第 70 部
3人は念のため電車を乗り継いでちーちゃんだけが知っているマックに入った。秘密の話をする時は、オープンである程度混んでいる店の方が良い。ファミレスでは静かすぎるし、隣に誰か来ても植え込みなどで分からないからだ。その点、ハンバーガーショップなら安心だ。3人は壁に囲まれた奥のコーナーの席に陣取ると、やっと話を始めた。
「もう、誰もつけてきてないよね?誰も聞いてないよね?」
「うん、何度も後ろを見たけど、たぶん、大丈夫だ」
「それじゃ、始めようか」
ミカリンが厳かに宣言すると、久美は誰がつけていたのかもう一度思い出し始めた。
「それじゃ始めようか。ねぇ、まず行ってから何したの?」
「え?」
「だからぁ、土曜日に彼の部屋に行ってから!」
「何のこと!今日の変な親父は誰かって・・・・」
「そんなの誰かに任せとけばいいよ。うら若き乙女達が話すことと言えば、自分の恋か友達の恋しかないでしょうが」
「そんな・・・・・」
「はい、言いなさい。まず何したの?」
「それはまず、荷物を置いてから・・・って、話すわけ無いでしょ?」
「そうなの?ふぅ〜ん、そうなんだ。良いのかなぁ、そんなこと言って・・・」
ちーちゃんとミカリンが楽しそうに久美をかまってくる。こう言う時は、思いっきり楽しそうに自慢してやれば3分も経たずにバカらしくなって話が消えてしまうのだが、久美のように恥ずかしそうにポツポツ言うと次は何が出てくるのか楽しくて仕方なくなる。
しかし、残念なことに久美はそこまで楽しそうに話ができるほど擦れてはいなかった。
「え?」
「朝、言わなかったっけ?どこかでふっと漏らしたりしたら・・・」
「そんなこと、二人は絶対にするはず無いでしょ」
「そうかなぁ?もしかしたらって事位、あるかも知れないよ?」
「私、信じてるから。絶対に二人はそんなことしない」
「そこまで信じてくれてるなら、話してくれたって良いでしょ?」
しまった。ちーちゃんは久美にそう言わせたかったのだ。
「それは・・・・・・」
「ねぇ、何したの?」
「あのね・・・・・・言わない」
「まだ抵抗するか」
「だって、二人に言う理由なんて無いもん」
「あのね、こうやって3人で一カ所に集まっている事自体、しっかりと理由になってるの」
「集まったら言わなくちゃいけないの?」
ちーちゃんは大きく一度深呼吸してから言った。
「Yes」
「だったら、ちーちゃんだったら私やミカリンに言うの?」
「言うと思うよ。もし3人でこうやって集まったら」
「うそばっか」
「そもそも、私に素敵な彼ができたら、こんな風に3人で集まる事なんて考えないもん。クーは彼ができても女の友情はしっかりと守っていきたいんでしょうけど、私だったら彼が最優先。悪いけど、二人のことは後回しの最後だよ。だから、3人でこうやって集まる時は、恋に破れたか、捨てられたか、飽きたか、そんなところだろうから、二人に何を話しても困らないの」
「そんなの、ずるいよ」
「ずるくなんかないよ。いつまでこうやって堂々巡りしているわけ?時間の無駄だよ。さっさと話すこと話してよ。そうしないといつまで経ってもこの店から出られないっしょ」
「そんなこと・・・・」
「さぁ、言いなさい。部屋に行ってまず何をしたの?」
久美は困った顔で二人の顔を交互に見ている。実は二人とも、こういう久美の可愛らしさが男を引きつけて放さないんだろうなぁ、と感じていた。それでも久美は二人になら話しても良いか、と思い始めていた。間違いなく、いや、たぶん久美が知っている以上に二人は自分のことを心配してくれているのだから。そこで久美はやっと重い口を開いた。
「夕食の支度をして」
「クーって料理できるの?」
「できなかったけど、彼がしてくれって言うから・・・・」
「そうだったね。食事の支度が条件だったっけ」
「条件だなんて・・・」
「ね、何作ったの?」
「スパゲッティ」
「作れるの?」
「もう慣れたから」
「そうなんだ。今度作ってもらおうっと。それで?」
「ねぇ、いい加減にしてよ。こんなことしてたら全部言わなくちゃいけないじゃないの」
「言えば?」
「分かった。いい?あと一つずつだからね。こんな質問に答えてたらキリがないっしょ。あと一つずつだけ、良いよね。その代わり、ちゃんと答えるから」
久美はこのままずるずると二人に話し続ける気はなかったので、期限を切った。
「ちょっと待って」
二人は顔をくっつけてしばらくひそひそと話をしていたが、やがて顔を上げた。
「私たちだって、クーだから聞くんだよ。分かってるよね?」
「うん。で?」
「まずは私から。いくってどんな感じ?」
「いきなり!・・・・・・・・・・」
途端に久美の顔が二人の見ている前で真っ赤になった。その顔は既に知っていると言うことを白状したのと同じだ。
「ねぇ、・・・・よかったの?」
聞いているミカリンまでが何故か顔を赤くしている。久美はちょっとだけ優越感を感じた。
「良いわよ。教えてあげる。・・・・あのね・・・・なんかフワフワってなってギューンて感じ、かな?・・・・」
「なによそれ」
「凄く変な感じなの。自分でも良く分からないし。彼が優しく抱いてくれてたから・・」
「なんか、聞くのがバカらしくなって来たぁ。単に『抱かれてた』じゃなくて、『優しく抱いてくれてたぁ?』やってらんないわ、もう」
「じゃぁ次、私ね」
「いいよ・・・・」
「ベッドに入る時、どんな格好してるの?バスタオル?キャミ?」
「それはっ!」
いきなり久美が絶句したので質問したミカリンの方がびっくりした。そんな変な質問をしたのだろうか?女の子が夢見る普通のことなのに?これから自分をさらけ出す好きな人の前にどんな姿で現れるのか、それはとても重大な問題なのだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「どうしたの?」
「・・・・・・・・忘れた・・・・」
「嘘だね!」
ちーちゃんは鋭く切り込んだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「ちゃんと答えるっていったくせに」
「・・・・・・・・ごめん・・・・」
「ははぁ〜ん、きっと凄い格好してたんだ」
「そんな、そんな・・・・こと・・・・無いけど・・・」
「覚えてるんじゃない!嘘つき」
「ごめん・・・・」
「良いわよ。どうしても言いたくないなら」
ミカリンが横から助け船を出した。・・・
「それじゃぁ、あと一つずつ質問を追加ね」
・・・・かに思えたが、しっかりと条件を付けてきた。
「・・・・そんな・・・・・」
「何言ってんの。嘘つきのくせに」
「そんなに言わなくたって」
「はいはい、それじゃ次の質問ね」
「何時に帰ったの?」
「・・・・・・・3時半・・・」
「あんた高校生が何時まで遊んでるのよ。午前様、なんてモンじゃないでしょうが」
「それはそうだけど・・・・・・」
「ねぇ、ちょっと長すぎると思わない?おかしいよ。何かあるよ」
「なんにもないよぉ。ただ、途中で寝ちゃったりしたからぁ・・・」
「お黙り!だって、3時には部屋に行ってるんだよ。帰ったのが午前3時半?夕食作って食べるのに何時間掛けてるわけ?」
「それはぁ、二人でテレビ見たり・・・・・」
「しっ。抵抗するな!いい?クーは先週ロストしたばっかりだよ。クーだって彼だって盛りの付いた猫みたいに会った途端にじゃれ合うはず。それで終わったのが3時半?普通じゃないよ。何発やったの?」
「・・・途中でお酒を少し飲んで寝ちゃったりしたし・・・」
「お黙り。きっとなにかあるよ。よおし・・・・・」
ちーちゃんはじっと久美を見つめていたが、どうしても久美は目を逸らしてしまう。そこでミカリンは渾身の質問をぶつけてきた。
「よし、どこでしたの?ベッドで何するか位知ってるけど、他にはどこで何したの?」
「それは・・・・・・・キッチンで・・・キス・・・」
「だけ?そんなわけ無いでしょ?」
「・・・・・後はベッドで・・・・・」
「嘘だね!何時間ベッドにいたの?半日?え?他にもあるでしょう。ゲロってしまいなさい。楽になるよぉ?」
「だから・・・・・・キッチンでキスして、後はベッドで・・・」
「嘘だね!はい、また質問一個ずつ追加」
「嘘じゃないよぉ」
「本当?私たちの目を見て言える?私たちの友情に掛けて言える?」
「・・・・・・・・・・・・」
さすがに二人の目を真っ直ぐ見ては何も言えなかった。
「ほら見なさい。質問追加ね」
「もう、許して・・・・お願い」
「それじゃぁ、どっちか答えなさい。何を着てたの?どこで何をしたの?どっちにする?」
「もう、虐めないで・・・・」
「5,4,3,2・・・・」
「言う言う。言うからぁッ」
「はやく、3,2,1・・・・」
「ソファで」
「ソファで?何をされたの?」
「だっこされて・・・・・」
「それで?なにをされたの?」
「服の中に手を入れられて・・・・」
「それで?」
「触られたの・・・・」
「・・・・・え?なあんだ。それだけかよぉ。期待して損しちゃった」
「本当に触られただけ?」
「うん」
「ばっからし。あれだけ引っ張っておいて、『触られた』?あほかおぬしは」
久美は二人が何となく追及の手を緩めたので安心した。あの時の姿を知っていれば久美がどんなことをされていたのか驚くはずだが、幸いにも誤解してくれたようだ。リビングで横抱きにされて、制服から乳房を剥き出しにして乳首を舐められ、更にスカートを捲り上げられ大きく足を開いて丸見えになったあそこを触られていたなんて、とても二人には言えるはずがない・・・・。見ようによっては全裸以上に恥ずかしい姿なのだから。