由美はいつものように身体の芯にけだるさが残るのを感じながら部屋を出ると、エレベーターでロビーに下り、いつものように駅に向かって歩こうとした。すると、ロビーの外に同じくらいの年の少女がポツンと立っているのが見え、由美がロビーを出ると、入れ違いに中に入っていった。『ここマンションの人なのかな?外に一人で何をしてたんだろう?』ここは耕一の部屋と同じような、どちらかというと一人暮らし用のマンスリーマンションだったから、女子高生は似合わないような気がしたが、それ以上は考えずにそのまま駅に向かって歩き出した。しかし、ふと視線を感じて振り替えると、ロビーの中の少女と一瞬目が合った。しかし、その時の由美は『そう言えば自分もここには似合わないと思われたのかな?』と一人で納得すると、そのまま視線を流して歩き始めた。

宏一が部屋で荷物を片づけて帰り支度をしていると、ドアのチャイムが音を立てた。てっきり由美が忘れ物でもしたのかと思って何気なくドアを開けると、一人の少女が立っている。

「はい?なんでしょう?」

「あの・・・・・・・・・・・・・・こんにちは」

ひどくおどおどした感じで、セールスのようにも見えないし、宗教の勧誘という感じでもない。たいていそう言う場合は二人で来るのが普通だからだ。

「はい、こんにちは・・・・・どうかしましたか?」

「・・・・・いえ・・・・・あの・・・・・・・・・」

何かを言いたいようだが、面倒に巻き込まれるのもいやだし、女の子に目がくらんで部屋に入れた途端暴力団関係者でも出てきたら目も当てられない。どうしても慎重になってしまう。

「何か?」

少し宏一はイライラしてきた。何か言ってくれないと先に進まない。

「済みません、お帰りになる所を急におじゃまして」

宏一は驚いた。確かに帰り支度をしていたが、それをこの子が知っているはずがない。

「いいえ、それは全然良いですけど、何か困ったことでもあったんですか?」

「いえ、あの・・・・ちょっと・・・いいですか?」

「これから?何の話でしょう?」

その言い方が少しきつかったので、少女はびっくりしてしまったようだ。

「いいえ・・・・だめならいいです・・・・ごめんなさい・・・」

そう言って頭を下げて帰ろうとする。

「ちょっと待って、今出るから。そこのコンビニの隣でお茶でもしますか?」

そういうと、少女ははっきりと安堵の表情を浮かべた。

「はい、待ってます。あ、先に言ってた方が良いですね。そうします」

そう言うと少女はエレベーターの方に向かって歩いていった。『何なんだろう?何かの勧誘かな?それにしては何にも持ってないけど?行った先で誰かが出てくるのかな?』考えてみても仕方がない。どうせあとは帰るだけだし、勧誘なら断る自身はあったので、暇つぶしと思って指定した喫茶店に向かった。

店に入ると入り口に近い所にあの少女が座っていた。勧誘なら奥の方の席に座るのが常套手段だし、他に人もいないようだ。とりあえず向かいの席に座った。

「初めまして。幸村玲と言います」

少女は大人しく頭を下げた。

「はい、初めまして、三谷宏一です。どうかしたんですか?」

「あの・・・・いいえ・・・・ちょっと・・・・・・お願い・・・いや、お話・・・・じゃ無いな・・・ええと・・・・ごめんなさい」

「うちに何か用事があったんじゃ?勧誘にも見えないし・・・」

「勧誘なんかじゃありません」

ウェイトレスが来たので、とりあえずケーキセットを二つ注文した。玲は何も言わず黙って頷いただけだ。

「ええと、幸村さん、でしたね。あのマンションに住んでるんですか?」

「はい」

「気が付かなかったな。だいぶ前から?」

「2ヶ月前からです」

「あそこは長く住む所じゃないから、あんまり人の顔は覚えなくて・・・」

「私、もうすぐ出ていきます。あと2週間で」

「そうか、せっかく知り合ったのに残念。家に帰るんですか?」

宏一はそう言いながらも内心何故かホッとした。とりあえず、関わり合いがあるにしても簡単に住みそうだった。

「はい、イギリスに留学するんです。ここはその準備にいるだけなんです」

「凄いね。高校生、でしょ?一人で?」

「はい。とにかく1年間は向こうの学校に通います」

「それじゃ、日本も後少しだね。美味しいもの、いっぱい食べておかなきゃね」

「はい、それもそうなんですけど・・・」

「どうかしましたか?」

「そのことで・・・・・・あの・・・・・・お願いが・・・・」

また急に口が重くなった玲は、下を向いたまま何かを言いたそうにしている。

「そのこと?留学?お願い?」

宏一は何のことかさっぱり分からなかった。自分で留学するというのだから、英語の問題はないんだろうし、何か教えて欲しいと言われても2週間では何もできない。

「何か手続きか何かを教えて欲しいんですか?」

「いえ・・・ビザはすでに取りました」

「それじゃ、何を・・・・」

「あの・・・・・私、今日初めて合うんですけど、三谷さんのことは前から知ってましたすれ違ったこともあります」

それから玲がぽつぽつと言ったことは宏一を驚かせた。玲は由美が毎週同じ時間に宏一の部屋を訪れることを知っていた。最初は由美が自分と同じようにこのマンションに住んでおり、もしかしたら知り合いになれるかと思って声をかけようとしたのだが、朝はどれだけ窓から見ていても由美は出てこない。そのうち、単に週に二回、二時間ずつ来ているだけだと言うことが分かった。そして、由美が帰る時には満たされたような満足そうな笑顔を浮かべていることから、玲は恋人に会いに来ているのだと直感した。

「そうか、由美ちゃんのこと、そこまで調べてたんだ」

「ごめんなさい。そんな調べるなんて・・・・そんなつもりじゃ・・・・」

「それで、どうして今日、部屋に来たの?」

「もうすぐ日本から出て行かなくちゃ行けないんです。その前に少しだけ思い出が欲しくて・・・」

「思い出?」

「私、向こうに行ったら日本人なんて誰もいません。イギリス人は嫌いじゃないですけど、思い返せるような大切な思い出が欲しいんです。それでお願いしようと思って」

「お願いって?」

「分かりません。でも、今はもう三谷さんにお願いするしかないんです。今から新しい友達を作る時間はないから」

「実家に帰れば友達はいるでしょ?」

「はい・・・でも、彼とはケンカ別れして来ちゃったし・・・・・今さら帰って声をかける人なんて・・・」

「彼はイギリスに行くのに反対だったの?」

「もの凄く反対でした。それで・・・」

「そうか、思い出が欲しいけど、実家には帰りづらいんだ」

「そうなんです。それで・・・・。由美さんて言いました?あの子の名前。あの子の顔を見ていれば、三谷さんが信用できる人だって分かります。とってもまじめそうな子だから。自分でも図々しいと思いますけど、もう時間がないんです」

宏一はしばらく考え込んでしまった。なんと言えばいいのか分からない。

「どうすればいいの?恋人代わりにどこかに連れて行けばいいのかな?」

「私も分かりません。三谷さんに任せます」

「映画とか、食事とか?」

「何でも良いんです。本当に。ただ、あんまりお金は使えないんです」

宏一は、それなら乗ってもいい話だと思った。しかし、あまりにも話がうますぎる場合は、更に用心しておく必要がある。

「話はよく分かるし、幸村さん、ええと、玲ちゃんて呼んでいい?玲ちゃんの気持ちも分かるよ。日本に素敵な思い出を作りたいって言う・・・・。でもね、思い出は自分の回りで自然にできるものじゃないのかな?無理やり思い出を作る事なんて無いんじゃないか、と思うんだけど・・・」

それを聞いた玲の表情が、宏一が見ても気の毒と思えるくらい悲しそうにゆがんだ。じわりと涙が浮かんでくる。しばらく無言で座っていたが、やがてゆっくりと立ち上がった。可愛そうなくらい肩が落ちている。

「はい、分かりました。変なこと言ってごめんなさい。失礼します」

そう言ってお辞儀をすると席を立って出ていこうとした。

「それで、玲さんは温泉て好き?」

その背中に宏一が声をかけると、ビクッと背中が震えるのが分かった。

「遠くは無理だけど、箱根は今のシーズン、良いらしいよ」

「あ・・・あの・・・・・・」

「座ったら?まだケーキに手を付けてないよ」

そう言うと、すっかり冷め切ったコーヒーを新しいものに換えて貰った。

「俺からも謝るよ。ごめんね。意地悪するつもりじゃなかったけど、玲さんのこと、よく分からなかったから弱気になっちゃって」

「いいえ、そんなこと・・・・」

「どれくらいの時間が取れるの?」

「一日くらいなら・・・・ごめんなさい・・・もう準備で時間がほとんど無いんです」

「一日って事は24時間て考えて良いの?」

「え?・・・・・・・はい・・・・たぶん・・・・・」

「任せてくれるって言ったよね?それなら一泊で箱根に行こうか?日帰りだと往復の時間ばっかりとられるから。それとも、泊まりがけはいや?」

「そんなことは・・・・・・・・・」

玲は恥ずかしそうにしているが、嫌がっている様子ではなかった。

「それなら決まり。良いよね?いつにする?」

「平日は準備があるので・・・・」

「それじゃ、土曜日は?」

「今度の土曜日は親戚と食事の約束があって・・・日曜日はおじいちゃんの所に挨拶に行かなくちゃ行けなくて・・・・」

「忙しいね。その次の週は?」

「出発の直前なので・・・・・」

「そうか、やっぱり無理かな?」

「ごめんなさい。でも、そう言って貰えてとっても嬉しいです」

「親戚と食事の約束は夜?」

「はい、京王プラザで6時から・・・・」

「じゃあ、その前なら良いんだね?金曜日の夜は?」

「英会話が五時まであります」

「それ以降は空いてるの?」

「はい・・・・金曜日?」

「そう、金曜日、出かけられる?」

「・・・・はい・・・」

「それじゃ、金曜日に箱根に行こう」

「いいんですか?・・・」

「良いよ。お金の心配はいらないからね。ちょっと代わったことがないかと思っていた所なんだ。泊まる準備だけしてきてくれればいいから」

「はい・・・・・・」

「一緒に泊まるのはいや?」

「いいえ・・・・私から言い出したんだから・・・・」

やはりいきなり夜を共にすると言われて素直には納得できないらしいが、だめならだめで問題はない。ここは一気に押し切るつもりだった。

「できれば、金曜日の前に一回くらい食事でもできればいいな、と思うんだけど、どう?」

「・・・ごめんなさい・・・金曜日までは9時頃にならないと帰ってこれなくて・・・今週は特に忙しいんです」

「お茶するくらいの時間はある?」

「はい、一回くらいなら。英会話学校の試験が金曜日なんで、あんまり時間は取れないけど」

「そうか、試験か・・・」

「はい、この成績を持って向こうの学校に行くことになっているので・・・でも、一回くらいなら」

「分かった。前日は可愛そうだから、水曜日でどう?明日だけど。9時半にここで。短くするよ」

「分かりました」

そう言うと、玲は初めて目の前のケーキとコーヒーに手を付けた。

「もう少し話をしても良い?」

「はい、いいです」

「玲ちゃんの好物は何?」

「何でも好きですけど、やっぱり食事ならお肉かな?」

そう言って微笑む玲はかなりスレンダーな体つきで、胸の膨らみは可愛らしい。髪はショートに近く、少しボーイッシュな感じだが、甘えた感じの目が魅力的だ。それから二人は結局一時間近く話し込んで、お互いのことを教え合った。どこか大人びていて、子供っぽくない所と、繊細で自信のない所が混在している、不思議な少女だった。

「それと、これはお願いなんだけど、これからは名前で呼んでくれる?宏一って言うんだ」

「はい、宏一さん・・・でいいですか?」

「うん。玲ちゃんて呼んでもいいよね?」

「はい、いいです」

「良かった。それじゃ、玲ちゃん、もう少し話をしてもいい?」

玲は時計を気にしながら、

「はい、もう少しだけ、いいです」

と答えた。きっと勉強の時間を気にしているのだろう。あまり時間をとらせるのは良くない。

「それじゃ、携帯の番号を教えてくれないかな。今連絡入れとくから」

「はい、分かりました。いいです」

宏一は玲の教えた電話番号にかけ、玲が通話ボタンを押して繋がった事を確認してから切った。そしてお互いの携帯に番号を登録した。宏一は気楽にボタンを押していたが、玲は『この番号、何回使うんだろう?』と少し気が重かった。

宏一はそれから軽く十分だけ話をして玲と別れた。別れ際、玲は少し明るい表情だったが、それでもまだかなり硬い表情だった。これを水曜日にほぐさないとキャンセルされるだろうな、と思い宏一は気合いを入れた。

そして翌日の水曜日、宏一は駅から電話を入れ、9時過ぎに玲と同じ喫茶店で待ち合わせた。玲は宏一が入ってきたのを見つけると、丁寧にお辞儀をした。

「どう?勉強ははかどってる?って、自分から勉強をじゃまして言うせりふじゃないね」

「大丈夫です。その分、ちゃんとやってますから」

「ごめんよ、気を悪くしたら謝るよ」

「あ、違います違います。私ってこういう性格だから、言い方がきつくなっちゃって。気にしないで下さい」

「うん、でも、なんか緊張してるみたいだから」

「はい。それは・・・そうです」

「夕ご飯はちゃんと食べた?」

「あの・・いいえ・・・この時間を作りたかったので・・・」

「何時までいいの?」

「十時まで」

「それじゃ、ここで何か食べようか?それとも近くのどこかに行く?行きたい所があればそうしようよ」

「あの・・・・いいですか?」

「もちろん。どこがいいの?」

「吉野家の牛丼を食べてみたいんです」

「あの駅の近くの?いいよ、行こうか」

「はい」

宏一は勘定を済ませると、玲と駅に向かった。

「玲ちゃんは牛丼が好きなの?」

「いいえ、家の方にはなかったもので・・・」

少し恥ずかしそうに下を向いて答えた。

「そうなんだ。それじゃ、こっちに来てから好きになったの?」

「あの・・・まだ入った事無いんです」

「そうなの?」

「ちょっと一人では・・・・・変ですか?」

「ううん、そんな事無いよ。回転寿司に女の子一人じゃ入れないって言う話は聞いた事があるから。そうなんだ。じゃあ、楽しみだね」

「はい。よかった夕ご飯食べなくて」

玲は店に入るとメニューを楽しそうに眺め、牛丼の並を注文したので、それに卵とみそ汁と漬け物を付け、宏一は特盛りを同じように注文した。

「うわぁ、もうでてきた。すごーい。お店も明るいし、雰囲気も良いんですね」

玲は大喜びだった。

「宏一さんはよく食べるんですか?」

「うん、時間の無い時や夜中はよく食べるよ」

「いつも忙しいんですか?」

「そうだね。何もない時は仕事ばっかりなんだ。真夜中過ぎまでやる事も多いし」

「お仕事は?」

「コンピューターのシステムエンジニアなんだ。契約した会社に行って、コンピューターのネットワークを作る仕事」

「凄いですね。それじゃ英語は得意なんですか?」

「全然凄くないよ。英語は必要最低限て感じかな?英語の本を読まないといけない時が多いから」

それから二人は英語の話で盛り上がった。玲は英語を実際に使っている人が目の前にいるので、とても興味を持ったらしく、いろんな事を次々に聞いてきた。

「・・・だから、日本で習っている表現て間違いが多いんだ。アメリカ人やイギリス人にも一応は通じるけど、普段の話し言葉じゃないんだよ」

「そうなんですか。一生懸命文法を勉強しても通じないのかな?」

「そんな事はないよ。文法はあくまで基礎。でも、日本人だって文法通りに話してないだろ?良く主語を省略するし。それと同じさ」

「そうですね。まだ基礎の段階ですからね」

二人の話が盛り上がったので、あっと言う間に時間が過ぎた。時計を見た玲の顔が急に暗くなる。

「どうしたの?」

「ごめんなさい。もう帰らないと」

十時にはまだ5分あったが、部屋までの時間を考えるとタイムオーバーと言う事らしい。一人暮らしをするだけ合って、ちゃんと自己管理のできるしっかりした子だった。

「それじゃ、金曜日の6時に東京駅でね。八重洲南口だよ」

「はい、分かりました。メモしておきます」

玲はポケットから小さなメモ帳を出して書き込んだ。

「楽しみにしてるからね」

「はい、ちゃんと行きますから」

宏一は送ろうかと言ったが、玲は丁寧に断ると、小走りに戻っていた。よほど時間がもったいないのだろう。宏一は玲の後ろ姿を見送りながら、ちょっと取り付きにくい所があるが、とても素直ないい子だと思った。そして、さっき初めて玲が名前で宏一を呼んでくれた事に気が付いて、嬉しくなった。

そして金曜日、宏一は待ち合わせの東京駅の八重洲南口の地上改札で玲と落ち合った。玲は小型のダッフルバック一つという軽装だが、一応ブラウスにミニスカートという格好で来ている所をみると、旅行を意識しているらしい。

「玲さん、時間通りだね」

「はい。来ちゃいました」

「それじゃ行こうか。切符は買ってあるから」

そう言うと、宏一は玲に切符を渡して新幹線乗り場に向かった。本当は新宿からロマンスカーで行きたかったのだが、到着が遅くなるので時間を優先したのだ。それでもグリーン車なので玲はちょっと驚いている。

「四十五分だから直ぐに着くよ」

「はい、うわぁ、新幹線のグリーンなんて初めて」

「良かった。気に入ってくれて。でも、近いからそんなに高くないんだよ」

この時間のこだまは完全に自宅帰りのサラリーマンでいっぱいである。宏一も玲に会った日に直ぐこの列車を予約したが、今はほとんど満席の所を見ると、予約もギリギリだったのかも知れない。

宏一は、出発までまだ三分ほどあったので、ビールとおつまみを買いに出た。直ぐに戻ってくると、玲が不安顔で立ったまま待っていた。

「お待たせしました。新幹線に乗ると、どうしてもビールがないと気分がでなくて」

そう言って笑ってビールを開けると、

「私も一口、良いですか?」

と玲が言った。

「良いけど、玲ちゃん、飲めるの?」

「少しだけ、です」

そう言ってビールを一口飲み、

「苦いけど、美味しい・・・みたい・・・」

と言ってまた笑った。どうやら旅行に出るのが楽しくて仕方ないようだ。

「今日まで忙しかったみたいだね。試験はどうだった?」

「たぶん、あんなもんです。特に良くはできなかったけど、失敗もなかったと思うから」

「英会話、どれくらいできるようになったの?」

「少しですよ。まだまだです。映画とかを見ると全然聞き取れなくて」

「でも、会話は知識よりも経験だからね。高校生なら直ぐに自由に話せるようになるよ」

「そうだと良いんですけど」

「CGの勉強をしたいって言ってたよね?」

「はい、モデルとかのグラビア写真とCGが一緒になったような感じなんです」

「それじゃ、住む所はロンドンなんだ」

「ロンドンの郊外のウィンブルドンなんです。テニスで有名な所」

「ホームステイなの?」

「はい、父の会社の知人に紹介して貰ったんです」

「それじゃ、あんまり遊べないね」

「イギリスはアメリカと違って子供にうるさいみたいですから、きっと毎日いろいろ言われそうで・・・でも、仕方ないですね」

「そうそう、その中で自分の生活を作っていくんだから」

「メールでは何度かやりとりしたんですけど、家族みんなが日本に興味があるみたいで、いろいろ聞かれるんです。温泉のことなんかも知ってましたよ」

「それじゃ、写真なんか見せてあげると喜ぶかもね」

「はい、ちゃんと持ってきました」

そう言って玲は新品のデジカメを見せた。まだ箱から出していないピカピカの新品だ。

「電池やメモリーとかは?」

「全部入れて貰ったんで、中に入っていると思います」

「それじゃ、使えるようにしようか。見ていてあげるから、セットしてごらん」

そう言うと、玲は箱からカメラを出し、電池を入れてメモリーカードをセットした。メモリーも大容量のものを別に買ってあり、高解像度でも相当たくさん取れそうだった。

「えーと、設定画面で・・・・」

「あんまり高解像度にするとたくさん取れないから、中くらいにしておけばいいよ」

「はい、真ん中くらいにしてみます」

「できたら、何枚か試し撮りしてみたら?メモリーだから直ぐに消せるし」

「はい、そうします。えーと、撮影モードは・・・・」

玲は嬉しそうに何枚か写真を撮って、液晶画面に映る様子を楽しそうに眺めていた。この時間の新幹線で写真を撮る客など滅多にいないので、不思議そうに眺めているサラリーマンもいたが、この際無視することにする。

そうこうしているうちにあっと言う間に小田原に到着し、箱根登山鉄道に乗り換えて小涌谷を目指す。東京をでた時はまだ明るかったが、さすがにここまで来ると夕暮れになって、だいぶ回りが暗くなってきた。玲が写真を撮るたびにストロボが光る。

小涌谷に着くと、駅の前にホテルのマイクロバスが待っていた。バスの横に書いてあるホテルの名前を見た途端に玲の顔が少し暗くなったが、

「大丈夫、安心して。玲ちゃんに楽しんで欲しいんだから」

と言うと、

「はい、分かりました」

と緊張しながらも、何とかにっこりと微笑んだ。

フロントでチェックインを済ませ、案内されて部屋に入ると一瞬、玲は部屋の豪華さに驚かされたようだ。しかし、特に何を言うわけでもなく、荷物を置くとソファに座って宏一を見上げた。

「気に入ってくれた?ちょっと良い部屋にしたんだけど」

「はい・・・・凄いですね・・・・・私・・・・」

「普通の部屋にした方が良かったのかな?代えて貰おうか?」

「いえ、そう言う事じゃなくて・・・・」

「どうしたの?」

「こんなことされると・・・・だって私・・・・」

明らかに玲は宏一の破格の待遇に戸惑っていた。まだ宏一に身体を許すと決めたわけでもないし、玲自身が何かお返しができるわけでもない。そう言う中での宏一のやり方に、身体を暗に要求されたような気がして気が重くなったのだ。それは宏一にも何となく伝わった。

「玲ちゃん、こんな事しておいて言うのも何だけど、これが俺のやり方なんだ。どうせ楽しんで貰おうと思っているんだから、一番の方法でやる。俺のできるベストな方法じゃないと俺自身納得できないから」

「でも私・・・・」

「これは俺のやり方だから、玲ちゃんは合わせる必要はないよ。もしいやだったらそう言えばいいし、これから一緒に食事に行くけど、食事代を俺が出したからああして欲しいとかこれ位するのが当然だとか、そんな要求はしない。もし、俺からの要求があるとすれば、単に俺のするやり方だけを受け入れて欲しいって事。そしていやならはっきりとそう言って欲しいって事。我慢して貰いたいとは思わない。少ない時間だから、有効に使いたいんだ。分かってくれる?」

「はい・・・・なんとなく・・・・」

「良かった。それじゃ食事に行こう。お腹、減ってる?」

「はい。それはとっても」

「良いね。何が食べたい?和食から洋食まで一通りあるみたいだけど?」

「あの・・・できれば和食が・・・・・でも、高いならいいです・・・・」

「和食ね?ええと、懐石系の店と鉄板焼きとお寿司やさんがあるみたいだよ」

宏一はホテルの案内を見ながらそう言った。

「私、よく分からなくて・・・懐石っていうと????」

「少しの料理がいろいろでてくるやつだね」

「鉄板焼きってお好み焼きみたいな店ですか?」

「ちょっと違うけど似たようなものだよ。焼くものはお肉とかシーフードとかだけどね」

「それじゃ、鉄板焼きのお店がいいです。・・・本当にいいですか?」

「もちろん。そうしよう」

二人はホテル内の鉄板焼きの店に行き、大きな鉄板の前に座った。

「さて、何にしようか?お肉、好きだったよね?」

「はい、大好きです」

「それじゃ、良かったらコースにしようよ。全部セットになっているから細かい事なんて選ばなくていいし」

「はい、分かりました」

宏一はウェイトレスに『シェフのお薦めコース』2人前と自分にビール、そして玲にはウーロン茶を頼んだ。玲は目の前で次々に焼かれていく料理を気に入ったようで、次第に二人の会話はうち解けたものになっていった。宏一は途中から日本酒を頼み、美味しい海鮮や前沢牛に舌鼓を打ちながら玲の笑顔を楽しんだ。

やがて食事も終わり、デザートがでてくるころになると、二人の雰囲気は和やかなものになり、玲も少しは冗談を言うようになっていた。

「玲ちゃん、食べたら部屋に戻ろうか?まだ寝るには早いけど」

「宏一さん、そう言う言い方って、女の子に警戒させますよ。絶対にいやらしいこと考えてるって」

「そうかな?でも、それを受け流せるようにならないと、女の子も大変なんじゃない?」

「私は宏一さんみたいに経験豊富じゃないから、上手く受け流すなんて無理です」

「経験の問題かなぁ?どっちかというと感性の問題だと思うけど」

「いいえ、これは経験の問題です」

「それじゃ、経験豊富な俺が経験の少ない玲ちゃんを誘って部屋に戻りますか」

「はい」

「今日は遅いからもう大浴場以外の温泉もやってないけど、明日はいろいろ楽しめるからね」

「温泉がいろいろあるんですか?」

「うん、全部で三十三種類あって、水着で入るのが二十八種類あるんだ」

「凄いですね。でも、私、水着は持ってこなかったから」

「売ってるし、レンタルもあるよ。明日の天気次第だけど、屋外で遊びたければ水着を用意してもいいね」

そんなことを話ながら二人は部屋に戻った。部屋は一部屋だがソファや応接セットがしっかりと置いてあり、巧くベッドのエリアと区切ってあるので、まるで二部屋のように使える。

「温泉じゃなくて申し訳ないけど、明日になったらゆっくり入れるから、今日は普通のお風呂に入っておいで。ゆっくりしてきていいよ」

宏一はそう言うと、テレビを付けて冷蔵庫から飲み物を取り出した。玲はちょっと宏一の視線を気にしていたようだが、ベッドのエリアに荷物を持っていって着替えを取り出すと、バスルームに入っていった。

やがて水音が聞こえ始めると、宏一はゆっくりと一服しながらこれからどうなるのか想像してみた。玲はどう見ても遊んでいるようには見えない。ごく普通のまじめな高校生だ。もし、玲が嫌がる様なら仕方ないと思い、自分を納得させた。

やがて玲がバスルームから出てきた。Tシャツの上から浴衣を着た姿は、本当に素朴な普通の高校生で、何か自分が玲と同じ部屋にいるのが場違いな気さえした。変わりに宏一がバルスームに入り、手早く洗って体を温め、玲の半分程度の時間で出る。すると、玲はテレビを消して一人でポツンとソファに座っていた。

「どうしたの?テレビも付けないで?」

宏一が髪をタオルで拭きながらそう言うと、

「・・・ちょっと緊張してしまって・・・」

と元気のない口調でボソッと答えた。

「それじゃ、ちょっとだけお酒を飲む?落ち着くよ」

そう言って宏一が冷蔵庫からブランデーのミニチュアボトルを出し、オレンジジュースに入れて差し出すと、玲はクイッと飲み干した。しかし相変わらず口は重い。宏一は思いきってカードを切ることにした。

「玲ちゃん、俺が一緒の部屋にいると気になって眠れないなら、他の部屋に移るよ」

「いえ、そんなことはないです」

「玲ちゃんが俺に抱いて欲しいって思ってないなら、何にもしないから」

「そんな・・・・・・」

どうやら図星のようで、玲は黙り込んでしまった。しかし、ここで無理強いをするとあとで恨まれることになる。宏一はじっくりと攻めていくことにした。

「玲ちゃんに恨まれるようなことはしたくないんだ」

「宏一さん、・・・・どうして・・・・どうしてそんなにいい人なんですか?」

「だって、これが俺のやり方。相手にその気がないなら仕方ないじゃない」

「私だって興味がないわけじゃないんです。でも、巧くできなくて・・・」

「イギリスに行けば、きっと恋人もできるんじゃないかな?」

「いいえ、イギリスでは恋はしないって決めてるんです」

「地元に恋人がいるから?」

「その人とはもう別れました。そうじゃなくて、勉強だけに集中したいんです。巧くいけば、向こうの大学に入学できるかも知れないから」

「そうか、そう言うことなんだ」

「だから、日本にいる内に素敵な思い出が欲しかったんです」

「分かるよ」

「宏一さんは素敵な人だけど、分かってないと思います」

「え?どうして?」

「はっきり言います。私って宏一さんのタイプじゃないんですか?」

「そんなこと無いよ。好みのタイプだよ」

「でも、今までいくらでもチャンスがあったのに、何にもしようとしない」

「だって、玲ちゃんにその気があるかどうか分からなかったから」

「一緒に泊まる決心をしてきたんですよ、結構大変だったんです。私。それなのに・・・」

どうやらアルコールが回ってきたらしく、玲は胸の内を一気に吐き出した。言うだけ言うとすっきりしたのか、さっき飲んだオレンジジュースの残りに自分でブランデーを混ぜて飲もうとする。宏一は玲の横に座ると、その手を押さえて、

「ごめんね。玲ちゃんの気持ち、分かってなかったみたいだ。謝るよ」

そう言うと、そっと玲を引き寄せた。玲の細い身体がスッと宏一に寄りかかる。玲の肩を抱いて更に引き寄せると、玲は宏一の方を向いて目を閉じた。そのまま唇が重なる。

「・・・・・・・・・・」

しばらく無言のキスが交わされた。しかし、宏一は玲の身体が少し震えていることに気が付いた。唇を離すと、

「怖いの?」

と聞く。玲は小さく首を振ったが、その目は逃げまどうリスのようだった。

「いいんだよ。正直に言ってごらん。大丈夫だから」

と宏一が言うと、

「はい・・・本当いうと、とっても・・・・ごめんなさい」

「大丈夫。でも、ちゃんとそう言ってくれて嬉しいよ。こっちに抱き寄せてもいい?」

そう言って玲をゆっくり膝の上に横抱きにすると、大人しくされるがままに身体を横たえてきた。不安でいっぱいと言った目で宏一を見上げている。もう一度ゆっくりとキスをしてから、

「経験はあるの?」

「はい・・・でも・・・」

「あんまりないの?」

玲は黙って頷いた。玲の身体は由美よりもまだ細く、繊細な線を描いている。

「聞いてもいい?俺のこと、怖いの?」

玲は小さく首を左右に振ってから答えた。

「そうじゃなくて・・・・巧くできないから・・・・」

「誰だって最初からは巧くできないよ」

「でも、痛いばっかりで・・・・」

「それじゃ、こうしているのはいやじゃないの?」

「はい、素敵。こうしていられたら・・・」

「それじゃ、しばらくこうしていよう。安心していいよ」

宏一はそう言いながら、玲の首の下に左手を回して上体を支え、自由な右手で首筋から胸の膨らみをゆっくりと撫で始めた。最初こそ玲は少し嫌がったようだが、直ぐに心を決めたのか、宏一の膝の上に身体を任せて愛撫を受け入れた。更に宏一は首を支えている左手の指で、そっと丁寧にうなじを愛撫する。

「嬉しいよ。こんな可愛い子が腕の中にいるなんて」

玲は何かを言おうとしたようだったが、その口を宏一が塞ぐと、先ほどよりも少し積極的に唇を絡めてきた。宏一がその小さな口に舌を差し込むと、最初は驚いて引っ込んだ可愛い舌が、少しずつちょんちょんと宏一の舌に当たるようになり、次第にヌメヌメと絡み始めた。どうやら、玲はあまりじっくりと愛された経験がないようだ。

宏一が口を離すと、玲はゆっくりと目を開けて宏一を見上げたが、

「目をつぶっていてもいいよ」

と言うと、再びゆっくりと目をつぶり、宏一の唇を待った。宏一は何度もキスを繰り返し、少しずつ大胆に唇を求め、舌を絡めていった。玲はその度に必死に宏一が教えることを覚えようとするかのように、宏一がすることをそのまま返してきた。

しかし、宏一の手が浴衣の襟にかかると、再び玲の身体は固く緊張し、

「いや・・・・・いや・・・・・ごめんなさい・・・・いや・・・・」

と襟が開かれるのを嫌がった。どうやら、よほど悲惨なセックスを強要されたらしい。

「わかった。ごめんね」

「ごめんなさい。心の中では分かっているのに、どうしても身体が嫌がって」

「大丈夫。気にしなくていいよ。その気になってからでいいから」

「はい、ごめんなさい。でも・・・とっても嬉しいです」

宏一は更に何度もキスをしながら、丁寧に玲の身体を愛撫していった。Tシャツの上に浴衣を着ており、その上からの愛撫なので玲の身体はなかなか反応しなかった。今までの経験から感じることを嫌がっていたこともあるのだろう。宏一が何度試みてもうなじや胸は反応しなかった。

「ごめんなさい。巧くできなくて」

「大丈夫、気持ちがリラックスしていれば、直ぐに反応するよ」

「私、だいぶ気持ちが楽になりました。でも・・・」

宏一は少し焦った。これで何も玲の身体が反応しなかったら、脱がせても同じ事になりそうだった。それでは玲の心を更に深く傷つけてしまう。そこでやり方を変えることにした。

「玲ちゃん、それじゃ、少しこっちの方、触ってみてもいい?」

そう言いながら宏一の右手は玲の帯の下の方に這っていった。再び玲の身体が緊張し、素早く玲の細い手が動いて宏一の手を押さえ込む。

「脱がせたりしないから、ね?」

「はい、そっとして・・・・ください。優しく・・・・」

玲は心を決めたらしい。しかし、その声は緊張でとぎれがちだ。まるでバージンの女の子を相手にしているようだ。宏一の手を押さえている力がスッと抜けた。宏一の指はパンツの中心部をゆっくりと目指した。ちょうど割れ目の始まる辺りから少しずつ前後に指を動かしながらゆっくりと秘核の方に下がっていく。

「大丈夫?いやじゃない?」

宏一が聞いても玲は何も言わず、ぎゅっと目をつぶっているだけだった。

「本当に大丈夫?」

玲は言葉を出す余裕はないらしかったが、はっきりとこくんと頷き、宏一の愛撫を受け入れていることを示した。更に宏一の指がゆっくりと下がっていく。すると玲は再び、

「あ・・・いや・・・・だめ・・・・あっ・・・・・い・・・や・・・」

と小さく首を振って嫌々をしたが、それは本当に嫌がっているというよりも、戸惑っているという感じがした。そこで宏一は、指の細かい動きを止めて、スーッと秘核の近くをごく軽く撫で上げた。

「あっ」

玲は小さく声を上げると、宏一に抱きついてきた。

「痛かったの?」

宏一が聞くと、玲は小さく首を何度も振った。宏一は玲の身体をゆっくりと膝の上に降ろすと、丁寧にキスをしてから、

「もう少し続けてもいい?」

と聞いた。

「はい・・・・・優しく・・・・・して・・・・」

消えそうな声で玲はそう答えた。

宏一は玲の足に手を当て、少し大胆に開いた。玲の身体がまた一瞬緊張したが、今度は全く抵抗しなかった。宏一の指が自由に動ける空間の増えた玲の秘部を再び愛し始める。

「あ・・・・・いや・・・・恥ずかしい・・・・・いやぁ・・・・恥ずかしいから・・・宏一さん・・・・あぁ・・・・だめ・・・・」

玲の小さな声が部屋に微かに響いた。宏一は何度も玲の秘部を指で愛し、玲が十分に反応するまでやめようとしなかった。

「はぁ、はぁ、はぁ、・・・ああん・・・・・んんっ・・・・はぁ、はぁ」

次第に玲は息を乱して宏一の腕の中で感じるようになった。それと同時に、玲の腰がわずかだが指に反応して上下に動くようになった。しかし、パンツの布地に潤いは感じられない。

宏一は、今、玲の中がどうなっているのか確かめたくなった。

「ちょっとだけ、いい?確かめてみたいんだ」

そう言うと、宏一は撫でていた指を引き上げ、パンツの上からゆっくりと差し込んでいった。途端に玲の体が固くなって宏一の手を押さえ、

「いや、いや・・・・だめ・・・・」

と小さな声で拒絶する。しかし本心から嫌がっていると言うよりは迷っているという感じだった。玲には宏一が何を確かめようとしているのか分からなかったのだ。

「大丈夫、ちょっとどれくらい身体が反応しているのか確かめるだけだから。直ぐにやめるから」

そう言うと、玲の手の力がためらいがちながら抜けていった。宏一の指がパンツの中の茂みをゆっくりと渡っていく。

「いや・・・それはいや・・・こんな格好で・・・・いや・・・」

玲は宏一がどんなことをするのか分からずに戸惑っていた。やがて、宏一の指が茂みの奥のスリットにたどり着くと、そっと中に埋まっていく。玲はぎゅっと宏一にしがみつくと、

「痛くしないで・・・・いや・・・いや・・・」

と小さな声で懇願し続けた。今までの経験から荒々しくかき回されるとかなり痛みが走るのだ。

しかし、宏一の指はそっと秘唇の入り口に添えられただけで、直ぐに中には入ってこない。玲は息を殺してじっとしていた。