第 10 部
久美は座り心地は良いのに居心地の悪いソファにしばらくはじっと座っていたが、だんだんと幸一とは反対側にずっていった。明らかに此処に居たくないと思っているのだ。そんな久美を見て、幸一は可愛そうに感じた。実は幸一は、この部屋に入ったときから久美が此処に居るのを嫌がっていることに気が付いていた。しかし、このままでは久美はいつまで経ってもこの部屋に馴染まないし、幸一が望むように親密にはなれそうにない。
幸一はじっと待つこともできた。何度も何度も今日のようなよそ行きの会話を繰り返していれば、そのうちに久美も馴染んでくるかもしれないからだ。しかし、幸一は強引な手段に出た。テレビを静かに見ていた幸一だが、突然、
「久美ちゃん、こっちに来てくれないかな?」
と言った。その言葉は久美の心に突き刺さった。『あぁ、やっぱり幸一さん・・・』
久美の心は凍り付いた。
「どうしたの?こっちへおいでよ」
「・・・・・・」
「久美ちゃん?」
「ごめんなさい。此処じゃダメですか?」
「こっちへ来て。横に座って」
幸一があまりにそう言うので、久美は仕方なく立ち上がった。これは久美にとって拒絶できないことなのだ。幸一の表情は一見優しいようだが明らかに挑むような目つきをしている。どう見ても、今の幸一が冷静に久美の話を聞いてくれるとは思えなかった。凍り付いた表情のまま幸一の横に座ると、
「こっちへ来て」
と幸一の手が伸びてきてグイッと抱き寄せられた。
「んんっ・・・・いや・・・・」
久美の声は小さくて幸一にも殆ど聞こえなかった。
幸一は久美の小さな身体を抱き寄せると、久美が正面を向いた姿勢のまま、自分の身体を捻って隣に座っている久美にキスをしに行った。
「・・・・・・・・んんっ」
久美は少し身体を捻って幸一の唇を交わそうとしたが、すぐに幸一に追いつかれてキスをされてしまった。
不思議なことに、久美は悲しくなかった。悲しみが沸いてこないのだ。何も感じない。単に自分の唇に幸一の唇が触っただけ。ただじっとしているだけしかできなかった。
幸一は、何の反応もしない久美の唇に少し不思議な気はしたが、殆ど嫌がっていないことから久美は幸一にキスを許したと思った。そしてそっと舌を入れてみようとしたが、久美の口は固く閉じられてその進入を許さなかった。
幸一はじっくりと時間をかけることにした。そのまま久美を抱き上げてベッドルームへと向かう。幸一の腕の中で久美はじっと遠くを見つめているような目つきをしていた。
幸一のベッドルームは薄暗い部屋で、大きなベッドの他には仕事用の椅子と机があるくらいで、あまり家具はなかった。幸一は久美をベッドに降ろすと、直ぐにまたキスを始めた。
久美は、最早嵐が通り過ぎるのを待ち望んでいる旅人のようだった。身体を硬くして目をつぶりじっとしているだけ。幸一の舌が何度も久美の口の中に入ってこようとしても、決してそれを許さず、ひたすら唇が幸一に蹂躙されるのに耐えていた。
やがて唇を征服するのが無理だと分かった幸一は、久美の制服に手をかけてきた。幸一のように若い男性に、久美のような可愛らしい少女をベッドの上に寝かせておいて何もするなと言うのは酷なことだったのかもしれない。しかし、久美はぎゅっと両手で胸をガードして幸一の手の進入を許さなかった。
「久美ちゃん、可愛いよ。手の力を抜いて。ね?大丈夫。優しくするから」
「・・・・・・・・」
「久美ちゃん、大切にするから」
幸一がそう言っても、久美は何も言わず、両手でしっかりとガードし続けた。幸一がそれから何度か声をかけたが、久美の態度は変わらず、幸一もそろそろ諦めかけてきた。そしてふと、
「久美ちゃん、がっかりさせないで」
と幸一が言った途端、久美はハッとしたように大きな目で幸一を見つめた。幸一自身、今何を言ったのか良く覚えていない、それほど何気なく言った言葉だった。思わず本心が出たと言うべきなのだろう。しかし、久美にとっては強烈な一言だった。『幸一さんにがっかりされたら、もう、私は頼れる人がいない』そう思うと恐ろしくなる。もう、あの不安な日々には耐えられなかった。久美は心を決めた。
今まで固まったかのようにしっかりと胸をガードしていた手の力が抜け、幸一が軽く久美の手を持って頭の上に上げるだけで完全にガードは外れてしまった。幸一はその手を枕の方に持って行き、
「良いかい、手は此処に置いておくんだよ」
と優しく言うと、久美はしっかりと後ろ手で枕をつかんだ。
「ありがとう」
幸一はそう言ってもう一度久美にキスをしてから、制服のリボンに手をかけた。制服の細いリボンは飾りで、別に制服を留めているわけではない。幸一がリボンを解いても何も変わらなかった。幸一がやっとそれに気が付き、リボンの下に隠れていたホックを外し、ジッパーをゆっくりと下げていくと、その布地の舌から可愛らしい布に包まれた二つの膨らみが現れてきた。薄いストライプが入ったカップは、真ん中に小さな谷間を作り出している。一番下までジッパーを下げた幸一がそっと布地を左右に開くと、小さくてもしっかりと上を向いて突き出している膨らみがはっきりと分かった。久美は怖さにぎゅっと目をつぶった。
久美の肌は暗い部屋でも色白なのが良く分かる。そして小柄ながら胸から腰へとかけて絞り込まれたラインは少女から大人へと近づいていることが分かるくらいの、幼さと美しさの中間のラインを描いていた。そして、そこから腰へと再び広がりを見せるラインはまだ少女に近い。
「綺麗だ・・・・」
思わず幸一の口から言葉が漏れた。それほど目の前の少女の身体は美しかった。そして幸一の手は引き寄せられるように可憐な布地に包まれた膨らみへと移っていき、そっと布地の表面を撫でるようにして、その下にあるものを確かめ始めた。『固いな』というのが最初の印象だった。
幸一はなおもその膨らみを丁寧に撫で回し続けた。ほんの一時、幸一は時間を忘れてその膨らみの虜になっていた。しかし、いくら撫で回しても膨らみは何の変化も起こさなかったし、久美も一言も発しなかった。
ふと幸一は久美の表情を見上げると、薄暗がりの中で久美はじっと幸一を見つめていた。その視線は冷ややかで軽蔑しているかのようだった。はっとなった幸一が自分のしたことに我に返り、その場で固まってしまった。それでも久美の視線は射るように幸一に注がれている。
幸一は一瞬、どうしようかと思った。しかし、ここで謝れば自分も久美ももっと惨めになるような気がした。理由はどうであれ、既に少女の身体を蹂躙してしまったのだ。幸一は、もう絶対に久美に許してもらえないとは思ったが、それでも再び優しく久美の胸の膨らみを撫で始めた。
久美は幸一に制服を開かれたとき、直ぐに裸にされて荒々しく幸一がのしかかってくるものだと思った。しかし、幸一はそのまま自分の胸を撫で回すだけでそれ以上のことをしようとはしなかった。久美は身体を蹂躙されているのにもかかわらず、『胸が小さいからびっくりして何もする気がなくなったのかな?』と思った。久美の胸が膨らんできたのは中学3年になってからで、それまでは本当に微かな膨らみしかなく、中学3年になっても意地悪な男子生徒に『えぐれの久美』と笑われていた。それは久美にとって屈辱以外の何物でもなかったが、そのコンプレックスが今になって突然現れたのだ。
幸一にそっとその膨らみを撫で回されるだけの愛撫は、久美にとって恥ずかしくて仕方のないことだった。そして今、久美は悲しさよりも恥ずかしさの方が強かった。
飽きずに何度も幸一が久美の胸の膨らみをなで続けていると、突然久美が、
「もう、いいですか」
と言って起きあがり、制服のジッパーを上げた。それはこの時間に久美から終了を宣言したに等しかった。
幸一は、
「ありがとう、綺麗だったよ」
と言うと、もう一度キスをしに行った。その時、ほんの少しだが久美の口が開かれて、小さな舌と一瞬だけ幸一の舌が触れた。
幸一は再び久美を抱き上げ、リビングの久美が最初に座っていたところに降ろした。
「久美ちゃん、ありがとう。とっても可愛らしくて、綺麗だったよ」
そう言って今度は久美のほっぺたにチュッとキスをした。
久美は、明るいリビングに戻ってきてからだんだんと悲しくなってきた。幸一のこのような一方的な行動を受け入れなければいけない自分が悲しく、自分が望んでもいないのに肌を晒したことが悲しく、優しかった幸一がこんなことをしたことが悲しかった。
大きな目からぽろぽろと涙を流している久美を見て、幸一は心から悪いことをしたと思った。
「久美ちゃん・・・・ごめんなさい・・・・」
「謝らないで」
「え?」
「謝らないで。もっと悲しくなるから」
「でも・・・」
「幸一さんは私にあんなことをした。それだけ・・・」
「・・・・・・」
久美は悲しさで心がはち切れそうだったが、冷静な部分も持ち合わせていた。悲しさで泣いている自分をどこかで冷静に分析している自分が居た。このまま家に帰ってしまえば、二度とここには来なくなる。それは今の久美にとって選んではいけない道だった。
「大丈夫、直ぐに元に戻りますから・・・・」
久美はそう言うと、しばらく下を向いて泣いていた。
幸一は何もできず、しばらく一人でワインをチビチビと飲んでいる事しかできなかった。
次に何を話しかけようか、そればかり考えていたが、良い考えなど浮かぶはずもなかった。それでも、目の前の久美が愛しく、可愛らしいと思った。きっと、例え久美が怒りの言葉を投げつけ、この部屋から走り去って行っても幸一はそれを素直に受け止めたことだろう。二度と会えなくても、それが久美の選んだことなら受け入れたに違いない。
しかし、久美は幸一が全く予想しないことをした。
しばらくして久美の心が落ち着くと、久美はゆっくりと立ち上がって幸一の隣に座ったのだ。何も言わなかったが、その行動が何よりも久美の選んだことを明確に表していた。
幸一は一瞬、何が起こったのか理解できなかったが、おずおずと久美の肩に手を回しても先程のように固く抵抗する感じは無く、柔らかく幸一の腕の中に入ってきた。
幸一は腫れ物に触るように再び久美にキスをした。今度も久美は黙ってそれを受け入れた。幸一の唇が優しく久美の小さな唇を開かせ、ゆっくりと舌が差し込まれると、少しずつ久美の口が開いて小さな舌が幸一の舌を迎え入れた。さすがに舌を絡めることなどできなかったが、幸一の舌がそっと久美の舌を追いかけると、少し逃げてはチョンと当たり、また逃げることを繰り返した。
幸一は久美の取った行動に次第に有頂天になってしまった。こんな可愛らしい少女が自分の腕の中に入ってくるなど、信じられない幸運としか言いようがないと思った。自分の気持ちを久美が受け入れてくれたのが嬉しかった。
一度、幸一は唇を話すと、久美の細い身体をゆっくりと自分の膝の上に仰向けにして横たえ、左手で首を支えると久美の上から再びキスをしに行った。
今度も久美は素直にキスを受け止めた。そして前よりも口を開いてくれた。幸一の舌がツルツルの小さな歯の上を這い回り、更にその奥にある小さな舌を追いかけ始める。久美は大人しく幸一の舌が自分の口の中に入ってくるのを許したが、久美自身は決してそれを楽しんではいなかった。実はただ、自分の口の中に進入してきた幸一の舌から夢中で逃げ回っていただけ、なのだが、久美に夢中になっている幸一は全く気が付かなかった。
そして、更に幸一の舌の動きが大きくなって久美の舌を捕まえると、何度か偶然にも舌が絡み合うことがあった。幸一は久美の小さな舌の感触に陶然となった。久美は舌の動きを大きくしても、全く嫌がらなかった。
幸一が久美の舌に夢中になってキスを続けている時、久美はただ、じっと耐えていた。幸一が自分を見捨てないと分かれば、後は事が終わるのを待つだけなのだ。気持ちを押し殺して目を閉じていた久美の目から再び幾筋もの涙が流れ落ちたことに幸一は全く気が付かなかった。