第21部

「うん、あっ、また貝殻見っけ。ほら、こんな色してる。たくさんある。そうか、海岸じゃなくて波打ち際の海の中を見なくちゃいけなかったんだ。凄い、こんなにたくさんあるなんて」

康司は亮子が見せた貝殻から落ちるしずくが太陽の光で輝く瞬間を捕まえた。それを亮子が光にかざすと、貝殻だけではなく亮子の肌まで透けて見えるようだ。『これはいい写真になるぞ』康司は確信した。何より亮子の笑顔が素晴らしい。貝殻や木屑を使って遊んでいる亮子はまるで妖精のように見えた。とにかく自然なのだ。

しばらく撮影をしているうちに、いつの間にかまたフィルムを3本も使ってしまった。

「ん?」

「どうしたの?」

「ちょっと待って」

康司はカメラの露出計をいじっていたが、

「ちょっと休憩しようか」

と亮子を荷物を置いてある木陰に誘った。

「どうしたの?」

「アキちゃんが日焼けしてきたみたいだから、一度撮影をやめたんだ」

「あれだけがっちり塗ってきたのになぁ。これ塗ったら今まで日焼けしたことなかったのに」

「それだけここの日差しは強いってことだよ。それに、海の中に入って遊んでたから、きっと少し落ちたんだと思う」

「もう撮影はできないの?」

「後1時間ほどしたらだいぶ弱くなるはずだから、それから再開しようか」

「そう、私も一回戻れたらいいなって思ってたの。なんか水着の中に砂が入っちゃったみたいで、痛くはないんだけど、気になっちゃって・・」

亮子はそう言うとゆっくりと立ち上がって砂を払った。

「完全に乾けば、自然にとれるかも知れないけど、やっぱり一回シャワー浴びたいな」

「うん、部屋に戻るのが一番だね」

「でもあとで夕焼けも撮れる?」

「うん、たぶん大丈夫だよ」

「よかった」

康司は荷物から氷を入れたビニール袋の中の水のボトルを出して亮子に差し出した。

「あー美味しい。生き返ったみたい」

「風も少し涼しくなったね。とにかく少し休憩だ」

グァムの天気は気まぐれだ。あんなに日差しが強かったのに、ちょっと風が涼しくなって来たと思ったら雨が降り出すらしい。木陰でのんびりとジュースを飲んでいた康司があわてて荷物を片付け始めると、

「どうしたの?」

「雨が来るんだ。すぐそこまで来てる」

「そんなこと分かるの?」

「海の上を見てごらん。遠くが霞んで見えるだろ?うっすらとキリみたいなのが上下に見えるんだ」

「うん、さっきみたいに水平線が見えないもの」

「あんなふうに霞んでるのは、あそこで雨が降ってるからなんだ。どんどん近づいてる。急いで部屋に戻ろう」

二人は大慌てで荷物をまとめると、足早に部屋に戻った。雨が降り出したのは部屋に入るのとほとんど同時だった。この辺りの雨は日本のように静かに降り出したりはしない。雨が当たってきたと思ったら1分後に土砂降りになる。場合によっては通りの向こうから雨が近づいてくるのが分かるほど降り始めがはっきりしている。

日本では体験できない猛烈な雨を窓の外に見ながら亮子は、

「これじゃ撮影は少し延期ね」

と残念そうに言うと、

「シャワー浴びてくる」

と言ってバスルームに消えた。

亮子がシャワーを浴びている間も康司にはやることが多かった。フィルムを整理して新しいフィルムをすぐに撮影できるように用意し、カメラに砂や海水が入っていないか点検し、バッテリーを点検する。カメラマン一人しかいない撮影なので光を反射させるレフ板を使えないからストロボはフル稼働だった。しかし、大光量ストロボをもってしても太陽の光には遠く及ばない。あっという間に空になった電池を交換しながら、どこまでストロボの光で影を補正できたか自信が持てなかった。

「康司さん、カメラの方、終わった?」

「うん、もう終わりさ。それじゃ、朝みたいに洗面台の前で腕をまくって」

「え?また撮るの?」

「そう、朝は言わなかったっけ?洗面台は一日中外の光が入ってこないから、ここで写真を撮ればいつでも同じ条件で写真が撮れるんだ」

「どういうこと???またカメラの調子を確かめるの?」

「それもあるけど、一番の目的はアキちゃんの肌。ここで写真を撮れば日焼けしていても一発で分かるからね」

康司はそう言いながら何枚か写真を撮った。

「どう?日焼けしてる?」

「うん、バッチリしてる」

露出計を眺めながら康司が言った。

「そんなぁ、あれだけ気をつけたのに」

「仕方ないよ。グァムに来て完璧に日焼けを防ぐなんて無理なんだ」

「でもぉ・・・・」

「大丈夫、まだそれほど大きな違いじゃない。でも、前ほど肌が透き通っていないんだ。つまり日焼けが始まったってこと。色も赤いだけじゃなくて少し茶色になってきてる。でも見た目で簡単に分かるくらい日焼けするには明日くらいまでかかるよ。まだそれほどじゃないから安心して良いよ。それじゃぁ、次にお腹を見せて」

亮子は言われたとおり、Tシャツをまくり上げてお腹を見せ、写真を何枚か撮らせた。

「え?康司さん、朝もこれ撮った?お腹なんか撮らなかったと思うけど???」

写真を撮り終わった康司は、

「そう、単に言ってみただけ。アキちゃん、簡単に引っかかるんだもんな。洗面台でお腹を見せてる写真なんて、そんなにとれるモンじゃないから〜。ワーイ、得しちゃった〜!」

「なんですって!ちょっと、康司さん、待って!!!待ちなさい!!」

亮子は部屋中康司を追いかけ回し、フィルムを抜き出すと言って怒った。そして、康司がちゃんと謝るまで一言も口を利かなかったし、窓の外を向いて一歩もベッドから動かなかった。撮影時間を気にしていた康司が、最後に『ごめんなさい』と言ってフィルムを差し出すまで許さなかった。そして、

「あのね、フィルムの現像には私も立ち会うから、良い?」

と康司に念を押した。

「う・・・うん、一人の方が簡単でいいんだけど、仕方ないね」

「それだけじゃなくて、ほかのも全部よ」

「ええっ?だって・・・」

「ほかにも嫌らしいショットがあるかも知れないから、いいわね」

「わかったよ・・・」

「ほんと?」

「ああ、そうするよ・・・」

康司が力無く返事をした瞬間、亮子の顔が勝利の笑顔でいっぱいになった。

「やったぁ!これでまた教えてもらえる。遊園地の写真みたいに。また康司さんと写真を一緒に作ってみたかったんだ。約束よ」

一瞬で笑顔に戻った亮子を見て、康司は『しまった』と思った。

「もしかして、アキちゃん、それをねらってたの?」

「そうよ?気がつかなかった?だって、ただ一緒にやりたいって言っても、時間がかかるから忙しいとか何とか言って、なかなか一緒にやってくれないでしょ。もう、康司さんて簡単に引っかかるんだから、やったぁ〜!自分の写真を自分で現像できるんだ。すっごい楽しみ!」

「あ〜あ、アキちゃんの方が年下なのに、なんか完全に負けてる感じ。1点取ると3点くらい取り返されるような気がするなぁ」

「女の子はそういうものなの。覚えておいた方がいいわよ」

「なんてこった・・・騙されるのは笑顔だけじゃないんだ」

「何か言った?」

「イヤ、何も・・・」

目の前で自信ありげに微笑んでいる亮子を見て、これが自分の腕の中で可愛らしくキスをしている亮子と同一人物とはとても思えなかった。

「ねぇ、康司さん、少し休んでもいい?雨が止むまででいいの。ちょっと疲れちゃって」

そう言って亮子がビキニの上にTシャツを来たまま戻ってくると、ベッドにどさっと横になった。

「うん、そうだね。少し休んだほうがいいよ。雨が止んでもまだ日差しが強いから」

「一緒に寝て」

「うん、今行く」

そう言うと康司は手早く後片付けをして、次の撮影をすぐに始められるようにしてから亮子の横に行った。康司が下着姿で亮子と同じベッドに入ると、亮子は自然に康司の腕に抱かれる。

康司はこのまま亮子の身体を愛したかったが、それでは身体を休めたいと言っている亮子が可愛そうなのでじっと我慢していた。しかし、好きな子を抱いていながら何もしないというのはかなり辛い。

「康司さん、何もしないの?」

じっと康司の腕に抱かれていた亮子が小さな声で言った。

「だって、アキちゃんが疲れると思って・・・」

「もうすぐお別れなのにね・・・」

「え?何のこと?」

「明日、日本に帰って・・・・」

「アキちゃん、お別れってどういうこと?」

康司はびっくりして聞き返した。その様子に亮子もハッとしたらしい。

「ううん、なんでもない」

「なんでもないって・・お別れって・・」

「ううん、忘れて。少しセンチメンタルになったみたい」

「アキちゃん、日本に帰ったら・・・」

「忘れて、お願いだから。ね?一緒に写真作ってくれるの楽しみにしてるから。約束よ」

亮子は康司の首に手を回してキスをせがんできた。康司がキスをすると情熱的に返してくる。お互いの舌が絡まり合い、うっとりとした時間が流れた。康司の身体は正直に反応し、それは抱き合っている亮子にはっきりと伝わったようだ。

「康司さん、いいのよ。私は。しても」

「だってアキちゃん・・・」

「いいの。優しくして。今ちょっと悲しくなったから、それを追い出したいの」

「う・・ん・・・」

康司はさっきの亮子の言葉が気になってすぐにその気にはならなかったが、亮子は康司の手を胸に導いた。

やっとその気になった康司が亮子をそっと仰向けに寝かせ、そっとTシャツを脱がせる。そしてかわいらしく盛り上がった膨らみを覆っている布地の上をそっと撫で始めると、

「好きよ」

と亮子がポツリと言った。

「アキちゃん、好きだよ」

康司もそう言いながら布地の中から突き上げてきた小さな突起を丁寧に指で愛撫する。

「あ・ああぁ・・・康司さん・・・優しくね。夜になったらいっぱいするから、今は優しく・・・ああん・・・康司さん・・・」

「うん、わかった」

「一回だけよ。でも・・・ああん、身体が・・・」

「感じてきた?」

亮子は目をつぶったまま、

「脱がせて」

と言った。

 

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