第3部

 昌代が玄関で靴を履き替えて一足先に外に出ると、一人の女生徒が向こうを向きながら誰かを待っているのが見えた。昌代はドキッとした。今野亮子だった。今は亮子に会いたくなかった。今は身も心もボロボロなので、一人でじっとしていたかった。外に出ようかどうしようかと迷っていると、康司が奥から出てきた。そのまま昌代の前を気づかずに通り過ぎ、外に出ると、

「ごめん、待った?」
と亮子に声をかけ、二人で歩き始める。
「女の子を待たせるもんじゃありませんよ」
亮子がかわいい声で拗ねている。昌代にはこの光景が信じられなかった。いつの間に亮子と康司が付き合っていたのだろう?しかし、昨日、亮子は本気で昌代のことを心配してくれた。あれは嘘だったのだろうか?そんなことはない。それならこれは何なのか?頭の中がしばらく混乱した。

しかし、今までのことをよく考えてみると、亮子は昌代の味方だった。昨日電話で話したとき、明日は午後も残ると言ったような気がする。昌代の様子から、亮子は心配して学校まで様子を見に来たのだろう。昌代の靴があるのにどこにもいないので、多分亮子は康司を連れ出すことで昌代を助けてくれたのだ。そう思い当たると、すでにボロボロにされた心の中から小さな嬉しさ沸き上がる。自然に涙が出た。

しかし、一人で駅まで歩きながら、亮子には康司に脅されていることは言っていなかったことに気が付いた。単になかなかネガを返してもらえないと言っただけなのだ。それだけのことで亮子がどこまでしてくれるのか、昌代はまた不安になった。
「ごめん。急いで片付けてきたんだけど」
「ま、私の方から急に言ったんだから、いいか。いままで暗室にいたの?」
「そう、狭い部屋だし、薬品の匂いがして空気が悪いから、さっきは深呼吸に部屋を出てきたところだったんだ」
「写真の現像って難しいの?興味はあるんだけど全然知らなくて」
「いや?白黒なら自分の家でもできるよ。暗室になる暗い部屋が必要だけど」
「難しくないの?」
「う〜ん、何て言うかなぁ。写真を現像して焼きつけるだけなら小学生でも簡単にできるよ。でも、良い写真を作ろうと思うと、どっちかって言うと腕よりも感性の問題だね」
「あの、もらった写真。ありがとう」
「ああ、あれか。気にしなくて良いよ。たまたま良く撮れただけだから」
「良くあんな写真撮れたなって、感心しちゃった」
「応援合戦でのチアガールは、基本的に同じ動作を繰り返すだろ?だから、いつ飛び上がるかは注意してみればすぐに分かるさ」
「でも、あんなに飛び上がってた?」
「もちろん。だからおへそまでしっかり写ってたんだ」
「あの体操服、買ったばっかりで少し大きくて・・、気にはしてたんだけど。あんなにまくれ上がってたなんて」
「気にしない気にしない。ちょうど一番きれいなラインで写ってたからあげる気になったんだ。単におへそやアンダースコートが写ってるだけならあげたりしないよ。変に盗撮と間違えられると嫌だから」
「でも、結構嬉しかったな、全然嫌らしくなくて。何か球技大会って感じで。本当に真剣な表情で写ってるんだもん。あれを見るたびにがんばったんだって思えるから」

「そう、色が白いって写真写りが良いから得だね。今野に合わせて写真の露出を決めたから、両側はどっちかって言うと引き立て役みたいだ」

「私に合わせたって?どうして両側の子と違って見えるの?」

「それは、それぞれの肌の色によって・・・・」
それからも亮子は康司に写真の話をいろいろ聞いた。亮子は写真のテクニックに付いては素人だったが、康司が驚くほど真剣に話を聞いた。二人は話をしたまま電車に乗り、康司の降りる駅に着くまでずっと話しっぱなしだった。
康司が降りようとすると、亮子はあわてて、
「明日の朝8時半に経堂駅前のファミマで待ってる!」
と言うのとドアが閉まるのが同時で、それが二人の約束になった。

翌日の日曜日、康司は早めに家を出て、約束の20分前には待ち合わせのコンビニに着いていた。雑誌を読みながら亮子が来るのを待つ。今日は何人で行くんだろう?そんなことを思いながら時間をつぶすが、時計がなかなか進まないので少し苛々する。待ってもそれらしい高校生は誰もいなかった。ちょっとだけ不安になる。そして時計の針がゆっくりと動き、やがて亮子が現れた。
「おはよう、安田さん」
「おはよう、まだ誰も来てないよ」
「そうです、これで全員!」
はじけるような笑顔で亮子が答えた。康司は面食らった。まさか、こんなに突然デートが実現するとは本当に思っていなかった。今までは、誰かの引き立て役か単なる付き添い、上手くいって人数あわせの友人だった。ワンダーゾーンまでの電車の中で、康司は率直に聞いてみた。
「最初に聞くけど、誘ってくれたのはあの写真のことがあったから?」
「え?そう・・・、じゃぁ、こっちもはっきり言うけど、それもあるの」
「その他は?」
「安田さんと行きたかったから誰にも声をかけなかったの。昨日、話をするまでは中学の頃の記憶しかなかったけど、話していると何だかあの頃を思い出して安心できて楽しかったから」
「ほんと?」
亮子はくくくっと小さく笑った。これ以上は聞いても無駄だろうと思った康司はとりあえず話題を他のことに変える。亮子は昨日のように康司が驚くほど写真のことを色々聞いてきた。
やがて駅に着くと、二人はドッと外に押し出された。康司は、
「ちょっと横で待ってて」
と言って階段に向かおうとする亮子を引き留め、ホームの人通りが少なくなってからホームの上で亮子の写真を撮った。駅の風景が田舎めいているので、上下共に明るい黄色でまとめた色白の亮子の姿が引き立ったはずだ。
ワンダーゾーンを歩いている二人の姿はどう見ても恋人同士だった。康司は亮子の写真をあちこちで撮った。亮子は嫌がる風でもなく、却って喜んでいるようだった。

「ダークゾーンクライシスって、思ったほどじゃなかったな。もっとすごいものかと思ってたのに。あれで本当は500円でしょ、高過ぎよ」

「そうだなぁ、あれじゃ500円は無理だ。せいぜい割引の300円が良いとこだ。3Dになってるのはまぁポイントだけど、今時それだけじゃぁねぇ。あ、そこのぬいぐるみの棚をのぞいてくれる?できれば一つ手に取って」

康司は素早く太陽の方向に回り込むと構図を決めて素早く2枚撮った。

「もう撮っちゃったの?まだ心の準備ができてなかったのに」

「スナップって言うのは自然な表情が一番なんだ。今、ぬいぐるみとにらめっこしてたろ?その瞬間が一番良かったよ。思わずアップにしちゃった」

「ええ!あの顔をアップにしたの?カメラ壊れても知らないから」

「大丈夫、自然な表情って言うのをあとで見せてあげるよ」
「なんか、専属のカメラマンと撮影に来ている見たい。有名人になった気分」

亮子は予想以上に康司と過ごす時間が楽しいことに驚いていた。昨日誘ったときは、正直に言うと、康司が亮子の予想を裏切るようなことをしたときに、どんな風に切り上げて帰ろうか、そればかり考えていた。亮子から誘っておいて、1時間やそこらで帰るのは不自然だし、康司に余計なことをあとで言われたくなかった。しかし、今は前に彼未満の友達と来たときよりもずっと楽しい。康司は亮子の興味をしっかり受け止めてくれるのに、二人の間に微妙な距離を保っていてくれる。たぶん、カメラマンとしての距離なのだろうが、その距離が亮子には心地よかった。
「これでも専属のカメラマンさ。今野のためだけに来てるんだから」
「そんなこと言って喜ばせようったって、そうはいきませんよ」
「嬉しくないならやめるよ」
「そんなぁ、せっかく人が良い気持ちで撮してもらってるのに」
「何だ、それなら素直にそう言えばいいのに」
「素直じゃなくて悪かったですね」
「いや、そ、そんなことは・・・ごめん」
笑顔から急に落ち込んだ康司の姿を見て、亮子は謝った。
「ごめんなさい。私、素直じゃないから・・。機嫌を直して、安田さん。そうだ、あそこのミリオンミラーって言うのに行ってみない?」
亮子は康司の手を引いて歩いていった。どうやらスリラー館の一種らしい。チケットを出して中に入ると、最初は明るいガラス張りの廊下だった。プリズムのように2m位の高さのガラスが全て60°の角度で配置してあり、ガラス中には鏡が混ざっているので自分の進む道が分かりにくく、ガラスの部屋中を手探りで進んでいく。次第に薄暗くなってくると、前を進む人の悲鳴が聞こえてきた。
「私、恐がりなのにこんなの好きで・・・、でも、怖い・・、安田さん、先に行ってくれません?後から付いていくから・・・」
「それじゃ、答を見てから問題を解くようなもんだろ?ちゃんと自分で前に進んだら?俺はどっちでもいいけど」
「安田さんは怖くないの?」
「怖いって言うよりは、ガラスや鏡の使い方に興味があるね」
「そうなの・・・・」
がっかりした亮子がおそるおそる進んでいくと、なんか嫌な雰囲気の場所に出た。周りが全て鏡張りで何人もの亮子が写っている。すると、写っている亮子の顔と手だけがスーッと消えた。
「きゃーっ、いやー」
「おおっ、すごい。どうやっているんだろう???」
数秒の後、亮子の姿がもとに戻ると、鏡の1枚がスッと開いて新しい道が現れた。
「気持ち悪ぅー」
「凄かったね、どうやっているんだろう?液晶を組み合わせているとは思うけど」
「凄くなんて無い!ただ気持ち悪いだけ」
亮子の声は少し震えていた。次の仕掛けはもっと凝っていた。亮子が歩こうとする行き先が鏡になったりガラスになったりを繰り返すので、どう進んで良いか分からなくなる。何とか手探りで進んでいくと、正面の鏡に写っている自分の顔はどんどん皺だらけになり、とうとう怪物のようになってきた。
「ダメ、これ以上見れない。安田さん、連れてって」
我慢できなくなった亮子は目をギュッと閉じて康司に手を伸ばしてきた。
「それにしても良くできてるなぁ。CGがこんなことに使えるなんて」
康司は能天気に目をつぶった亮子を引っ張って進んでいく。
「ほら、もう少しで終わりだよ」
進む道が直線になり、遠くから外のざわめきが聞こえてくると、やっと亮子は少し安心した。そっと目を開けてみる。ところが、通路の鏡に写っていた自分や康司の服は自分たちのものなのに顔や手は半魚人のものだった!
「いやぁっ!」
亮子はいきなり康司を思い切り突き放すと、勢い余って後ろの鏡にゴンと頭をぶつけ、フラッと座り込んでしまった。
「だいじょうぶですかぁ?」
突然、間の抜けた声が頭の上からした。見上げると、二人のいる通路の上が吹き抜けになっており、鏡の通路の上でパソコン一式の前に座っている係員が二人、上から見下ろしていた。
「だ、大丈夫、で・・。で、出よう・・よ」
亮子は康司に支えられながら出口に向かった。
「だから、あれはやりすぎだって言ったろうが」
「はぁ、すみません」
そんな別の職員の声が後ろから聞こえてきた。
「あーびっくりした。あんな気持ち悪いとこ、もう二度と行かない」
「そうだね。頭もぶつけたし」
「そう。少しこぶになっちゃったみたい。ほら」
亮子はうつむいて康司にぶつけたところを見せた。
「大変だ。病院に行かなくちゃ」
「なに言ってんの、大げさな。こぶくらいで」
「冗談冗談、でも、ほんとに大丈夫?」
「あー痛かった。でも大丈夫。さ、次に行きましょ」
「あ、中で写真取るの忘れた」
「良かった。あんなとこ撮ったたら許さないから」
「泣き顔を撮り損ねたわけだ」
「あのね、そういうこと言うと女の子に嫌われるのよ。次は気分転換にビッグ15に乗らない?」
二人は観覧車乗り場に向かった。一周15分かかると言うだけあって、大型の観覧車の前にはかなり列ができていたが、おとなしく並んで待つことにした。並んでいる間に康司はオレンジジュースとカステラサンドを買って来た。それを持って乗り込み、二人で食べながら優雅な空中散歩を楽しんだ。

康司は、亮子が自分をカメラマンとして見ていることに気が付いていた。だから、あまりどうしてどうして、とは聞かなかったが、何となく康司本人よりも撮影される写真の方に興味があることに気が付いていた。しかし、目の前で無邪気に笑っている亮子は康司をどんどん引きつけていく。こんな子がガールフレンドだったらどんなにいいだろう、と思わずにはいられなかった。


美味しそうにカステラサンドにパク付いてキョロキョロ外を見回す亮子を見ながら、康司は言った。
「今野は観覧車が好きみたいだね。よくこんなとこ来るの?」
「そんなに遊んでるように見える?久しぶりなのに。昨日も言ったでしょ。来たかったけど今まで連れがいなかっただけ」
「だけど、こんなにかわいいんだから、誰だって声をかければ即OKだろ?」
「そんな訳ない。それに、誰だっていいって分けにはいかないし・・・」
「え?どういうこと?」
亮子は黙ってしまった。しかし、怒っている風には見えない。康司に好意を持っていると言うことだろうか、そんなことも考えては見るが、とても信じる気にはならなかった。

しかし、亮子は康司のことを本当に気に入っていた。とにかく亮子が自然でいられるのにとても楽しい。『カメラマンが彼?彼がカメラマン?どっちがいい?どっちでもない?』康司に借りたカメラのファインダーから康司を見つめながら、亮子は考えていた。

「あ、あっちをバックに撮りたいな、ちょっと貸して」

康司が手を亮子に手を伸ばそうとした瞬間、亮子はシャッターを切った。その瞬間が彼女の気持ちを決めた。

 観覧車を降りると、亮子は康司の横にぴったりならんで歩いた。そして少し言い難そうに、
「あの、ね・・手をつないでも、いい?」
康司はちょっとビックリしたが、黙って亮子の手を握った。亮子にその日最高の笑顔が浮かんだ。それからも康司は亮子の写真を何枚も撮った。たちまち36枚撮りのフィルムが空になり、新しいフィルムと交換した。亮子は康司の言うままに軽くポーズを撮ったり、カメラに向かって笑いかけた。『これはいい写真集になる』康司は直感した。この写真はもともと亮子にそのまま渡すつもりだったが、構成次第では市販のものに負けない良い写真集ができ上がる気がした。亮子はとても楽しそうだったし、何よりも自然にこぼれ出る笑顔がファインダーの中で輝いていた。

 夕方も4時を過ぎた頃、康司は残り時間が気になってきた。こんな楽しい時間を過ごしたのは生まれて初めてだったので、いつ帰るか気になってきた。
「今野は何時までいられる?何時にここを出ればいい?」
「あの、写真の現像ってすぐにできる?」
「ああ、できるけど、すぐに欲しい?」
「すぐにって言うんじゃなくて、何て言うか、明日でも良いんだけど、身近に感じたくて。変な言い方。でも、普通の60分フォトじゃなくて、もっと自分で大切にできる写真が欲しくて。あの、分かる?」
「うーん、待って、考えるから」
康司はしばらく考え込んだ。やがて、
「少し早めにここを出ても良いなら、もしかしたらそれに近いことができるかも知れない。何時までに帰らないと行けないのか教えて」
「電話するにしても家に8時前には帰らないと」
「8時前ねぇ、聞いてみるか」
そう言うと、電話をかけて何か予約のようなものをしているようだった。携帯を切ると、
「今からすぐに出れば間に合いそうだよ。もう出てもいい?」
と亮子に聞いた。
「ええ、良いけど、これからどこか行くの?」
「そうだよ。俺に任せてみる気、ある?」

康司の自信に満ちた顔を見て、亮子は思いきってまかせてみることにした。
「うん、もちろん。それじゃ、もう出たほうかいいね」

『どこに行くんだろう?学校に行って暗室で現像するのかな?でも、電話してたよね。どこだろう?』康司の自信に満ちた顔とは反対に、亮子の表情には少し不安が浮かんでいた。
二人は歩き出した。出口近くに出ている売店で、康司は急に足を止めると、目に付いた小さなぬいぐるみの付いたキーホルダーを買った。
「あの、これ、良かったらもらってくれない?」
「え?私にくれるの?わぁ、嬉しい。ありがとう。これ、かわいい」
「今野の方が上だよ」
「え?・・・ありがとう。大切にする」
亮子は朗らかな笑顔で微笑んだ。笑顔の横でキーホルダーを揺らしている写真が、その日の最後の一枚になった。

 

二人はそれから1時間半近くかけて秋葉原の近くまで出てきた。亮子は康司と話していたので退屈はしなかったが、朝からずっと立ちっぱなしだったので少し足が痛くなってきた。もう、どこかに入って休憩しよう、そう思った矢先、康司は一軒の大きなカメラ屋の中に亮子を連れて入った。
そのまま店の中を通り抜けると、奥の受付に行き、何かを書き込んで鍵を受け取る。なんか怪しげな雰囲気だ。店の奥から変な色の壁の階段を上がって2階に上がり、うす暗い廊下を通って一つの部屋のドアの鍵を開けた。
「さぁ、ここだよ」
康司は亮子を招き入れようとした。しかし、薄暗い廊下と黒づくめの廊下の内装が亮子の足を止めた。
「安田さん、これ、どこ?」
「入れば分かるよ」
康司はさっさと入ってしまった。亮子は入り口からそうっとドアを開けて中をのぞき込む。中には何やら色々な機械や棚が並んでいた。しかし、どうやら怪しいところではないことに安心した亮子はやっと中に入った。
「信用無いなぁ。ホテルだとでも思った?」
康司が笑った。
「ううん、だって、教えてくれないんだもの」
「プライベートフォトスタジオって言うんだ」
「自分で現像するの?」
「そう、自分の好きなように写真を仕上げたい時に使うんだ」
「もしかして、ここで今日の写真を作ってくれるの?」
「そう。さて、早く始めないと間に合わないよ。時間は1時間半しかないんだ。次の予約がもう入ってたけど前に割り込ませてもらったんだ」
「どうするのか、見てていい?」
「もちろん、見てるだけじゃなくて、色々言ってくれないと良い写真はできないよ」
康司は手早くパトローネを取り出し、フィルム現像機にセットした。
「まずは15分待って。フィルムの現像だけ先にオートでやっちゃうから」
そう言うと、パトローネを放り込んでスイッチを押した。亮子にはこんな大きな機械を普通に使える康司が信じられなかった。機械が動き始めると、つかの間のきまずい時間が流れた。
「あの、さっきはごめんなさい」
「何のこと?」
「私、信用してなかったわけじゃないけど、なんか怖くなっちゃって」
「ああ、この部屋のこと?気にしてないよ。ここに、きっとベッドとかあったら、放り出して帰ろうとでも思ってたんだろ?ま、誰だって心配するよね」
「分かんないよ」
「ン?何が?」
「え、何でもない。忘れて」
「それじゃあ、これからすることを説明するね。まず、フィルムを現像したら、それをデジタル処理して画面上でどんな写真になりそうかを見るんだ。それから、どんな風に焼くかを決めて、実際に焼き付け、現像をするんだ。その時に、大きい方が良いとか、こんな処理がいいとか言ってくれると、その通りに仕上がるよ」
「私、良く分からないんだけど・・・」
「何枚か焼けばすぐに分かるようになるさ。これは技術の問題じゃなくて感性、想像力の問題だからね。美術は好き?」
「うん、見るのは好き。特に写真は」
「それなら心配ない。実力を発揮してね」
フィルムの現像が終わると、康司はCRT上でネガの色を反転させ、写真と同じ状態を作り、亮子に説明を始めた。
「この写真、朝、駅で撮った写真は少し強く焼いて周りを暗めにしよう。今野が明るくて黄色い服だからきっと目立つと思うんだ。こんな風に。黄色って言うのは肌の色と近いから、ふつうの人だと肌と服との境がはっきりしなくてぼやけた感じになりがちだけど、今野は色が白いからきれいに写るね」

「そうか、これ、私のお気に入りなの。気に入ったのにはそんなわけがあったんだ」

「でも、標準の露出よりも少し濃い目にした方が良いような気がするんだ」
康司がキーボードを叩くと画面が少し暗くなった。

「どう?引き立った気がしない?普通の露出とどっちが良い?」
「元に戻してみて?うーん、どっちも良いけど、朝だから普通の方が良いかな?朝らしくて」
「それもそうだ。なかなかやるじゃない。セピアにするとこんな風になるよ」
「わぁ、ドラマみたい。これもいいね。これと普通のと2枚作れる?」
「もちろん。ほら、はい、できた。あとは自動で現像と定着をやって、そっちの口から出てくるからね。じゃあ、次だ」
康司は次々と写真を焼いていった。亮子の感性は康司が舌を巻くほどで、亮子の意見を採り入れて焼いたものはどれも素晴らしい写真の仕上がりだった。特に色のバランス感覚が素晴らしい。特に良くできた3枚は6切りサイズに引き延ばした。また、バラの花壇で撮ったものは周りを丁寧にぼかして真ん中の亮子だけが浮かび上がるようにした。
 あっという間に時間が過ぎていった。全部焼き終わったとき、予約した時間は5分も残っていなかった。康司はあわてて片づけ始める。
亮子は写真を一枚ずつ大切に簡易アルバムに入れると、康司に言った。
「ありがとう。こんなにすてきな写真を作ってもらえるなんて、本当に。あんまり嬉しくて、へへ、涙が・・。だって、子供の時から・・・」
「ん?子供?ま、良かったね。でも、良い写真ができたのは今野が最高のモデルだったからだ。いい笑顔を見せてくれたから良い写真ができたんだ。これだけは間違いない」
「ありがとう。大切にする」
亮子はそう言うと、康司に近づいてきた。自然に康司の腕の中に入ってくる。
「本当にありがとう。安田さんに連れてきてもらって本当に良かった」
亮子は康司の腕の中で囁くと、ほっぺたにチュッとキスをした。

「やっと願いが叶ったって感じ、かな。嬉しいんだ」
康司は、唖然としてそれを受けた。そんなに亮子に感謝されるとは思っていなかったので、どう受け止めて良いのか分からなかった。
 部屋を片づけると下で料金を払い、外に出ると時間は既に7時だった。もう帰る時間だけでぎりぎりだ。
「あの、安田さん、あさって、時間ある?良かったら、この写真についてもっと良く教えて欲しいんだけど」
「あさって?いいよ。どこにしようか?」
「安田さんの家に行ってもいい?」
「ん、いいけど、どうして?」
「安田さんの部屋を見てみたいの。それから決めます」

亮子は表情を引き締めて言った。
「何を決めるの?」
「今はまだ言えない。言うかも知れないし、言わないかも知れない。ちょっと安田さんを試験するの。私の望みを叶えてくれる人かどうか」
「何のこと、なんて聞いても教えてくれないよね。わかった。火曜日に家においでよ。俺の家は共立学園前だから、そこの改札で4時半に待ってる」
「うん、楽しみに待ってる」
二人はそんな話をしながら家路についた。

 月曜日、昌代はうつろな目で授業を受けていた。恋人の健一が昨日の日曜日に誘ってきたが、体調が悪いと言って断ってしまった。健一に合わせる顔などあるはずがなかった。しかし、あまり不自然な態度を周りにとるとよけいに詮索される。だから、今日はいつも通り、健一と登校してきた。しかし、気分は更に滅入るばかりだった。

昨日、家にいても、康司からいつ呼び出しの電話がかかってくるかと思い、ビクビクして部屋に閉じこもっていた。しかし、部屋を空けた間に家に電話がかかってきたらと思うと外出する気にもならなかった。

 昼休み、トイレの帰りに玄関の下足箱を覗くと、恐れていたものが入っていた。あの写真が1枚と小さなメモ。『夕方4時半に共立学園前の改札で待つ KJ』ふらっと崩れ落ちそうになった。しかし、今日は暗室ではないのだから、何か用事を言いつけられたり、小遣いをせびられる程度で済むかも知れないと思った。その方がよっぽどマシだった。

 しかし、残念ながらそうはいかなかった。改札で待っていた康司は、そのまま昌代を自分の家に連れていった。康司の両親は、繁華街で焼鳥屋をやっていた。だから午後に出かけて朝方帰ってくる。兄弟のいない康司は夜はいつも一人だった。

 誰もいない家に入ると、康司は昌代を二階の自分の部屋に入れた。意外と綺麗に整理されている部屋だった。そして、昌代が探していた最も恐れるものが部屋の隅のベッドのヘッドボードの棚に積み上げられていた。それを見た昌代はそのまま部屋から飛び出しそうになった。

「6時までだ」

康司はそう言うと、昌代を引っ張るようにしてベッドに連れていった。

「ほら、探せよ。但し、ベッドの上から降りるんじゃないぞ」

康司は嫌がる昌代をベッドに押し上げると、セーラー服のリボンに手をかけた。あわてて昌代は俯せになって胸をガードすると、身体を揺さぶって嫌がりながらもネガを探し始めた。康司は焦らなかった。ゆっくりと背中を撫ながら、

「ほんの1時間ほどだ。すぐに終わるぞ」

と言い、昌代の髪を掻き上げるとうなじに舌を這わせた。ぞっとするような悪寒が走り、身体が硬直する。俯せで両手をすぼめて固く胸をガードするが、ネガを取るときには両手を使わなければならない。おそるおそる両手を差し出すと、そこに康司の手が差し込まれ、嫌がって身体を揺する昌代を無視するようにリボンを外し、ホックを外してセーラー服のジッパーを降ろしてしまう。

「いやぁ、いやっ、いやーっ」

「学校の暗室の方がいいか?そっちが良ければそうするぞ?でも、こっちの方がいいんじゃないか?誰にも見られないし声を聞かれる心配もない。よけいなネガの数もこっちの方が少ない。言っておくけど、ちゃんと全部ここにあるからな」

康司はそう言いながら、昌代の服を脱がせていった。巧妙に作られた地獄に昌代ははまり込んでしまった。確かに、これだけの量のネガなら1時間ほどで全部見られそうな気がした。どうせ康司におもちゃにされるなら、その間に少しでも探し出した方がいい、そう思うと意識をネガに集中した。

しかし、ここにはネガのビューワーがないのでネガがはっきりと見えない。似たような景色が写った膨大なネガの中から探すので、どうしても識別に時間がかかる。暗室に比べて倍以上の時間がかかりそうだった。

康司は、上半身を脱がせてから昌代の背中にゆっくりと指を這わせ、肌の感触から楽しみはじめた。しかし、昌代は意識をネガに集中していたので、最初は全く感じなかった。だが、時間が経つに連れて次第にそれがくすぐったくなり、だんだん甘い感触に変わり始めた。康司がブラジャーのホックをパチッと外し、露わになった背中に舌を這わせると、

「はあぁっ」

と甘い声が出てしまう。昌代自身が自分の反応の大きさに驚いた。土曜日よりも体が強く反応するようだ。何とか康司の愛撫を無視しようとするが、身体は次第に感じ始めていた。

「はあっ、ああん、はっ、ううん、あーっ、いやぁ」

昌代は身体をねじって逃げようとするが、あまり身体をねじるとネガを見られなくなる。今日は声を出しても気にする必要がないのが救いだ。たぶん、俯せのままなら何とか耐えられるかも知れないと思った。しかし、康司は昌代のスカートをめくり上げると、パンツの上から尻を撫で始め、そのまま尻の方から指を布地に沿って入れてきた。あわてて尻をキュッとすぼめた昌代の身体がビクンと反応し、強い感覚が沸き上がる。

「アアッ、そこはダメェ」

「感じてきたのか?」

「そんな訳ないでしょ。反応しただけよ」

「そうか、じゃあ、もっと反応させてやるよ」

康司はゆっくりと指を上下させ、布地の上から秘核を愛撫した。たいした強さではないのだが、それだけに絶妙の感覚が沸き上がってくる。焦れったいような、甘い感覚が昌代の身体をゆっくりと包んでいく。

「お、濡れてきたんじゃないのか?微妙に動いてるぞ」

「そんな訳ないでしょ」

昌代は1枚のネガを康司に見せた。

「当たりだ。よかったな」

康司は更に秘核の辺りをゆっくりと撫でながら背中に舌を這わせた。

「はあぁぁぁぁ、いやぁぁぁ、あうぅぅぅ」

昌代の身体がどうしようもなく悶え始める。尻に差し込まれた指から快感を作り出そうと自然に尻はもじもじと動き回り、少しずつ突き上げられていく。康司は充分に尻が高くあがったところで、腰に手を入れ、グイッと持ち上げて四つん這いの格好をとらせた。

「いやっ、それはいや」

昌代はすぐに俯せに戻ろうとしたが、

「ダメだ。ネガを見るのを妨害してはいない。この格好で探すんだ」

と康司に拒絶された。康司は更に昌代のスカートに手をかけ、パンツ1枚の格好にする。昌代の四つん這いの姿はわずかにふっくらとした身体のラインときゅっとくびれた腰、更に形のいい尻を強調する格好だった。腰がくびれて尻が張り出し、胸の膨らみは肘をついてネガを見ているので先端がベッドに押しつけられて少し横につぶれている。

 「いや、許して、はうぅぅ、アアン、いやよぅ」

昌代の声は既に充分艶を帯びて甘いものに変わっていた。明るい部屋で裸にされて四つん這いになっているのだ。自分の情けない格好を想像し、さらに喉からでてくる声の甘さによけいに悲しくなる。しかし昌代の悲しみを無視するように康司はそのままゆっくりとパンツを脱がしていく。白のパンツの中から熱気を帯びた秘唇が現れた。康司はパンツを脱がし終わると、昌代の足を開いて秘唇の姿をじっくり鑑賞する。

「いや、いや、見ないで、息をかけないでいやぁ」

「もうすっかり濡れてるじゃないか。感じたいか?」

「いやぁ、そんなわけないでしょ、やめなさいよ」

「指と舌とペニスとどれがいいんだ」

「いやだってば、はあぅぅ、息をかけないで・・」

「まだ触ってないぞ。どれ」

康司は、両手で尻を掴んで親指を秘唇の両側に当て、ゆっくりと尻ごと開いて中を見た。綺麗なピンク色をした秘唇の中心に、少し色の変わった中心核が見え、その下のスリットからは少しずつ液体が出てきているようだ。

「いや、そんなのいやぁ、見ないで、お願い」

「それならこうするか」

康司はそのまま尻ごと開いた秘唇の近くに指を当てて、全体を何度も開いたり閉じたりしながらマッサージするように両側の秘唇をゆっくりと擦り合わせる。

「ああん、そんな・・こと・・あうぅ、・・・しないで」

昌代はゆっくりと沸き上がってくる快感に次第に押し流され始めた。嫌なのだがソフトな快感なので、どうしても感覚を拒絶できない。

「次は指だな」

康司はゆっくりと指を這わせ、秘核の周りをたっぷり時間をかけて撫で始めた。強烈な焦れったさが昌代を襲う。思わず腰を振りそうになる。秘口からはたっぷりと液体が溢れ始めた。

「いやあああ、ああーーっ、はううーーっ、くぅぅーーーっ」

昌代の身体はかつて経験したことのない快感の一歩手前にいた。ほんの少し腰を動かすか、もう少し強く愛撫してもらえば、確実に強烈な快感が身体に溢れることを既に身体は覚えてしまっていた。昌代の理性がどんなにそれを無視しようとしても、一度覚えた快感の味を身体は忘れようとしなかった。

 

 

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