第171部



「そうか・・・・・・・・・」
友紀は思い切って聞いてみた。
「ねぇ、おじさま、どう思う?言ってみて」
「あのね・・・・正直に言えば、彼はそんなに友紀ちゃんのこと、嫌いじゃ無いんじゃ無いかと思うんだ。だけど、友紀ちゃんが思うほどくっついていたいとも思わない。それだけなんじゃ無いかなぁ・・」
友紀にはちょっと意外なコメントだった。
「そう思うの・・???」
「友紀ちゃんだって、彼が友紀ちゃんのこと嫌いになったとは思ってないんだろう?」
「それがよく分からなくて・・・・・でも、そうかも・・・・だって・・・」
「ん?」
「嫌われてるって思えば絶対分かるもん」
「そうだよね」
「ねぇ、どうすれば良いと思う?」
「友紀ちゃんが彼に合わせるか、彼が友紀ちゃんに合わせるか、二人の気持ちの中間にどちらも合わせるか、ってとこだね」
「そうよねぇ・・・・・・それは分かってるんだけど、私が彼に合わせたら、嫌われてるって決定しちゃいそうで・・・」
「今日も帰ったら電話するの?」
「・・・・ううん・・・今日は・・・しない・・・・・」
友紀はそう言ったが、実はそれは、それくらいしか今の自分に試せることは無いと思ったからだった。
「いいの?」
「うん、だって、しても仕方ないもん。電話すればまた気まずくなるの、分かってるし・・・」
「偉いね。いつもやってることを止めてみるってとっても勇気がいるだろうけど、それも時には大切だと思うよ」
「ありがと。頑張ってみる」
「それじゃ聞くけど、毎日登下校が一緒で毎日電話って、友紀ちゃんのパターンなの?」
「登下校ってのは違うけど、電話は・・そう・・・」
「そうしないと落ち着かないの?」
「落ち着かないって言うか、それが普通って言うか、話をしたいって言うのかな・・・」
「いつも甘えたいのかな?」
晃一がちょっと意地悪っぽく言うと、
「・・・知ってるくせに」
と友紀は恥ずかしそうに言った。しかし、同時に友紀は晃一には言わなかったことに気がついた。今回に限って言えば、友紀は晃一から離れると最初に決め、晃一から自分の気持ちを引き離すために、わざと電話や会う回数を増やしていた部分がある。自分から無理矢理にでも気持ちを切り替えないとやっていられなかったのだ。だから告られてからOKするまでちょっと時間がかかったが、告られてからは毎日一緒だったし、言ってみればOKするのを引き延ばしていたに過ぎない。それがOKしてからも続いたので成績が下がったのだが、考えてみればちょっとやり過ぎだったのかも知れない。
それから二人はしばらく話をしたが、そのうちに友紀は、
「私、そろそろ帰る」
と言いだした。
「うん、気をつけてね」
「おじさま、今日はありがと。だいぶ気持ちがすっきりした」
友紀はそう言って立ち上がると、晃一も立ち上がった。そして友紀は晃一の前に来て、
「おじさま、ありがとう。本当に・・・・」
と言って軽く頭を下げた。
すると、晃一はそっと友紀を抱きしめた。
「え?」
突然のことだったので友紀は何もできなかった。まさか晃一がこんな事をするとは夢にも思わなかったのだ。友紀は固まってしまった。
「友紀ちゃん、頑張ってね。応援してるよ」
晃一が友紀の耳元で囁いた。
「!」
友紀はその場に立ち尽くした。嫌がることも、突き放すこともできなかった。ただ、
「うん」
とだけ言うと、晃一からそっと離れるのが精一杯だった。
「送って行く?」
「ううん、大丈夫。一人で帰るから。まだ9時前だし」
「そう、それじゃ、気をつけてね」
「はい。おじさま、ありがとう。お休みなさい」
そう言って友紀は扉に手をかけ、自分でしたチェーンロックを見つけると、そっと外した。
外に出た友紀はまだドキドキしていた。全く予想していなかっただけに、さっき晃一にそっと抱きしめられたときに対応できなかった。その時、たぶん気づかれてはいないと思うが、友紀は晃一が耳元で囁いた吐息をうなじに受けて感じてしまった。ビンッと甘い感覚が全身を走り抜けたのだ。もし、あのまま晃一がうなじに唇を這わせ始めたとしたら、絶対友紀はそのまま受け入れてしまっただろう。
しかし、もっと驚いたのは、感じてしまったことを後悔するどころか、どこかで喜んでいる自分を心の中に見つけたことだった。電車で帰宅の途中、友紀の心の中では晃一に愛されていたときの自分が鮮やかに思い出されていた。
神戸のホテルで晃一は友紀をどんどんリードして甘えても甘えても友紀を愛し、感じさせてくれた。晃一の上で夢中になって腰を振っていた時の何も考えずにただ快感を追い求めて声を上げていた自分や、下になって晃一の腕の中で声を上げて仰け反っていた自分を思い出した友紀は、この気持ちをどうしたらよいのか戸惑い始めた。
実は、晃一に愛されるまで友紀は正常位とバックしかしたことが無かった。以前の彼とは騎乗位は試しはしたが直ぐに止めてしまった。その時の友紀の頭の中には、挿入の時は常に間近で相手を見つめていられる姿勢が良かったし、結合部に大きな力がかかるために女の子にテクニックが必要な騎乗位は難しかったし恥ずかしかったのだ。
しかし、晃一に身体の隅々まで愛されたことで友紀は騎乗位で自分が夢中になれることを発見した。あれほど夢中になって腰を動かしたことなど無かったのに、いつの間にか自分で大胆に腰を振る喜びが身体に染み込んでいた。それまでセックスとは女の子は感じていれば良い、と思っていた友紀にとってはセックスに対する考え方自体が変わるほどの大きな出来事だった。そして、それをリードしてくれた晃一を好きになったし、発見した自分も気に入っていた。
今の彼を好きなのは間違いない。それは絶対間違いない。しかし、晃一に甘えているときの安心感と愛されている幸福感は同級生の彼からは絶対に得られない。同級生の彼と一緒にいると楽しいし、いつでも一緒にいられるという別の安心感があるのは確かだ。その彼とした時、とても嬉しかったし幸せだと思ったが、なんと言うか、幸福感も快感もとても身近なのだ。晃一との時のように思いもしなかった快感が爆発するような瞬間は得られなかったし、全てを忘れてのめり込める安心感も無かった。そして、それが実は友紀が最初に彼に感じた小さな不満だった。
彼は高校生なのだから、相談に乗ってくれると言っても基本的には同じ立場になってしまうから相談できることには限りがあるし、その分我慢することも多い。もちろん身近であることは間違いないし、それは友紀にとってとても重要なのだが、やっと二人きりになれて抱き合っても晃一と同じように上手ではないし、第一大きさが全然違うと言うのは頭では分かっていた。大きさは問題では無いと雑誌には書いてあったが、誰がなんと言おうと晃一のは猛烈に気持ち良い。それは菜摘と晃一の気持ちを知って晃一から離れると決めたときから分かっていたはずなのだ。しかし、友紀の身体は納得していないようなのだ。
但し、これは誰にも言ってなかったし、彼はもとより菜摘や晃一にだって絶対言えるはずの無いことだった。そして、自分では、自分で決めたのだから彼のセックスで満足しなければと思っていた。しかし、友紀が完全に満足していないことを感じるのか、彼もだんだん熱心に誘うことはしなくなってきた。最初は熱心に何度も何度も乳房を愛して肉棒を入れてきた彼も、この前は最初ほどしたいと言わなくなった。今考えると、もしかしたら、彼とのセックスの後に残った不自然な感じ、それが全ての事の発端だったのかも知れない。
『もしかして飽きられてるのかな?私・・・・・』ふと友紀はそう思った。しかし、付き合ってまだ2週間ほどしか経っていないのに飽きられると言うことがあるのだろうか?セックスだって3回しかしていない。
そこまで思って友紀は、ふと今の自分がそれほど落ち込んでいないことに気がついた。
今日、晃一と会うまでは、晃一が仕掛けてきたらどう対応しようかとか、ちょっとだけ好きにさせてからはっきりと断ることで今の自分の立場を確認しようと思っていた。晃一の拒絶された時の顔が見たかったし、それを後で菜摘にほのめかすのが楽しみだった。
しかし、晃一は全く友紀に手を出そうとしなかったし、そのそぶりさえ見せなかった。そして友紀の話を親身になって聞いてくれて、友紀の気持ちを引き出そうとしてくれた。考えてみれば分かっていたことなのだ。晃一がそう簡単に友紀に手を出すはずが無い。今の晃一は菜摘と気持ちが通じ合っているのだから当然だ。
『なんか、私一人で勝手に盛り上がって放り出されたみたい。バカよね』友紀はそう思うと、はぁ〜とため息をついた。しかし、今の自分はとても落ち着いている。
その夜、友紀は電話をしなかった。今までは不安な気持ちを紛らわせたくて電話していたから、何でも良いから話をしていれば良かった。今までは話題よりも話している時間が長いか短いかの方が大切だった。しかし、今はその自分を冷静に認めることができるので電話で話していないのに気持ちは落ち着いていた。
『これっておじさまのおかげなのよね』そう思うとちょっと不思議だった。
すると、11時を回った頃に彼から電話がかかってきた。友紀が驚いて電話に出ると、特に話がしたいというわけでもなさそうだった。しかし友紀にはとても嬉しかった。自分が電話しないことで彼が心配してくれているのだ。だから友紀は心臓が飛び出しそうになったが思い切って『ごめんね、何度も電話ばっかりして。でも、ありがとう。話に付き合ってくれて。正直に言うとね、ちょっと不安だったの。もう好きじゃ無いんじゃ無いかって。嫌われたかなって・・・・』と言った。たぶん、それで気持ちは通じたはずだ。それから少しだけ彼と話した。ドラマのような展開は無かったが、また明日一緒に登校することになった。友紀はたぶん、今日の所はそれで良いだろうと思った。
ただ、晃一に軽く抱きしめられて感じてしまったことだけが後を引いていた。もし晃一が本気で友紀を抱こうとしたら、本当に拒絶できるだろうか?もし抱かれてしまったら後悔することができるだろうか?もしかしたら彼と同時に晃一も求めてしまうのでは無いか?友紀は自分の中にある晃一への気持ちを認めないわけには行かないだろうと思った。
そこまで考えてから、菜摘に縮められた成績を挽回するべく勉強に気合いを入れた。少なくとも2時まではやるつもりだった。
同じ頃、晃一は菜摘にメールで報告を送った。菜摘は直ぐに読んだはずだったが返事は来なかった。ただ、それでも晃一はできることをしっかりやったし、菜摘にはそれを理解して欲しかったから敢えて別のメールは送らなかった。
もちろん、菜摘は直ぐにそのメールを読んだ。慌てて一読して安心してからじっくりともう一度読んだ。晃一には友紀のことをメールでお願いしたし電話でも話したが、正直に言えば自分でお願いしておきながらとても不安だった。しかし、逆に晃一にしては素っ気ないメールが菜摘を安心させた。『パパにとっては普通のことなんだわ。まるで連絡メールみたい。全然言い訳なんて書いてないし、とってもはっきりと書いてある。私、自分でお願いしておきながら心配するなんて馬鹿みたい』菜摘はそう思い直すと勉強に集中した。
その次の日、晃一には美菜からメールが来た。菜摘からは『美菜の話を聞いて欲しい』としか聞いていなかったし、簡単な挨拶メールは貰ったがその時に話の内容は書いてなかった。しかし、今回は会って話をしたいとはっきりと書いてあった。菜摘の同意を貰っているとも。たぶん、これだけはっきり書いてあると言うことは、菜摘に聞いても無駄だろう。それならば会うしか無い。美菜のメールには時間まではっきりと書いてあった。会うのは土曜日の5時だと。そして相談の内容が書いてあった。友達関係で悩んでいるので勉強が進まないらしい。良くある話だ、と思った。まさに友紀と同じでは無いか。
晃一は自分が高校生の時にはこんな悩みをしていたのだろうかと思ったが、その時は余り女の子と付き合った記憶が無かった。
その日、美菜の所に珍しく友紀が来た。
「珍しいわね」
美菜が怪訝な顔をしながらも応じた。二人ともクラスは違うし特に仲が良いわけでも無いので普段は余り話さないが、どこかお互いを気に入っている部分があると感じていたので自然に教室を離れた。
「どうしたの?」
「土曜日におじさまの所に行くんでしょ?」
「そう。今日メール送っといた」
「おじさまに?」
「そうよ。菜摘に送ってどうするのよ」
「確かに」
「それで、何かあったの?珍しく私の所に来るなんて」
「うん、ちょっと言っておこうと思って」
その言い方に美菜はピンと来た。
「あのね、私から手を出すことは無いからね」
「分かってる。それは聞いたから」
「信用してないの?」
「まさか。美菜がそう言うならそうなんでしょう」
「それならどうして?菜摘が心配してるの?」
「ううん、あのね、実は私、昨日と一昨日おじさまに会ってたんだ。もちろん菜摘の許可は貰ってよ」
「へぇぇ、って事は今更よりを戻すって事でも無い訳か」
「そう。ちょっと相談に乗って貰ってたの」
「相談?おじさまに?そんなの役に立つの?」
美菜はそう言いながら『先を越された』と思った。しかし、送ってしまったメールは取り消せない。このまま行くしか無いのだ。
「それで、私に用って何?」
「うん、確かに私はこの前までおじさまと少しの間付き合ってたけど、それが関係あるのかどうかわかんないけど、おじさまってちょっと不思議なの」
「不思議?分けわかんないって事?」
「違うの。ちゃんと話は聞いてくれるし、話し相手にもなってくれるけど、私の方がちょっとね・・・・」
「友紀の方が?」
「私、元々本当に話をするだけのつもりだったし、浮気なんかするつもりないし、それはちょっとはドキドキさせるくらいなら良いかなって思ったりしてたけど・・・」
「それ、私と一緒じゃん」
「だから来たのよ。それなのに、ちょっとおじさまの息がかかった途端にビクッてなっちゃって・・・。私の方がびっくりしてさ、それで美菜にも言っておいた方が良いと思って」
「ふうん、友紀は普通に話をして相談に乗って貰ってただけなのに?」
「うん、本当はね、正直に正直に言えば、少しくらいおじさまに誘惑されるくらいは良いかなって思ってた。でもその時はバシッて断るつもりでよ」
「ほう・・・」
「だって私、最近成績も落ちてきてるから立て直さないと。せっかく土曜日も学校のある進学校に通ってるのにちゃんとしたところに行けないんじゃみっともないじゃ無い?だから彼とのこともちゃんと立て直すつもりで相談に乗って貰ってたの」
「それで感じたの?なにそれ?」
「ううん、おじさまはそんなそぶり全然見せなかったし、私は話をすればするほど真面目に相談してたし、そんな雰囲気なんて全然無かったの。でも、帰るときに立ち上がったらちょっとだけおじさまの息がかかって・・・ちょっとびっくりした。ねぇ、どう思う?」
「どう思うって・・・・・分かるわけ無いじゃん。まだおじさまのことが好きなんじゃ無いの?」
「ううん、もうこれ以上バタバタするのは嫌。自慢できるような彼じゃ無いけど私には十分だもの。ちゃんと話せるし、一緒にいてくれるし」
「なんだかなぁ。そう言われてもさぁ・・・」
「ごめん。でも美菜に言っておきたかったの。もしかしたら、いつの間にか自分がその気になってるかも知れないよって」
「まぁ・・・・・ありがとう、って言っておくべきなのかなぁ」
「ううん、特になんて事は無いから。でも、おじさまに会ってたのは他の子には内緒よ。菜摘の他は美菜にしか言ってないから」
「はいはい、大丈夫。漏らしたりしないよ」
「良かった。もちろん結果も菜摘に報告済みよ」
それは嘘だった。まだ菜摘には報告していない。
「ま、気をつけてみるわ。ありがと」
「で、美菜はどういう風にアプローチさせるつもりなの?」
「そうねぇ、舞台としては友紀と同じ恋愛相談ってことにしてあるけど、そのまま真面目に話をしたんじゃおもしろくないから・・・・・・そうだね、短期決戦だな」
「短期決戦?」
「そう、ま、どこまで行けるか頑張ってみるわ」
友紀には美菜の言う意味がよく分からなかったが、短期決戦と言うからには晃一が直ぐに手を出すような雰囲気にすると言うことだろう。