第47部

 

 「ええっ、それ、凄いね。そんなにあるんだ・・・・・・・・・、そんなの入れて大丈夫だった?」
「うん、それから口で一回いかせてもらってから入れられたけど大丈夫だった」
「いきなりいったぁ?本当に?いくらオジサマだってそんな簡単に・・・・おまけに最初は口ぃ?ナツだって良く感じられたもんだ。ふぅ、すごいね・・・全く・・」
グループの中がざわついた。みんなの驚いている顔が愉快だった。菜摘はちょっと得意だった。
「うん」
「どこまでオジサマのテクニックって凄いんだ。いきなりいくなんて信じられない」
「でも本当だってばぁ」
「そりゃナツが言うんだから間違いないだろうけど・・・・それにしても・・・・・入れるだけでも大変だったろう?」
「胃が喉から出てくるかと思った」
「まぁそりゃそうだろうね。しかし、あんな大きさのなんて、よく簡単に入ったね。よっぽどその前に指でしておいたとか」
「ううん、先々週してもらっただけだけど、でも、いった直後だと簡単に入るみたい。そう言ってた」
「そうか・・・・・・無反応期だもんね」
「そうみたい」
「それを計算して最初に口でいかせてから入れたのか・・・・」
「・・・・みたい」
「組み立てが最初からできてるね。ナツはなんにも考えずに感じてればいいって訳だ。それで、出血は?」
「少しだけ・・・でも、ちょこっと」
「それでまたいったの?」
「さすがにそれは・・・・・でも、入れてからだんだんきつくなってきて、一回抜いてもらったの」
菜摘は口から出る自分の言葉に『私、結構凄いこと平気で言ってる』と思った。
「その時はすぐに動かなかったの?」
「動かないでって言ったからじっとしててくれた」
「女の子の身体は気持ちほどすぐには慣れないから、本当は少しずつ入れるのがいいんだけど、なかなか若い男は我慢してくれないからね。ナツはやっぱり正解だな。じっとしてたら慣れてきた?」
「うん、だんだん感じるようになってきた」
「やっぱりね。いい人を選んだもんだ。偉いよ、ナツ。で?」
「その後、ちょっと休憩してもう一回した時はいけたよ」
もちろん、自分で乳房を揉んでいたなどと言えるはずもない。
「やっぱりオジサマだね。バージンと童貞だと入ってから直ぐにズコバコするから女の子は痛くて大変だけど、ちゃんと身体が馴染むまで待ってくれるなんて。それで、オジサマはいったの?」
「その後の時に・・・・」
「直ぐにズコバコしなかったの?」
「うん、入ってからもしばらくじっとしててくれた」
「それで身体が慣れたんだね」
「うん、それで少しずつ感じるようになって、ゆっくり奥まで来て・・・かなり感じて来て、だから私、結構簡単にいったみたい」
「それじゃ、2回もいったの?いきなりなのに。へぇぇぇ」
もちろん、リビングのソファで後ろからと上になっていったのは内緒にしておこうとした。しかし、麗華は何か感づいたらしい。
「その様子だと、まだ何かあるね。教えてよ」
「それから・・・・」
「まだあるの?それじゃ、まだいかせてもらったの?」
「うん」
「オジサマは何回いったんだ?」
「えーと、2回・・・かな?」
「ちゃんと避妊した?」
「安全日のど真ん中だったから、今日だけって言って・・・・」
「そうか・・・・まぁ仕方ないか。これからは気をつけるんだよ」
「うん」
「全部同じスタイル?」
「・・・・あのね・・・・・・」
「はいはい、どうせいろいろ試したんだろうよ。みんなの前で言ってごらん?」
「ベッドの後に、後ろからと上になってと・・・・」
「はぁ・・・・いきなりバックと上か。よくもまぁバージン相手に教え込むもんだ。ナツも素直だからね。教える方も楽しいだろうよ。これからはナツが一番の経験者だ。若造が相手の私達じゃかなわないわ、こりゃ」
「・・・そう・・??」
菜摘はそう頷いたが、心の中ではちょっと優越感を感じていた。みんなが驚いた顔で興味津々なのがちょっと愉快だ。今までは想像しながら聞いているだけだったので、ちょっと羨ましいと思いながら何も実感がなかった。『私もいつか・・』とは思っていたが、それが実際いつなのかは予想すらできなかった。しかし、今は一気に友達を追い抜いたらしい。
「でも、上になるって言うのは、動けなくて感じないんじゃないの?最初は痛いし、入れる時にコケそうになるし・・。入れるのだって・・・・良くできたね」
「そんなに痛くなかったよ。最初だけちょっと痛かったけど。そして最初は普通に入れてもらってから上になったから転けなかったし」
「はぁ、そうなんだ・・・・・。でも、最初は感じるどころじゃなかったろ?」
「そんなこともないよ。感じるまで待ってくれたから」
「最初感じなくても、だんだん感じてくるの?」
「うん、じっとしてると、少しずつだけど・・ね。でも感じ始めると止まらないみたい」
「へぇー、そう言うもんなんだ」
「あーあ、私の彼ももう少し上手だったらなぁ」
美砂がぼそっと言った。
「何言ってんの、あんたの話を聞けば、あんた達がいろいろ試してるのはお見通しだよ」
「はいはい、でも菜摘にはかなわないわ。ソファだのベッドだの一軒丸ごと貸し切りじゃん。広い部屋で誰も気にしなくて良いんだし、お金持ちのオジサマってやっぱり良いなぁ」
みんながワイワイと話を始めた時、麗華が友紀に言った。
「友紀、あんたも聞いてるだけじゃつまらないだろ。一つくらい聞きたいことを聞いてみたら?」
「・・え・・・いいの?」
「あんたのミソギは終わったんだ。気にしなくて良いよ」
「それじゃ・・・・・ひとつだけ・・・・」
「ほう、言ってみなよ」
「年の離れた彼って、やっぱり良いの?」
「そんなことか、今のナツにゃ何を聞いても無駄だと思うけど、まぁ今日はお祝いだ。ナツ、答えてあげたら?」
「うん、最高だよ。頼りがいあるし、優しいし紳士だし、大切にしてくれるし」
「ま、そう言うことだ。今のナツにはオジサマ以外は見えないんだから」
「そうねぇ、盛り上がってる時はそうだよね?」
「そうそう、だって友紀の時だって最初はさ・・・・・」
グループの女の子達はスパゲティを食べながら菜摘の話を肴にして更に盛り上がった。それは、自分の恋の一番良い時を思い出しているかのようだった。菜摘も今まではパッとした恋がなかったので、今回の恋がみんなに自慢できるもので良かったと思った。そして、早くまた晃一に会いたいと思った。そしてお腹もいっぱいになった少女達は楽しいガールズトークを引きずりながら三々五々帰って行った。
楽しい時間が過ぎてみんなで店を出たとき、美菜が声をかけてきた。
「菜摘、一緒に帰ろ?」
友紀は真っ先に菜摘に声をかけることで仲直りしたいらしい。
「ごめんね。気が引けてたんだけど、つい結佳が相手だと安心しちゃって・・・・。本当にごめん」
二人は駅に向かって歩き出した。
「もう良いよ。友紀だってさんざん白状させられたんだし」
「うん、でも菜摘にはちゃんと謝っておきたくて」
「良かった。まさか友紀だとは思わなかったから。だいぶ麗華に怒られた?」
「もう全然逃げる余地無し。麗華に目を付けられたらお終いだね。怖かったよぉ。裁判みたいだった」
「ははは、あんたが麗華に怒られるの、久しぶりだよね」
「そうかも。だから気が緩んでたんだね」
「少しはジタバタした?」
「麗華が『ナツが来る前にみんなで話しておかなきゃいけないことがある。なぁ友紀』って言ったのを聞いた時、直ぐに分かった。最初から言い訳しても無理だって分かってた。だから『友紀、ナツのことで言いたいことがあるなら先に言いな』って言われた時、直ぐに謝ったよ」
「でも友紀が謝ってくれて良かった。誰なんだろう?ってみんなを疑うの、いやだったから」
「本当にごめんね」
「もういいよ。謝ってくれたんだから」
「ねぇ菜摘、聞いても良い?」
「ん?なに?」
「菜摘って年上希望だったっけ?」
「そんなことないよ。友紀だって知ってるじゃん、サッカー部の、あんたの彼の友達を追っかけてたの」
「まぁ、それはそうだけど、菜摘はそれほど真剣でもなかったし・・・・つきあいかなって思ってた」
「真剣じゃなかったか・・・・まぁ、それはそうかも。あれじゃ絶対無理だったよね」
「そうだね、どうやら3組の三橋がゲットしたらしいよ」
「そうなんだ」
「やっぱりそれを聞いても全然気にしないね」
「そりゃ・・・・・・そうでしょう?」
「ま、心も身体も満たされてるみたいだしね」
「恋愛ってそう言うものなんじゃないの?」
「そうかも・・・あーあ、私もそうだったはずなんだけどなぁ」
「さっきも言ってたけど、あんたうまくいってないの?」
「うん・・・・なんか・・・・もう、だめっぽいな・・・・」
「相手に好きな人ができたの?」
「そういう感じじゃなくて、飽きられたというか、私に興味が無くなったというか・・・、私のことどうでも良いって思われてるっていうか・・・・そんな感じ」
「サッカーのことで頭がいっぱいなの?」
「そういう感じでもないんだ。どっちかって言うと彼の中で私の部分が小さくなったって感じで、その分他のこと全部が大きくなったって雰囲気かなぁ」
「要するに恋愛自体に興味がないって事か・・」
「そうみたい・・・・・・・」
「草食系だったっけ?」
「そうでもないと思ったんだけどね。でも、この前なんかはベッドでもあれだもん。話した通り・・・最初は違ったんだけどね」
「そうか、なんかあっさりしてたね」
「そうでしょ?菜摘もそう思うでしょ?」
「うん・・・・・・」
「あの、聞いても良い?・・菜摘のオジサマってあっさりしてないの?」
「うん、だいぶ違うみたいだよ」
「だいぶ濃いの?」
「・・・うん・・たぶん・・・・そうね・・・」
「もっと聞いても良いかな?どれくらい居たの?」
「土曜日は1時過ぎに入って8時過ぎに帰ったから・・・・」
「7時間もいたって事?」
「うん・・・・・・・でも、どうしてそんなこと聞きたいの?」
「ごめん、菜摘があんなに夢中になるなんて、よっぽどしっかりと包んでくれる人なんだろうなぁって思ったから」
「包んでくれる・・・・か・・・・。そうかもね、きっと」
「だって菜摘、お父さん居ないでしょ?だからじゃない?」
「うん、そうかも知れない、私もそう思う。でも友紀、もしかして興味あるの?」
「・・・・そうかも・・・・」
「だめよ。渡さないから」
「分かってるって。ここで横取りなんかしないよ。麗華に殺されちゃう」
「まぁ、それはそうかも」
「ねぇ、気になってたんだけど、菜摘のオジサマって、この前駅で傘を返してた、あの人?」
「うん、そうだよ」
「やっぱり。良く覚えてないけど、素敵な感じの人だったよね。一瞬だったけど」
「うん」
「それにね」
友紀はそう言うと、いきなり菜摘の手をグイッと掴んで引き寄せ、
「実際、期待通りにかなりいっぱい優しくしてくれたんでしょ?」
と言った。
「うん・・・・でも、そんな事言われても、こっちは初めてだったんだから分かるわけ無いじゃないの」
「自分ではどう思うの?」
「それは・・・まぁ・・・・そうかも・・・とは思うけど」
「やっぱりね」
「やっぱりってどう言う事よ」
「麗華が『今日のナツの歩き方からすると、かなり激しかったらしいよ』って言ってたから」
「そうなの?歩き方、おかしい?」
「おかしいって言うか、凄く遅いもの、今日は」
菜摘は『しまった』と思った。さすがに痛みは引いてきたが、まだ力がかかったりすると痛みが走るので気を遣って歩いている。歩き方が変にならないように気をつけていたのだが、速度までは気をつけていなかった。実際今でもまだ変な感じがするし、座り方が変だと少し痛みが走る。麗華の目はごまかせないと思った。そんな菜摘の戸惑いには気付かないのか友紀は、
「ねぇ、取らないから、また教えて?菜摘の彼のこと」
と言ってきた。
「まさか・・・・」
「もう結佳には絶対言わないよ。約束する。ちょっと・・・・・寂しいから・・・・暖かい話が聞きたいんだ。だめかな?」
「まぁ・・・それなら良いけど・・・・・大丈夫かなぁ?」
「大丈夫。絶対。だから、ね?邪魔したりしないから」
「う、うん・・・・・」
菜摘は生返事をすると、その場を取り繕った。まぁ、同級生好みの友紀とは好みも違うので心配することなど無いのかも知れないが、晃一に興味を持ったらしいのがなんとなく心配だった。
「いつも朝、駅で待ち合わせるの?」
「ううん、電車の中で会ったりするし、部屋を借りてからはそっちに直接行くから」
「それじゃ、朝会ったりもすることもあるんだ」
「うん、いつ会うかはわかんないけどね。乗る駅は違うから」
「でも、毎日でも会いたいよね」
「うん」
「羨ましいなぁ。ねぇ、今度二人で居る所見たら、挨拶しても良い?」
友紀は微笑ましい雰囲気で言うので、菜摘もついつられて承諾した。
「うん、良いよ、挨拶くらいなら」
「菜摘って、きっとオジサマの腕にぶら下がっているんだろうなぁ」
「そんな事しないよ。朝なら」
「朝なら、か。朝しか会わないの?」
「休み以外は今までほとんどそうだったけど・・・・・。夕方は・・・会ったときもあったなぁ」
菜摘はびしょ濡れ事件のことを思い出してちょっと心が熱くなった。
「これからは夕方も一緒だと良いね」
「うん、でも、パパは忙しいみたいだから・・・・・」
「そうか・・・・パパか・・・・」
「あ、内緒だよ。パパって呼んでるの」
「わかってるって」
そんな話をしながら、二人は駅まで歩いてきた。菜摘の家はここからほんの2駅で駅近くのマンションなのでなんとでもなる。菜摘は駅のホームで菜摘と少し話をしてから別れた。
家に帰ってから菜摘は更に勉強に力が入った。自分でも驚くくらい集中することができ、頭の中にどんどん入っていくのが良く分かった。勉強して頭の中にどんどんいろんな知識が入っていくのも楽しいが、それを晃一に褒めてもらうのはもっと楽しい。今考えると、菜摘がどうなるか分からないと言ったときでさえ、晃一は心を込めて優しく成績が上がったことを褒めてくれた。あれが菜摘の心の中に一つの大きな違いを作ったのだろうと思う。あそこまで自分のことを考えてくれる晃一を心の底から信じてみようと思ったのだと感じる。
翌日、菜摘は朝の電車の中で晃一と一緒になった。今日は珍しく晃一は立っていた。始発から乗っている晃一にしては珍しい。二人は自然に寄り添った。満員電車とは言え、寄り添って晃一の肩に頭を寄せる仕草は他人同士の距離ではない。但し、お互い真正面から寄り添っているわけでは無く、少し角度が開いている。菜摘は晃一の肩に頭を寄せると、思いを込めて言った。
「パパ、お早う」
「お早う」
「なんか・・・・ちょっと不思議・・・・土曜にも会ったぱっかりなのに・・・・嬉しいの」
「菜摘ちゃん、もう痛くない?」
晃一は涼しい顔で聞いてきた。自分としては良い雰囲気で会えたと思っていたのに、いきなり現実に引き戻されて菜摘はがっかりした。
「もう、こんなところで・・・だいじょうぶ。ありがと」
菜摘は晃一の耳元に口を寄せてちょっと怒ったが、顔は笑っている。晃一と一緒に居られるのが嬉しくて仕方ないのだ。
「ちょっと心配してたんだ」
「だから、その話はもう良いでしょ」
「ごめんね」
「パパは今週忙しいの?」
「うん、ちょっとね」
「そうかぁ、それじゃ、土曜日まで無理かぁ」
「あの部屋を使いたければ好きに使って良いんだよ。鍵は持ってるんだし」
「うん、勉強に使おうかなって考えたりもするけど」
「そのために机もそろえたんだから」
「でも、なんかもったいない気がして・・・・・とりあえずパパが一緒の時にする」
「それでも良いけど、いつでも使ってね」
「ありがとう」
「勉強のほうは進んでる?」
「うん、ばっちり。任せといて」
「良かった。ちょっと気にしてたんだ」
「大丈夫。パパをがっかりさせたりしないから。ちゃんとがんばってるよ。あ・・もう着いちゃう。パパ、後でメールするね」
それだけ話をすると、二人は駅で降りて改札に向かった。
すると、改札の近くに友紀が居て、菜摘を見つけると直ぐに寄ってきた。
「菜摘、お早う」
「あ、お早う」
晃一は友紀を見つけると、とりあえず挨拶した。
「菜摘ちゃん、お友達?」
「うん、紹介する。友達の友紀」
「初めまして・・・って本当は2回目だけど、こんにちは」
「2回目?」
「覚えてませんか?前に菜摘が傘を返した時にも居たんだけど」
「あぁ、あの時の・・・・・」
「ふふふ、菜摘しか見てなかったんだ」
友紀の小悪魔的な笑いに晃一は少し戸惑った。その雰囲気を菜摘が引き取る形で、
「それじゃ、友紀、いこ」
そう言って二人は高校の方向に歩いて行った。
その週から菜摘は自分自身でも少し雰囲気が変わったと思った。まず授業でも積極的に発言できるようになった。自分で予習した所を確認し、分からない所をしっかりと聞けるようになったのだ。今まではとにかく当たらないように、とそればかり考えていたのだが、今は授業の中にしっかりと入り込める気がする。だからミニテストが抜き打ちで行われても全然気にしなくなった。
さらに学校生活でも少し変化が起きた。ちょっとした男子との会話でも違和感なく話せるようになったし、自分でも驚いたのだが、男というものに偏見と言うか、壁のようなものが無くなったからか、気軽に話しかけられるようになっていた。だから、学校生活そのものが菜摘にとっては新鮮で楽しいものになった。
『早くパパに会いたいな』菜摘の気持ちは常に晃一へと飛んでいた。裸になって抱かれている時の安心感と充実感は日に何度も思い出した。『肌のぬくもりって言うのかな?あれって最高』菜摘は晃一の手が身体を優しく撫で回す感覚を思い出しては晃一へと思いをはせた。ベッドで晃一に優しく抱かれている時間を思い出すと、直ぐにでも晃一のところに飛んでいきたくなる。
実はその次の日曜日にも外部模試があるのだが、菜摘の高校は進学校なので2年生になるとだいたい2週間毎の日曜日がそれに当たる。つまり日曜日を一緒に過ごせるのは最大で2週間に一回だが、家のことや行事があるので実際にはもっと少ない。だから菜摘はどうしても今週の土曜日に晃一の部屋に行きたかった。
最初、メールで晃一に聞いた時、晃一は勉強に響くことを心配して我慢した方が良いのではと返事をしてきた。しかし、菜摘は絶対に勉強をがんばるから、と言って晃一を説き伏せた。そして晃一は菜摘にプランの作成を任せた。菜摘は毎日2時まで勉強して、それからネットでプランの下調べをした。だから朝は当然眠かったが、授業もがんばったし授業中のミニテストの成績も良かった。だから母親に土曜日の夜は少し遅くなると言った時も、最近の変化に驚きながらも成績が上がっていることを主張すると許してくれた。
そして晃一に菜摘のプランが届いた。それは菜摘の思いがぎゅっと詰まったプランだった。
『葛西の臨海水族館に行きたいな。ずっと行ってみたかったの。大水槽でたくさんのお魚が泳いでいるのを一緒に見たいな。ちょっとゆっくり見たいからその後は特に決めてないけど、時間があればスカイツリーに行っても良いな。後はパパにお任せだよ』これは菜摘が考えに考え抜いた結果だった。今まで甘えられなかった分だけ甘えてみたいという気持ちが水族館という場所を選んだ。友達同士で行っても家族連ればかりだと気持ちが落ち込んでしまう場所、それが水族館だった。菜摘にとってはディズニーよりも家族でなければ楽しめない場所なのだ。
すると晃一から直ぐにメールが来た。
『分かったよ。それじゃ、マンションの駅前で1時に待ち合わせだね。車を用意しておくよ。お昼はどうするの?』
『あのね、一緒ならマックでも何でも良いよ』
『分かった。途中で寄ってもいいけど、車の中でも良ければ買っておくよ。それじゃ、1時にね』
『パパこそ、お仕事で遅くならないでね』
『それまで勉強、がんばるんだぞ』
そのメールは、菜摘が週末を楽しみに勉強をがんばっている間、少なくとも10回は繰り返して読むことになった。
そして待ちに待った土曜日、菜摘が授業を終わって帰ろうとすると、麗華とばったり会った。
「お、これからご出勤?」
「やめてよ、そんな言い方」
「ははは、ナツ、足が床に着いてないよ。いよいよお楽しみだね。部屋に行くの?お勉強かな?最も何の勉強かは分からないけど」
「ううん、水族館に連れて行ってもらうんだ」
「水族館?そうか、ナツにとっては特別な場所だもんね、楽しんできな」
「うん、ありがと」
「それと、友紀と仲直りしたらしいね」
「うん、なんか友紀、今はうまくいってないから暖かい話が聞きたいって言って」
「ナツは人を疑わないから・・・、取られても知らないぞ」
「だいじょうぶ、友紀はそんなことしないって」
「まぁ、私も大丈夫だとは思うけどね。それじゃ、がんばってきな」
そう言って麗華は部室の方へと歩いて行った。彼女は新聞部の部長で広範なネットワークを持ち、校内の情報をすべて握っている。
麗華を見送って気持ちを晃一に切り替えた菜摘は心を弾ませて下校した。しかし、玄関から外に出ると、友達と話をしていた友紀が声をかけてきた。
「菜摘、そこまで帰ろ」
「うん」
「これから行くの?」
「・・・・・・うん・・・・」
さすがにここで友紀に見つかりたくはなかった。もう自分は完全に恋人モードに入っているので、友達とは言えプライベートに入ってきて欲しくはない。
「それじゃ、途中まで一緒にいこ」
そう言われては断るわけには行かない。仕方なく菜摘は友紀と歩き始めた。
「菜摘はこの前の進路調査、国立にしたの?」
友紀は菜摘の予想に反して晃一以外の話題を出してきた。それなら話しやすい。
「うん、一応ね。まだ国立圏外だけどね」
「またぁ、菜摘なんて結構頭良いんじゃないの?」
「まさか?友紀は?」
「私は全然だめ。私立一本だよ。私立文系。元々志望も低いから問題ないけど、圏外なのに国立なんて志望したら後で大変だよ」
「まぁ、それはそうだけど、でも元々うちは国立いって奨学金もらう以外にあり得ないから」
「ふうん、そうなんだ・・・・・・。なんかそう言われると、簡単に私立に決めてぼうっとしてる私って、なんなんだろうって思っちゃうよ」
「家にお金があるんなら良いじゃない。羨ましいよぉ」
「そんな事言われても・・・・・・で、菜摘はこれから成績上げるつもりあるの?」
「えへへへへぇ、それが、一応あるんだな、これが」
「そうなんだ。凄いじゃん」
「全部パパのおかげだけどね」
「勉強も教えてもらってるの?」
「そんなこと無いけど、教えてって頼めば教えてくれるよ。きっと」
「良いなぁ・・・・・、高校の勉強教えてくれる大人なんてまず居ないよ」
「そうらしいね・・・・うちはもともと母親だけだから。もちろん絶対無理だし」
「勉強からあっちまで全部纏めて面倒見てもらってるんだ」
「ちょっとぉ、そんなふうに言わないでよ」
「メンゴメンゴ。でも、相談もできるんでしょ?最高じゃないの」
「うん、確かに」
いつの間にか話が晃一になってしまったので、菜摘は話を進路選択に戻した。