第214部

そこまで考えて、ふと美菜は気がついた。
「ねぇ友紀、菜摘、ずっとおじさまと会わないつもりなのかなぁ?」
「そんなことは無いでしょ?会うつもりが無かったら別れてるよ。美菜を使っておじさまをキープしてるって事は、また会うって事じゃ無い?」
「って事はさ、菜摘、またおじさまに会いに行くんだ」
「そりゃそうよ。明日、結果をもらうでしょ?菜摘はそれが良かったら会いに行くって予想してるんだけど?」
「そう・・・・だよね・・・・」
「どうしたの?まさか・・・・菜摘がおじさまに会っちゃだめって思ってる???」
「それは・・・・」
「美菜、分かってるはずよ。自分で言ったじゃ無い」
「そうじゃなくてさ、絶対そうじゃないの。違う・・・けど・・・」
「何がよ」
「あのね・・・・何か感じたんだ、おじさまにとって私、菜摘の代わりじゃ無いかなって・・・」
「そりゃそうでしょうよ」
「だから違うのよぉ。そうじゃなくて」
「もう、なんなのよ」
「おじさまと居る時、おじさまの視線、とっても優しくてさ」
「そうよね」
「それで私も、こうやって一緒に居られるんならって思って・・」
「それは私も同じ」
「でさ、今はおじさま、寂しいと思うのよね?だから私への視線も優しくて・・・だけど・・・・もし菜摘がおじさまに会って・・・おじさまの菜摘への気持ちが満足したら・・・って思ったらちょっと」
「え?どういうこと?」
「おじさまが菜摘に会って満足しちゃったら、私に優しくしてくれなくなるかも・・・ってさ・・・」
「美菜、そんなこと心配してたんだ」
「そう・・・・だめ?」
「ううん、分かる、その気持ち。でも大丈夫。心配しなくて良いから」
「そう?どうして?」
「私の方がおじさまに関しては美菜より経験あるから。おじさまってそう言う人じゃ無いから」
「そうなの?」
「うん、おじさまって、なんて言うか、気持ちがいっぱいあるのよ」
「いっぱい?なにそれ?」
「いくつもって言ったら良いのかなぁ、とにかく一つじゃ無いの。一つしか気持ちが無ければ美菜の言ったみたいになるでしょうけど、おじさまの気持ちはいっぱいあるから。菜摘と会っても美菜にだって優しくしてくれるよ。私にも、だけど」
「そうなんだ・・・知らなかった・・・」
「私ね、ちょっと思ってたんだ。おじさまだって男だから、見境無しに女の子に手を出してるんじゃないかって。でもね、会ってみれば分かるけど単にやりたいだけって言うのと違うでしょ?本気で心配してくれるし、勝手にしたいことだけしてお終いって言うのとは全然違うでしょ?」
「うん、そうじゃない。全然違う。だから安心できるのよね」
「それで気が付いたの。おじさまって、気持ちがいっぱいあるんだって。菜摘とは違うかも知れないから程度の差はあるだろうけど、ちゃんと本気で好きになって心配して優しくしてくれるもの。単に女の子に見境無く手を出してるって言うのとはそこのとこが違うのよね」
「そうね。だから私さ・・・・・」
「自分にだけ優しいって思ってたの?」
「正直に言えば・・・・ちょっと・・・・・ね。期待してた、かも」
「美菜ほど綺麗ならそう思っても不思議は無いけど・・」
「だから違うって・・・」
「でも残念でした。おじさまが優しくしてくれる気持ちは本当だけど、それって美菜にだけじゃ無いから」
友紀は美菜に結佳のことを話そうかとも思ったが、さすがに止めておいた。
「菜摘にも?」
「そうよ、諦めなさい。菜摘には飛びきり大きい気持ちだと思う」
「そうか・・・・」
「でも、ねぇ美菜、あんた、あの部屋でしか会わないとか、菜摘の許可を取ってとか、まるで臨時の一時的な彼女みたいなこと言ってるけど、もしかして本当は結構気持ち、入ってるんじゃないの?」
友紀に言われて美菜ははっきりと自分の気持ちに気がついた。
「そう・・・・かも・・・・・って自分でもちょっと驚いてたりするけど。え?ううん、やっぱりそんなのおかしいよぉ」
「自分で言うの?」
「私、そんなに本気になってたの?マジ?あり得ない」
「見事なノリ突っ込みね」
友紀は少し呆れた。
「でも美菜、あんた、分かってるんじゃ無い?」
「え?分かってた?そんなこと無い・・ううん、わかってる・・・」
「何となく、そんな感じしてなかった?自分の気持ちの中に、あったんじゃ無い?何となく気がついてたんじゃ無い?」
「それは・・・・・・・・」
美菜は友紀に言われて言い返せなかった。そう言われてみれば、真剣な気持ちに少しは気がついていたかも知れない。ただ、認めたくなかっただけかも知れないのだ。
「正直に認めなさい。そうしないと間違えるよ」
「うん・・・・・・・もしかしたら・・・・・そう・・・・かも」
「ふぅ、やっぱり。絶対そうよ」
「どうして分かったの?」
「だって、あんなに甘えてさ、昨日だって自分から行ってたでしょ?絶対、私より気持ち、入ってたよ。それに、私が帰ってから、また戻ってしてもらったんでしょ?それって、私への対抗心だよね?」
「そ、それは・・・」
美菜は言葉を失った。
「ほら見なさい。図星じゃ無いの。良いの、私にだってその気持ち、あったから。だから、昨日会った時も直ぐに帰らなかったし、美菜がシャワーに行ってる間におじさまにしてもらったんだし」
「やっぱりそうなんだ」
「私だって今気がついたのよ。美菜と話しててさ。でも、私は1回してもらったらそれで十分だったから直ぐに帰っちゃったけど、美菜はその後、まだしてもらったんでしょ?私よりずっと気持ち、強いじゃ無いの」
「うん・・・・・・そうかも・・・」
「そうかもじゃないよ。もう、かなりのめり込んでるよ」
「・・・たぶん・・・・だけど、あの部屋でしか会わないって決めたからかも知れないね。そう決めたから気持ちが安心して、あの部屋に行けば思いきり甘えられるって思って・・・・。それで、いつの間にか行くのが楽しみになってて・・・。でもね、絶対最初はその気なんて無かったの。本当よ」
「わかってるよ、それくらい」
「だから菜摘には・・・お願い」
「もちろん言わない。絶対に絶対内緒なんだから」
「ありがと、助かる」
美菜は友紀が太鼓判を押してくれたことで安心した。正直に言えば、菜摘とトラブルになったとして、グループを離れることになるのは構わないが、またあの尻軽女がって言われるのは困る。
「でもね、たぶん、菜摘は気づいてるよ」
「そう?かな・・・・」
「そりゃそうよ。最初は先週の日曜でしょ?それから水曜、そして昨日だもん。菜摘は何にも言わなかったでしょうけど、これだけ美菜が会いに行ってるって事は気持ちが入ってるって以外、何があるのよ」
「そうか・・・・・・そうだよね・・・・・。私、これでも我慢してたんだけど・・・・」
「美菜、気持ち、入りすぎ。どっぷり首までって奴だね」
「・・・・だよね」
「メロメロだね」
「はぁ・・・・・、やっぱりそうか・・・・」
「で、どうだったのよ。昨日のテストは?」
「・・・・良くなかった・・・・。1ランクくらい、落ちてるかも」
「ほら見なさい」
「拙いよね、これって」
「じゃないの?」
「ちょっと気合い、入れるか・・・・。男に夢中になってる場合じゃ無いね」
「男は男。他を犠牲にしてまで・・・・じゃないの?」
「うん、ありがと・・・・」
美菜は、確かに友紀の言う通りだと思った。そして、自分の気持ちをはっきり確認できて良かったと思った。
「でもさ、友紀」
「ん?」
「私はそれで良いとして、菜摘もそんなに会わない、私もおじさまから少し距離を置くって言ったら、友紀はどうするのよ」
友紀はドキッとした。
「それは・・・・私はさ・・・・」
「そこに友紀がすっぽりとはまるってなんて事、考えてないよね?」
「な・・・なんのことよ・・・・」
「ごまかしたってだめ。友紀、まさか、これでおじさまにもっと甘えられるなんて思ってないよね?」
「それは・・・・・」
友紀は痛いところを突かれたと思った。
「やっぱり、危ないなぁ、ついうっかり乗せられちゃうところだったよぉ、ヒュー、危ない危ない」
「だから何が・・・・」
「だめ、それは絶対だめ」
「何でよ」
「だってそうでしょ?菜摘と私を勉強に追い立てといて、友紀はフリーなんておかしいじゃ無い」
「私は・・・勉強が・・・・・・」
友紀の声に勢いが無くなった。美菜はやっぱりと思った。
「正直に言いなさい。どうなのよ。成績は?」
友紀は正直に告白した。
「・・・・落ちたの・・・・戻そうとしてるけど・・・」
「やっぱり。それなら・・・・」
「でもね?聞いて、ね?それは私が今まで田中の方に夢中になってたからで、おじさまにじゃないし、それにもう別れるって決めたんだから・・・」
「だあめ。成績、落ちたんでしょ?それならあんたも同じじゃ無いの」
「だから、別れるんだからもう成績の心配は・・・」
「だめって言ったでしょ?まず成績を戻すのが先」
「そう・・・・・だけど・・・・・」
「ほら、正直に言いなさい。私、全部正直に話したよ。今までぜったい誰にも言わなかったことだって友紀には言ったの。分かってるでしょ?」
「うん・・・・・・・」
「なら言いなさい。何を隠してるの?」
美菜の追求に友紀は逃げ場を失った。シラを切ることもできるが、たぶんそれだと上手くいかないと直感した。
「実は・・・・・・菜摘と英語の成績で競争してるの。それで・・・・この前私は落ちて菜摘が上がって・・・・・・」
「ほらぁ、やっぱりそうじゃないの。どうするのよ」
「だから・・・・・元に戻さないといけないって・・・・・」
「それじゃ、友紀だって同じだね。おじさまに会ってる場合じゃ無いよね?」
「でもさ、私は昨日は偶然だったし、それまではおじさまに会ってなかったんだから、少しくらい会ったって・・・」
「良いと思うの?」
「・・・・・ごめん・・思わない・・・・。私だって、きっと会えば会うほど・・・・・」
「だよね。結論は出たよね?」
「お願い美菜、少しだけ目をつぶって。お願い」
「だめよ。そんなのできる訳無いじゃ無いの。私にはおじさまに会うなって言っておいて」
「お願いよ。今のままじゃ気持ちが・・・・。だって私、これから別れ話するんだよ?修羅場になるんだよ?このままじゃボロボロのまんまだよぉ」
「それは・・そうだね・・・・・」
さすがに美菜もその点だけは同情した。
「だからお願い。何回もなんて言わない。少しだけでいいから目をつぶって。その後は私も美菜と同じになる。それで良いでしょ?だからお願い。邪魔なんてするつもり無いから、お願い」
友紀はここぞとばかりに主張した。その気迫に美菜は少し押されてしまった。よくよく考えてみれば、友紀はここで美菜に晃一と会うことを認めさせる理由など無いのだが、友紀にしてみれば少しでも有利な立場を確保しておきたかったのだ。
「そうか・・・・・まぁ・・・わかるけど・・・・」
「だからお願い。菜摘にはちゃんと言っておくから」
「友紀がそう言うなら・・・・・」
美菜も晃一と過ごす限られた時間がどれだけ気持ちを楽にするか分かっているだけに余り強くは言えなかった。
「ありがと、美菜」
友紀はそう言ってこの話を終わりにしようとした。
「でも、菜摘や私より何度も多く、なんてダメだからね」
「わかってる。って、美菜、さらっと付け足したけど、あなたもまだ会いに行く気?」
「ばれたか。そうよ、回数は減らすけど・・・」
「それじゃぁ、どんどんのめり込んじゃうよ。いいの?」
「私だって成績に響くのは嫌だから、そこはブレーキ掛けるし」
「大丈夫なの?」
「そうよ。私、決めたことは守るから。それより友紀の方よ」
「その話はもう良いじゃないの」
「良くないよ。成績だって、これ以上下がったら私がどうこう言う前に菜摘だって心配するよ」
「だから分かってるって。菜摘には隠したりできないんだから」
「分かった。それじゃ、私はもう何も言わない」
「ありがと、美菜」
「いい?あんな人には絶対言えないこと、全部洗いざらい言った仲なんだからね。それくらいは分かってるつもりよ」
「私だって。こんな事話したのなんて初めてよ」
「でもさ、偶然昨日あんな事があったからこう言う話、できるんだよね?私だって友紀と今日話さなかったら、もっともっとのめり込んで目も当てられないことになってたかも知れないんだから、友紀には感謝しないといけないね。でも、まだちょっとすっきりしないけど」
「もう、なにがよぉ」
「だってさ、結局、成績が落ちてる友紀がおじさまの所に行って優しくしてもらうって話でしょ?まだ成績があんまり落ちてない私が気合い入れなきゃって言ってるのに。だからちょっと、ね・・・」
「だからそれはこれから修羅場がさ」
「分かってるって。だから、早く修羅場を片付けちゃいなさい。待ってたってどうにもならないし、時間が経てばどんどん面倒になるんだから」
「はぁい」
ふと時計を見ると、もうかなり遅くなっている。時計を見た美菜が驚いて言った。
「わ、私達、3時間も話してたんだ」
「あーあ、こんな時間になってたんだ。ちょっと高くついたね」
「良いの、女子会での秘密トークだったんだから。さて、それじゃ、早く帰って勉強するか」
「私は修羅場のセッティングしなきゃ・・・・」
「んじゃ、帰ろ」
「うん」
二人はそれから少しだけ話して帰って行った。