ウォーター

第七十二部

 

「ああんっ、あん、あん、ああーっ、いいっ、いいの」

洋恵はさらに自分の身体を大きく前後させてしっかりと繋がって

いる肉棒を味わった。気持ち良かった。ただひたすら気持ち良か

った。宏一は洋恵がしっかりと自分から動く事を覚えたので、ご

褒美をあげる事にした。洋恵の腰を掴むと、ぐっと肉棒をさらに

奥まで差し込む。

「ああぁぁぁーーーっ」

洋恵はさらに大きくなった快感に驚いた。ここまで深く入れられ

ると、洋恵自身で動くのは殆ど不可能に近い。

「先生っ、動いて、動いて、お願い、して、動けないの」

「それじゃ、おっぱいを揉み上げてって言ってごらん。そのおね

だりができたら全部してあげる。いっぱいいっぱいおちんちんで

可愛がってあげるし、おっぱいも最高にしてあげるよ」

宏一はそう言いながら、洋恵の背中に指をつーっと走らせ、何度

も快感の予感を洋恵に教え込んだ。宏一の肉棒は、洋恵の肉壁に

たっぷりと可愛がられていたが、大胆に出没していなかったし、

深く入れてからまだ時間が短かったので、洋恵の中でももう少し

は持つ予感があった。

「アアンッ、うんっ、はうーっ、先生、まだ言わせるの?もう、

して、お願い、いっぱいして」

「いっぱいしてあげる。だから最後のおねだりをしなさい」

洋恵は結局宏一に教え込まれるしかないのだと思った。自分では

可愛らしくしていたいのに、宏一は次々に新しい事を要求する。

そして、それは洋恵に絶対に勝ち目のない性の調教なのだ。洋恵

の肉壁がまた活発に動き始め、我慢していた快感を増大させる。

「あーっ、我慢できない、ああーっ」

洋恵の中で猛烈な快感が生まれ始めた。焦らされては満たされ、

また焦らされ続けた洋恵の入り口はとうとうヒクヒクと軽く痙攣

を始め、このままいくらも持たない事を予感させた。宏一はそれ

に合わせて軽く背中をひっかく。洋恵はそのうねりに飲み込まれ

た。

「してーっ、おっぱいを揉んでーっ、いっぱいズボズボーっ」

宏一はさらにぐっと洋恵の腰を引きつけて肉棒を一番奥まで差し

込んでから、手を伸ばして洋恵のぷるぷる震えている乳房を両手

に収めようと手を伸ばした。

洋恵も両手を伸ばして四つん這いになり、宏一の手に乳房を与え

る。弾力のある幼い乳房が揉み上げられると同時に宏一は腰を大

胆に動かしはじめ、一気に最大の快感を洋恵に与えた。

「ああぁぁぁーーーーっ、たまんないーっ、いっちゃうーっ」

洋恵は何も考えずに快感の大波に飲み込まれ、たっぷりとそれを

味わった。あまりにも長い間我慢し続けたので、すでに絶頂が直

ぐ近くまで来ていた。

「まだいっちゃだめ、いいね、我慢しなさい」

「いやあーっ、いっちゃうーっ、もうだめぇーっ」

「だめ、我慢しなさい。悪い子になっちゃうよ、抜いちゃうよ」

「イヤーっ、悪い子はいやぁーっ、抜かないで、そのままして、

もっとーッ、アアァーッ」

洋恵は抜かれたくないばかりに、必死に絶頂をこらえた。しかし、

宏一は肉棒を大胆に送り込み、猛烈な快感でそれを崩していく。

「はううぅーーっ、お願い、いかせてっ、ね、アアンッ、もうダ

メなのーっ」

「悪い子になってもいいの?」

宏一は徹底的に我慢させた。洋恵をさらに高いところに連れてき

たかったのだ。しかし、それはあまりに酷な言いつけだった。我

慢できる限界など遙かに超えていた。

「ああーっ、イヤーっ、いっちゃうーーっ」

洋恵は乳房を揉まれながら最大限に身体を大きくそり上げ、その

まま硬直した。肉壁はぐっと締め付け、宏一の出没ができないく

らいしっかりと肉棒を掴む。

「ああぁぁーーーーーーーーーっ」

数秒間洋恵は硬直していた。指の先まで快感が満たされ、何も考

えられなくなる。宏一はかろうじてこらえる事ができたが、この

まま出没をしなくてもいくらも持たない事が分かった。洋恵は硬

直が終わると、ぐったりとベッドに沈み込む。

洋恵の肉壁に捕まれたまま、宏一も洋恵に引っ張られる形で洋恵

の上に重なってゆっくり倒れ込んだ。微醺、微醺、と時折洋恵の

身体が痙攣し、そのたびに鋭い快感が洋恵の身体を駆けめぐる。

「あうぅっ、・・・・・あうぅっ、・・・・抜いて、お願い・・・

抜いて・・」

洋恵は疲れ切っていたので、これ以上のセックスは無理だった。

宏一もこの体勢では上手く動けないので、このまま放出して洋恵

をべとべとにしたくなかったので、ゆっくりと抜き去る。

洋恵の痙攣はかなり長い時間続き、洋恵はぐったりしたまましば

らく動こうとしなかった。

恵美は風邪の弱い側のデッキで風に吹かれていた。もう船の中を

2回も見て回ったが、宏一はどこにもいなかった。あの中学生と

一緒に部屋にいるのだろうと思ったが、何をしているのかどうし

ても気になってしまう。

家庭教師だといっていたので、勉強を見ているのかも知れないが、

もしかしたら・・・、と言う事も考えてしまう。何より、昨日二

人を見かけた時、女の子のあまり機嫌の良くなかった感じだった

のに、二人の距離感はとても親密なものに見えた。『でも気にし

ない事にしよう』そう自分に言い聞かせると、特2等の自分の

船室に戻った。

しかし、本を読んでいてもどうしても気になってしまう。宏一

の事を考えないと、別府での事を考えてしまうので、それより

は宏一の事を考えてしまうのだ。

しかし、宏一の事を考えても何もいい事はない。昨夜、デッキ

で宏一に後ろから抱きしめてもらった時、もし宏一が恵美を振

り向かせていたら、きっと宏一の胸で思いっきり泣けたのに、

と思っていた。

胸まで許したのに、宏一は何もしようとしなかった。まるで壊れ

物にでも触るかのようにぎこちなく、ほんの少し触ってきただけ

だった。

それだけでも恵美は嬉しかったのだが、やはり優しく抱きしめて

欲しかった。宏一が好きなわけではなかったが、安心して泣ける

優しい胸が欲しかった。

別府では何度も彼に近づこうとしたが、向こうはそれを拒んでい

るようだった。何度か短い会話はしたが、一度も誘ってこなかっ

たし、直ぐに彼女の方に行ってしまった。

一度でもちゃんと話をしてくれれば、恵美もこんな気持ちを引き

ずらずに吹っ切れただろうが、中途半端に彼の周りを歩き回る羽

目になってしまった。それはプライドの高い恵美には我慢できな

い事だった。

 

 同じ頃、鹿児島では史恵が生き生きと仕事をしていた。昨日の

夜に帰ってきてから、直ぐに彼に会って自分の気持ちを全部話し

た。彼は驚いたようだったが、史恵の気持ちを分かってくれた。

「友達でいてくれる?」

と聞かれた時はさすがに胸が痛んだが、このまま中途半端に友達

でいるのは辛かったので、思い切って断ってしまった。しかし、

それですっきりとできた。

今日、会社に出た時、課長は何も言わなかった。みんなにお土産

を出し、その日見せに来た最初のお客にセールスさせてもらった。

自分でも驚くくらい自然に、明るく、親切に接客する事ができた。

その時は見積もりだけだったが、思い切って値段を出した史恵に、

そのお客はかなり心を動かされたようで、詳細なオプションや納

車の予定日までいろいろ尋ねていった。

値段を伝えるタイミングは微妙だ。安い値段を出しても、早すぎ

ればもっと値引きを迫られるし、小出しにすればお客の信頼を失

う。

信頼関係を一刻も早く確立し、一気にベストプライスに近い値段

を出してこちらのペースに引き込み、一度お客に考えさせてから

最後にベストプライスで契約書にサインさせるのが一番なのだが、

その駆け引きが微妙だった。

 しかし、今日の史恵は自分でも驚くほど自信があった。その自

信にお客が引き込まれてきたのがよく分かった。そして、その自

信のある自分がとても嬉しかった。

案の定、一時間も経たない内にそのお客から連絡があり、明日契

約したいと言ってきた。史恵は自分の笑顔が伝わるようにと願い

ながら、丁寧に電話で応対した。その心の中には何か吹っ切れた

清々しさがあり、それが宏一との再会で生まれたものだと思うと

胸がほんのり暖かくなるのだった。

 

昼過ぎになった。洋恵は先ほどの絶頂の後、一眠りしてから宏一

の腕に抱かれて甘えていた。まだ身体の中には小さな灯がともっ

ており、背中を撫でられるのがとても気持ち良かった。

「先生、そんなにしたらぁ、アン、気持ちいいのぅ」

「さっきは、あんなに気持ち良くなっちゃったのに、またして欲

しくなったの?」

「だめよう、まだだめぇ、あ、そっと撫でて」

洋恵の身体は次第に宏一にすり寄せられ、何度もキスをしながら

ゆっくりと宏一の上に乗っていく。洋恵の身体が完全に宏一の上

に乗ると、洋恵は嬉しそうに足を開いて更にキスをしてきた。

何度も何度もキスをしてから、宏一が洋恵の身体を上に持ち上げ

ると、洋恵は嬉しそうに乳房を宏一の口元に持ってきた。宏一は

その乳房を優しく揉みながら口に含む。洋恵は、

「だめぇ、先生ももっとしたいの?あん、感じちゃうからぁ」

と笑いながらベッドサイドにある紙パックのジュースに手を伸ば

し、宏一に乳房を舐められながらそれを飲んだ。次第に自分の秘

部が潤ってくるのが分かる。洋恵がジュースを飲み終わると、宏

一は一気に乳房を揉み上げ、乳首を吸い込んで舌で転がした。

「アアンッ、だめっ、ほんとに欲しくなるぅ」

「洋恵ちゃん、入れて欲しいの?」

しかし、洋恵はまだ身体がだるかったので、挿入は無理だと思っ

た。

「おくちでして」

そう言うと、洋恵はゆっくりと宏一の顔に跨ってくる。

「自分の好きなように動いてごらん」

そう言うと、宏一は洋恵の茂みの奥に舌を進めた。

「ああんっ、あん、ああっ、あーっ」

洋恵は喜びの声を上げながら秘唇を擦りつけてくる。宏一は手を

伸ばして乳房を揉み上げながら、洋恵の秘唇をを堪能した。ぷり

ぷりとした秘唇が宏一の舌に転がされ、何度も洋恵が微妙に腰を

動かしながら声を上げる。

自分から擦り付けて快感を生み出しているのだ。やがて洋恵が満

足して腰を上げると、

「上手に動けるようになったね」

と言って洋恵の身体を反対向きにする。洋恵も素直にシックスナ

インの体勢に入って宏一の肉棒を含んでフェラチオを始めた。洋

恵は秘核を舐められながら、

「先生、お口に出して、ね?ああん、・・・先生、・・・いいの、

はうぅ、・・・・・うぷっ・・・」

と宏一におねだりをする。宏一の肉棒は洋恵の口の中でどんど

ん大きくなり、時々手でしごかれるとさらに気持ち良くなった。

宏一は洋恵の口の中で先に終われるように、あまり愛撫を強く

せず、乳房も揉まなかった。しかし、

「先生、おっぱいもしてぇ」

洋恵が可愛らしくおねだりをする。やはりする事はしてもらわな

いと満足できないらしい。「洋恵ちゃん、出してもいい?」

「アン、いいよ、出して・・・あうぅっ、くぅっ・・出して・・

・・」

「いくよ・・・」

宏一は洋恵の乳房を下から揉み上げながら一気に舌の動きを早く

する。

「うあぁぁ、ああぁーっ、いぃーっ」

洋恵もそれに合わせて肉棒を一気にしごき、宏一を受け止めるよ

うに口を先端に被せる。宏一はしごかれながら暖かい洋恵の口の

中に放出した。それを洋恵が口で受け、一気に飲み干そうとする

が、身体が気持ち良くなっていて上手く飲み込めない。

それでも口元からだらりと宏一の茂みの上に垂れた精を洋恵は何

度もすすり、舐め、きれいに飲み干してしまった。

宏一はこれで終わりかと思ったが、洋恵はまだ許さなかった。秘

核を舐められて乳房を揉まれていたので自分の身体が肉棒を欲し

くなっており、このままでは収まりがつかなかった。

最後まで丁寧に何度もしずくを吸い取ってから、再び手と口で宏

一を奮い立たせる。何度も丁寧にされていると、宏一自身、再び

気持ち良くなってきた。

「洋恵ちゃん、まだできるの?」

「先生、ああん、欲しくなったの、ああっ、ねぇっ、おちんちん

が欲しくなったの」

その言葉に反応するかのように、宏一の肉棒は再び固さを取り戻

し始める。

「洋恵ちゃん、それじゃ、今度は上からおいで。そっとしてあげ

るから」

宏一はそう言って洋恵を帆掛け船で貫く事にした。

「ああんっ、やっぱりおっきいっ、ああーっ、あん、ああん」

洋恵は肉棒に手を添えて導きながら、自分で腰を下ろして中に収

めた。しかし、一度中に入れると、身体を宏一の上に倒してきて

上から抱きつく。

「ああん、先生、気持ちいい。ああっ、これ、いいっ」

「そっとするからね。激しくしないのがいいでしょ?」

「これがいい。優しいの。とってもいい。このままずっと、ね?」

宏一の肉棒には洋恵の肉壁がねっとりと絡みついてきたが、さす

がに放出直後なので持続力は十分だ。洋恵はうねうねと腰を動か

しながら肉棒を味わい、動くのに疲れると宏一が腰をバウンドさ

せて洋恵を喜ばせた。

時折洋恵の体に大きなうねりが訪れると、我慢できなくなった洋

恵は体を起こして帆掛け船になって腰を強く擦り付ける。その時

は宏一が乳房を揉み上げ、腰を動かして洋恵から声を絞り出した。

しかし二人とも絶頂には導かず、そのままうねりが収まると、ま

た洋恵を上に載せたまま洋恵の腰が妖しく動くのを楽しんだ。

洋恵はこの結合が気に入っていた。 宏一の肉棒を収めているだ

けで、自分の母性が刺激されるのだ。だからなるべく長く繋がっ

ていようと、自分から積極的には動かなかった。それでも最後だ

けはケリをつけておかないと、下船の支度をしている間にまた欲

しくなる。

だから最後だけはしっかりと洋恵を満足させた。洋恵はそのまま

宏一の上で一回、直ぐに下になって一回してもらい、たっぷりと

満足してから服を着た。

「先生、こんなにいっぱいしちゃって・・・・、私、やり過ぎか

なぁ?」

下着を付けながら洋恵が宏一に尋ねる。

「そんな事無いよ。どんどん覚えていく途中だから、もっとして

もいいくらいだよ」

「でもぉ、先生、私・・・・・してもらうたびに良くなって・・

・」

「洋恵ちゃんの身体が覚えている証拠、大人になっていくんだよ」

支度をしながら洋恵は、宏一の言葉を複雑な気持ちで聞いていた。

やがて船は川崎港に入った。いつものように一等船室の客から順

番に降りていく。宏一と洋恵が降りていくと、洋恵の両親が待ち

かまえていた。

「先生、ありがとうございました。お礼は改めてさせていただき

ますので。ほら、ちゃんとお礼を言いなさい」

「ありがとうございました、先生」

そう言って簡単に挨拶を済ませると、両親は洋恵の手を引いてそ

そくさと待たせてあったタクシーに乗って帰っていった。

宏一は洋恵を見送ると、まずターミナルの立ち食いそば屋で天ぷ

らうどんを食べた。考えてみると、洋恵に振り回されていたので

今日はろくに食べていない。食べ終わって店を出ると、今日の予

定はもう無いのでのんびりとバスで川崎駅まで出る事にする。

こんな時でもないと、なかなかバスなど乗る機会もないので、こ

れも旅気分を楽しむ一つだと思った。

 由美は川崎駅の改札でじっと通り過ぎてゆく人たちを見ていた。

きっと宏一が帰ってくれば、ここに来るに違いない、そう思って、

いや、そう信じていたが、時間がどんどん過ぎてゆくのが気になっ

た。宏一の船が着くのが何時なのか分からなかったから、かれこ

れもう1時間以上ここで立っている。フェリー会社に電話をして

みたが、正確な時間は教えてくれなかった。

しかし、フェリー乗り場から帰ってくるとしたらここを通るしか

ないはずだ。でも、もし違っていたら・・・、もしフェリー乗り

場でタクシーに乗り、そのまま川崎駅を通り過ぎたら・・・、考

えると恐ろしくなるが、それは極力考えないようにしていた。

ここで宏一に会えたら、二人だけの時間を作るためにマンション

に行くつもりだった。

由美は明日宏一が一枝と過ごすことを考えるといても立ってもい

られなかったのだ。まず自分で宏一を確かめたかった。一枝を呼

び出したあとの散らかっている部屋で抱かれるのはいやだったの

で、既にここに来る前に部屋に寄って綺麗に片づけをしてある。

後は宏一の腕の中に飛び込むだけだった。

宏一はバスを降りるとゆっくりと川崎駅の階段を上がりはじめた。

思ったよりバス乗り場が混んでいたので、よっぽどタクシーを使

おうかと思ったが、高い金を払って、その上渋滞でイライラする

のが馬鹿らしかったので、我慢して満員のバスに揺られてきた。

コンコースに出ると、改札まで見通せる。人が多いので少し通路

の端を歩き始めた。その途端、聞き慣れた声が宏一に届いた。

「宏一さん、お帰りなさい」

と弾ける声が聞こえた。

「あ、あれ?どうしてここにいるの?新藤さん?」

「ちょっと、うん、待ってたの」

「待ってた?俺を?」

「そう、船の時間は知ってたけど、行きも帰りもフェリーターミ

ナルに行ったらちょっと図々しいかなって思って駅で待つ事にし

たの。だってあの子、私を凄い目でにらんだのよ。だから会える

かどうか分からなかったけど・・」

そう言いながら友絵は宏一を導くようにショッピングセンターの

中に入っていく。そして、そのままセンターの中のコーヒー

ショップに入り、

「お疲れさま、楽しかったですか?」

と話し始めた。宏一はコーヒーセットを二つ頼んでから、

「びっくりしたよ。時間も連絡しなかったのに待っててくれるな

んて」

と笑顔で話し始めた。

由美は確かに見た。あれは絶対に宏一だった。しかし、由美が駆

け寄ろうとした瞬間に誰かと話し始めたらしく、宏一は急に立ち

止まって横を向いてしまったのだ。

最初、誰と話をしているのか分からなかった。しかし、コンコー

スの反対側に移動して眺めた時、綺麗な女性と話していることが

分かった。由美はその様子から単なる関係ではないと直感した。

その女性が持っていた荷物は、明らかに一泊に使うサイズのもの

で、通常の買い物には持ち歩かないものだった。そして、女性の

表情からもそれは裏付けられた。ほんの数秒で由美はそこまで二

人の関係を読み解いた。

女性がショッピングセンターの中に入ると、宏一も自然に後に続

いて中に消えた。由美はちょっと駆け寄ると、引き寄せられるよ

うに続いて中に入っていった。どこに行くかは大体想像が付いた。

外に出るつもりならビルの3階に入るのではなく、コンコースか

ら階段を下りるはずなので、中に入ったと言うことは買い物でな

いとしたらどこか座るところを探しているに違いない。

だから喫茶店を探しながら店内を歩くと、そこは簡単に見つかっ

た。宏一が横を向いて笑顔で女性と話していた。そのまま由美は

くるりと踵を返すと家路についた。その表情は硬く、凍り付いて

いるようだった。

今まで由美は宏一に他の女性がいるかも知れないと考えたことは

あっても、その存在を意識したことはなかった。しかし、今、由

美が見た女性は、明らかに単なる知り合い以上の関係なのは明ら

かだった。

宏一があの女性とベッドにいることなど考えたくなかったが、も

しかしたら、と思うと腹立たしいような悲しいような強烈な感覚

が沸き上がってくる。とにかく宏一に確認しないことには我慢で

きそうになかった。

「船は揺れなかったですか?」

「そんなでもなかったな。意外と楽しいもんだね」

「そうっか、わたし、船で旅行なんてしたこと無いから」

「普通は使わないもんね。九州だったら飛行機の方が早くて便利

だし」

「三谷さんは旅行中、忘れ物とかしなかったですか?着替えとか」

「大丈夫だよ。こう見えても旅行の準備は慣れてるんだ。こうい

う仕事してると出張って言うか、そう言うのも多いし」

「じゃあ、着替えとか足りなくなって困ることなんて無いんです

ね?」

「新藤さんは忘れっぽいの?大丈夫、着替えだっていつも予備を

持ってるから全然問題ないよ。どこで何が起こるか分からないも

の」

「そうか、そうですよね」

友絵はやっと納得したようだった。なんかこのままだと旅行を詮

索されかねないと思った宏一は話題を変えた。

「ところで、あれからは連絡無かったけど、サーバーには問題起

きなかった?」

「はい、順調です。部長、結構気にしてましたよ。もし、誰かと

一緒だったら悪いことしたって言って」

「大丈夫だよ。全然問題なし。一緒だって言えば、パソコンを貸

してくれた宿の人が一緒だったけど」

「宿の人?」

「そう、仲居さん。親切に自分のを貸してくださったんだ。だか

ら、その人は横にいて、俺がやった事を全部見てたよ。パソコン

を使って何をやっているかなんて普通の人が見ても分からないか

ら、ものすごく退屈だったろうね」

「そうでしょうね。私が見てもダメ?分からない?」

「新藤さんが?たぶん分からないだろうね。新藤さんなら会社の

業務についてはいろいろ知っているだろうけど、コンピューター

のことは別だから。でも、どうして?見てみたいの?」

「ううん、内緒。月曜になったら分かります。それまでのお楽し

みです」

「何だろう、総務に行ってデモかなんかすることになったのか

なぁ。月曜からは忙しいんだけどなぁ」

「いいじゃないですか。三谷さん、そろそろ出ましょうか。時間、

あります?」

「え?良いよ。どこかに行きたいの?」

「そうなんです。付き合ってもらえますか?」

「何?改まって。もちろん良いよ」

「それと、今日、遅くなっても良いですか?」

「え?良いよ。どうせ明日は午後まで予定がないから、ゆっくり

寝てからでOKだから」

「分かりました。三谷さん、覚えてます?私を初めて食事に連れ

て行ってくれた時のこと」

「もちろん。でもどうして?」

「今日はそのお返しがしたかったんです。ちょっと謝らないとい

けないこともあるんだけど、それは後でちゃんと話しますから」

「謝る?ますますわかんなくなってきたなぁ。どうして新藤さん

が謝るの?」

「それは、できれば食事の時に話したいんですけど」

友絵の様子から、どうやら今日は遅くまで付き合うことになるら

しいと想像はできたが、友絵が何を隠しているのか、何をたくら

んでいるのかは宏一に全く分からなかった。


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