第127部



「どうだった?」
「菜摘が心配している通りよ」
その瞬間、菜摘の目の前が真っ暗になり、再び涙が溢れてきた。心配していた通りになってしまった。麗華を晃一に紹介したのがそもそもの間違いなのだ。菜摘は自分のしたことを心から後悔した。
友紀は直ぐにその先を話したかったが、菜摘を見るととてもそんな状態では無い。しかし、黙っていても何も変わらない。菜摘には元気になって欲しいのだ。そのためには・・・友紀は心を決めると可愛そうだとは思ったが、麗華とのことを話し始めた。
「あのね、今週ミーティングが無かったでしょ?だから今日、学校を出る時に麗華を見かけたから下駄箱の横に引っ張り込んで聞いてみたの。『どうなってるのよ?』って」
菜摘はそれ以上何を聞いても無駄だと思った。堪えていた涙が一気にこぼれ落ちる。
「・・うっ・・・うっ・・・・うっ・・・」
菜摘は泣いているが、友紀はちゃんと菜摘は聞いているのが分かっていたので話を続けた。
「でね、『何か結佳とか聞こえてくるけど、どうしてミーティングを開かないの?菜摘に言うべきじゃ無いの?』って言ったのよ。そしたらね、なんて言ったと思う?」
「うっ・・うっ・・・そんなの知らない・・・」
「あのね、『結佳はグループのメンバーじゃ無いから呼ぶわけにはいかないでしょ?でも、様子は見る必要があるから今週は開かなかったんだ』って言ったのよ」
「・・・・・そんな・・・・」
「そうよ。おかしいでしょ?だって、最初おじさまは私たちの間でだけ話が通じるはずだったのに、麗華が割って入ってきて、それも今度は麗華が勝手に結佳の好きにさせるなんて」
「・・・・わかんないよ・・・」
「で、ピンと来たの。麗華に『あなたね?結佳をおじさまに紹介したのは』って言ってやったわ」
「そしたら?」
「図星。麗華は平然と言ったの。『そうだよ。結佳が悩んでるみたいだからおじさまに相談に乗って貰おうと思ったの。私も元気になれたから』だって」
「そんな・・・・・」
「そうよ。信じられる?そんなうまい話?自分で勝手におじさまをグループ以外の他の子に紹介して、それでもうおじさまは関係ないって言ってるのよ。先週は自分が相談に乗って貰ってくせに。あんまりよねぇ」
「違う、そんなんじゃ無い・・・・」
菜摘は友紀の言いたいことも分かったが、友紀の言葉の中にもっと他のこと、麗華の本当の目的を感じ取った。絶望の中に麗華の野望を見た気がした。しかし、それがなんなのかが分からない。何か晃一をグループから遠ざけたい理由があるはずだ。しかし、それは直ぐに友紀によって明らかにされた。
「そうよ、私分かったの。菜摘、良く聞いてね。麗華が突然結佳を引っ張り出しておじさまにくっつけようとしたのは、結佳とおじさまをくっつけておけば、グループ内のことじゃなくなるからみんなにも報告しなくて良くなる。そうしておいて、きっと自分が好きな時におじさまに甘えに行けるって思ったのよ」
「えっ、そんなこと・・・・・・・」
それは麗華と晃一が会っていた日曜日に何があったのか、明確に宣言するに等しいことだ。『もしかしたら?』とは思っていたが、自分の時はゆっくりと時間を掛けて進んでいったので、そんなに簡単に関係が成立するとは思いたくなかった。しかし、残念ながら事実は違うようだ。
「でも・・・そんなに直ぐに・・・なんて・・・・・」
菜摘は分かり切ったことではあったが、一応抵抗してみた。
「あのね、私とおじさまのこと考えてみてよ。私がおじさまに会ったのは火曜日よ。それで土曜日にはああなっちゃったんだから。まぁ、ほとんど毎日会ってたけど。それに、あの時は私の方から誘ったって感じもあったから・・・・。女の子から誘われれば誰だって。おじさまだって・・・。きっと麗華から誘ったのよ」
「そうだったんだ・・・・・・」
ここまで来ると菜摘は悲しみから脱力という感じだ。
「あのね、私、あれから考えてみたの。どうして麗華が月曜日に学校をふけてまで彼を引っ張り出していいことしたのか。だって、いくら麗華は実行力があるって言ったって、学校を抜け出してまでって言うのはよっぽどでしょ?まぁ、おじさまとしちゃったのなら少しは分かるけど、それだけじゃないのよ」
「どうして?」
「結佳がおじさまに会ったのはいつだっけ?」
「火曜日」
「そうでしょ?ねぇ菜摘、菜摘が例えばあの時に感じ無いとかって悩んでいたとして、そう言う話、学校帰りにちょっと麗華と顔を合わせただけで直ぐに相談に行くと思う?」
「ううん・・・・無理無理・・・・」
「でしょう?きっと、月曜日に彼といいことしておいて、しっかり彼をキープしてからたぶん夕方には今度は結佳と会って説得してたのよ。絶対そうよ。説得するだけだって時間、かかるもん」
「そんな・・・・・、うそ・・・・・」
菜摘は『そこまでする?』と思った。時間を作るために自分の彼までさっさと引っ張り出して、することしたら直ぐに別れて結佳を説得するなど菜摘にはとうてい分からない。
「嘘なもんですか。そうでもしなきゃこんなに直ぐに話が進むわけ無いわよ。時間を逆算して月曜日に結佳を説得するために彼を昼間っから引っ張り出したのよ。そうしないと結佳を火曜日に引き出せないから。あの子、結構忙しいからね。たぶん水曜とかじゃ無理なんでしょうよ。それに、おじさまが結佳の相談に乗ってるってことにならないと、ミーティングで報告しなきゃいけなくなるから、それは絶対ミーティングの前に会って貰わないと困るのよ。だから月曜日に動いたのよ。それに、自分のことを報告せずに澄ますには今週中に一気におじさまと結佳をくっつけるしか無いじゃ無い」
「ひどい・・・・・・・」
菜摘は友紀に言われてみても、『それでもそこまで考える?』と思った。しかし、友紀は絶対の自信を持っているようだ。一応、聞き返してみる。
「ほんとう?」
『そうよ。私、こういうことには自信があるの。菜摘には辛いと思うけど、まず間違いないわ』
菜摘は信じていた麗華に打ちのめされた気がした。しかし、ここで友紀は意外なことを言った。
「でもね?菜摘だって悪いよ」
「どうして・・??」
「だって、私がさ・・」
友紀はちょっと後ろの彼を気にして更に声を小さくした。
「おじさまと別れるって言った時に、直ぐにおじさまに行けば良かったのに、私の幸せだのなんだ乗っていって引き延ばすからこういうことになるのよ。おじさまは絶対菜摘が好きなんだから」
その言葉は菜摘の心にグッと来た。
「そんなの・・・・わかってる・・・・」
「それに、元々麗華をおじさまに引き合わせたのは菜摘でしょ?どうしてだかだいたい想像はつくけど、それは言わない。私にだって悪いとこあるもん」
それを聞いて菜摘は『私なんか悪いとこだらけよ』と思った。しかし、その友紀の言葉はもっと菜摘を打ちのめした。そして、晃一に麗華を紹介したことをまた後悔した。
そこで友紀は言葉の調子を変えた。
「ねぇ菜摘、そろそろ素直になったら?聞いたでしょ?私、これで幸せになったから、もう気にする必要ないわよ」
「でも、こうなっちゃったらどうすれば良いのかわかんない・・・・・」
「大丈夫。おじさまは菜摘を見てるし菜摘を待ってる。元気出してぶつかっちゃえ」
「・・・・・・・・そう・・・・」
「あ、私行くね。頑張るんだよ、良いね?応援してる。連絡頂戴。それじゃあね」
そう言うと友紀は彼のところに戻っていった。そして直ぐに一生懸命謝る友紀の声と、その次には幸せそうに甘える声が聞こえてきた。
『ねぇ、お腹減ったよぉ。自分のピラフは出すから大盛り分奢ってよぉ』
『明日は絶対遅れないでね。・・うん、私も絶対時間守るから・・・。うん、良いよ。その後どこに行くかは任せる・・・・・。ね?本当にいいの?私と一緒でも?・・・・』
友紀の快活な声が小さく聞こえてきた。菜摘にはその声の裏にある、無理やり自分の思いを変えなくてはいけなかった友紀の悲鳴が聞こえているような気がして、聞いているだけで辛くて仕方なかった。友紀をそこまで追い込んだのは自分なのだ。また涙が出てきた。それも大量に。
ドリアが冷めてきたので食べやすくなったが、今度は涙でドリアがよく見えない。声を出さないようにするだけで大変だった。泣きたくないが、どうにも気持ちは止められない。菜摘は声を出さずにポロポロ涙をドリアの上に落として泣いた。
『何でこんなことになっちゃったのよ。全部私のせいだ。自分で全部こうしたんだ。バカにもほどがあるよね。好きだって言ってくれたパパを放り出しておいて、離れて寂しくなったら新しい彼も放り出して。ちゃんと私のこと見てくれてたのに・・・。友紀とのことだって、友紀は許してくれたけど、麗華はパパをキープしようとしてるのに私は何もできない。くぅっ、私、泣いてばっかりだ。泣くしか無いのかな?ずっとこのまま泣いてるのかな?パパが結佳に夢中になっても泣いてるのかな・・・・・麗華がこっそりパパの所に会いに行っても泣いてるのかな・・・・・・・泣いてても仕方が無いって分かってても、それでもただ泣いてるのかな?・・・パパ・・・・助けて・・・・・泣くしかできない私を助けて・・・・・会いたい・・・。私、どうしてこうなっちゃったの?これが私なの?・・・パパ・・・助けて・・・私、怖い・・・・』
後悔の念が後から後から湧いてくる。どうして?なんで?どうすれば?疑問は尽きること無く菜摘を押し流していった。
しかし、泣いている間に、何か新しい感情が湧き上がってきた。『何で私泣いてるんだろう?そんなに泣くようなことなの?』『何なのこの気持ち?』そう思っている間に涙が止まった。そして、自分の中に新しい気持ちがどんどん膨らんできた。
『よおし、やってみようじゃないの・・・・・』
菜摘はスプーンを持ち直し、ぱくぱくっとドリアの残りを平らげると、荷物をまとめてさっさと席を立った。友紀の横を通り過ぎたが気にもしなかった。その時の菜摘は凄い目をしていたが、チラッとそれを見た友紀は『頑張れ菜摘!』と心の中で応援した。
菜摘は店を出るとまっすぐに駅に向かって歩いていった。そして電車に乗って家路に着いた。その間、ずっと『何してるのよ。こんなことしたいわけじゃないでしょ?』と思っていた。そして家に着くと、母親が様子を心配するのもそっちのけで机に向かって勉強を始めた。最近は控えめだった参考書の開き方も堂々と机いっぱいにいろいろ開き、目に付いた練習問題を片っ端から片付けていく。
『私、何をやっても中途半端じゃないの。好きになっても勉強しても、全部途中で放り出しちゃう。そんなことをしたかったわけ?まるで、途中で放り出すために始めたみたいじゃないの。周り中に迷惑掛けて。こんなことしてちゃ、いつまで経っても恋だって勉強だって中途半端。全部だめになっちゃうわよ。今、私にできること、ううん、しなくちゃいけないことは勉強と恋。でも、勉強の方が先。だって、パパに褒めて貰うために勉強を頑張ってたのに、途中で放り出しちゃったから。ここからおかしくなってきたんだ。だからまず勉強をしっかりしなきゃ。そして結果が出てちゃんとパパの前に出れるようになったら結佳のこと、はっきりさせる。怖くたって何だって、そうしないといけないのよ、私は。自分で蒔いた種なんだから』
菜摘は心の中の自分にずっとそう言い続けていた。
夕食になって母親が声を掛けてきたが、菜摘は勉強を止めなかった。少しすると妹がやってきた。
「お姉ちゃん、お母さんが心配してるよ。怖い顔をして帰ってきたと思ったら部屋に籠もったままだっていってるよ」
「大丈夫。もう少し勉強したら行くから先に食べてて」
菜摘がそう言うと、妹は諦めたように引き下がっていった。そして隣の部屋から聞こえるテレビの音が小さくなり、少しすると菜摘の分のシチューとおにぎりになったご飯がそっと部屋に差し入れられた。菜摘はそれを見て、本当にありがたいと思った。そして、だからこそ勉強を頑張らないと、と決意を新たにした。結局、その日菜摘が食事をしたのは10時を回っていた。
翌日は、なんと朝の9時から勉強を始めた。日曜日なので妹は出かけてしまい、母親と二人きりだったが、母親は今で何か仕事をしているらしくテレビの音も聞こえない。菜摘は正直、どこまで緊張を保ったまま勉強を続けられるか不安だったが、全力でがんばった。ふと気が付くと1時になっており、母親が菜摘の好きなインスタントの焼きそばを作って部屋に差し入れてくれた。菜摘の好きな卵も入っている。菜摘はそれを5分で食べると、再び机に向かった。家族の気配りが嬉しく、何が何でも次の来週のテストでは良い成績を取るつもりだった。昨日と今日の二日間で勉強した量は、質も含めて先週一週間分を軽く超えた。『きっと良い成績を出してみせる』菜摘はそう信じていた。
 時間は戻って土曜日の午後、結佳は晃一の身体に自分の肌を甘えるように擦り付けながら、少しずつ自分の身体が再び熱くなってくるのを感じていた。結佳は晃一の胸の上に頭を乗せ、甘えるのを楽しんでいる。しっかり準備をすれば、猛烈に感じること、そして自分の中が男にとってとても気持ち良いこと、どちらも結佳にとって新鮮な発見だった。このため、結佳は晃一にもっといろいろ教えて欲しいと思っていた。
「晃一さん、いつもは何回位するんですか?」
「それは女の子と二人で自然に決めていくものだろ?」
そう言いながら晃一は自分の上に俯せになって甘えてくる結佳の乳首を軽く指先でからかった。
「あんっ、だめ、意地悪ぅ」
「何が?気持ち良かったかな?」
「私が話せなくなっちゃいます」
「そうなの?十分話せてると思うけど」
そう言ってもう一度乳首をからかう。
「ああんっ、だめですったらぁ」
「結佳ちゃんの乳首は敏感なんだね」
「誰だってこんなことされればこうなります」
「そうかな?結佳ちゃんは特に感じるみたいだけど?」
「そうなんですか?」
「うん、何かそう思うな」
「それじゃ、菜摘とかは?」
「他の子のことは内緒。菜摘ちゃんだって。それとも、結佳ちゃんは自分のこと、回りの子に話して欲しい?」
「私はどっちでも構わないと思うけど・・・・」
「そうなの?話しても構わないの?」
晃一は結佳の反応に驚いた。まさか自分の身体のことを話してもいい女の子がいるとは思えなかったのだ。もしかしたら、触られると十分に感じることや、入れられてから男にとってとても気持ち良いことは女の子にとって自慢なのかも知れない。しかし、結佳にだって隠したいことはあるはずだ。
「私は構いませんよ」
「そう?結佳ちゃん、おっぱいを見られたり触られるのは凄く恥ずかしがってたじゃないの」
「それは・・・・やっぱり・・・・私の胸・・・小さいから・・・・・」
「そう?どれ、見せてごらん」
そう言って晃一は起き上がって床を仰向けに擦ると、結佳の両手に自分の指を絡ませて結佳の頭の上に押し付け、手で隠せなくした上でじっと胸を見下ろした。
「いや、いや、嫌・・・・そんな目で見ないで下さい」
途端に結佳は恥ずかしがった。
「結佳ちゃんの胸は・・・・・・」
「いや、いやぁ、言わないで、お願いです。言わないで下さい」
晃一は結佳が恥ずかしがったので、再びベッドで仰向けになると結佳を引き寄せた。
「ほら、結佳ちゃんだって内緒にしたいこと、あるだろう?」
「晃一さん、意地悪です。私がコンプレックス持ってること、分かっててこんなことするなんて」
結佳は少し悲しそうに言った。
「だったら、他の子のことになんか興味を持たないことだよ。それが一番」
「でも・・・・・・・」
「ん?なんだい?」
「私、とっても感じるんですよね?そして、あの・・・・・中が・・・・・気持ち良いんですよね?」
「あぁ、感じるのは自分でも分かるだろ?」
「分かりますけど、それがどれくらいなのかは自分では・・・・・・・やっぱり教えてもらわないと・・・・・」
「そう?比べなくても良いんじゃない?」
「それに、中のことだって、教えてもらわないと分からないです」
結佳はどうやら自分の中が男にとってどうなのかが気になるようだ。
「教えるって言われても、結佳ちゃんの中のことは・・・・・」
「私って名器ですか?」
「えっ」
晃一は結佳からずばり聞かれて驚いた。まさか女の子から聞かれるとは思わなかったのだ。
「私って、もしかしたら名器なのかなぁって思って・・・・・どう思います?」
「う〜ん、難しい質問だなぁ」
「どうしてですか?」
「結佳ちゃんはまだ経験も少ないだろ?だから、結佳ちゃんの中は男の人に入れられる度に、おちんちんを受け入れやすいようにどんどん変わっていくんだ。だから女の子は何度もセックスをすると感じ易くなっていくんだよ。痛みも遠のいていくしね。結佳ちゃんはまだ経験が少ないから、今の状態がずっと続くかどうかは分からないんだよ。だから聞かれても困るんだ」
「そうなんですか・・・・・・・・。でも、晃一さんはどう思いますか?」
「そうだね・・・・・・このままの感じが続けば名器だと思うよ」
晃一は正直に結佳に答えた。それが結佳にとって良いことかどうかは分からなかったが、結佳が自分の身体のことについて聞いているのだから正直に思ったことを伝えるべきだと思ったのだ。
「そうなんだ。私って名器かも知れないんだ」
結佳は嬉しそうに晃一の胸の上に頭を乗せ、無邪気に喜んだ。