第76部

『おい、お前、自分から電話をしたのか?』

「え?はい、連絡がなかったから、やっぱり自分で何とかしなきゃって思って」

『待つのは辛いかも知れないけどな、それくらい耐えろよ。こっちだって赤の他人のお前のためにいろいろやってるんだから』

「あの、何かしてくれてたんですか?」

『当たり前だろ?あの話だけ聞いて俺が放り出すとでも思ったのか?』

「ごめんなさい。でも、待てとも何とも言われなかったから、不安になっちゃって」

『当たり前だろ?どうなるか分かんないんだから。自分たちが被害者だとでも思ってるのか?逆だよ。被害者はあの出版社の方なんだよ。勝手に写真を持ち込んできたかと思ったら直ぐにネガを返せだの次号に写真をもう載せるなだの。おまけに回収しろ?勝手なこと言い放題じゃないか。嫌ならネガなんか持ち込むなって言うのが普通だろうが』

「それはそうかも知れませんけど、そんな言い方しなくたって・・・・。アキちゃんは綺麗な写真をミニアルバムにして出して欲しくて・・」

『それでフルヌードだけじゃなくてオマンコのドアップやらセックスの様子まで写して持って行ったってか?』

「いいえ、当然それは載せて欲しくなかったんです」

『ほうら、我が儘じゃないか。それならそのネガを外して持って行くべきだろう?載せて欲しくないネガまでどうして一緒に持って行ったんだよ。言ってみろよ。その理由を』

「それはアキちゃんが素人で・・・・・」

『お楽しみの写真だけは見るだけで勘弁してくださいってか?』

「それは・・・・・・・」

ここで一息置いてから、カメラマンがゆっくりと話し始めた。

『なぁ、だから、これは向こうが悪いって言う話から始めると上手く行かないんだよ。向こうから見れば騙されたって思ったって不思議はないんだ』

「・・・はい・・・・・・」

『だから、向こうの言うことも尊重した上で決めなきゃならないんだよ』

「えっ、アキちゃんの写真をまだ載せるんですか?あのシーンの次はいっぱい出して欲しくないのが写っていて・・・」

『そうは言ってないよ。でも、向こうにも損をしないようにしてやらないと、解決はしないんだよ』

「そんな、これ以上あの写真を出されたらアキちゃんは外に出られなくなる・・・」

『だから、任せろよ。悪いようにはしないから。今お前に出てこられるとまとまる話も台無しになるんだよ。良いか?じっとしてろ。後で連絡するから』

「後でって、いつ頃?」

『知るかよ、そんなこと。お前達の蒔いた種なんだ。それくらい我慢しろ』

そう言うとカメラマンは勝手に電話を切った。

「何て言ってたの?」

「じっとしてろって。何か交渉してくれてるみたいなんだ」

「それで、上手く行きそうなの?」

「あっちの方にも損をしないようにしないと話がまとまらないって」

「だって、そんなこと・・・。もうあれ以上写真が載ったら・・・」

康司はカメラマンに言われたことをゆっくりと亮子に説明した。亮子は理解したようだったが、その結果、やっぱり何枚かは次号に載ってしまうのかも知れないと思うと不安が募るばかりだった。

「アキちゃん、とにかく、ちゃんと交渉してくれてるみたいだし、『悪いようにはしない』って言ってくれてるんだから任せてみようよ」

「でも・・・・・」

「それじゃ、俺たちがやってみて、あの人よりもっと上手にできると思う?」

「・・・・・思わない・・・・」

「仕方ないだろ?任せてみよう」

「分かったわ。康司さんがそう言うのなら。私、あの人に任せてみる」

亮子にしてみれば、会ったこともないカメラマンを信じると言うよりは、そのカメラマンを信じている康司を信じることしかできなかった。

「それじゃ、ご飯でも食べに行こうか?」

「うん」

「それで、ご飯を食べながらもう少し待ってみよう。何か連絡があるかも知れない」

「うん」

「家には連絡しなくて大丈夫?」

「あ、連絡しなきゃ」

そう言うと亮子は家に電話して、友達に会ったので夕食は要らないと言った。

「へぇ、アキちゃん、親の信頼があるんだね。それだけで何にも言われないなんて」

「だって、私、殆ど夜に外出する事なんて無いもの。康司さんと知り合ってからよ。外出するようになったのは」

「そうなんだ」

「でも、両親も少しは心配してるみたいだけど」

「それじゃ、あんまり外出はできないね」

「そう、遊び人になったと思われちゃうから。でも、今日は大丈夫。ご飯に行きましょう。何を食べさせてくれるの?」

「アキちゃんは何を食べたいの?」

「それってサイテー。女の子に選ばせるつもり?責任逃れよ」

「だって、気に入ったものを食べて欲しいからさ。笑顔を見たいから」

「それなら、康司さんが自分で考えて私の気に入るものを食べさせて。それが康司さんの責任よ。私が気に入ればいっぱい笑ってあげるから。その心配りが嫌で直接女の子に聞こうなんて卑怯よ」

「そう言うもんかなぁ・・・・」

「そうよ。だって、もし私がハンバーグが良いって言ったとして、それが美味しくなかったら、私はどう思えばいいの?康司さんに美味しくないもの食べさせちゃったって思わなくちゃいけないじゃないの」

「俺はそんなこと思わないよ」

「絶対に保証する?私が康司さんの嫌いなものとかゲテモノとか選んでも?」

「そんなこと・・・・・」

「とにかく、康司さんが考えて。良い?」

「分かったよ。考えるよ・・・・」

「うわぁ、ありがとう。何を食べさせてもらえるのかな?楽しみ」

「でも、お金無いから、あんまり良いものじゃないぞ」

「お金は持ってるから心配しないで」

「そう来たか・・・。分かったよ。とにかく出よう」

「うん。ここは私が出しとくね」

そう言うと亮子は伝票を持って席を立った。

店を出ると康司はいよいよ困った。全然浮かんでこない。

「ねぇ、行こうよ」

そう言うと亮子は康司の腕を組んできた。康司はドキッとしたが、頭は半分食べるものを考えるのでいっぱいなのであまり気にもしなかった。普通なら亮子みたいに可愛らしい女の子に思い切りくっつかれたら嫌な気がするはずがないのだが、今の康司は全然それどころではなかった。ただ、歩きにくいのは確かだった。

「アキちゃん・・・・・・」

「なあに?」

「グァムのホテルで食べたもの、覚えてる?」

「うん、もちろん」

「確か、秋葉原にはハワイ料理の店があったと思うんだ。グァムとは少し違うかも知れないけど・・・・」

「行きたーい。絶対そこがいいっ」

「でも、狭くて綺麗じゃないような気がするけど、良い?」

「もちろん。絶対そこがいーの」

二人はその店を目指して歩き始めたが、亮子が康司の腕にぶら下がるようにして歩いているのでとても歩きにくい。しかし、亮子の胸の膨らみがダイレクトに当たるのでとても嬉しかった。そして、こんな時に不謹慎だとは思ったが、どちらかというとハワイ料理の店よりは二人きりになれる所で亮子の硬い半球型の乳房を可愛がりたいと思った。

「あ、あれだよ、たぶん・・・・」

康司が見つけたのは秋葉原の駅の横の高架下みたいな所にある小さなハワイ料理店だった。店の中はカウンターが数席とテーブルが三つほどの小さな定食屋といった感じになっている。しかし、マスターは見るからにハワイ人という感じの色黒の太ったおじさんだった。そして、店の中はハワイグッズで溢れている。二人はテーブルに着くと、早速メニューに取り組んだ。

「ねぇ、アキちゃんは俺たちが食べたもの、何て言うか知ってるんだろ?」

「ええっ?名前?えーと、何だったっけ・・・・」

二人はメニューを見ながらも、純粋に楽しかったグァムの日々を思い出していた。

「俺は一つ覚えてるよ。うーんと、ぽーたーはうす・・・だ」

「ポーターハウスね。そう、その時私が食べたのは・・・確か・・ベイビーバックリブ・・・だっけ?」

「うん、そんな感じの名前だったような気がするけど」

「そうね。メニューにはないみたいだけど、聞いてみましょうか?」

「うん、懐かしいな」

「済みません。ポーターハウスとベイビーバックリブはありますか?」

亮子が店員に聞くと、それを横で聞いていたマスターが大笑いした。

「そんなもの、ここで出すには値段が高すぎるよ。良くメニューを見てごらん。そんな高い物は一つもないだろ?ここは全部千円以下なんだから」

「そうですか・・・。ごめんなさい」

「でも、似たようなものなら作ってやるよ。それで良いかい?」

「はい、お願いします」

「OK。肉を使うから一人1500円くらいかかるけど良いかい?」

「はい、お願いします」

そう言うと亮子はワクワクしながら待ち続けた。

「何が出てくるのかな?」

「きっと、焼き肉定食のハワイ風みたいなものじゃないの?」

「それなら鉄板だね!」

「でも、あんまり期待しない方が良いと思うけどなぁ」

「康司さん、このお店、臭いがとってもハワイって感じでしょう?匂いが良いお店ってたいてい当たりなの、知らないの?」

「そういうもんかなぁ????」

「もう、そう言う所は普通の高校生なんだから」

「だって、こんなところなんて入らないから・・・・・」

「それじゃ、どんな所に入ってるの?」

「本当の安い定食屋とか・・・・・」

「定食屋って?」

「俺が行ってるのは、最初からできあがったおかずの皿がカウンターに積み上げてあるんだ。だから注文するとご飯をどんぶりに入れて、味噌汁を入れて、おかずを持って来ればお終い、30秒で出てくるよ。だいたいの定食が500円くらいだし」

「今時、そんな店、あるの?」

「あるよ。後で行ってみる?」

「ここのを食べてからね」

そんなことを言っていると、目の前に料理が運ばれてきた。一皿に全て盛りつけてあるのは如何にもあちら風といった感じだ。

「はい、どうぞ」

「これ、何て言う料理なんですか?」

「名前なんて無いよ。学生さんに合わせて作ったんだから。ほら、あそこに、スパムムスビ、って書いてあるだろ?あのスパムを炒めてご飯の上に載せたものと、ロコモコを合体させたんだ。だから一人前だけど二つ分入ってるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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