた。それに適当

に手を伸ばしながら、二人は何気ない話をしていた。どこに行っ

たとか、どこは綺麗だったとか、そんなたわいもない話ばかりだっ

た。それでも話をしているうちに洋恵の気はだいぶ晴れたようで、

少しずつ明るさを取り戻してきた。ただ、洋恵は無理して食べて

いるようで、宏一が見ていてもお腹いっぱいなのに無理にサンド

イッチを詰め込んでいるのがよく分かった。

「先生、お腹いっぱいで動くのも大変なの。今日は何もしなくて

もいい?」

洋恵はぽつんと宏一に言った。

「いいよ。洋恵ちゃんのいいようにすればいいさ」

洋恵は満腹になって苦しいからセックスは無理だと言っているの

だ。

「そんなに無理に詰め込まなくても、洋恵ちゃんがイヤならしな

いよ。この前の出航の時のこと、まだ怒ってるの?」

「そうじゃないの。ちょっと焼け食いしてるだけ」

洋恵はそう言うと、

「部屋に帰ったらちょっと寝てもいい?」

と再び聞いてきた。

「いいよ。そうすればいいさ」

「先生は大浴場に行って来てもいいよ」

「ありがとう、そうするよ」

何かちぐはぐな気はしたが、とにかく洋恵主導で今後の予定が決

まってしまったので、とにかく二人は部屋に戻った。すると、洋

恵は服を着たままさっさとベッドに潜り込んでしまった。

「朝まで寝てもいいよ」

「ううん、元気になるの、少し寝ればきっと元気になる」

洋恵はそう言うと寝返りを打って向こうを向いてしまった。宏一

はしばらく本を読んでいたが、十分もしないうちに小さな寝息が

聞こえてきた。どうやら本当に寝てしまったらしい。洋恵は宏一

の心遣いが嬉しくて、昨日の夜よく眠れなかった分を取り戻せそ

うな気がしていた。『やっぱり先生が一番優しいな』、そんな声が

心の中に響いた。

宏一は本を区切りのいいところまで読むと、大浴場に行く支度を

して部屋を出た。既に夕食を終わっているので、このまま大浴場

に行くか、バーに飲みに行くか、一人でできるのはそれくらいだ。

しかし、一人で飲むのも寂しいので大浴場に行くことにした。あ

まり広くない湯船につかって周りを見渡してみる。日曜日の夜に

入ったものと全く同じものだし、夜なので景色も見えないから単

なる狭い浴場と大して替わりはない。


トップ アイコン
トップ


ウォーター