第79部

『どこに泊まりたいの?』

「サヨの家に泊まることにして。それなら母親も納得するから」

『それで、アキはどこに泊まるの?』

「まだ決めてない」

『それって、危ないんじゃない?』

「そんなこと無い。康司さんが一緒だから」

『ええっ、アキ、あんた・・・・』

「二人の邪魔をするつもりは無いの。ただ、どうしても今日だけはお願い。後でちゃんと話すから」

昌代は驚いた。いきなり康司との外泊の片棒を担げと言う。康司と一緒と言うことは、既に昌代と康司の関係を知っていると思って良い。つまり、それは横取りを認めろと言っているにも等しいと思った。しかし、ちゃんと話をすると言っているし、邪魔をするつもりもないと言ってる。

『どういう事?』

「私の写真、見た?」

『あ、あれね・・・・、やっぱりアキか・・・』

「そう、それで康司さんに無理にお願いして助けて貰ってるの。それで、何とかなりそうなんだけど、明日出版社でネガを受け取るまでは不安で仕方ないの。私、壊れそうなの」

『それって、康司さんを無理やり手伝わせたの?』

「明日、ちゃんと話す。でも、今話してたら長くなって親に信じて貰えなくなる。サヨ、お願い。サヨしか頼める人、居ないの」

『・・・・・・分かった。借りは大きいよ。覚悟は良い?』

「ありがとう」

『直ぐに電話しとく』

「お願い」

そう言うと亮子は携帯を仕舞った。もちろん、横で聞いていた康司も驚いた。まさか、ここで亮子が昌代に電話するとは思っても見なかった。

「昌代さんに電話したの?」

康司が聞くと、亮子は再び康司の首に手を回して抱きついてきた。

「そうよ。サヨしか居ないもの。こんなこと頼めるの」

「でも、どうして・・・・」

「サヨならきっと上手くやってくれる」

「そりゃそうだろうけど・・・、いいの?」

「良いのよ。もし、康司さんが私よりサヨのことを好きなら、私には何も言う資格がない。私はそれだけのこと、したんだから。でも、明日までは一緒に居て。お願い」

亮子は康司の首に手を回したまま、耳元で囁いた。きっと、他の人から見たら愛を囁いているように見えたことだろう。

二人が駅に向かって歩き始めた時、康司が聞いた。

「ねぇ、どうしてこんなところから電話したの?」

「ここは静かだから、携帯に外の音が入らないでしょ?どこから掛けているのか分からないはず。でも、渋谷からじゃ繁華街だって一発でバレちゃう」

「そういうことか」

「そう、それじゃ、どこに行こうか?」

「そうね、考えよう。・・・・康司さん、ありがとう」

二人が歩き始めた頃、昌代は亮子の家に電話してアリバイ作りに成功した。ちゃんと家の固定電話から掛けたので、信用されたのだ。その電話を切ってから、昌代は改めて亮子のことを考えてみた。康司に無理にお願いしたと亮子は言っていた。たぶん、そんなことだろうと思った。明らかに最近になって康司の心は自分に向いていた。きっと、それを分かっていてのことなのだろう。しかし、それでも自分が不安だからと言って強引に康司と外泊するというのは、如何にも亮子らしかった。ただ、中学の時から、そんな亮子の突っ走る強さみたいな物が昌代は好きだった。自分には絶対にできないことだ。『アキらしいわね・・・・』そう心の中でつぶやいてみたが、康司の心が再び乱れて亮子に流れていかないか、不安になった。それでも、亮子のアリバイを作ったことに後悔はなかった。昌代にとっても亮子は大切な人なのだ。それに、この恩はかなり強力に使えるはずだ。

二人は三軒茶屋の駅でどこに行くか相談した結果、ネット検索で探すことになった。亮子はシティホテルでも良いと行ったのだが、それだと2万円以上かかってしまう。いくら貯金を積み立ててきたと言っても亮子には高すぎるはずだと康司は思った。そこで携帯で検索した結果、新宿のビジネスホテルに入ることにした。理由は単純で、二人で1万円以下で泊まれて場所が新宿だからだ。二人は三軒茶屋の駅のホームで電車を待ちながら、二人での外泊の作戦を練り始めた。

「大丈夫かなぁ。高校生二人で泊まれる?」

「おやおや、アキちゃん、急に弱気になったね」

「だって、こんなこと、考えても見なかったから」

「大丈夫だよ。二人とも18歳にしておけば。私服なんだから問題ないよ」

「そう言うのは康司さんのほうが経験豊富みたい」

「何言ってんだよ。泊まりたいって言ったのはアキちゃんじゃないか」

「ううん、ごめんね。尊敬してるの」

「え、そ、そう・・・なんだ・・・・」

「早く私を康司さんと二人だけの所に連れてって」

「うん、あ、買い物とか、しないと。俺は良いけど、あるんだろ?女の子は」

「特に無いわ」

「着替えはどうするの?女の子って面倒なんだろ?」

康司が聞くと、亮子は顔を真っ赤にしながら耳元で囁いた。

「買うと高いし、コンビニのじゃ・・・・。部屋で洗濯して乾かせば・・・・、だって、要らないでしょ?寝てる時は・・・・」

「そ、そうだね・・・・・」

それを聞いた康司も答えながら顔が真っ赤になった。

電車で新宿に向かう間、二人はそっと寄り添っていた。それは亮子にとって、今自分を守ってくれる唯一人の大切な人との貴重な時間だった。康司もあまり話さなかった。何か話すと直ぐにホテルの話になりそうだったからだ。それは、グァムに向かった時の二人とは全然違う、どちらかと言うと逃避行に近い感覚だった。

「何か食べるものとか買っていこうか」

康司はホテルが近づくと、そう言った。

「うん」

「それじゃ、コンビニで買う分は俺が出すからね」

「うん、ありがとう」

「食べたいものとかある?」

「康司さん、まだ聞くの?」

「あ、そうだった。任せてくれる?」

「もちろん」

亮子はニッコリと笑った。その笑顔は、その日康司が見た中で最高の笑顔だった。コンビニに寄ってから二人が新宿から京王線で一駅のホテルに到着すると、康司が予想した通りチェックインでは何も言われなかった。二人が部屋に入ると、亮子は大きく深呼吸した。

「やっと着いた。ここが今夜、私たちのための部屋なのね・・・・」

そう言って亮子は部屋の中を点検し始めた。何があるのか調べるのはさすが女の子らしい。

「そうだよ。どう?」

「分かんない。綺麗だけど、なんか複雑で・・・・」

「窓の外はどうなってるのかな?」

康司はカーテンを開けてみた。しかし、ちょっと離れたところに隣のビルの壁があって、全然見えなかった。

「何だ・・・、綺麗な夜景が見えると思ったのに。せっかく9Fなんだから・・・」

「贅沢言わないの」

「そうだよね。アキちゃんと一緒に居られるんだから」

康司はそう言うと、亮子を軽く抱き寄せた。

「康司さん、私と一緒で嫌じゃない?」

「どうして?」

「サヨが好きなんでしょ?別々に寝ても良いのよ」

「何言ってるんだよ。俺の気持ち、知らない訳じゃないだろ?」

「私のこと、好きでいてくれる?」

亮子が聞くと、康司は亮子の顎を軽く持ち上げて唇を寄せながら、こう言った。

「アキちゃんのことが大好きだよ。グァムに行く前からずっと。好きだ」

「嬉しい。ちゃんと言ってくれて。私も大好きよ」

「アキちゃんこそ、俺のこと嫌じゃないの?」

「どうして?」

「昌代さんと・・・・、あの・・・・・」

「ううん、サヨのことは気にしないことにしたの。康司さんが私のことを好きでいてくれればそれで良いから」

康司は良い雰囲気になって来たのを喜んだが、もう一つだけ、どうしても確認したいことがあった。

「アキちゃん、教えて」

「なあに?」

「もう、居なくなったりしない?突然消えたりしない?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

亮子はしばらく黙っていた。その数秒が康司を再び不安にした。

「アキちゃ・・」

「大丈夫よ。もう居なくなったりしない。だって、私はもう康司さんに守って貰わないと生きていけないもの」

「生きていけないって・・・・」

「私は自分で責任を取らなくちゃいけないの。今の私が納得する責任の取り方は、康司さんに守って貰うこと。守って貰う代わりに康司さんが望むようにしてあげること。康司さんが好きな時に呼んでくれてかまわないわ。勉強でも、デートでも、ここでも・・・・」

「良いの?そんなこと言って」

「今はそれしかないと思うの。いつまでかは分からないけど、私自身が違うことをしたいと思うまでは。だから、康司さん、私を守って」

そう言うと亮子は唇をそっと差し出して目をつぶった。康司の唇がそれに重なり、少しずつ大胆に絡み始める。そして、康司の唇が亮子の細い首筋を這い回り始めると、

「ダメ、待って、シャワーを浴びさせて。それと服を脱いで下着を洗濯しなきゃ、ああん、待って、康司さん、少しだけ待って、ああっ、ダメ、あうっ、康司さん、お願い・・・」

「アキちゃん、我慢できないよ」

「逃げないから。ずっと一緒に居るから、あぁぁぁ、お願い、康司さん・・・」

亮子は夢中になる前に、することだけはしておきたかった。そして、夢中になってからは朝まで全てを忘れたかった。

「お願い、康司さん、少しだけ待って、あっ、ダメ」

康司の手がTシャツを捲り上げ、胸の膨らみを撫で回し始めると、亮子は感じながらも嫌がった。

「ああっ、お願い、康司さん、まってぇぇ・・・」

亮子は全く抵抗しなかったので、康司の手は簡単にブラジャーの膨らみを捉えることができたが、帰って亮子が全く抵抗しないことが康司の心を引き留めた。

「アキちゃん・・・・」

「お願い、少しだけ時間を頂戴」

乳房を撫で回されながら喘ぎ声で懇願する亮子を見て、康司は亮子が本気で康司に全てを任せる気になっていることを理解した。このまま服を脱がしてベッドに押し倒してもたぶん、亮子は素直に受け入れるだろう。でも、それでは明日になって困るのは二人なのだ。康司はTシャツから手を抜くと、もう一度優しく亮子にキスをした。

「ごめんよ、アキちゃん。まず、何をすればいいの?」

「康司さん、全部脱いでシャワーを浴びて。その間に下着を洗濯するから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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