第121部



「今度はこっちからだね。結佳ちゃんはどう思うの?」
「私は・・・・・・一回はっきりとお願いしたんだから、それは仕方ないと思うけど、それと恋愛とは別だって思います」
「って言うことは、好きでも無い人に触られても良いの?」
「それは、好きな人に確かめてもらった方が良いに決まってますけど、だからってそれが無理だからって、確かめてもらうためにわざわざ好きになるって言うのは違うと思います」
「そうだね・・・・・・」
「分かってもらえますか?」
晃一は、どうやらこのままでは上手く行かないと思った。結佳の気持ちが自分に向かないことには、感じ難い子が感じるはずが無い。晃一はだんだん会話の方向が拙い方に行くのに気が付いた。
「でも、方法は任せてくれるよね?」
「それって、おじさんの言うとおりにしろって事ですか?」
結佳は自分でそう言いながら、途中から本当の気持ちとは違うことを言っているような気がしていた。できることなら自分がこの調子で話し続けるのを止めて欲しい、自分から誘うつもりは無いがこんなことを言うためにここに来たんじゃ無い、このままだと後悔することになる、わがままな自分をもっと優しく包んで欲しい、そんな感じだった。
結佳の言葉は晃一の耳に明らかに嫌悪感が混じっているように響いた。もう時間は無い。晃一は決断した。どうなろうと、もうこれしか無い。
「うん、そう。こうやってね」
そう言うと晃一は結佳の顎を軽く持ち上げるとキスをした。
「!!!!!!!」
結佳は驚いた。てっきり晃一が服を脱いで欲しいとか何とか、いやらしいことを要求してくるのかと思っていた。頭の中が真っ白になる。『嫌がらなきゃ、逃げなくちゃ』とは思うのだが、身体を離そうとしても横を向いて唇を外そうとしても晃一がそれを許してくれない。一方、晃一は結佳が軽くビクッと震えて何度か横を向こうとしたようだったが、はっきり嫌がっているわけでは無いので唇を軽く動かして結佳の唇を確認していた。結佳は混乱していた。
『え?何これ?いきなり?どう言うこと?』
『早く離れなさい。ベッドに押し倒されるわよ』
『なんか、いきなりって素敵かも?それも、こんな場所でなんて』
『これくらいは承知の上でしょ?』
『ちゃんと自分で納得してる?こんなやり方で良いの?脱ぎたいの?見られるわよ』
結佳はまだ頭の中がぐるぐると回っている。思わず晃一から離れようと両手で晃一の腕を掴んだが、掴んだだけで力が入ら無いので離れない。そのうち、晃一がゆっくりと舌を入れてきた。
『だめ、口の中に入ってくる。ちょっと、だめ、いや』結佳はそう思ったが、晃一から離れることはできなかった。晃一は結佳が舌の侵入を許したのでゆっくりと結佳の舌を探し始めた。結佳は舌をずらして捕まらないようにしたが、晃一の舌はそれを易々と見つけるとゆっくりと絡めてきた。
「んんんんんんん・・・・」
結佳が何か言っているようだがキスをしている最中なので晃一には分からない。ふと気が付くと結佳は自分から少し口を開けており、何となくこのまま行けそうな雰囲気だ。晃一は結佳の顎から手を離すと両手で結佳を抱きしめていった。
結佳は何が何だか分からなくなっていた。しかし、本当は嫌なはずなのに嫌な感じがしない。
『あ、キスしちゃった。凄い大人のキス。なんか力が抜けて行くみたい。抱きしめ方も上手』そう思うと、次第に口を少しずつ開けて、晃一の舌を受け入れていった。晃一の舌は結佳の舌にゆっくりとねっとり絡みついてくる。全然急いでいない。こんなキスは初めてだった。『嫌らしいキス・・・・』それが最初の感想だった。
やがて晃一が口を離すと、結佳は少しぼうっとしたまま目を閉じていた。そのまま軽く抱き寄せる。
「ごめん。びっくりした?」
結佳は晃一の胸に頭を押しつけたまま小さく左右に振った。ただ、足下が少しふらついている。
「とにかく座ろうか」
そう言うと晃一は結佳をソファに座らせ、自分も左に座った。
「だいじょうぶ?」
そう言いながら軽く右手を結佳の方に回してのぞき込む。結佳は慌てて胸をガードしたが、
「だ、だいじょうぶ・・・・です」
と言った。晃一は軽く結佳の後ろから寄り添うようにすると、結佳の耳元でそっと話し続けた。
「よかった。ちょっと強引だったかな?」
耳元に晃一の息がかかり、結佳はどうにかしなければと思った。キスを嫌がりはしなかったが、まだ全部許す気になったわけでは無いのだ。
「大丈夫。少しずつリラックスしてくるからね」
「あ、あの、ちょっと・・・」
「どうしたの?」
晃一の息がかかる耳が少しだけくすぐったい。しかし、このままでは結佳自身が納得しない。
「あの、シャワー、そう、シャワーを浴びてきます」
そう言うと結佳は晃一の手を振り解いて立ち上がるとシャワールームに入っていった。
晃一はふぅと一息つくと、強引すぎたかなと思った。結佳はまだ迷っているようだ。『そりゃそうだよな。恋人でも無い人に身体を見せるなんて』と思い、結佳に任せるしか無いと思った。
一方、シャワールームに入った結佳はちょっとびっくりした。バスタブの奥にシャワーブースがあるようだが、バスタブと洗面台との間にカーテンはあるものの、その奥のシャワーブースとの間には仕切りが無くバスタブエリアと一体化している。言ってみれば家の風呂に付いているシャワーみたいな物だが、洋式のバスタブなので床は洗い場では無い。おまけにシャワーヘッドは天井に付いているので、頭の天辺からシャワーを浴びることになる。
『何なの、これ?』とは思ったが、どう見てもシャワーブースとの間には仕切りが無い。これではシャワーの飛沫がバスタブの床に敷いてあるマットまで飛んできてしまいそうだ。
そこまで考えて、ふと気が付いた。慌てて晃一から逃げて来たので着替えを持ってこなかった。着替えと言ってもブラジャーとパンツくらいだが、鞄の中に入ったままだ。しかし、今から取りに行くのも何となく変だ。仕方なく結佳はこのままシャワーを浴びることにした。
しかし、あまりに普通の脱衣所や洗面台と違うので落ち着かない。晃一が除きに来ることは無いだろうと思っていても何度もキョロキョロしながら服を脱ぎ、なんとかシャワーだけは浴びた。それでもシャワーを浴びるとすっきりする。そして身体を拭いた時、ちょっと新しい下着じゃ無いのが気になったが、ほんのさっきまで着ていたものなので思い切って身に付けた。幸い汗臭くは無かった。
晃一は結佳が戻ってくるまでの間、しばらくベッドに横たわって休んでいた。実は、このホテルに泊まっていた客と一緒に朝食をとってタクシーで送り出してからレンタカーを借りに行ってから結佳を乗せるために待ち合わせの駅に行ったりしていたので全然休憩する時間が無かった。昨夜は夜遅くまでバーで酒の付き合いをしていたので結構疲れている。軽く目をつぶっただけのつもりだったが、少し寝てしまったようだ。ふと目を覚ますとソファから結佳がのぞき込んでいた。
「大丈夫ですか?疲れてるんですか?」
「ごめんよ、寝ちゃってた?」
「そうみたい・・・・でした・・・・」
「寝るつもりは無かったんだけど、ちょっと疲れてたかな?ごめんね、あ、ありがとう。起こしてくれて」
「良いんです。ちょっと覗いたら眠ってるように見えただけです。直ぐに目を覚ましたじゃ無いですか」
「いきなりなんか恥ずかしいなぁ。寝顔を見られちゃったんだ」
「男の人でもそうなんですか?」
「そりゃそうだよ。無防備な寝顔は自分じゃどうしようも無いもの。結佳ちゃんはシャワー浴びてすっきりした?」
「はい、やっぱり浴びてみると違うもんですね。でも・・・・・」
「どうしたの?」
「着替えを持って入らなかったから・・・・・」
「それなら後で着替えても良いし、そのまま帰ったっていつもと一緒だろ?」
「それはそうです・・・・・・はい・・・」
そう言うと結佳はちょっとにっこりと微笑んでソファに座った。晃一はそれを見て、少しずつ結佳の気持ちがほぐれてきているのかなと思った。
「それじゃ、結佳ちゃんはシャワー終わったから、俺もシャワー浴びてくるかな?」
そう言って晃一が起き上がると、結佳は、
「シャワー浴びに行くんですか?」
と聞いてきた。
「うん、そうだけど。だって汗臭いのやだろ?だから・・・」
「じゃ、私が気にしないって言ったら行きませんか?」
「え?あ、それは・・・・・・」
「居て下さい。ここで・・・一人にされると・・・怖いんです・・・・・」
結佳は俯いたままそう言った。
「今一人にされたら・・・・・逃げ出しちゃいそうで・・・・」
「汗臭いだろ?」
「そんなことありません。良い臭いだし、気になりませんから・・・」
なんとなく結佳の方から誘うような展開になってきたが、晃一はこう言う展開が実は一番危ないと知っていた。女の子がリードする場合、女の子の気が変わればそれでお終いになってしまうからだ。
「それじゃ、また結佳ちゃんの隣に座っても良い?」
そう言うと晃一はソファに座っている結佳の横に座った。そして先程と同じように肩に手を回したが、今度は身体をすくめただけでそれ以上は嫌がらなかった。
「嫌がらないの?」
「嫌がった方が良いですか?」
「そんなこと無いけど・・・・」
「それに、おじさんは分かっててしてるんですか?嫌なことだって」
「ううん、さっきまで嫌だったことでも今は嫌じゃ無いことなんて世の中にはいっぱいあるからね。確かめただけ。それで、結佳ちゃんは嫌?」
「嫌も何も・・・・・単に肩に手を置かれただけじゃ・・・・・」
「それじゃ、こうしてもいい?」
そう言って晃一は結佳の後ろから寄り添い、そっと両手を前に回して結佳を後ろから抱きしめる形にした。結佳はいよいよ始まると思って緊張したが、最初ほど身体が硬くならないのは不思議だった。晃一は、
「結佳ちゃん、さっきほどじゃないけどやっぱり緊張してるね」
と言いながら両手を結佳の胸へと持って行こうとしたが、結佳は自分の胸をしっかりと両手でガードしており、全く触ることができない。晃一は取り敢えず様子を見ることにして、胸をガードしたままの結佳をそっと後ろから抱きしめながら話を続けた。
「ねぇ結佳ちゃん、聞いても良いかな?」
「なに?」
ちょっと結佳の言葉がぞんざいになっているのは緊張のためだろう。
「どうしてこんなこと、思いついたの?」
「思いついたわけじゃ無い・・・・」
「聞かない方が良ければ止めるよ。ごめん」
結佳は思い切って息を吸うと、大きく吐き出してから思い切って話し始めた。ここまで来たら、晃一に聞いて貰いたいと思ったのだ。
「正直に言いますね。でも、笑ったりしないで下さいね」
「うん」
「彼と上手く行かないって言ったの、覚えてます?」
「あぁ、覚えてるよ」
「あの時、私は感じるって思ってたんです。彼のことが大好きだったから。でも、実際はそうじゃなくて、痛いばっかりで、挙げ句の果てには彼は怒り出したんです。私が感じ無いのは私のせいだって」
「それで確かめたくなったんだろう?」
「そうなんですけど、本当は、もしかして感じるって事が分かってないんじゃ無いかって思うんです。好きなら感じる、誰でもそう考えるけど、実は違うんじゃ無いかって」
「そうだね」
「分かって貰えますか?私の言いたいこと」
結佳は両手で胸を隠したままの格好で晃一に後ろから抱きしめられているが、最初はものすごく緊張したが、今は何となくこの格好が安心できるような気がしていた。まるで子供が親にだっこされているような感じがする。
「自分の身体が感じるかどうか確かめたいって言うより、まず感じるってどう言うことか知りたいって事かな?」
「そう言うことになるのかな?単に感じたいってわけじゃ無いんだけど・・・・」
「わかってるよ」
「マグロって言う言葉があるじゃ無いですか」
「マグロ?高級魚の?」
「ううん、そうじゃなくて、感じ無い女の子のこと」
「ああ、そうだね」
「私、あの言葉、大っ嫌いなんです。感じたくないから感じ無いわけじゃ無いのに、あんな言葉で片付けちゃうなんて」
「その言葉の裏で傷ついてる人が居るって事だよね」
「そうなんです。私だってそうなりたくてなったわけじゃ無い」
結佳は晃一の腕に抱きしめられながら、だだっ子みたいに言ってみた。でも、不思議と気持ち良い。それに、さっきから晃一の息がかかる首筋が何となくくすぐったい。これは彼と一緒に居た時には無かったことだ。
晃一の手が結佳を抱きしめながら、ゆっくりと胸を守っている結佳の両手の中に入ろうとすると、結佳は敏感に気付いてしっかりとガードした。晃一は『これ以上胸に固執しても結佳ちゃんを怖がらせるだけだな』と考え、両手はそのままに首筋に興味を移した。
そして、そっと細い首筋に唇を這わせてみると、
「あ、いや・・・いや・・・・」
と可愛らしく嫌がる。しかし、本気で嫌がっている雰囲気では無さそうだ。
「少しの間、我慢してね」
そう言うと晃一は、そっと唇を首筋に沿って這わせてみた。
「あ、ちょっと、いや・・・・・いや・・・・あぁん、あっ、だめ」
どうやら結佳は首筋の下の方に敏感らしい。
「だめ、可愛いからもっとしちゃう」
そう言って晃一は首筋の下の方を重点的に攻め始めた。結佳は両手でしっかりと胸をガードしながら、どうして晃一が首筋なんかに興味を示すのか分からなかった。確かにくすぐったいと言えばそうだが、決して感じているわけでは無いし、気持ちが良いわけでも無い。
「あん、いや・・・・いや・・・だめ、あぁぁ、だめです・・・・だめですからぁ」
結佳の声は次第に甘いものになり、晃一の愛撫を受け入れているのがはっきりと分かった。そして晃一は、首筋からなら結佳に突破口を開けるかも知れないと思った。何と言っても、今はここしか結佳を可愛がる場所が無い。しかし、制服を普通に着た今のままでは可愛がるにも限度がある。
「ねぇ、結佳ちゃん?」
「な、なんですか?」
「もう少し首筋を可愛がっても良い?」
結佳は少しぼうっとしてきたが、直ぐに答えた。
「・・・・・良い・・・です・・・」
「それじゃ、少しだけ制服をはだけさせて貰うよ。もう少し首筋を可愛がりたいから」
「え?」
結佳が疑問を挟む間もなく、晃一は両手でゆっくりと結佳の制服を少し引き上げると、胸元のホックとジッパーを少し下ろして結佳の首筋から肩口を露出させた。
「あっ、いや、いや、待って」
結佳は嫌がったが、晃一が胸に手を伸ばしてこないからしっかりと胸はガードしたままなので、さほど強く嫌がることは無かった。ただ、制服を少し引き上げられたことでお臍が見えそうになってしまったのが気がかりだった。
晃一は結佳の肩口を確保できたので、再びゆっくりと唇を這わせていく。ぬるぬるとした感覚が結佳の首筋から肩へと移っていくと、結佳は初めての感覚にどう反応して良い分からず慌てて更に胸をしっかりとガードした。
「大丈夫。胸を無理に触ったりしないから」
そう言って晃一の唇が結佳の項から肩口に這い回っていく。ヌメヌメとした感覚は舌も一緒に使っている証拠だ。
「ちょっと、あ、いや、ああん、嫌なのに・・・・ああっ、だめ、だめだって・・・」
結佳は次第に晃一のペースに嵌まっていった。胸と違って首筋ならさほど緊張もしないので晃一に任せていたのだが、その間にどんどん新しい感覚が結佳を包んでいく。
「だめ、あ、いやいや、だめ、それはだめ・・・・」
「大丈夫。ゆっくり優しくするから。安心してて良いよ」
「そう言う問題じゃ無くて、あっ、だめ、嫌々ぁっ、あん、あぁっ、あうっ・・」
結佳は胸を触られているわけでも無いのに変な声を出す自分がとても恥ずかしかった。ただ、胸を晃一に晒さなくても良いのは救いだったが。