第五部

「バカなこと考えてると思うでしょ?でも、私にとっては大切なことなの」

康司は大変なことになったと思った。ただヌードを撮影するだけではなく、セックスまで撮影するとなると、康司は撮影者と被写体を兼ねることになる。ヌードだけなら何とか綺麗に撮影する自信はあったが、自分のセックスを撮影するなんて考えたこともない。亮子はじっと下を向いている。

「あの・・・私じゃ、いやですか?」

「いや、違う・・・・いいの?」

「はい。私だけの一生の宝物にするんです。死ぬまで私一人の宝物。絶対誰にも見せない私だけのもの。将来結婚することがあっても相手にも見せない。本当に私だけのもの。そして一生大切にするの」

「相手が俺でいいの?」

「うん。私の今、一番信頼できる人、だから。そして、これが私の唯一のお礼、なの。お礼になってないかな?」

亮子は黙って康司の方にもたれかかってきた。そのまま康司は亮子を膝の上に横抱きにする。亮子は少し恥ずかしそうにしながらも、可愛らしい笑顔で康司を見上げていた。

「それじゃ、これから準備に入らなくちゃね。機材を手配して撮影場所も決めないといけないし」

「撮影場所ならもう決まってる。日にちも」

「え?もう決まってるの?いつなの?教えてよ」

「その前に、康司さん、何か忘れていませんか?」

「え?なに?」

「私達、これから一緒に一つのことするんですよ。二人だけで」

「ん?そ、そうだけど」

「女の子は、ちゃんとリードして上げないと拗ねちゃうぞ」

そう言うと、亮子は康司に身体をすり寄せてきた。しかし、康司がゆっくりキスをしようとすると、

「イヤッ、ダメ」

と顔を反らせてしまう。どうやらまだ心の準備ができていないらしい。それでも康司の手が亮子の制服に掛かっても亮子は何も言わなかった。ゆっくりと胸の膨らみを撫で始める。小さめだがぷくっと膨れた感じが制服の上からでもよく分かった。亮子はじっと何かを我慢しているようだ。それは感じていると言うより、痴漢に触られているのを無理やり我慢している、と言う感じだった。

そのまましばらく、康司は亮子の身体をゆっくりと探り、亮子は康司の愛撫をうなじに受けながら、お互いの気持ちを伝え合った。やがて康司の舌が、ゆっくりと細いうなじを伝わって首筋に降りていくと、亮子の反応が変わった。

「康司さん、ああん、康司さん、最後までいかないで。お願い。アアン、くすぐったい。だめよ。最後は向こうに着いてからなんだからぁ」

「向こうって?どこ?」

康司が唇を離して亮子をのぞき込むと、少し弾んだ息の下からにっこり笑って、

「グァム」

と言った。その言葉があまりに突然だったので、康司は驚いた。

「ええっ?グァム?海外?だって、俺、英語話せないし、パスポートだって持ってないよ」

「パスポートの申請をしなきゃね。英語は大丈夫。私の担当」

「航空券や向こうのホテル代はどうするの?俺、そんなに持ってないよ」

「それも私の担当。だって専属カメラマンを雇うんだもん」

亮子は真面目な顔つきになると計画をゆっくり話し始めた。

「だから康司さんには、私が最高の初体験をできるように、私の身体を最高の状態にして欲しいの。せっかくグァムに行って、痛いだけの初体験じゃイヤだもの。最高に感じたいの。感じるって素敵なことなんでしょ?」

そう言う亮子は、康司がゆっくりと胸を撫でているにもかかわらず、全く感じていないようだった。

「今まで触られたりの経験もないの?」

「無いわ。単なる恋愛で付き合ったり別れるのを繰り返すだけの人には私の身体は絶対に触らせない。キスだって許さない。だから康司さんが私の心の中に入って来る初めての人なの。まだだけど」

そう言う亮子の言葉を聞いて、康司は、これは大変なことになったと思った。この亮子を感じる身体にするだけでも、かなり大変そうだ。

「今はどこまで許してくれる?」

「どこまで許せばいいの?」

「うーん、最高に感じたいって言うけど、あの・・いきたいってこと?」

ズバリ核心を突かれると、さすがに亮子も答えにくいようで、顔を真っ赤にしながら小さな声で答えた。

「できる?そんなこと。初体験よ」

「何度か慣らしておけば大丈夫だと思うんだけど・・・」

「慣らすって?」

「指とかで・・・何度か道を付けておけば・・・」

「それって、しちゃうッてことじゃないの?」

「そうじゃなくて、あれを入れるんじゃなくて、指だけ・・」

「指だけなの?・・・」

二人とも真っ赤になりながら、抱き合って話をしていた。

「そう、指に充分感じるようにしてから、多分、指を2本くらい入れても大丈夫にしてから、最後にあれをすれば・・・たぶん、上手く感じながら・・・いけるんじゃないかと・・」

「そうなの?でも、それじゃあ、康司さんに何度も全部見られちゃう」

「いや?」

「恥ずかしい」

「どっちみち全部見せるンなら、同じじゃないの?」

「でも、やっぱり初体験は特別よ。簡単に済ませる子もいるけど、私は違うの」

「それじゃあ、指でするけど見ないって言うのは?スカートは履いたままにすれば?それならあんまり見えないだろ?」

「恥ずかしいな。こんなこと言うの。でも、そうして。お願い」

「大丈夫。ホテルと撮影場所はもう予約してあるの。父の会社が毎年借りるホテルを1日だけ私が使えることになってるの。シーズンの最初の日だけ。もともと誰か友達と行くつもりだったけど、まだ誰と行くかも決めてないし。今まで一回しか行ったことないけど、すてきな所。静かだし」

「父の会社??で、いつなの?そこを借りれる日は?」

「7月25日、もう一泊するけど26日は他の人もいるの。だから、約3週間後ね」

「そんなに近いの?もし、俺が断ったらどうするつもりだったの?」

「そんなこと、断られてから考えればいいことよ。でも、なんとなく信じてた、きっと安田さんは私の言うこと聞いてくれるって」

「凄いね。もしかして、お金もそのつもりで貯めてたの?」

「そう、これに使おうって。中学の時から。たぶん、足りるはず」

「ホテルの部屋を1日借りるのに、親は反対しなかった?」

「全然、だって、国内で旅行するより安全よ。いざとなれば、向こうの営業所の人が力になってくれるし」

「営業所って?」

「父の会社の。数人の小さいところだけど」

亮子の話によると、亮子の父は中規模の不動産業をしており、以前から毎年夏には国内の本社や営業所の社員の慰安旅行の代わりに、向こうのホテルを一定期間借り上げるのだという。社員は会社の補助を受けて航空券を購入して無料のホテルに泊まるのだそうだ。最初は団体で行っていたらしいが、団体で行くとトラブルも多く、それよりもホテルだけ世話した方が安く上がることもあって今の方法に落ち着いたらしい。亮子は、今のホテルになってから一回だけ連れていってもらったそうだ。そして、必要に応じて現地の営業所の職員がサポートしてくれるらしい。

「俺と行っても大丈夫?」

「両親には、親友の智子と行くって言ってあるの。実は内緒なの」

どうやら全てお膳立てはできているようだった。康司は亮子の実行力と計画性に、さすが実業家の子供は違うと感心してしまった。

それからは、亮子と康司は学年が違うので学校ではあまり話す機会がなかったので、二人は自然に毎日夜になると携帯で話をするようになった。話題は撮影旅行のことがほとんどだったが、次第にお互いのことも少しずつ話すようになっていった。そして、その時間が二人にとって、一日で一番大切な時間になっていった。

翌週のある日、康司は亮子と午後、学校を抜け出した。康司のためにパスポートを取らなければいけないので、その手続きにどうしても平日の時間が必要だった。二人は朝のうちに持ち出してあった私服に喫茶店のトイレで着替えると、区役所に行って住民票と戸籍謄本を取ってきた。さすがに二人には訳の分からないことばかりで一時はどうなるかと思ったが、それでもなんとか必要な書類は揃えることができた。

それから電車を乗り継いで旅券窓口のある新宿まで行き、そこで申請書類をもらって喫茶店で書き込むことにした。喫茶店のテーブルに書類を広げて書き込んでいくのだが、康司は亮子の指示がないとほとんど何も書き込めない。その申請書類を見ながら康司が言った。

「パスポートって、旅券て言うの?知らなかった。何かクーポン券みたい・・・ヒラヒラッとした・・」

「何言ってるの、ちゃんと書き込まないと。もらえなくなっても知らないから」

未成年者の旅券申請には親の署名と捺印が必要なのだが、亮子はちゃんとそれも調べてあり、下手な字で康司が書き込んだ書類にていねいな字で親の変わりに署名し、ハンコ屋で買ってきたハンコを使って捺印した。

「何か、やっぱり気が引けるな。親に黙ってなんて」

「そう、これだけは悪い事したって思うけど、今回だけはどうしようもないもん。大丈夫、悪い事してる訳じゃない、夢を実現するだけ」

亮子はどちらかというと自分に言い聞かせるようにしっかりと言った。

書類の書き込みが終了すると、康司が自分で撮したパスポート用の写真を貼り付け、再び旅券窓口に行って申請した。何か言われるかと思ったが、康司が申請者本人であることを確認すると、案外簡単に受け取ってもらえた。なにより、窓口は平日の昼間なのに、もの凄い人だかりだったので、あまりゆっくりと審査しているという雰囲気ではなかった。

それでも申請が終われば、あとは送られてくるハガキを持ってパスポートを受け取りに来るだけだ。康司の両親は焼鳥屋という商売の関係から、いつも朝方近くに帰ってくるので、学校から帰ったら郵便物を取り出しておくのは小学生の時から康司の仕事だった。だから、ハガキが両親に見つかる心配はなかった。

「やっと終わったね」

「うん、これで大丈夫」

「二週間待てばパスポートがもらえるんだね」

「結構あっちこっち行ったりしてハードだったけど、何とか終わったね」

「それじゃ、どっかでゆっくり一休みしようよ」

「うん、どこかいいところ知ってる?」

「この辺りだと、新宿御苑なんかどう?今日は天気もいいし、きっと綺麗だよ」

「私、まだ行ったことない」

「それじゃ、言ってみよう。ちょっと歩くけど我慢してね」

「一休みするって言ったのにぃ」

書類の申請までとは一気に立場が逆になり、一休みとなると急に康司が生き生きとしてきた。今度は亮子が康司に引っ張られていく番だ。亮子は面倒なことが終わったので、どこか静かな喫茶店で康司といろんな話ができるかな、と思っていたので、急に公園に行くと言われても、はっきり言ってあまり気が乗らなかった。おまけに新宿御苑は都庁からは長い地下道を歩いてから地下鉄を乗り継いで行く必要がある。

しかし、康司に引っ張られるようにしてたどり着いた新宿御苑は、亮子の想像以上に素晴らしいところだった。閉園時間まで1時間ほどしかなかったのですでに園内は空き始めており、二人はゆっくりと見ることができた。

「康司さん、どうしてこんな所知ってるの?」

「写真教室があるんだよ。入園料だけで参加できるから、2回参加したことがあるんだ。それと、コンテストもあったよ。参加はしなかったけど」

「どうして参加しなかったの?あんなに写真、巧いのに」

「前から巧かった訳じゃないよ。それに、どうも花の写真を撮るって言うのは・・ね。イヤじゃないんだけど、どっちかって言うとこの前みたいなスナップの方がいいな、生活や表情なんかを表現できるのが」

「ふ〜ん、そうか。写真て言っても色々あるんだ」

少し中に進んでいくと、日本庭園の近くに茶室があった。亮子は歩き疲れたみたいだったので、二人でそこに入ることにした。歴史を感じさせる落ち着いた建物の中でやっと腰を下ろせた亮子は、ホッと一息ついた。いつの時代のものかはわからないが、相当な古さだ。ぐるりと中を見渡してみる。最初、あまりにいつもの自分の生活と違う空間に戸惑ったが、落ち着いて見るととても雰囲気のいい茶室で、静かに座っていると心の中が表れていくようだった。

「こんなとこ、来たこと無いかも・・・たぶん」

亮子は茶室の持つ雰囲気に包まれ、自分がいきなり江戸時代にスリップしたような感覚を覚えた。

「そう?喫茶店の方が良かった?」

しかし、康司は亮子の気持ちの変化など全然気にしていないようだ。

「とっても落ち着いたとこね。茶室ってたぶん、初めて入ったと思う。とっても素敵。何か、自分が昔にいるみたい」

「誰だって入れるから・・、古い喫茶店て言う感じかね?」

「康司さん、その感覚、ちょっと信じられない。こんな所を喫茶店と同じだって思うなんて」

ゆっくりと周りを見渡している亮子の様子が少し違うことにやっと気が付いた康司は、あわてて付け足した。

「いや、ほら、昔の人もここでこうやって休憩したのかなぁっておもったから」

「休憩したって言えばそうかも知れないけど、ここは、ほら、全然違うところよ、私たちの行く喫茶店とは。ここは昔と同じ、そのままなのよ」

亮子は静かに茶室の中を見回している。

「そう・・かな・・・???」

康司は、まだ亮子の気持ちを掴めずに戸惑っていた。そのとき亮子は茶室の生み出す光と影の世界に呑み込まれていた。そろそろ夕方が近くなり、光が優しく斜めに差し込んできて、少し高い窓と茶室の畳を優しく繋いでいた。そして、その光の端っこが亮子の膝にかかっていた。亮子はゆっくりと二人しか居ない部屋の中を見渡し、静寂を楽しんだ。

康司は、やっと亮子がこの部屋の雰囲気を楽しんでいるのが分かると、じっと黙って亮子の膝の上に乗った手を見ていた。光が手の中を通り抜けていくようで、とても綺麗だった。ほんのすこしだけ指が動くと、その中を通る光も姿を変えた。

「こんなとこなら、一日でもいたいな。昔の人って偉いな」

亮子はポツンとそう言うと、康司に向かってそっと微笑んだ。康司は一休みしたらすぐにでも席を立ちたかったが、亮子の気持ちがやっと分かったようで、そのまま何も言わずに亮子が立ち上がるまで優しい目で亮子の手を眺めていた。その二人の間を静かに時間が流れていった。

「行こうか。まだ他も見たいし」

やがて亮子はそう言うと、立ち上がって出口に向かい、笑顔で言った。

「康司さん、いいところね。ありがとう」

亮子の言葉を聞いて、康司は一気に嬉しくなった。その顔を見て、亮子はまた笑った。

茶室を出た二人は口数の少ないままだった。何も話さなくても心が満たされているようで、不思議なことに特に話したいとも思わなかった。そのまま二人は自然と手をつなぎ、ゆっくりと池とイギリス風庭園の間を歩き、やがてフランス整形庭園の中に入ってきた。そこでは、すずかけの並木の間に作られたバラ園のバラが見事に咲いていた。亮子は康司の手を引いて、自然にバラ園の中に入っていった。

「康司さん、どうして私をここに連れてきたの?」

落ち着いた中にも飾り気のない自然の色が溢れるバラ園の雰囲気に気持ちが少し華やかになったのか、亮子が話しかけてきた。

「ちょっと疲れてるみたいだったから、落ち着くところがいいかなって思って。ここ、良い香りがするだろ?」

「そうね。でも、都庁からはずいぶん遠かったわよ」

「でも、喫茶店に入るより、何かこういう雰囲気の方が似合いそうな気がしたから」

「そうか、私のこと、考えてくれたんだ」

「考えたって言うか、そんな気がしたから」

「康司さんに連れてきてもらわないと、自分なら絶対来なかったと思うな。だって、私の世界にはないもの。あんな茶室なんて」

「そう、よかったね」

「嬉しいな。やっぱり恋はしてみるもの、ね」

「え?」

亮子はそのまま康司の手を取ると、ゆっくりとバラの中を進み、ちょっと横を見てからバラ園を囲んでいるすずかけの並木の木陰のベンチに康司と並んで座った。ちょうど二人のベンチは柔らかい夕陽の影になっており、そこに二人のためだけの空間ができたようだった。

「ちょっとこうしてて、いい?」

亮子は康司の肩により掛かり、頭を康司の方に軽く乗せると、静かにバラ園を見つめた。

「静かね」

「うん」

落ち着いた亮子の声とは対照的に、康司の声は少しかすれていた。じっと動かない亮子の頭を方に感じながら、康司の頭の中ではいろんなことが猛烈な速度で渦巻いていた。さっき亮子が言ったのは、康司のことが好きだって言うことだろうか?何か康司から言うべきではないのか?今も何か亮子に声をかけた方がいいのか?肩を抱いた方が良いのか?。じっとしていても康司は景色を楽しめず、緊張で自分の心臓の鼓動が聞こえそうだった。

「康司さん」

亮子が康司の耳元で囁くと、ゆっくりと頭を上げた。

「なに・・」

康司がちょっと亮子の方を向くと、西日を受けて輝いている顔が目の前にあった。

「!」

そのまま固まってしまった康司の唇に、小さな唇が一瞬、重なった。

驚いてきょとんとした康司の顔を見て、亮子はニコッと笑った。

「いきましょう」

亮子は立ち上がると、ゆっくりと歩き出した。康司はあわてて亮子の後を追った。

「ねぇ、亮子さん」

康司の声にちょっと振り向くと、亮子は言った。

「いやだった?」

「え?まさか!」

「よかった。ねぇ、ちょっとお腹空いちゃったな」

そう言うと、亮子はまた足早に歩き出した。背中から康司の声が追いかけてくる。

「あ、えーと、JRの駅の近くに美味しくてボリュームたっぷりのスパゲティの店があるよ」

「そうなの?早く行こうよ」

「うん、でも、疲れてるなら地下鉄で行こうか?」

「そんなの忘れた」

亮子は足取り軽くすたすたと歩いていった。康司は、さっき起こったことがよく飲み込めていなかったが、しばらくすると猛烈に嬉しくなってきた。先に行ってしまった亮子の小さな背中に向かって康司は大声で言った。

「あのねー、その店のお薦めはカルボナーラとミートソースだよ。でも、アラビアータって言うのも美味しいんだ。亮子さんはどれがいいの?」

「私、ナポリタンが好きなの。子供みたいでしょ。その店にある?」

康司の明るい声に合わせるように軽く振り向いた亮子の声も軽かった。その日が二人の心に残る最初の記念日だった。

スパゲティを食べている間、亮子はそれまで口数が少なかったのがウソのようにいろいろなことを話した。康司も時間がもったいないかのように次から次ぎにいろいろなことを話した。二人の間を分けていた何かが無くなって、お互いの気持ちがゆっくり解け合っていくような充実した時間が過ぎていった。スパゲティを食べた後、二人でケーキも食べたが、何を食べたのか分からないくらいに話に夢中になっていた。気が付くと2時間近く経っており、もう外は夜だった。ふと外を見た亮子が驚いて席を立つと、あわてて二人は家路についた。

亮子を送って家に帰ると、康司は写真雑誌を広げて機材のレンタルをしている業者を探した。欲しい機材を持っている店には明日、休憩時間に電話してみるつもりだった。康司は一眼レフのカメラは持っているが、その他の撮影機材と言えばストロボと三脚くらいのもので、本格的な撮影のためには何も持っていないに等しい。光を反射するレフ版は必要ないと思うが、できればリモートコントロールで撮影ができるような機材が欲しかった。

しかし、なかなかプロ用の機材はレンタル代も高い。康司は何とか貯金の範囲でできるだけのことはしようと思ったが、カメラの他にビデオカメラも借りたかったので、あまり贅沢はできそうになかった。『この旅行が終わったらバイトしなくちゃな。これで貯金はほとんどゼロになりそうだし。でも、笑顔、見たいもんな』亮子の顔を思い出しながら、康司はできるだけのことはしようとレンタル代をギリギリまで引き上げることにした。

その日の夜遅く勉強が一息ついたときに、康司は亮子の携帯に電話してみた。亮子も一息入れていたようで、メールを見ていたところだと言った。

「ごめんね。ちょっと話したかったもんだから」

「ぜんぜんいいわ。私だって休憩していたんだから。声が聞けるだけでも元気が出るもん」

それからしばらく、とりとめもないことを話していたが、ちょっと話がとぎれたときに康司は思いきって言ってみた。

「あの・・聞いてもいいかな?おこんないでね。あの・・」

「なあに?」

「おれ、初めてだったんだ」

「え?・・・あ、・・あのね・・・私もよ」

「え?そうなんだ。何か、嬉しいな」

「そうなんだって、どういうこと?」

「ううん、なんでもない。気にしないで」

「康司さん、私、前にも言ったけど、遊んでるように見える?」

「まさか、絶対にそんなこと無い。そんなこと、思ったこともないよ。・・・でも、嬉しくたっていいだろ?」

「そうね。・・実は、私も嬉しいんだ」

「なんだ。お互いさまか」

「そう、お互いさま、でも、言ってくれて嬉しいな。ちょっと気にしてたから」

「それもお互いさま、だね」

二人の声は明るく、とてもくつろいでいた。

「康司さん、私のこと、どう思う?」

「え?どうって、・・・あの・・・す・・すき・・・だ・・よ」

「うん、嬉しいな。好きな人にそう言ってもらえて」

「どうして?そんなこと・・・」

「ううん、そうじゃなくて、私ってどう見えるの?」

「どうって、頭が良くて可愛くてスタイルもいいし・・・」

「そうかな。じゃ教えてあげる、私、小学生の時、蚊トンボって言われてたの」

「え?それって・・」

「もっとずっと小さくて痩せてたから。だから、今でも小学生時代の友達と会うと、『アキはカトちゃんだったもんね』って言われるのよ」

「そうなんだ。でも、ひどいね」

「ううん、仲のいい友達とだから気にしてない。でね、中学の時は素敵なカメラマンに写真を撮ってもらうんだって、そればっかり考えてたの。一冊ノートを作ってね、今でも私の机の上に載ってるけど、どんなところで撮影するとか、どんな写真を撮るとか、その時の天気はどうだとか、スタッフにはこんな人、とか、そんなことばっかり書いてあるの。中学の時は勉強なんか全然しないで、そのノートにばっかり書いてた、今でも書いてるけど。もう何冊目かな?6冊かな?で、そのノートをしばらく書いているうちに、もし、ここに書いてあることができるようになったら、もしかしたら本当に夢が叶うんじゃないかって、そう想い始めたの。そうだな、中学2年の時かな。だから、海外の撮影には絶対に必要な英語と撮影に大切な天気のことが分かる理科だけは自分から勉強するようになったの。他の勉強ははっきり言って今でもイヤでしょうがないけど、英語と理科だけは、やればやるだけ夢の実現に近づいているって言う感じがして、イヤだけど元気が出てくるから。

だから、私の成績って英語と理科、そして地理だけはいいけど、後は全然なのよ。本当は入試のこと考えると国語とか数学もしっかりやらないとダメなんだけど」

「でも、すごいね。そこまでできるなんて」

「そうしないと、やってられなかったわ。あの時は」

「俺なんか、いつも写真ばっかりだから、現像やなんかに関係のある理科と撮影に関係のある社会、それも地理だけはいいけど、後は全然、て言うか、最悪に近い、かな。卒業できるかぎりぎりってところ」

「私、康司さんて、もっと何でも勉強できるって思ってた」

「違うんだな、それが。残念ながら」

それからしばらく話をして二人は電話を切った。お互い、初めて心が通じ合い、お互いを受け入れることができたみたいで、とても嬉しかった。康司は、最初は亮子に引っ張られるようにしてこの計画を進めていたが、今では心から素直に亮子の望むような写真を撮りたいと思い始めている自分に気が付き、そんな自分が嬉しかった。次の日から康司は亮子を「アキちゃん」と呼ぶようになった。

それから二週間、お互いに会いたいと思っていながらも期末試験、補習や康司の実力テスト、亮子は塾の短期講習などでどうしても都合が合わずに会えなかった。夜は毎日電話をしていたが、親しく話ができるようになった分だけ二人で過ごす時間がないことが気になり、なかなか話が盛り上がらなかった。お互いに会いたい気持ちだけが募り、気持ちが重くなる一方の日が続いた。

しかし、それを変えたのが康司のパスポートだった。待ちに待ったハガキが来ると、康司は亮子を誘って受領に出かけることにした。しかし、どうしても亮子の都合が付かず、康司一人で受け取りに行ってきた。しかし、康司は手にしたパスポートを眺めているといよいよ亮子との旅行が近づいているのを感じた。その日、嬉しそうに話す康司の向こうで亮子も久しぶりに明るい声でたくさん話をした。何か、やっと暗いトンネルから出たような、そんな気がした。あとは一気に準備を整えるだけだ。

翌週の月曜日、やっと半分以上のネガを手に入れた昌代は、学校が終わってから康司の部屋に付くといきなり服を脱ぐように言われた。

「イヤよ、脱がしたければ自分ですればいいじゃないの」

昌代はあくまで強気だった。ネガも手に入れずに協力するつもりは、例え1秒でもなかった。

「それなら、早く始めよう。ほらベッドにあがれよ」

昌代がのろのろとベッドに上がり、枕元に広げられたネガケースを広げて中を確認し始めた。今日の康司は昌代の身体を俯せにすると、スカートの中に手を入れてパンツの上から尻のスリットから奥の秘唇の方に向かってゆっくりと撫で始めた。先週の金曜日には、いきなり全て脱がしたのだが、昌代の身体は却って反応せず、帰る時間の直前にやっと声を上げて康司をねだった。そのことから、その気になっていない嫌がる昌代を無理に脱がすのはかたくなな態度にするだけだと言うことに気が付いていた。

優しい手つきでそっと何度もパンツの中心あたりを撫でていると、やがて昌代の尻が反応を始めた。無意識に尻をすぼめたりゆすったりして何とかはっきりとした刺激を得ようとうごめき始める。ニヤッとした康司は何も言わずに、秘唇にしっかりと潤いが感じられるまでパンツの上から撫で続けた。昌代は、次第に康司の与える愛撫が無視できなくなってきたのが分かったが、くすぐったい様な感覚と快感はどうにもならない。この前のように一気に裸にされた方が、まだ全ての感覚を無視できた。

「・・・ん・・・・んんっ・・・あ・・・」

昌代の口から吐息が漏れ始めると、康司はゆっくりとスカートを捲り上げ、形のいい尻を丸出しにするとパンツを脱がし始めた。昌代は俯せなので全く抵抗はできない。パンツを脱がされて、一瞬ひやっとした外気を秘部に感じた昌代は、次の瞬間、康司の指が秘核の周りの撫で始めると、いきなり強い快感が沸き起こったのに驚いた。

「ああっ、そんな、アアン、まだぁ、いやぁっ」

「いきなり感じてるじゃないか。まだ5分くらいだぞ」

「イヤ、まだイヤ、だめ、待って、ね、待って」

「お前の身体が待とうとしないんじゃないのか?ほら、中からどんどんあふれてくるぞ。自分でも分かるんじゃないのか?」

康司は潤い始めた秘唇を指一本で焦れったいくらいにゆっくりと撫で続ける。今の康司は亮子のまだ青さの残る身体も楽しめるので、昌代の大人びた身体にいきなり激情をぶつけなくても我慢できるだけの余裕はあった。

「いやぁ、そんなの嘘よぉ、ダメェ、アアン、待ってぇー」

「嘘なもんか、ほら、音がするだろ?」

康司がクチュクチュとわざと音をさせると、昌代の反応が更に強くなった。

 

 

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