第70部

 

 やがて晃一は、
「リビングに行く?帰りの支度をしなきゃね」
と言って友紀を抱き上げてリビングに向かった。友紀は正直、『帰りたくないなぁ』と思った。
リビングのソファベッドの上には友紀の下着が散乱している。晃一はもう一度ここで友紀を抱けるかと思ったが、友紀は何も言わずに下着を身に付け始めた。
「帰るの?」
「そう、帰らなきゃ」
下着を身に付けた友紀は制服を着始めた。仕方なく晃一もガウンを纏う。
「ね、来週は神戸につれってくれるんでしょ?」
友紀は服を整えながら『なんか、ドラマの会話みたい。なんか、大人の会話って感じ』と思った。
「そうだけど、明日は?」
「ごめんなさい。明日はだめなの。でも今日は楽しかった」
手早く制服を着た友紀は、あっと言う間にこの部屋に着た時のままの姿になった。さっきまで全裸で仰け反って乳房を揉まれながら秘部を晃一に擦り付けて声を上げていたとは思えない、あどけない高校生のままだ。身支度を調え終わった友紀は何気なく携帯をチェックしたが、ちょっと驚いたように、
「あれ?菜摘からだ」
と言うと時間を確認した。ほんの1時間ほど前だ。ベッドルームにいたので気がつかなかったらしい。『どうして菜摘が?高木と一緒だったはずなのに・・・・・』と思い、
「おじさまには来てる?」
と聞いた。
「え?俺に?ちょっと待って・・・・あ、菜摘ちゃんからだ。どうしたんだろう?」
晃一は不思議がった。離れていったのは菜摘の方なのに、それに今日は自分から新しい彼の所に行くと宣言していたのだ。用事があるはずが無い。この部屋に何か忘れ物でもしたのだろうか?しかし、今は目の前の友紀に意識を取られていてそれ以上は考えなかった。その友紀はとにかく帰ることにしたらしく、荷物をまとめると晃一に言った。
「おじさま、ありがとう。嬉しかった。帰るね」
「うん、楽しかったよ。友紀ちゃん、本当にありがとう。おかげで元気になった」
晃一は友紀を抱き寄せ、もう一度キスをした。
友紀を玄関まで送っていくと、
「それじゃ、また連絡するね」
と言って友紀が出ようとする。
「あ、鍵を開けないとね」
そう言って晃一はドアのボタンを押すと、ピッと電子音がしてロックが外れた。
「ばいばい」
そう言って手を振ると友紀は出て行った。
友紀の居なくなった部屋に戻った晃一は、『友紀ちゃんは春風みたいに気持ちのいい子だな』と思った。菜摘から電話があったことを思い出したが、今はとにかく友紀で心が満たされているので大して気にならなかった。
一方友紀は帰り道を歩きながら、菜摘からの電話の意味を考えていた。晃一にも連絡してきたことを考えると、やはり晃一と一緒に居るかどうかを確認したと考えるしか無い。ただ、時間から考えると彼の家からの帰りとしか思えず、本当なら今の自分のように幸せな余韻に包まれているはずなのに、どうしてだろうと思った。
その夜、部屋に戻った晃一に友紀から長いメールが届いた。
『おじさま、今日はおじさまの部屋を見せてもらって帰るつもりでした。でも、あんなことがあって自分でもびっくり。でも、本当は心のどこかでこうなればいいなって思ってました。だから後悔してません。ううん、とっても嬉しくて・・・。家に戻ってから駅まで行く間、ドキドキしていたのが嘘みたい。これからは毎日考える人ができました。しつこくしないから一緒に居て下さいね。神戸の旅行、楽しみにしています』
晃一はそれを読んで一安心した。急な出会いだっただけに、後で後悔したとメールが来たらどうしようと思っていたのだ。取り敢えず友紀は晃一と一緒に居ることを選んだらしい。そこでふと、友紀は制服だったことを思い出した。最初はたぶん、晃一が見つけやすいようにしてくれたのだろうと思った。しかし考えてみると、友紀は全く汗臭くなかった。たぶん、晃一自身の方が汗臭かったはずだ。そして、たぶん友紀は、一度家に帰ってシャワーを浴びてから駅に来たのだと気がついた。すると、やはり抱かれるかも知れないと思っていたのかも知れない。まぁ、単なる身だしなみなのかも知れないが。友紀と違って、その夜の晃一は菜摘のメールのことは思い返したりはしなかった。
翌週、学校が始まると友紀の所に珍しく麗華がやってきた。
「おや、珍しい」
友紀はやはり来たかと思って身構えた。
「何言ってんの、あんた、ナツのこと、知ってるの?」
「うん、高木のとこに行ったでしょ?」
「知ってるんだ。それで、どうよ」
「何が?」
「あんた、ナツのおじさまと一緒に居たでしょ」
「え?・・・・・それ・・・」
友紀は驚いた。それは誰にも見られていないと思っていたのだ。麗華の情報力は本当に凄い。
「ミーティング開く?それとも今私に言う?」
「分かった。ちょっとこっち来て」
そう言うと友紀は麗華を階段の下の倉庫に連れて行った。
「さぁ、話してもらおうか」
麗華に目を付けられては仕方が無い。
「言うから、どうして知ってるかだけ教えて」
「あのね、金曜日に二人で歩いてるとこ、見たやつが居るんだよ」
失敗したと思った。駅の向こうのレストランに行く時に見られたのだ。
「念のため確認するけど、どこで?」
「隣の駅の向こう側」
「はい、参りました」
「じゃ、ゲロってもらおうか。事と次第に寄っちゃ、大変なことになるよ」
「何にも問題無いよ。実は・・・・」
友紀は菜摘が告られたところから順番に話した。それを聴いていた麗華は大人しく聞いていた。どうやら納得はしているらしい。そして金曜日の食事まですっかり聞くと、
「おかしいと思ってたんだ。最初は、あんたがまずおじさまを寝取ったのかと思ったんだけど、どうもしっくり来なくてね」
「私がそんなにガツガツしてるように見える?何度も菜摘に言ったんだよ、どうしてって。それなら問題無いでしょ?もともと菜摘と一緒に最初に会ったのは私なんだから。だって気になるじゃないの。それで、向こうから相談に乗ってくれって言われて、まぁ、ああなっちゃったけど・・・」
友紀は自分から相談に乗ったことだけは言えなかった。
「まぁ、そういうことなら・・・・いいか・・・。ありがちだしね」
「そう言うこと。私、悪いことなんてしてないもん」
「それで、あんたどうするの?これから」
「あのね・・・・内緒よ。いい?」
「もちろん」
「今度の土日で神戸に連れてってもらうことになったんだ」
「いきなりお泊まり?ははぁん、あんた、まだ私に言ってないことがあるね。週末、どうしてた?」
「まぁ、そういうこと。いいでしょ?」
「素早いね。まぁ、あんたは気に入ってたみたいだからわかるけど・・・・だけどね・・・」
「だけど、なによ」
「どうしてそんなにおじさまがいいのかねぇ。アタシには分からんわ」
「年下の彼しか持ったことの無い麗華には分からないかもね。菜摘には私から言うからね」
「そうしな。任せる」
そういうと麗華は去って行った。友紀は髪をなびかせて去って行く麗華を見ながら、『あれだけしっかりしてればおじさまなんて興味ないわよね』と思っていた。
友紀は菜摘に早く言いたかったのだが、月曜日には菜摘を見つけられず、火曜日の昼になってやっと話をすることができた。昼休みに美術室に菜摘を誘った。
「なに?」
「ねぇ、高木とは上手くいってるの?」
「もちろん」
「土曜日、家に行ったんでしょ?」
「・・・・行ったよ」
「何かあったの?電話してきたでしょ?」
「まぁ・・・ね・・・・・。でも、友紀こそ何してたのよ」
「私、おじさまの所にいた」
「やっぱり・・・・。そういうことか・・・・・」
「いいでしょ?友紀がおじさまを振った後なんだから」
「振ったわけじゃ無いよ」
「それじゃ、二股って事?」
「それは・・・・」
菜摘は言われるまで自分では意識していなかったが、確かにそう言われればそうかも知れないと思った。しかし、まさかそうだと言えるはずも無かった。
「まさかね、おじさまにそんなこと言えないわよね」
「わかったわよ。そういうことにしとく」
「それなら問題無いでしょ。それで、どうして電話してきたの?私とおじさまが一緒に居るかどうか確かめたかったんでしょ?」
二人に次々と電話したことがばれてるようなので、菜摘は言葉に詰まった。
「うん・・・・なんとなく・・・・・」
「何となく、なの?ねぇ、もう一度聞くけど高木と上手くいってないの?」
「だから、そういうわけじゃ無くて・・・・・」
「なんかはっきりしないなぁ、どうしてなのよ」
「ごめん、なるべく電話しないから。二人の邪魔をしなければ良いでしょ?」
「その言い方、気になるなぁ。まぁ、あんたが振った相手なんだから邪魔をしないのは当然だけどね」
「・・・・ねぇ、聞いても良い?」
「言いたいことは分かってるわ。その通りよ」
友紀の答えで菜摘は友紀と晃一がどうなったのかを知った。
「そうか・・・・・そうなっちゃうよね・・・」
「あのね、教えてあげるけど、菜摘に突然振られて、おじさまものすごく落ち込んだんだよ。最初、目の前に私が座ってても考えてるのは菜摘のことだけだったんだから」
「そう・・・よね・・・・・」
「ねぇ、どうしてなの?どうして高木なんかと。やっぱり同級生が良かったの?」
「そういうわけじゃ無くて・・・・・」
菜摘は少し考え込んだ。何と言えばいいのか分からない。
「おじさまには言わない。ただ、私の中で気持ちに整理を付けたいだけ。菜摘を責めようとも思わない。だから教えて。これは友達として、だよ」
その言い方から、菜摘は友紀がしっかり晃一の心に寄り添っていることを直感した。
「そうよね・・・あのね・・・・怖くなったの・・・・それだけ・・・・」
「怖くなった?よく分かんないなぁ」
「わからない?そうなの?」
友紀は『もしかして・・・』と思った。晃一に愛されて次々に絶頂を極めさせられた時、友紀もこの先自分がどうなってしまうのか、少し怖くなったからだ。しかし、菜摘には言わなかった。
だから菜摘は友紀の言葉がまだそれほど深い関係になっていないのかも知れないと思った。
「でも、怖くなったって事は、菜摘の心の問題よね。それなら私がおじさまと付き合っても問題無いわよね?」
「・・・・う・・ん・・・私が言える立場じゃ無いし・・・」
「堂々と高木とあれだけくっついていたんだもん。今は上手くいってるみたいだし、でしょ?」
「そう、そう・・・・見えるわよね・・・・・。だから友紀には、本当はパパと一緒にいてくれてありがとう、って言わなきゃいけないんだろうな・・・」
「私が好きになっただけの話だから、お礼を言われることは無いと思うけど・・・」
「そうよね・・・・・わかった」
そう言うと菜摘は部屋を出て行った。
『どういうことなんだろう?』友紀は考え込んだ。『おじさまのことだから、きっと菜摘だっていかされたはず。一途な菜摘のことだから、初体験でいきなりいかされて怖くなったのかな?それとも好きになりすぎて怖くなったのかな?』とは思ったが、なんかよく分からない。それでも考えていても仕方ない。ただ、菜摘はまだ晃一に未練があることだけははっきりした。そして、未練があっても何もできないことも。『それならいいか』と友紀は気持ちを切り替えた。
水曜日に再び麗華が現れた。
「ちょっと、どうしてもわかんないんだけどさ・・・・・」
「なによ、全部話したわよ」
「分かってるって。それでもわかんないから聞きに来たんだ」
「なにが?」
「なんか、高木の方は舞い上がってるのにナツは冷静なんだよな」
「そうなの?」
「そう、まぁ、いいことあったみたいだから、高木が舞い上がってるのは分かんないでも無いけど、なんかナツがね・・・」
「どういう話になってるの?」
「私の所に入ってきた話を合わせるとだね・・・・・・」
麗華は話し始めた。
「土曜日の午後、二人で帰りにパスタレストランに寄ってから高木の部屋に行ったらしいんだ。それで、いいことしたらしい」
「ふんふん、なんの不思議も無いじゃ無いの」
「そうなんだけど、どうやら最初は夕方まで楽しむつもりで買い出しまでしたのに、ナツが先に帰ったらしいんだな、これが」
「え?菜摘が先に帰った?あの一途な菜摘が?」
「おかしいだろ?」
「絶対変。ちょっと菜摘のキャラじゃ無いよ」
「そこからもっと変なのが、喧嘩したわけでもなさそうで、高木はそれからも舞い上がって何度もナツを誘ってるのに、ナツはそれほどでも無くて少し距離を置こうとしてるみたいなんだ」
「ふぅん、もしかして、高木のやつが最中に変なことでもしようとしたとか・・・・」
「そうか、そういう手があったか・・・・、高木が変態だったってことか・・・」
「まぁ、そんな風にも見えないけど・・・・子供っぽいし・・・」
「そうよねぇ・・・・・・ま、考えてみるわ」
そう言って去って行く麗華の後ろ姿を見ながら、『どうやったら土曜の午後にどこでなにを食べたかなんて分かるのよ・・・・、まったくぅ、私がおじさまと食事したのも掴んでるし、街中に子分でも居るみたいじゃないの』と思った。ただ、心配しているらしいのはリーダーなんだなと思った。
そこでその日の夕方、友紀は菜摘と帰ることにした。なんか、変な三角関係みたいで話しづらい気もしたが、それでも友達同士なのだから、こそこそしたくなかった。すると、なぜか菜摘も嫌がらなかった。
「いいの?高木と一緒に帰らなくても」
「うん、いいんだ。どうせ後で話するし」
「先週は二人はいつもぴったりだったから、ちょっと声をかけずらかったんだけど」
「最初ってそう言うもんじゃないの?でも、いつまでもずっと一緒ってわけにもいかないでしょ?」
「そうよね」
「友紀の方こそ、パパとどうなの?」
友紀は菜摘のその呼び方に、自分の方から振っておいて未だにパパと呼ぶのもどうかと思ったが、呼び慣れているから仕方ないのだろうと無理矢理納得した。
「うん、順調だよ」
「また週末に会うの?」
「土曜日にね」
「そう」
「でも、あの部屋じゃ無いんだ。ちょっと出かけるの」
菜摘はその言葉にピンと来た。
「えっ・・・・もしかして・・・・・神戸?」
今度は友紀が驚いた。菜摘が絶対知っているはずが無いのだ。