第103部

 「ああぁっ、康司さん、もうだめ、許して、お願い、もうだめなの、ああぁぁっ、動かないで、康司さん、ズボズボされたら、ああっ、お願いっ」

亮子は何とか康司から逃れようとしたが、腰を掴まれているので肉棒からは逃げられない。さらに康司は亮子の乳房にも手を伸ばしてきた。

「アキちゃん、すごいよ。最高なんだ、アキちゃん、感じてごらん、ほうら」

「だめぇ、ああぁぁっ、それっ、ああぁぁぁぁ、お願いぃ、ああっ、そこで動かれたらっ、あんっ、

おっぱいまでぇっ」

亮子は次第に康司のペースに引き込まれていき、カーペットの上と言う背徳的なシチュエーションでの結合を楽しみ始めた。

その時、ガチャガチャという音が遠くで聞こえて、女性の声も聞こえた。亮子の両親が帰ってきたのだ。二人はセックスに夢中でガレージに車を入れる音を聞き逃してしまったので両親が玄関に来てしまったのだ。

「あっ、離れて、お願い、康司さん、離れて」

「アキちゃん」えー

「早く離れて、早く、抜いて」

その亮子の言い方があまりに切羽詰っていたので、康司は行為を中断して抜き去らざるを得なかった。

慌てて起き上がった亮子は急いで康司のすぐ前でパンツを履いている。

「亮子?お友達なの?お茶を出しますか?亮子?」

階段の下から母親の声が聞こえる。ここに来て康司もやっと事態の重大性が飲み込めてきた。母親がこの部屋に来るかもしれないのだ。

「はぁい、今行くぅーっ」

亮子はそう言うと、

「康司さん、ごめんなさい。すぐに帰って」

と言った。

「うん、そうみたいだね。でも、挨拶もしなくていいの?」

「いいの。私が何とかするから。お願い」

「わかったよ」

康司は亮子の先導で部屋を出ると、玄関からすっと出て行った。ちょっとだけ亮子がどうなったのか心配だったが、あとでメールすることにしてとりあえず帰ることにした。

 

 

それからは亮子からはいくつかメールが来た。ネガが戻ってきてとても喜んでいること、康司の力添えが無かったらきっと今頃はないて過ごすことになっていたであろうこと、そして、奥野に言われたフリーペーパーの仕事に興味があること、などなど。もちろん康司もメールを返した。たぶん、送ったメールの数は亮子よりも多かったかもしれない。

康司は次に亮子を抱けるのがいつになるのか楽しみで仕方なかった。ただ、康司としては毎日でも亮子を抱きたいのだが、『いつでも』と言われるとかえって考えてしまい、亮子の邪魔にならないようにしようと思って次に会う予定をなかなか決めようとしなかった。亮子のほうからは『会いたい』というメールが来ていたのだが、奥野との連絡を先にするように言ってしまった。

それまで、昌代からメールが来てもなんだかんだと言ってはぐらかしていたのだが、亮子のほうが落ち着いたので昌代にもメールを出してみた。するとすぐに返事があり、二人で遊びに行きたいという。そのメールの後に電話も来た。夏休みももうすぐ終わりなので、昌代にとって時間が自由になるのもあと少しなのだ。新学期が始まれば、また生徒会の仕事が忙しくなるし、大学進学を、それもいいところの大学を目指している昌代にとっては夏休みはダイヤモンドのように貴重な時間なのだ。

康司は昌代に会うたびに不思議に思うことがある。昌代に会うまでは、正直、亮子と会っていた方が絶対に楽しいと思うのに、昌代に会うとすぐに引き込まれてしまい、いつの間にか昌代に夢中になってしまう。言ってみれば、今まで亮子は康司が追いかけ続けて手に入れたような気がするが、昌代はいつでも康司に合わせ、康司を受け入れてくれている。たぶん、亮子と過ごした二日間だって昌代は気づいていると思うが、たぶん何も言わないだろう。そんな昌代が康司には不思議で、そして嬉しいし可愛いと思った。

昌代との待ち合わせは浜松町の駅だった。このところ、亮子の関係で出費の続いていた康司には東京の海側に出るのは気が進まなかったが、昌代の希望なので仕方が無い。どうも、亮子に会うときと違って昌代と会うときの康司は展開が読めないので財布の心配が尽きない。

「康司さん、久し振り」

「久し振りって、3日前に会ったじゃないか」

「そうね。でも、久し振りって感じ」

「そうか」

「ちょっとだけ、あそこでコーヒー、飲まない?」

「うん、いいけど・・・・・」

昌代は改札の近くのコーヒーショップに康司を誘った。店は空いているが適当に回りは騒がしいので話をするにはいい環境だ。コーヒーを二つ注文すると、すぐに昌代は昨日から何度も何度も聞こうと思っていたことを話し始めた。

「ねぇ、ずっと一人で気にするのやだから最初に聞くけど、アキと会ってたの?」

昌代はこの件について気付いていても聞いてこないだろうと思っていた康司はちょっと意外だった。しかし、正直に答えることにする。

「・・・・うん・・・・」

「あの写真のことで?」

「そうだよ」

「やっぱりアキだったんだ。・・・・・・で、どうなったの?」

「聞きたいのか?」

「うん、だって、康司さんのこと、気になったから」

「俺のこと?」

「そう。気にしちゃだめ?」

「そんなことは無いけど・・・・」

康司は考え込んだ。あの写真のことはあくまで亮子のプライベートなのだから昌代に言うべきではないと思う。しかし、康司に抱かれてしまった昌代にとって康司が亮子と会っているのが気になるのは仕方無いし、康司としては別に隠すつもりはなかったから、ある程度は昌代にも教えなければ昌代はいつまでも引きずらなくてはいけない。

「それじゃ、教えるね」

と言うと、康司は亮子と知り合いのカメラマンを通して出版社に次号の特集を縮小するように申し入れたこと、亮子の思い通りにはいかなくてどうしようもなかった部分もあった事、翌日には訂正版をさらに出版社で訂正して版を決めたこと、などを昌代に話した。

「そう・・・・・、わかった」

昌代は寂しそうに答えるとしばらく黙り込んでしまった。実は昌代は康司が話した内容についてはほとんど興味が無かった。もともと亮子のヌードが雑誌に載るようになった経緯も知らないし、そこに康司がどんな風に関わっているかも知らなかった。もちろん、知り合いの亮子についてのことだから無関心ではなかったが、第一の関心は康司だった。だから、康司がどんな様子で話をするのか、辛そうなのか得意げなのか、困った様子なのか簡単な感じなのか、話をする康司の様子だけを観察していた。昌代にとってはそれだけで十分だったのだ。

そして昌代が感じ取った結論は、『康司さんはアキに夢中になってる』だった。それに、あの雑誌に載った写真も、どういうものかは分からなかったが、康司が深く関わっていることも明らかだ。もしかしたら康司自身が撮影したと言うこともありえる感じだった。そしてもしそれが当たっていれば、ヌード撮影をしたモデルがカメラマンに雑誌掲載の中止を依頼したことになる。その場合は康司の様子からしても二人の関係は明らかだった。

「ねぇ、康司さん、教えてほしいの」

「なんだい?」

「私を水族館に連れて行ってくれたりしたのはなぜ?」

「え、いきなりどうして・・・・」

「だって、康司さんはアキがいれば最高なんでしょ?それなのになぜ?」

いきなり核心を突然突いてきた昌代の質問に、康司は絶句してしまった。やはり昌代の勘は鋭い。ごまかすことなんてできないと思った。それに、今は昌代に振られても亮子がいると言う安心感がある。

「それはね・・・・・・、ずっと連絡が取れなかったんだ」

「アキと?」

「そう」

「いつから?」

「しばらく前」

「どうして?」

「たぶん、アキちゃんは出版社とかを回ってて、俺のことなんて考えてなかったんだと思う」

「あの写真を出したいから?」

「たぶん、想像なんだけど、アキちゃんは普通の水着の写真を売り込みたかったんだと思う。ただネガにはそうじゃないのもあって、出版社はネガを預かってそっちのほうを雑誌に出しちゃったみたいなんだ」

それで納得した。康司が突然優しくなったのも、昌代を写真のモデルに選んでくれたのも、そして優しく抱いてくれたのも。全ては亮子の代わりだったのかもしれない。『まるで私と一緒じゃない』と思った。健一を忘れたくてわざと康司に抱かれた自分と全く同じだと思った。『因果応報ってやつ?ちょっと違うか?』昌代は自分自身を笑った。

「分かった。もう聞かない」

「いいの?もっと聞きたいこと、無いの?」

「うん、今はもう十分。ていうか、ねぇ、まだ私のこと、好き?」

「もちろん。好きだよ」

「アキのこと、好きなんでしょ?」

康司は正直に答えることにした。それしか思いつかなかった。

「最初に好きになったのはアキちゃんで、その後にアキちゃんに振られたと思ったから昌代さんを好きになった。でも、アキちゃんはまた俺を頼ってきた。簡単に言えばそういうこと・・・」

「『振られたと思った』って、連絡が取れなかったから?」

「そう」

「その連絡が取れなかった後に連絡してきたのもアキ?」

「う〜んと、そうだね。連絡してきたって言うか、助けを求めてきたのはね」

「わかった。それならOK」

「なにが?」

「ううん、もう気にしない。さぁ康司さん、遊びに行きましょう」

「え?いいの?」

「うん。いいの。それ以上聞いても康司さんだって分からないでしょ?」

そう言うと昌代はさっさと二人分のコーヒー台を置いて店を出た。後から康司も追いかけていく。

「ねぇ、昌代さん」

「ねぇ、その『昌代さん』て言うの、換えてくれないかしら」

「なんで?」

「なんか、付き合ってる彼からの呼び方って思えないの。社会人みたい」

「それじゃ、なんて言えば・・・・・」

「考えてほしいな」

「うーん、どうしようかなぁ」

「切符買ってくるね。考えといて」

そう言うと昌代は切符売り場に行き、二人分の切符を手に戻ってきた。

「さぁ、行きましょう」

そう言うと昌代は康司の手を引いてモノレール乗り場に向かった。そして出発した後、昌代はそっと康司の耳元に甘えるように口元を寄せてきて、

「ねぇ、決めてくれた?」

と聞いてきた。

「『マァちゃん』でも良い?」

「うん、良い。それいい。ねぇ、呼んでみて」

「そうかな、マァちゃん」

「うん。康司さん」

 

 

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