第104部


 「違ったの?」
「好きな気持ちはあるけど、他に気になってる子が居て、自分の気持ちがよく分からないって言われちゃった・・・・」
「好きな気持ちはあるって言われたんだろ?それなら良いんじゃ無いの?」
「でも、それって下り坂って事でしょ?そして気になる子って言うのは上り坂よね?それって絶対ヤバイでしょ・・・」
「まぁ、それはそうかも・・・・・・」
「それで、その気になる子って言うのは同級生なんだって」
「それは・・・・・」
「つまり年上の彼女から乗り換えたくなってるって雰囲気よね」
「確かに・・・ヤバイかも・・・」
「こういう時ってどうすればいいの?」
「麗華ちゃんの頭の中にあることを正直に言ってごらん?言える?」
「それは・・・・嫌、それは嫌・・・とか・・・・」
「嫌って事は麗華ちゃんとしては引き留めたいって事だよね?」
「それはそうでしょ」
「だったら、それを一回横に置くことだね」
「横に置くってどう言うこと?」
「だって今、麗華ちゃんの気持ちは引き留めることでいっぱいで、他のことを考えられなくなってるでしょ?」
「どうしてそんなこと言えるわけ?」
「それじゃ、嫌って言う以外になんて言う?」
「・・・それは・・・・・・やっぱり嫌としか言えない・・・」
「そうだろ?それが引き留めることで気持ちがいっぱいって事」
「それを横に置くって事?一旦忘れなきゃいけないの?」
「忘れるって言うのとは違うけど、これって綱引きをやってるのと同じなんだ」
「綱引き?」
「そう、引っ張れば相手は引っ張られるって思うし、緩めれば向こうが引っ張れるようになるって事」
「意味分かんない」
「イメージで考えてごらん、追っかければ逃げるって感じかな・・・」
「でもそれとは・・・・・」
「ねぇ、彼との最初の頃を思い出してごらん。どうして彼は麗華ちゃんに惹かれたと思う?」
「それは私からアプローチして・・・・・」
「きっとそこに鍵があると思うんだ。これからも上手くやっていくための・・・。なんにしてもまず原点に戻ること、それが基本だから」
「原点か・・・・・」
麗華は思い出した。もともと麗華は年下が好きだったのだが、その中でも1年で生徒会に入ってきた彼は輝いていた。はっきりとした性格で周りに配慮する余裕があったし、麗華にも素直に受け答えしてくれた。だから麗華も気軽に何度も声をかけられたし、自然に二人で良く話をするようになった。
「麗華ちゃんが彼に惹かれた時のこと、思い出してごらんよ」
「今、思い出してる」
「そう・・・」
二人で話す機会が増えて行くにしたがって周りの雰囲気も自然に二人は付き合っているという感じになって行ったので麗華が家に誘ってもなんの不思議も無かったし、二人にとってもそれが自然な流れだったのだ。
麗華はつきあい始めたばかりのことを思い出しながら、だいぶ二人は変わってしまったと思った。最初はあんなにお互いを思いやっていたのに、いつの間にこんな関係になってしまったのだろう?
「ねぇ、おじさま?」
「なんだい?」
「ちょっと考え事、したいけど良いかな?」
「もちろん」
「それじゃ、おじさまのマンションに連れてって。そこまでの移動の間に考え事、しとくから」
「何でマンションに・・・・」
「このままおじさまが目の前に居たんじゃ考え事だってできないし、気になるもの。それに、菜摘から聞いてる凄いマンションに一度くらい行っておきたいと思って。どうせ今日が最後でしょ?おじさまに会えるのも」
「そうなの?今日が最後?」
「そんな雰囲気よ。これ以上おじさまを借りたら友紀や菜摘に怒られちゃう」
「そうなんだ・・・・。全然気が付かなかった」
「それはそうでしょうよ。元はウチのグループでの話だしね」
「それで、一度マンションに来てみたいの?」
「菜摘からはいろいろ聞いてるんだけど、見てみたいじゃ無い?おじさまが菜摘と過ごすために借りた部屋って言うのを」
「・・・・・・・・・・」
晃一はどうしようか迷った。断ってもたぶん問題は無いだろう。正直に言うと、晃一はこれ以上パーソナルなスペースにいろいろな人が入ってきて欲しくなかった。しかし、最後だからと言われれば無下に断るのも可愛そうな気もする。それに部屋は昨日友紀を抱いた時のままでまだ清掃も入っていない。ソファしか使わなかったので、それほど散らかっては居ないだろうが女の子を入れるには躊躇いがあった。
「だめ?」
麗華は屈託無く聞いてくる。これならややこしいことにはならないような気がした。
「うん、分かった、良いよ。でも、なんの支度もしてないからね」
「ありがと」
「それじゃ、行こうか?」
「はい」
晃一は麗華と席を立つと、マンションに向かった。店の前でタクシーを拾い、麗華の後に乗り込む。
「タクシーで良かったよね。15分くらいかかると思うから」
と言ったが、
「考え事してるから話しかけないで」
と言われてしまった。
タクシーの中の晃一は、このまま麗華を部屋に入れて変な気が起きないか少し不安になった。喫茶店で会うのと違い、部屋の中ではどうしても麗華をより強く意識することになる。もしこの前みたいに泣かれでもしたら、引き寄せたくなるかも知れない。しかし、それを考えていても仕方ないので、取り敢えず麗華の気持ちを整理することに集中することにした。
部屋に入ると、麗華は広々とした室内に目を見張った。
「これがおじさまがナツとのエッチのために借りた部屋なのね」
「いきなり言うんだね。まぁ、間違いじゃ無いけど」
「だってそうでしょ?」
「社宅に居ると、どうしても生活が目の前にあるから物も増えるしいろんな物が入ってくるだろ?だけどここに居ればそう言う生活とも関係ないからね。だから物は少ないだろ?わざとそうしてるんだ」
「そうね・・・ちょっと寂しいくらいかな・・・・」
「まぁ、カーテンとかラグは友紀ちゃんに手伝って貰って付けたけど、それくらいだから。ま、とにかく座って。今飲み物を持ってくるから」
晃一は麗華をソファに座らせると、冷蔵庫からジュースを取ってきた。飲み物を渡しながら、
「考え事をしたいって言ってたよね?」
と言うと、
「そう、ちょっとね・・・・・・・」
と麗華は暗い表情をした。
「ここで良い?それとも他、例えばベッドルームとかが良い?」
「ここで良い・・・・・・。ちょっと一人にして貰っても良い?」
「・・うん・・・・わかった・・・・・。それじゃ、声を掛けてね。俺はあっちに居るから」
そう言うと晃一は麗華をリビングに残してベッドルームに移った。
麗華が何を考えているのか全然分からない。しかし、考え事をしたいというのは確かなようだ。きっといつも、考え事は一人で静かに自分の部屋か何かでするのだろう。晃一はベッドルームに置いてあるノートパソコンを立ち上げると、ニュースを見たりメールをチェックしたりすることにした。
しかし、菜摘や友紀がいない時にも時々はここで過ごしたりするが、今までベッドルームに籠もったことは無かったのでどうもいつもと感じが違う。それでも30分ほど時間を潰してからそっとリビングの様子を見に行った。
すると麗華はテレビを付けて静かに見ていた。晃一が顔を出すと、
「ありがと。ちょっとすっきりした」
と言ってちょっと笑顔を見せた。しかし、無理に笑ったのがはっきり分かるし、目が赤いところを見ると泣いたのだろう。
「だいじょうぶ?」
「え、うん・・・・。泣いたの分かっちゃった?」
「まだ目が真っ赤だよ」
「そうか、ま、気にしないで」
「座っても良いかな?」
「うん、ちょっと話がしたいな」
「いいよ」
「気持ちの整理をしてたの。私、彼のことを考えてるみたいでちっとも考えてなかった。逃げ出したくなるのも無理ないなって・・・・・。こんな話するのおじさまだけだよ。菜摘や友紀には絶対内緒だからね」
「もちろん。それに、そんなに根掘り葉掘り聞いたりしないから。安心して良いよ」
晃一がそう言い終わるのを待てないかのように麗華は一気に話し始めた。
「どうしても分からなかったの。私から離れたいって言う理由が。それに、気になる子が他にいるって言うのが。だって、それまでは上手く行ってたから。でもね、おじさまと話しててちょっと分かったの。その理由が」
「そうなんだ」
「たぶん、二人で居ても私の時間だったんだと思うの。二人で一緒なのに私が作った時間て言うのかな、いつも話すのは私の方ばっかり。彼の事なんてあんまり話さなかったもん。きっと、私のわがままに付き合うのに疲れたのかもね・・・・・」
「わがまま?」
「わがままって言うのとはちょっと違うかも知れないけど・・・・・。最初はね、私がグループの子や友達をどこで見たとか教えて貰ってたんだけど、それが負担になったのかなって思ったの。でも、多分そうじゃ無い・・・・。きっと、それよりも、もっと二人のことを話せば良かったなって。今さら気が付いても遅いのにね・・・・」
麗華は更に目を真っ赤にしながら無理に笑った。その頬には涙が流れた。
「そこまで気持ちがはっきりしたのなら、後は何をすれば良いか、分かってるよね?」
「そうね、まず謝って、それから・・・・・・ちょっと辛いかな・・・・」
「大切なのは彼の選択に任せること。麗華ちゃんが決めちゃうと今までと同じになっちゃうから」
「彼が決めるまで待たなきゃ行けないの?」
「そう、じっと結果を待つのって辛いよ。できる?」
「・・・・・たぶん・・・・・」
「大丈夫。人の心を動かすのは人の心。理屈じゃ無いから」
「そう・・?それなら・・・・いいか・・・・・もともと私が蒔いた種なんだし」
「でも、そんなに自分を責めるもんじゃ無いよ」
「私、自分を責めてないと思うけど・・・」
「そうかな?後悔してるんじゃ無いの?」
「それは・・・・やっぱり・・・・責めてるのかな・・・・」
「自分の気持ちは自分じゃ無いと分からないけど、俺にはそう聞こえたから」
「そうかも・・・・さっきおじさまに会って直ぐに泣きそうな予感、あったから」
「だからこの部屋に来たがったのかな?もしかして」
「そう、もう喫茶店で泣くなんて絶対嫌だから」
「そうなんだ。それなら好きなだけ泣けば良いよ」
「そう言うことって、泣き始めか泣いてる時に言うもんでしょ?」
「今からじゃだめ?」
「もう泣いてないでしょ?見て分からないの?」
「遅かったかな?でも、まだ目は真っ赤だよ」
「そうね、ふふふ・・・」
麗華の目はまだ真っ赤だったが、言いたいことを言えたので少し気持ちが落ち着いたらしい。
「ふぅ、ありがと。ちょっとすっきりした」
「涙を流したからかな?」
「もう、女の子に向かって言う?そう言うこと」
「でもね、涙には気持ちをすっきりとさせる効果があるらしいよ」
「そうなの?」
「うん、生理学的に証明されてるんだって。女の子で直ぐ泣く子が居るでしょ?それって、泣くとすっきりすることを覚えてるから自分で無意識にすっきりしたくて涙を使ってるって話だったよ、確か・・」
「私、滅多に泣かないのに・・・・・」
「だったら、その分だけすっきりする効果は大きいかもね」
「うん、なんかすっきりした。気持ちも決まったし」
そう言うと麗華はジュースをごくごくと飲み干した。
「さてと・・・・」
麗華の様子からこれで話が終わったと思った晃一は、
「それじゃ、少ししたら送っていくからね。タクシーでも呼ぼうか」
と言って立ち上がったが、麗華も立ち上がり、
「ちょっと待って」
と言ってきた。
「どうしたの?」
と晃一が聞くと、
「私をさんざん泣かせたんだから、ちゃんとフォローして」
と麗華が言った。
「フォローって?」
「まだ泣き顔のままでしょ?こんなんじゃ帰れないもの」
麗華は晃一に近づいてくる。
「そうか、少し時間を置いた方が良いね」
「そう・・・・・・」
麗華はそれだけ言うと、晃一の前に立ってそっと手を晃一の首に回してきた。晃一はドキッとした。
「・・・・・・」
「相談に乗ってくれたお礼に少しだけ・・・・・良い思い・・・させてあげる・・・・」
そう言いながら麗華は身体を寄せてきた。
「え・・・・麗華ちゃん・・・・でも・・・・」
その言葉に躊躇いを感じ取った麗華は、素早く言い直した。
「ごめんなさい。・・・・少しだけ優しくして・・・・・」
そう言いながら晃一の首にグッと手を回してきた。麗華の髪の良い臭いがする。
「でも・・・・・」
「・・・・今日の話は絶対菜摘と友紀には内緒でしょ?」
「そうだけど・・・もちろん・・・」
「だったら・・・・絶対内緒だから・・・・・・少しだけ・・・・甘えさせて、年上に・・・・お願い、一度だけ・・・・」
麗華の良い香りに晃一は迷った。その時麗華が、
「でも、最後まではしないで・・・・・」
と言ってきた。
「最後まではしない方が良いの?」
「そう、だから少しだけ・・・・・・」
晃一は正直『なんなんだよ』と思った。菜摘は仕方ないとして、友紀の時も突然だったし、麗華に至っては中途半端なのを一度だけと言う。こうめまぐるしくてはいくら晃一でも気持ちが持たない。しかし、相談に乗っておいてここで突き放すのも可愛そうだし、今女の子が腕の中にいるのだ。後でゆっくり考えて、と言う訳にも行かない。取り敢えず晃一は麗華をそっと抱きしめた。
すると麗華が更にぎゅっと晃一の首にしがみついてきた。初めて麗華の身体に触った晃一は『えっ?』と思った。予想以上に麗華の身体が細かったからだ。服を着ていると菜摘よりも少し幅があるような気がしたのだが、どうやら肩幅だけらしい。背中から腰に掛けては菜摘よりも少し細い感じがした。
「少しって、どこまで?」
「わかんない・・・・けど、最後は無しにして。それじゃだめ?」
どうやら話の流れからすると麗華は完全にその気になっており、この状況で晃一は引くに引けなくなってきた感じだ。まぁ、キスしたり触ったりするだけなら良いかと思った晃一は、麗華の身体をそっと抱きしめて耳元で囁いた。
「分かったよ。これ以上はダメって処でちゃんと言ってね。正直に心の中を話してくれた麗華ちゃんにお礼のつもりで優しくするから」
そう言ってから細い項にそっと唇を這わせ始めた。最初はそっと軽い愛撫だ。