第41部

 「ああぁぁぁ・・・ダメ、ブレーキが効かなくなるぅ、ああん、だめよ」

亮子はうわずった甘い声で康司に抗議した。しかし、康司は着実にお気に入りの膨らみに向かって唇を這わせていく。

「お願い、康司さん、ここでこんな事始めたら、ああん、ほんとにお願いだからぁ」

亮子の願いもむなしく、康司の唇はとうとう膨らみの端へと達してしまった。亮子が手で引き寄せているTシャツの薄い布地の向こう側に康司の大好きな膨らみが感じられる。

「あううぅっ」

亮子が身体に走った快感で声を上げる。

「ダメ、康司さん、ああん、胸だけよ。ね?胸だけよ?ね?」

亮子が完全に胸を許さずに手で隠して抵抗しながら何度も康司に確認を求めた。亮子にしても、このまま康司に求められるままにしていればホテルに行った方が良かったと思うことになりかねない。それでは康司に会った意味がないのだ。

しかし、康司にしてみればやっとここまでたどり着いたのだ。あとは亮子の手をどけるだけで懐かしい膨らみが手に入る。そう思うとなかなか亮子を解放できなかった。

「康司さん、お願い、これ以上されたら、私だって我慢できなくなる」

「うん、頭では早く始めなきゃって思うんだけど、どうしてもアキちゃんを離せないんだよ」

「私だって康司さんに会えたんだもの。優しくして欲しいのよ。でも、ここじゃ・・・。こんな所で全部するなんていやぁ」

亮子は思いきって康司にそう言った。それは今の亮子にとって半分以上本心だった。

「うん、わかった」

亮子があまりにそう言うので、康司も仕方なく同意した。

「ありがとう。よかったぁ」

亮子が気を許してそう言った途端、それまで必死に服を抑えていた亮子の手の力が抜かれたのでTシャツが自然にめくれ上がった。突然、康司の目の前にお気に入りの膨らみが現れ、小さな乳首が康司の目に飛び込んできた。

「あっ」

康司はそう言うと、その誘惑に我慢できずに、思わず両手で一気に揉みしだいてしまった。

亮子も驚いたが、拒絶したわけではなかった。

「ああぁぁぁーーーーっ、いつもはゆっくりとするのにぃっ」

それよりも亮子は康司が一気に両手で揉んできたので少し驚いたようだ。しかし、その驚きは不意打ちの快感となって身体を走り抜けたらしい。グッと胸を突き出して顎の裏が見えるくらいまで仰け反って喘いでいる。その亮子の乳房を康司はたっぷりと楽しんだ。その頭の中では亮子の『いつもは・・・』という嬉しい言葉が心に残った。亮子は康司のことを身近に思っている証拠なのだ。

亮子は抱かれる度に快感が開発されていく自分の身体にまだ少し戸惑いはあったが、自分の身体に男が夢中になっていると言うことには、心の底から満足感を味わっていた。それは亮子が自信を持って良いことなのかも知れない、と思った。

康司はそのまま亮子のスカートに手を伸ばしたが、今度の亮子ははっきりと嫌がったので、それ以上はできなかった。

「ああぁぁ、康司さん、もうこんな事、キリがないわ。あうぅ、ねぇ、お願い」

乳首を舐められている亮子が喘ぎながら康司にそう言っても、

「もう少しだけ、ほら、ね?良いだろ?」

康司は舐める乳首を換え、もう一方を優しく揉みながらなかなか止めようとしなかった。亮子としても康司に気分を害して欲しくはないのでなかなか強いことが言えず、せっかく予約してあるラボの時間をかなり無駄にしてしまった。もし、亮子が全てを康司に許していたら、それだけでラボの時間を全て使ってしまったことだろう。康司がそこまで亮子の身体にこだわったのは、一つには帰国後亮子に連絡が付かなくて疎外感を味わったという寂しさを紛らわす意味もあったのだが、亮子もそこまでは見抜けなかった。

やっと康司が現像を始めたのは、ラボに入ってから30分以上も経ってからだった。

康司はまずダークバッグでテスト用パトローネのフィルムをリールに巻き付けて現像タンクに入れ、定温庫から現像液を取り出すと、それを注ぎ、トントンとタンクを机に軽く打ち付けてからゆっくりと中心軸を回している。

「康司さん、それ、現像液?」

「そうだよ」

「冷蔵庫に入ってるのなら、今まで待つ必要なかったじゃないの」

亮子は、部屋に入って待つ必要など無いのに自分の身体が欲しくて康司がわざと康司が時間をつぶすようなことを言ったのだと思って不満げにそう言った。

「違うよ。冷蔵庫じゃなくて定温庫。冷たくないよ。30度になってるんだ。確かに現像液は一定の温度に保たれてるけど、この現像タンクに入れればタンクの温度によって現像液の温度だって変わるんだ。現像タンクに入れたときに容器の温度とかで現像液の温度が変わったら一定の温度にしてる意味無いだろ?だから器具なんかの温度がある程度一定になるまでは現像作業を始めちゃいけないんだよ」

康司は腕時計を見ながらそう言った。

「そうなんだ・・・・。ごめんなさい」

康司は腕時計を見ながら30秒ごとにタンクの中心の棒を緩やかに回しながら話をしている。

「ううん、良いよ。気にしてないから。アキちゃんから見れば仕方ないかもね。だってあんなに可愛いんだし」

そう言って康司が亮子の身体を想像したらしくだらりと表情を崩して言うと、

「康司さん、『あんなに』ってなあに?」

と亮子が敏感に反応してきた。

「え?だって、ええと・・・」

「『ええと』なあに?」

「あの、笑顔が素敵だし、スタイルも良いし、とにかく最高だから」

「ふふ、ありがと」

亮子は一気に機嫌が良くなった。康司は頭に浮かんでいた全裸の亮子の姿を消し去ると、

「時間だ。現像終了」

と言って現像液を流し去った。そして水道を注いで軽く中を洗ってから次の液を注いだ。

「終わったの?」

「うん、現像はね。でも、これから定着しないと直ぐに画像が消えちゃうから、これでしっかりと外に置いても変化しないように処理するんだ」

手慣れた様子で手早くしているのであまり難しいことをやっているようには見えないが、亮子はかなりの熟練者でなければこれほどスムーズにできないことを見抜いた。康司は何も言わないが、ちゃんと全ての器具が手の届く範囲に綺麗に整理されておいてあり、直ぐに次の作業ができるようにしてある。『きっと綺麗に撮れてるんだろうな』亮子は康司の手際からできあがりを確信した。

「よし、いいだろう」

康司はそう言うとタンクの中の液を再び流し去り、水道を緩やかに注ぎながら何回か攪拌してから亮子を見てニコッと笑った。

「良いの?これで終わったの?」

「そうだよ」

「こんなに簡単なの?ううん、簡単に見えたけど」

「慣れればね。慣れるまでが大変だけど」

「ふうん、そうか、私じゃダメかなぁ」

「アキちゃんが?そうだなぁ、俺がつきっきりでやればそこそこはいけるかも・・ね」

「そうなんだ。で、今、康司さんがやったのと同じ事をこの前は機械がやったの?」

「フィルムの現像だろ?そうだよ」

「どうして今日は手でやったの?」

「機械でやると確実に仕上がるけど、ほとんど自由がきかないんだ」

「自由って?」

「現像って言うのはフィルムから色を取り出す作業なんだけど、手でやれば色の発色を強めにしたり弱めにしたりもできるし、慣れれば色のバランスなんかも変えられるんだ。もちろん、ネガだからほんの少ししかいじらないけどね」

「ふぅ〜ん、そうなんだ・・・。でも、それはこの前、機械でやったと思うけど・・」

「ネガの段階で変えるのと焼き付けの段階でやるのは全然違うことなんだよ。う〜ん、上手く言えないけど、ネガの段階の調整は全体のバランスを良くするためのもので、焼き付けの時の調整は思い通りに表現するため、かな?」

「そうなんだ。やっぱり康司さんに頼んで良かった」

「そう思う?それじゃ、できあがりを見てみようか?」

康司はそう言うと、水を流していたタンクの蓋を開けて中からリールに巻いてあるフィルムを撮り出した。それをクリップに止めてぶら下げる。

「ねぇ、康司さん、そのフィルム、いつタンクに入れたの?」

「え?見てただろ?そのダークバッグにタンクとパトローネを入れてチャックを閉めて手を突っ込んでごそごそやってたでしょ?あの時にこのパトローネを分解して中からフィルムを撮り出して、それをリールに巻き付けてからタンクの蓋をしたんだよ」

康司はそう言いながら蓋の開いたパトローネを亮子に見せた。

「そうなんだ。そんなこと、してたんだ」

「そうだよ」

「全然分かんなかった。だってあっという間にやっちゃったから」

「慣れないとフィルムに傷を付けたりするしね。フィルムの表面はゼラチンとかが塗ってあってとっても柔らかいから。アキちゃんがやっても良いけど、例え現像に成功しても傷だらけのネガになると思うよ」

「そっか、やっぱり専門家じゃないとダメなんだ」

「これは写真家の基礎だよ。こんなのは朝飯前にできて、初めて表現の世界に入れるんだから。カラー写真が焼けるだけじゃ機械に任せた方がマシさ」

「やっぱり康司さんだな。で、写真家さん。できはどうですか?」

「うん、やっぱり思ったより光が強いんだな。コントラストが想像以上にはっきりと出てる」

「それってどういう事?」

「光と陰がはっきりしてるって事。あんまり強すぎると固い感じの写真になっちゃうから、現像の段階でやっぱり調整しないとダメだね。機械に任せなくて良かった」

「そうなの?本当?機械じゃダメなの?・・そっか・・」

亮子はちょっと驚いたみたいだった。

「そうだよ。ほら、それじゃ自分で確かめてごらん」

康司はそう言うと、ネガの水分を丁寧に拭き取ってから軽く乾かし、デジタルビューワーにセットして亮子に見せた。

「え?これって変な色。あ、反対なんだ」

「そうだよ。ネガは色が反対。よく知ってるね。それじゃ、こうしてあげる」

康司が画面を切り替えると、画面上のネガの色が反転してポジになった。

「ほら、どう?」

「そうね。確かに陰の部分は殆ど何があるのか分からない・・・」

「それに、ここ、ほら、光が強く当たってるところは白っぽくなってるだろ?」

「うん」

「光が強すぎて色が飛んじゃってるんだ」

「それじゃ、光が強すぎる部分と弱すぎる部分があるの?」

「そうだね」

「全部綺麗には写らないの?」

「露出バランスは合ってるんだ。でも、カメラの露出は写真全体に対してのもので、各部分に最適な露出ができるカメラなんて無いんだよ」

「そんなぁ、デジカメの方が良かったんじゃない?」

「ははは、デジカメは確かに調整は楽だけど、表現力はフィルムの足元にも及ばないよ」

「でもぉ・・・」

康司の言っていることはたぶん本当のことだ。亮子は自分が撮影場所に選んだグァムが光が強すぎて綺麗な写真が撮れないと思い、心の底からがっかりした。

 

 

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