ウォーター

第八十七部

 

翌日、宏一と友絵は猛烈に忙しくなっていた。火曜日の午前中にほんの少し二人で楽しんだだけなのに、そのツケは意外に大きくのしかかってきた。工事業者との予定は全て決めてあったので、半日の半分とは言えすっぽかすと、その後の調整が大変だった。水曜日に会う予定の業者との話は火曜日の午前中に予定されていた別の業者との結果を持って行う予定だったりしたので、単に火曜日の午前中の予定をずらせば良いというものではなく、全体の再調整が必要だった。その仕事に宏一と友絵は振り回された。

二人しか居ない部屋でお互いに違う業者との電話を片手に大声で話し合う、と言うか怒鳴り合うような場面もあった。更に、それに加えてネットワーク資材を受け入れる仕事が重なった。次々といろんな業者がいろんなものを持ち込む。VPN用のゲートウェイ、サーバー、各部屋に付ける有線ルーターと無線ルーター、配線部品、配線のカバー、部屋に付ける棚、とにかくどんどん到着する。それらを整理して受け入れないと、翌週からの工事に必要なものが取り出せなくなるので、電話を待ってもらって受け入れたりもした。

おかげで二人は昼食どころの騒ぎではなくなっていた。お茶すら飲む時間がなかった。この業界では当然のこととは言え、二人の電話が終わるのを応接セットに座って待っていた業者が気の毒がり、自分でロビーまで行って缶コーヒーを買ってきてくれたほどだった。それほどの忙しさの中でも友絵は優秀だった。

月曜日の準備が良かったので、次々に資材を整理して受け入れていく。特に棚の左右で部品の大きさ別に整理する方法は抜群の効果を発揮した。配線部品などは細かいものが多く、長いケーブルなどと一緒に置いておくとすぐに場所が分からなくなるのだが、大きさ別にしたことで、仕舞うのも探すのもだいぶ楽になった。中堅の問屋とは言え、会社全体に張り巡らすネットワーク資材の量はバカにならない。宏一はしまう場所を何度も友絵に聞き直すことがあった。

二人でほとんど休憩もせずにがんばったおかげで、午後の半ばを過ぎた頃にはやっと先が見えてきた。友絵がリストを確認して部品を納入する予定なのに入ってきていない業者に確認の電話をする頃になると、宏一は外回りに出て工事の最終打ち合わせにとりかかった。幸い今日は近くの会社だ。最終確認なので往復を入れても時間は余りかからなかった。さらに宏一は、直帰扱いにしてもらって、それから他の打ち合わせの会社を回ったが、工事予定の詳細を打ち合わせるのにちょっと時間がかかり、もう少しで洋恵の家庭教師に遅れそうになった。

それでも宏一は何とかぎりぎりで間に合わせることができた。急いで部屋に入ると、洋恵は大人しく勉強していたが、どことなくよそよそしかった。いつものような甘えた感じがしない。イヤな予感がしたが、それでも最初洋恵の苦手な数学をしばらく教え、雰囲気を観察する。洋恵は勉強している時はそれほど変わった感じはしなかったが、しばらくしてから宏一が脇から手を差し込むと身体を揺すって嫌がった。

「洋恵ちゃん、どうしたの?嫌なの?」

宏一は由美ばかりでなく、洋恵までが宏一を拒絶したので唖然となった。いったい九州に旅行に行っている間に何が変わったのだろうかと思った。特に洋恵とは日曜日に身体を合わせたばかりなのだ。あの時は船の上で全然嫌がる様子はなく、積極的に宏一の肉棒を受け入れて初めて感じる女の喜びに幼い身体を仰け反らせて宏一の与える性の世界に夢中になっていた。

宏一は知らなかったが、実は洋恵の心境に大きな変化があったのだ。先日、旅行のお土産を持って遊びに行った友達の家で、友達と二人でこっそりと友達の兄貴のパソコンの中に入っているエッチ系の映像を盗み見たのだ。その友達は兄貴に黙って何度か見ているらしく、洋恵に自慢げに見せてくれたのだが、はっきり言って洋恵には映像の中の二人の行為はグロテスクにしか思えなかった。

特に喘ぎ、悶え、男の肉棒を銜えて扱き立て、馬乗りになって腰を振り汗だくになった女が最後に男の性を飲み下す場面は自分でも同じ事をやった経験があるだけに、その時の自分の姿を船の中の自分の姿と重ね合わせ、自分もあんな風にグロテスクな事をしていたのかと思うとやりきれなくなった。

それまでは宏一に教えられるがままに受け入れていただけに、このままでは自分自身がグロテスクな女の子に変わってしまうような気がした。頭の中では女優の笑った口から垂れてくる白い液体が渦巻いていた。だから、今日は宏一が求めてきても、心の中で先日盗み見た映像が重なって、とても宏一を受け入れる気分ではなかった。まだ中学生の幼い心の洋恵には、セックスの世界を素直に受け入れるには抵抗が大きすぎたのだ。

宏一は何度も洋恵の脇の下から手を入れて、洋恵の乳房の形を確かめるように、ゆっくりと撫で続け、洋恵がその気になるのを待ち続けた。やがて洋恵の胸の膨らみはゆっくりと堅く張り始めた。ブラの布地の中にポツンと堅い点が現れてくる。それは健康な少女の身体には当然の反応だった。

しかし、今の洋恵には自分の身体の反応が悲しくて仕方がなかった。気持ちが萎えているのに、触られている所からは甘い感覚が押し寄せてくる。自分の身体が気持ちに反して宏一を求めている、その事実がいっそう洋恵を悲しい気持ちにさせた。

「洋恵ちゃん、ほら、少しずつ感じてきたでしょ?」

「いや・・・・・いやなの・・・・」

「どうして?お勉強はちゃんと進んでいるのに、優しくして欲しくないの?」

「して貰うのはイヤじゃないけど・・・・・」

「それならいつものようにしてごらん?」

「いつものようにって?」

「触って欲しい所を見せてごらん」

「それは・・・・いや」

「どうして?可愛らしい洋恵ちゃんでいて欲しいのに」

「恥ずかしい事をするのが可愛いの?」

「だって、洋恵ちゃんの秘密でしょ?それを見せて貰えれば嬉しいし、恥ずかしいって言いながら見せてくれるのはとっても可愛いよ」

宏一に説得されて、洋恵の心は少し動いた。少なくとも、こうしている間の自分はそれほどグロテスクではないと思った。洋恵はそっとTシャツの裾を捲り上げると、ゆっくりと捲り上げていった。

「いい子だね。いっぱい優しくしてあげるよ」

宏一は洋恵がTシャツをブラの上まで大きく捲り上げると、そっと洋恵の両脇から手を入れて、可愛らしい膨らみを両手で包み、

「少し感じていてごらん」

と言って、更に愛撫を丁寧なものに変えた。ゆっくりと宏一の手が洋恵の乳房の周りを揉むような、撫でるような、微妙な調子で動き回っていく。洋恵は、宏一がもう少し強くしてくれたら、きっとブラがじゃまで仕方なくなるだろうと感じた。今でさえ、時折宏一の指がブラのカップの上の方の肌に当たるだけで甘い感覚が押し寄せてくるのだ。これ以上続けられたら我慢の限界を超えてしまうのは明らかだった。

宏一は洋恵の表情から、もう少しで洋恵を落とせる予感はあったが、それと同時に洋恵がとても怖がっているような気がした。

「どうしたの?いつもみたいにおねだりしてくれないの?」

「いつも私、おねだりした?」

「恥ずかしそうに、可愛らしくおねだりしてくれたよ。今日はしてくれないの?」

「イヤ、そんなのウソ。私、そんな事なんかしたくない。いやぁ、ああん、先生、いやぁぁ」

洋恵は快感の海を目の前にしても、その中に飛び込む決心が付かなかった。自分ではもう少しだけと思っていても、宏一のリードにかかればアッと言う間に裸になって自分からもっとおねだりしてしまう。そんな自分が怖かった。

洋恵がなかなかその気にならないので、宏一はもう少し乳房を可愛がる手を強くした。今度は優しく、ゆっくりと揉む感じだ。

「いやぁ、ぁあぅ、先生、いや、これ以上はいや、お願い、いや」

洋恵は身体をくねらせて悶えながらもその気にならず、嫌がり続けた。

「先生、こんな事ばっかり、いやぁ、私、そんなつもりじゃあ、ぁうぅっ、いやなのぅ、先生、やめて、お願い」

洋恵が感じ始めた時は安心した宏一だったが、今は少し焦り始めていた。どうしても洋恵が思うようにおねだりしない。愛撫を強くしたり弱くしたりして焦らしても洋恵はいつものようにおねだりしなかった。両足は乳房を揉む度に擦り合わされているので、快感が洋恵を焦らしているのは確かなのだが、それでも洋恵は思う通りにならなかった。

そしてとうとう、

「いやあ、もういや、やめて、いやあぁぁ」

と言うと、頬を涙が伝わり始めた。

宏一が手を止めると、

「私の身体、どんどん先生を欲しがるの。私はもっと可愛らしい女の子で居たいのに、身体はもっといやらしい事をして欲しいって言うの。こんなのいやぁ、もういや。私・・・こんなの私じゃない・・・・もう、こんなのいやぁぁ」

宏一は仕方なく手を止め、

「どうして?この前まではあんなにおねだりしてくれたのに」

と言うと、

「こんな事されるのはいや。こんなことばっかり・・・」

と、洋恵はしくしく泣き始めた。宏一は洋恵の服装を直してやると、しばらく洋恵の髪を撫で続け、洋恵が落ち着いた頃、おでこにチュッとキスをして家を出た。

全くどうしたというのだろう?宏一には信じられなかった。今までは宏一が疲れるほど性を欲しがった少女達が、今は全く相手をしてくれない。洋恵と由美が宏一の肉棒を受け入れてくれなければ、宏一には寂しい日ばかりが続くことになる。暗澹たる気分のまま家路に着き、途中のコンビニで弁当を買おうと思ったが、とても食べる気力はなかった。

『何か買っても、どうせ捨てる事になるんだろうな。今日はビールだけでいいや』と思いながらビールだけ籠に入れて勘定を済まし、重い足取りで部屋に向かうと、携帯が軽い音を立てた。表示を見た宏一が驚いて声を上げる。

「どうしましたか?仕事が上手くいかなかったんですか?それとも九州で遊びすぎて疲れが溜まりましたか?」

「明子さん、どうしたの?今どこ?」

「気が付かないで通り過ぎたのはそっちよ。私はまだコンビニの中」

大急ぎで引き返しながら、

「明子さん、どれくらい時間があるの?食事は?」

「そんなに急がなくたって逃げませんよ。ほら、私はここ」

急いでコンビニに戻った宏一の目の前に携帯で話し続ける笑顔の明子の姿があった。宏一が安心したというように携帯をしまうと、明子もにっこり笑って携帯をバッグにしまった。

「何度か電話したんだよ。でも直ぐに留守電に切り替わって・・」

「毎日一回だけ、ね。それもいつも一番忙しい夕方に電話したって・・・」

「ごめんね。さっきも電車の中で電話しようかなって思ったんだけど・・・」

「だけど・・???」

「悲しくなるだけだと思ってやめちゃった」

「どうして?」

「だって、会えないならストレスが溜まるだけだよ」

「私って、そんな簡単にあきらめられるの?」

明子が少し心配そうに、同時に少しイタズラっぽく尋ねた。

「あきらめたりしないけど、今日は少し疲れたんだ」

「そうね、とっても疲れているみたい」

「食事は?」

「宏一さんは?」

「はっきり言うと、あんまり食べたくないんだけど・・・」

「それなら部屋に行っても良い?私が食べさせてあげるから」

そう言って明子はすでに精算を済ませたコンビニ袋を見せた。

「うん。良いよ!本当?泊まっていける?」

「明日は少し早いけど大丈夫」

「連絡してくれれば食事の用意して待ってたのに」

「ちょっと急な変更があって、突然時間ができたの」

「それなら電話くれればよかったのに」

「ごめんなさい」

明子は素直に宏一に詫びた。そのまま二人は宏一の部屋に向かって歩き出し、お互いの近況を伝え合った。しかし、明子は仕事の事をあまり話したがらず、宏一が掘り下げて聞こうとすると、

「それは部屋に行ってからゆっくりね」

とはぐらかした。宏一は少し何か引っかかるものを感じていたが、本人が言いたくないらしいのでそのままにしておく事にした。


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