第68部

昌代はぐったりとベッドに沈んだまま、しばらく動けなかった。身体中を快感の余韻が木霊のように響いており、何も動かなくても気持ち良い状態がしばらく続いた。まだ昌代の頭の中には康司の肉棒が身体の奥深くまで刺さって身体の中を掻き回しているような幻想が渦巻いていた。今までバックからのセックスは単に前と後ろの違いしかないと思っていたが、実際には全く違う結合方法だと言うことを思い知った。

それに、康司は昌代を焦らしに焦らして燃え上がらせてしまう。昌代がどんなに我慢しようとしても、康司はその上をいく絶妙な焦らし方で昌代の理性を流し去ってしまうのだ。昌代は今までこんなに激しく求めたこともなかったし、自分がこんなに嫌らしく快感を追いかけるとは知らなかった。

しかし今、満たされた身体で横たわっている昌代には、しつこいほど焦らす康司が嫌いではなかったし、焦らされて恥ずかしいほど燃え上がる自分も嫌いではなかった。そして、康司の前では全てをかなぐり捨ててしまえる事に安心した。まだぼやけた頭で『あんな風に無理矢理な関係から始まらないと、こんな風にはなれなかったろうな・・・・』と思ってみる。それが本当かどうかは分からなかったが、今となっては康司におもちゃにされたことさえ肯定してしまえるような、そんな気がした。

「泊まっていくか?」

康司がぽつりと言った。

「ううん、帰らなきゃ」

そう言って昌代は身体を起こした。そして右手で身体を支えたまま左手で髪をかき上げた。斜めに傾いた身体から突き出している乳房が刺激的で、昌代の何気ない仕草に女の艶めかしさが滲み出していた。思わず康司は、

「動かないで」

と言ったまま、不思議そうに康司を見下ろしている昌代の乳房に吸い付いた。

「あんっ、そんな急にするなんて、ちょ、あうっ、ダメ、気持ち良くて・・・・・身体を支えられない」

昌代はそこまで言うとドサッと身体を倒し、再び康司の愛撫に声を上げ始めた。

 結局、昌代はそれから更に康司に二度貫かれ、最後は泣きながら両手両足で下から康司にしがみつき絶頂した。自分でも最後は何を言っていたのか全然覚えていない。それからしばらくして康司の家を出たときは駅まで歩けるか心配なほど疲れ切っていた。

帰りの電車では、普段は人にくっつかれるのが嫌で立っているのだが、このときばかりは真っ先に座席を捜して座ってしまった。

翌日、昌代は生徒会のミーティングに遅れて参加した。もっとも、緊急の課題があるわけではなく、二週間後に生徒会主催でやることになっている環境ウィークの活動内容の打ち合わせと準備があるだけなので、昌代が遅れていってもみんなは何も言わなかった。昌代は遅れていくつもりなど無かったのだが、朝ベッドから起き上がったときに、余りにも身体が怠いのでどうしても時間までに来ることができなかった。

昨日、あれだけ激しく康司に抱かれたので多少の疲れは覚悟していたが、運動部に入っていない昌代にとっては許容量を遙かに超えた激しすぎる交わりだったらしい。確かに、激しく達した後に身体が疲れてきて、普通ならそのまま身体を休めるところなのに、その後直ぐに康司に求められると疲れた身体で力の限り康司を受け入れてしまった。それを何度か繰り返したので疲れが一気に蓄積したようだった。

ただ、昌代にとっては康司に抱かれた疲れはある種の心地よさを伴っていた。それは、好きな男の子に抱かれたからかも知れないし、初めて自分が完全に満足できるほど感じられたからかも知れないし、新しい自分を発見したからかも知れないのだが、疲れていても笑顔が自然に出るのは昌代が幸せを感じている証拠と言えた。

生徒会には昌代のやっている書記の他に10人ほどのメンバーが居るし、その半分以上は男子なのだが、昌代はその男子生徒の中に男の魅力を見たことはなかった。確かに積極的出し頭も良いし、ルックスだって悪くはないのだが、はっきり言うとそれだけなのだ。

それに、生徒会のメンバー同士彼女やカレシが居るとか居ないとかは知っているし、小人数の集まりなので特定の一人に声を掛けられる雰囲気ではない。明るくて楽しいのだが、誰も特定の一人に声を掛けようとしたものは居なかったし、それをやればどうなるのか、きっと全員が良く分かっていた。

それでも生徒会のメンバーは推薦されて選挙で選ばれるだけに全校の注目の的だった。実際は選挙で選ばれるのは半分で、残りの半分は選ばれた生徒会長が中心になって選挙の後に集めてくるのだが、昌代は入学直後から生徒会に入っていた。本人が望んだわけではないのだが、中学からの実績と頭の良さ、そして目立つ美しさを持っていれば誰もが当然と思った。

もちろん昌代は、生徒会に入った以上手を抜くことは一切していないし、人一倍活動にも熱心だったが、注目されることに慣れてはいても、心地良いとは思わなかった。常に注目されているから知らない生徒から手紙をもらったこともあるし、ある日突然、全く理由など無く同級生の女子から冷たい目で睨まれたこともあった。数少ない仲の良かった子が急に離れていき、理由を聞いたら教室でグループを作っている子の彼が昌代を好きになったのでその子から圧力を掛けられたと聞いたときには悔しくて悲しくて勉強が手に付かなかったときもあった。

そんな昌代にとって、一匹狼で名の通っている康司に無理矢理抱かれ、健一に嫌われたときは人生のどん底だと思ったのだが、今はその康司が好きで堪らない。プライドの高い普段の昌代からは考えられないことだが、もし康司が他の子とつきあい始めても、自分の目の前でさえいつも通りにしていてくれれば許せてしまいそうな気さえしていた。

遅れて参加したミーティングでも昌代は積極的に発言し、他のメンバーを説得してアンケート調査を実施することに決定した。そのために必要な備品、道具を弾き出し、購入が必要なものについては金額を出したし、アンケートを実施できるサンプル数を予想して結果のシミュレーションまでやってのけた。そこまでできる生徒は昌代だけしかいなかった。これで目立たないはずがなかった。

生徒会のミーティングが終わると今の昌代にとって一番辛い時間が始まった。康司に会いたいのだが、昨日の夜会ったばかりだから会えるはずがなかった。電話をしたいのだが、電話すれば会いたくなるし、どうせ電話を切ってもまたすぐに電話したくなるのは分かり切っていた。だから昌代は必死に自分を抑え、図書館に逃げ込んで勉強に没頭することで時間を潰すしか選択の余地がなかった。

昌代は午後10時にいつも康司に電話した。康司はごく普通に話をしていたが、昌代自身は自分でも可笑しいくらい明るく弾んでいた。そしてそれが二人の間の自然な約束事になっていった。康司は昌代を週に一度か二度誘ってきた。たいていは街に出た後、康司の部屋で抱かれたが、昌代にとっては心から安心できる人生で一番大切な時間だった。

昌代は康司に抱かれる度に自分の身体がどんどん開発されていくのが良く分かった。今では熱い吐息が項にかかっただけで足の先までゾクッとした感覚が走り抜ける。

昌代はどうして康司はこんなに身体を開発するのが上手いのか最初は不思議だったが、やがてカメラマンとして鍛えられた目が昌代の身体の反応を見逃さないからだと気が付いた。

だから、焦らされているときは昌代がどんなに感覚を無視しようとしても、我慢しようとしても無駄だった。康司の鋭い観察力は僅かな昌代の身体の変化も見逃さず、ギリギリまで焦らしてから最大限の喜びを与えてくれた。昌代は『おじさまとばかり付き合う子がいるけど、私だって経験豊富な人に開発されているのと同じ様なものなんだろうな。あんな風にされたら誰だってメロメロになるもの』と思った。

そして生徒会の環境ウィークが終わり、データの整理に追われていたときのことだった。午後3時を回ったとき、昌代の携帯が鳴った。康司がこんな時間に掛けてくることなど今まで無かったので驚いて昌代が出ると、

「出てこないか?図書館にいるんだろ?駅で待ってるよ」

と康司が言った。昌代が慌てて駅に行くと、康司は昌代を近くの本屋に連れて行った。そして雑誌のコーナーの隅っこにあるホチキス止めの少女系アダルト雑誌を取ると、

「ほら、見てみろよ」

と言った。

「なあに?私、そんな物見無いわよ」

「知ってるよ。でも見てみろよ。直ぐに分かるから」

と言った。どうやら昌代に何かを捜して欲しいらしい。昌代は康司が何をさせたいのか分からずに一応は手に取ってみた。しかし、表紙を見ただけで中身が全て分かってしまうような雑誌だ。昌代はパラパラとめくってみたが、どう見てもまともな雑誌とは思えないし、嫌悪感さえ湧き上がってきたので直ぐに止めてしまった。

「やっぱり止めとく」

「良いから、別に昌代に見て楽しめ何て言ってないだろ。ちゃんと見てみろよ。びっくりするから」

「なんなのよ」

昌代はそう言ったが、明らかに康司は昌代が驚くと言っているのだから、単に裸が載った写真を見せたいというのではないらしい。昌代が我慢して見ていくと、だいたい雑誌の作りは分かってしまった。前半に本物の少女の可愛らしいが一切裸の無い写真を載せておき、その後に少女とはかけ離れたモデルの裸を載せておく。これを読んだ男性の頭の中で二つの良いところが合体すれば妄想のできあがり、と言うわけだ。

真ん中近くまでめくっていく内に、昌代はもうこの雑誌に慣れてしまった。少女やモデルが変わるだけで単調な作りだし、女の昌代にとっては興奮するはずもないから退屈なのも仕方ない。

しかし、ある部分から突然雰囲気が変わった。『現役女子高生の冒険日記』と銘打たれた特集ページは今までと全然雰囲気が違う。目に線が入っているのではっきりとは分からないが、可愛らしい女の子が成田から旅立っていく様子が日記形式で載っていた。雑誌から目を上げると、康司が悲しそうな怒っているような変な表情をしている。雑誌に再び目を落とすと、何か昌代の記憶の中で呼びかけているものがあった。『え?この子、知ってるの?でも、誰だろう?グラビアアイドル?ううん、そんな感じじゃない。もっとこの子は若いもの。誰?』最初は分からなかったが、頭の中では『絶対に知ってる子よ。ほら、あの子じゃないの』という声が聞こえる。『でも、誰?高校生、高校生?うたばんとかに出てたっけ?ううん、そんな子いない』分かっているのにはっきりしない。そんな感じで頭の中がすっきりとしなかった。やがて昌代はギブアップすることにした。

「わかんない」

そう言って雑誌を元の位置に戻す。

「そうか、わからないか。それならいいよ」

康司がそう言った途端、昌代の頭の中でスイッチが入った。鮮やかにその子との記憶が蘇った。慌てて雑誌を再び手に取り、食い入るように見る。『やっぱりそうだ。絶対に間違いない』

「これ、・・アキだ・・・」

そう言った途端、康司の顔が大きく歪んだ。昌代は写真の細部までしっかりと観察してみた。確かに成田空港から旅立っていったようだ。飛行機の中で美味しそうに食事をする様子や『南の島』に着いてからホテルの入り口、そしてコテージへと入っていく様子がしっかりと写っている。そして最後はベッドの上でゴロゴロしてから、上半身を脱いで誰かの手で乳房を揉まれているところがしっかりと写っていた。顎を突き出して喘いでいるらしい写真は快感の強さを感じさせる。そして『引き続き大特集!次号を待て』で終わっている。昌代は最初、亮子に呆れてしまった。何を考えてこんな雑誌のエロモデルになんかなったんだろう?

「あの子、何してるの?考えてることが分かんない」

そう言って昌代は冷たい視線で雑誌を見下ろしたが、康司の表情が気になった。最初は『康司さん、アキのこと好きだったから、残念で仕方ないんだ、きっと』そう思ったが、それでもすっきりとしなかった。『どうしてそんなに悲しい顔をするんだろう?まるで、自分の彼女か家族がスクープされたみたい・・・・。ううん、自分自身がスクープされたみたいに悲しんでる。アキはもう彼女じゃないのに』そこまで考えた時、昌代の頭に物凄いことが浮かんだ。『あの写真、撮影クルーを使って撮ったものじゃない。自分たちで撮ったスナップ写真だ。もし、あの写真はプロのカメラマンが撮ったんじゃないとしたら・・・・』

 

 

 

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