第31部

 結局2時間近く喫茶店で話し込んだ二人は、だいぶ人通りが多くなってきたことに気が付くと、家路につくことにした。

飛行機を降りたときは日本に帰ってきた興奮から元気だった亮子も、さすがに疲れた表情を見せ始めたし、これ以上空港にいても仕方がないので地下のJRの駅に向かい、成田エクスプレスに乗って品川に向かった。

 

「3日前にグァムに向かったなんて信じられない。なんか、もっと前みたい」

「そう?あっという間だったけどな」

「でも、私にとってはずっと思い続けていた夢がかなった瞬間だったの。いろんな事があったな・・・」

「そうか、アキちゃんにとってはそうだったんだよね」

「うん、本当にいろんなことがあった。でも、トラブルが起

きなくて本当に良かった。写真撮影もたっぷりできたし」

亮子は、まるで思い出話でもするかのようにぽつぽつと話した。しかし、康司にはあまり亮子の話は心地よく響かなかった。なんか、やることは全てやってしまった、もうお終いだ、といっている様な気がするのだ。

康司にとっては、この旅行は亮子との関係をしっかりと確認するひとつのステップで、これから先も二人の関係を続けていきたいと思っているのに、亮子の話し方がそんな感じでは素直に喜べない。

しかし、直接亮子に聞けるほどの勇気はなかった。

「アキちゃん、撮った写真はどうするの?部屋に飾るの?」

康司はふと思いついて聞いてみた。康司は単に引き伸ばすのならどれくらいの大きさにするのか聞いておきたかっただけなのだが、亮子は違った意味に取ったらしい。

「え?どうして?部屋には飾らないわ」

「それならアルバムにして取って置くの?」

「う〜ん、どうしようかな?まだ決めてない」

「現像してから焼付けするとき、大きいサイズに焼きたいんだったらこの前行った所と別の場所に行ったほうがいいんだけど。普通のサイズかあんまり大きくないサイズで良ければ、

あそこの方が調整が楽だし上手くできるから・・・」

「まだ決めてないの。今日は現像だけでもいいわ」

「そうなの?」

康司は少し変な気がした。あれだけ大切な写真なのだから、真っ先に焼き付けて写真の形で手元に置きたいと思うのが普通なのではないだろうか?ネガで持っていてもどうしようもないだろうと思った。

「普通の大きさに焼くだけなら直ぐだよ。いろいろ調整をすれば時間がかかるけど、自動で良ければぜんぜん時間なんてかからないから」

「そうね、それなら良いけど・・・」

どうも亮子は写真の形にすることにあまり興味がないみたいだった。それが康司にとって不思議で仕方なかった。

「今はこの話、やめましょう。後で、ね?」

康司は亮子がそう言うので話を打ち切ったが、釈然としないものが残ったのも事実だった。あれだけ写真の取り方や光の具合に気を使っていた亮子なのだ。出来上がった写真についてプランを持っていないはずがなかった。

今までは写真を撮ることばかりに気を使っていたので、その先のことを全然考えなかったが、そのことについて亮子は今まで何も言ったことはなかった。しかし、これからはそれが二人の絆を左右する大切なことになっていく。

しかし、亮子はそのことについて何故か語ろうとしなかった。自然に二人の言葉は少なくなり、品川まであまり話をしなかった。そして品川駅に着いたとき、亮子の方から話しかけてくるまでなんとなく気まずい雰囲気が流れた。

「康司さん、それじゃ私、ここで乗り換えるから」

「うん、何時ごろにしようか?ラボの予約を取っておきたいんだけど」

「ごめんなさい。とにかく一眠りさせて。目を覚ましたら直ぐに連絡するから」

「そう、でも、大体の時間だけでも決めておかない?」

「時間を決めたら気になって眠れないもの。ね?良いでしょ?お願い」

「そうか、アキちゃんは疲れてるものね。わかった、そうするよ」

「ありがとう。それじゃ、後で連絡するね」

「うん、待ってる」

「康司さん、本当にありがとう。私の一生の記念になったわ。大切にするね」

そう言うと亮子は康司のほっぺたにちゅっとキスをして、足早に去っていった。

しかし康司は、うれしい気持ちよりも、何か不安な気がして仕方なかった。

それでも、『アキちゃんは疲れているんだ。まず休ませてあげないとかわいそうだな』と気持ちを切り替えて、これからの行動予定を考えることにした。

午後に亮子とラボで現像と焼付けをするのなら、できるだけ時間をゆっくりととりたかった。そして、できることならその後に亮子を抱きたかった。昨日の夜、亮子は直ぐに寝てしまったし、朝は慌しくてそれどころではなかった。だから、旅行の最後の記念に亮子を抱きたかったのだ。

その為には、まず借りている機材を返しておく必要があった。康司が借りた予定は今日までなので、明日になれば延滞金を取られてしまう。そろそろ街が開く時間なので、まず康司はカメラ機材を返しておき、その後で家に帰ることにした。そうすれば亮子から連絡があったときに直ぐに飛び出していける。

康司はレンタルショップに行き、機材を全て返してお金を払うと、大急ぎで家に帰った。

家に帰ったとき、ちょうど両親が店の仕込みで出かけるところで、入れ違いになった。しかし両親は康司がまさか海外旅行をしてきたなどとは思っていないから、あっさりとした対応で直ぐに出かけてしまった。

康司は自分の部屋に入ると、真っ先に撮影したビデオを再生してみた。亮子はビデオに興味を示さなかったので、まだテープは全て康司の手元に残っている。念のためにホテルでダビングしてあったから、かなりの本数が手元にあった。全く編集していないので、そのまま見るにはかなり不便だったが、それでも二人の記念になる大切なものなので、早送りもせずにじっと食い入るように見ていた。

画面の中の亮子は、先ほどまでの不安感を吹き飛ばすほど可愛らしく、セクシーだった。ビデオ撮影をしたのは部屋の中だけだったので、最初の夜がメインであり、まだバージンのままゆっくりと服を脱がされ、可愛らしい乳房を康司に吸われて仰け反るときの表情は最高だった。

当然のことながら、康司は乳房を吸っているときの亮子の表情は見ていない。

画面の中ではパンツ一枚に脱がされた亮子が、『アアン、こんなに、こんなに気持ちいいなんて、康司さん、ああーっ、だめ、夢中になっちゃう、はっ、はっ、はあッ、嬉しい、こんなに素敵だなんて、ああっ、身体が、たまらないーっ』と声を上げて悶えていた。

それはまだセックスに慣れていない戸惑いの表情がはっきりと現れており、経験のない少女特有のものだった。

また、何度かリモコンでズームアップしたときの具合も上手く決まっており、仰向けで康司に秘核を舐められているときの亮子の表情は康司でさえも息をのむほどだった。更にテープには、亮子が康司に秘核を舐められているとき、亮子が激しく悶えながら自分で乳首を触っているのがはっきりと写っており、康司はどうしようもない快感に亮子が自分を慰めていた事を初めて知った。

部屋の中での撮影だったので、照明のの影響で色バランスがかなり崩れてオレンジっぽくなっているかと心配したが、セミプロ用の補色系3CCDカメラを思い切ってレンタルしたのが良かったのか、十分ではないはずの部屋の明かるさでも亮子の肌は鮮明に写っており、黒く潰れている部分もほとんど無かった。

更に亮子の声は想像していたよりも遙かにはっきりと入っており、喘いでいる様子さえも聞こえるので、アフレコで後から声だけを足している下手な成人ビデオより余程リアルに全体を捉えていた。

たぶん、ホテルの部屋がかなり広かったことと、部屋の中に殆ど音を出すものがなかったことが要因なのだろうと思われた。もちろん、カメラの内蔵マイクを使わずに、わざわざ指向性マイクを使用したことも忘れてはならない。

康司は、自分の準備が全く無駄になっていなかったことに満足すると、その場面を何度も再生しながら、編集するプランを着々と練っていた。

しかし、昼を回るころ、さすがに康司も眠くなってきた。亮子が携帯を鳴らせば直ぐに目を覚ますように枕元に携帯を置くと、ちょっとの間だけのつもりで目をつぶった。しかし、自分のベッドに入った安心感で康司は深い眠りに入っていった。

携帯が鳴った時、康司は完全に熟睡していた。だから慌てて飛び起きると携帯の表示を見て頭がパニックになった。

「もしもし?康司さん?」

「え?あ?ど、どうしたの?」

「ううん、ちょっと電話してみたの。変?」

「そんなことはないけど・・・・・・・・・」

「あの・・・・・、今日、会える?」

「いや・・・・ごめん、今日はだめなんだ」

「どこかに行ってたの?」

「ああ、そう。ちょっと出かけてた」

「何回か電話したんだけど、出なかったから」

「そう。明日電話するよ」

「わかった。待ってる」

「それじゃぁ」

「うん」

電話を切ってから康司は、昌代の様子に引きずられて康司の口調も今までの高圧的な言い方にはならなかったことに気が付いた。

それから慌てて着信記録を見てみた。確かに留守にしている間に何度か昌代から電話が入っている。携帯は家に置いて出かけたので、今まで全く気がつかなかった。

しかし、どうして亮子は連絡してこないのだろう?時計は既に4時半を回っている。康司は不安感に襲われながらも『俺だってずっと寝ていたんだから』と思い直すと、そのまま再びベッドに横になった。しかし、それからもなかなか亮子から連絡はなかった。

すっかり夜になったころ、やっと亮子から連絡が来た。既に7時を回っていた。

「康司さん、ごめんなさい。すっかり寝ちゃったの」

「うん、俺だってぐっすり寝てたよ」

「康司さんもなの?良かった。慌てて電話したんだから」

「うん、いつの間にか寝ちゃったみたい。いつ寝たのか全然覚えてないんだ」

「私もシャワーを浴びて自分の部屋に入ったところまでは覚えてるんだけど、その後が全然わかんないの。ベッドに寝ころんで荷物の整理をしていたら、いつの間にか寝ちゃったみたい」

「アキちゃんは疲れてたからね」

「そうね。がんばったもん」

「疲れはとれた?」

「良くわかんない。まだ頭の中がすっきりしないの」

康司は、こうなっては亮子を呼び出すのは無理だと諦めるしかなかった。

「今日はもうだめね」

「うん、明日はどう?」

「ごめんなさい。明日は両親と出かけるの」

「明後日は?」

「わからないの。ほかに予定もあるし。決まったら電話するから」

「そう・・・・」

「ごめんなさい・・・」

「うん、わかった・・・」

「それじゃ、お休みなさい。本当にありがとう」

康司は携帯を置くと、心配した通り、亮子が今までよりも遠くに行ってしまったような気がした。

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