第72部

 

 「もう少し何か買おうか?それだけじゃ足りないでしょ?」
「ううん、大丈夫。その分夕食でいっぱい食べるから」
「ははは、分かったよ。でも、お腹空いたら直ぐに言ってね」
「うん」
友紀は楽しくて仕方ないらしく、大人しくはしているが晃一に寄りかかってきたり窓の外を眺めたりで全然じっとしていない。晃一は新神戸までの時間に少し眠れるかと思ったが、とてもそういう雰囲気では無かった。
「ねぇ、おじさま、どうして神戸にしたの?」
案の定、友紀は楽しそうに話しかけてきた。実は菜摘に聞いた話を確認したかったのだ。
「神戸は出張で何回か来てるけど、出張で来てると時間に余裕が無いから観光することなんて無いだろう?だから、一回観光で来てみたかったんだ。だから今回はとっても楽しみだよ。一人で来たって楽しくないからね」
「そうよね、一人じゃ楽しくないものね」
「それに最近は忙しくてストレスを発散したかったし。だから今回はちょっと神戸を楽しめるように豪華にしようと思ってね」
「うわ、楽しみ」
「思い切り楽しもうね」
「うん。神戸のどこに行きたいの?」
「特には無いよ。異人館通りとか、ポートタワーとか、ありふれた所さ」
「でも楽しそうよ」
「友紀ちゃんは神戸について何か予習してきた?」
「うん、ネットで一通りは見てきた」
「それじゃ、友紀ちゃんの行きたいところは?」
「まだ内緒」
車内販売が回ってきた時、友紀は晃一に聞いた。
「おじさま、のどが渇いたでしょ?何か飲む?」
と言いながら、自分にはオレンジジュースを頼んだ。
「それじゃ、お茶でも飲むかな?」
と言うと、
「十六茶で良い?」
と言って自分の財布からお金を払ってくれた。
「ごめんね、奢ってもらっちゃって」
「ううん、私、お金無いけど何かしたかったの」
と言って友紀はにっこりと笑った。
「友紀ちゃんの気持ちが嬉しいよ。大切に美味しくいただくね」
「うん、へへ」
それから二人はお互いのことをいろいろと話し合った。晃一は友紀が見た目以上にしっかりとしており、ちゃんと勉強もしているし、友達付き合いにも気を遣っており、お金もしっかりとしていることを知った。ただ、お互いに菜摘のことは話さなかった。それは今は一緒に居る人のことだけを考えたいという気持ちの表れと言えた。
新神戸に着いてタクシーでホテルに着いた時、友紀はニコニコ顔で喜んだ。
「うわぁ、港が直ぐ近く。素敵なホテルね」
「良かった。気に入ってもらえるかな?」
「うん、絶対」
「ちょっと待っててね。チェックインしてくるから」
そう言って晃一はチェックインし、ボーイが荷物を持って案内しようとするのを断ると友紀を連れて部屋に入った。
「凄ーい、こんな部屋、見たこと無い」
友紀は素敵な部屋に声を上げた。最初に目に飛び込んできたのはダブルベッドだったが、それは今は気にしないことにした。ゆったりとした部屋にテラスもジャクジーも付いているし、なにより広い。二人で使うには広すぎるといっても良いくらいだ。応接セットも立派なものが付いているが、そのほかにダイニングテーブルも付いている。
「こんな部屋、映画でしか見たこと無い。どうしてこんなに広い部屋にしたの?」
友紀は目を丸くして驚いている。
「せっかくだからスィートにしようと思ったんだけど、実はテラスでたばこが吸いたかったし、ジャクジーとかも付いてたからね。それに、この部屋しか空いてなかったって言うのもあるんだ。ネットで予約した時に割引になってたしね」
「そうなんだ。すごーい。びっくり」
「それじゃ、テラスで一服してるね」
そう言うと晃一はテラス席に出てテーブル席に座り、たばこに火を付けた。港の横だし9階なので確かに素晴らしい景色だ。景色を見ながら、これからどうしようかと考えていると、テラスに友紀が来た。
「ねぇ、ジャグジーがあるの。ポートタワーが見えるのよ」
「うん、そうだよね。あそこに見えるやつだね」
「ジャクジーにおっきな窓があってとっても綺麗に外が見えるの」
「うん、後で一緒に入ろうか?」
「えっ、なんで・・・・・・・」
「ごめんごめん、冗談だよ」
「うん・・・・・・・ごめんなさい・・・・」
友紀はそう言ったが、それほど嫌がっている雰囲気でも無かった。
「ここからの景色も綺麗」
「そうだね、きっと夜景も綺麗だと思うんだ」
「うわ、それも楽しみ。海が直ぐそこなのね。港の景色なんて・・・・風が気持ちいい」
そう言いながら友紀は晃一の隣に立った。たばこの火を消して友紀を軽く引き寄せる。
「これからどうしようか?」
友紀が更に軽く引き寄せると晃一の膝にちょこんと座ってきた。
「おじさまはどうしたいの?」
友紀は自然に晃一に身体を預けてくる。軽くキスをすると少しずつ友紀は反応し、やがて舌を差し込んでいくと恥ずかしそうに少しずつ舌を絡めてきた。そのまま晃一は唇と舌で首筋を愛しながら友紀の胸を優しく撫で始める。
「はぁぁぁ、ああぁ、ここはだめぇ、意地悪しないで、止まらなくなっちゃう・・・・・」
友紀は抵抗しなかったが首をくねらせてくすぐったそうに少し嫌がった。
「それじゃ、ほら、あのポートタワーに上がってみる?そろそろ夕方だからきっと綺麗だよ」
晃一は友紀の首筋に唇を這わせながら囁いた。友紀はくすぐったがりながら軽く喘ぎ始めた。
「ああん、見えないぃ、どこ?・・・あれ?うわ、直ぐそこ」
「あそこに行ってみようか?上がってみたいかなって思ったから」
そう言いながら晃一は細い友紀の首にもう一度舌を這わせ、胸の膨らみを優しく撫で回す。
「はうぅぅん、いやぁん、ちょっと、ちょっとまってぇ、話がぁ」
友紀はそう言って首を回して何とか晃一の唇から逃れると、
「おじさまはそうしたいの?あん、ああぁぁ」
と良いながらも晃一の唇を項に受けながら、軽く喘いでいる。
「そうだね、このまま友紀ちゃんを抱き上げてベッドに行きたい気もするけど、それじゃ神戸に来た意味ないし、友紀ちゃんはいろんな所に行ってみたいだろ?」
「あああ、それはそうだけど、あうぅん、こんなに上手にされたらぁ、はうぅぅ、感じちゃって・・・・」
どうやら決断の時だ。晃一は制服の上から友紀の身体のラインを確認しながら、このまま抱いても友紀は嫌がらないとは思ったが、高校生の女の子にしてみれば、神戸に来たのだから記念の写真くらい撮りたいはずだと思い、気力で手を離した。
「それじゃ、ポートタワーに上がってみようか」
突然愛撫を中止された友紀はちょっとぽかんとしていたが、
「いいの?それで」
とまっすぐ晃一の目を見て聞いてきた。少しぽうっとしている。友紀だって同じ気持ちなのだ。
「うん、友紀ちゃんはきっと行きたいはずだと思ってね」
「明日でも良いのよ」
その言葉には友紀もその気になってきているという気持ちが表れていた。
「明日は異人館とかにも行きたいだろ?」
「そうか・・・・ごめんなさい。行っても良い?」
「うん、でも、その前にもう少しだけ」
そう言うと晃一は友紀のスカートの中に手を入れた。
「あんっ、ちょっと、それはだめ、あ、待って、だめ」
そう言ったが、足の力は抜いており、晃一の手を素直に受け入れた。晃一はスカートの奥のパンツに包まれた膨らみを優しく愛撫する。
「ああぁぁっ、それっ、はぁぁぁ、だめだってぇ、はうぅぅぅん、いくんでしょ?待ってぇ」
友紀は晃一の手が的確に感じるポイントをそっと愛撫してくることに戸惑った。しかし、晃一もここで始める気は無かったと見え、友紀が晃一の手を押しのけると素直にスカートから手を抜いた。友紀は晃一が我慢していることはよく分かったと見え、スカートに手を入れたことを責めなかった。そして、
「ごめんなさい。夜まで待って・・・・・。出かけましょう?いい?」
と言った。
「ううん、良いんだ。その代わり、お願いなんだけど、シャワーを浴びてから行ってもいい?ちょっと汗かいたみたいで・・・どうせあそこに行くだけならそんなに汗かかないし」
「うん、そうする。ちょっと待っててね」
そう言うと友紀は名残惜しそうに立ち上がり、荷物を取りに行った。
「それじゃ、先に俺が浴びちゃうね」
そういうと晃一はまず先にシャワーを浴びた。午前中、少し会社で仕事をしたからか思ったよりも汗をかいていた。シャワーがとても気持ちいい。
晃一がシャワーから出ると、直ぐに友紀が代わりに入っていった。
「直ぐに出るから待ってて」
と言った割には出てくるまで20分以上かかった。友紀がシャワーを浴びている間に、晃一はスキンの箱をベッドサイドに置き、更に中から何枚か取り出すとソファやバルコニーの安楽椅子など、あちこちに置いておいた。目立たないように枕の下や座面と背もたれの間に置いておく。こうすればいつでも直ぐに取り出せるからだ。
やがて、友紀がシャワーから上がってくると、同じ制服を着ている。
「あれ?また制服?」
「うん、明日着替えようと思って。汗臭い?」
「どうかな?」
晃一は友紀の側に来てそっとキスをして項に顔を近づけた。良い臭いがする。
「全然臭いなんてしないよ」
「よかった」
すっきりとした湯上がりの友紀の姿に思わず抱きしめたくなった晃一だが、晃一が項にキスをしようとするとすっと離れて、
「行きましょ?」
と笑った。晃一は友紀の上手なあしらい方が気に入った。
友紀と一緒にホテルのロビーを出ると、一気に熱気が二人を包む。
「うわ、まだ結構暑っ」
友紀はせっかくシャワーを浴びたのに、また汗をかくのでは無いかと心配した。
「大丈夫。直ぐそこだから、建物の中に入ればまた涼しくなるよ」
晃一はそう言ったが、目の前に見えるポートタワーにはなかなか到着しないような気がした。
それでも実際に歩いたのは10分ちょっとくらいだろうか、ポートタワーの展望台入り口にたどり着いた。
「あー涼しい。気持ち良い。やっぱりまだ暑いわね」
「うん、海沿いだけど、瀬戸内海だから気温は高いね」
晃一はそう言って展望台行きの切符を2枚買った。土曜日の夕方だったが、2階に上がるとエレベーターにそれほど人は並んでいない。程なくエレベーターで展望台の4階に上がった。
「うわぁ、すっごーい」
友紀は素晴らしい景色に声を上げた。やはり港の景色は人を引きつける魅力がある。二人は展望台をゆっくりと一周しながら景色を楽しむことにした。友紀は早速携帯で写真を撮り始めている。
「ねぇ、もしかして、あれが私たちのホテル?」
「そうだよ、ここから見ると近いのにね」
「うん、ねぇ、あれは何?」
「あの突堤の先にあるやつ?あれもホテルだよ」
「きっと高いのね」
「値段のこと?うん高いもそうだけど、部屋がずっと小さいんだ。半分くらいかな。それにジャグジーもないしテラスも小さいし。景色はもしかしたらあっちのホテルの方が少し良いかもしれないけど、居心地が良いかなって思ってあのホテルにしたんだ」
「そうなんだ。景色を見てるのなんてほんの少しだもんね。部屋が素敵な方が絶対に良い」
そう言うと友紀は嬉しそうに晃一の腕を掴んで肩に頭を載せてきた。晃一は自然に菜摘の腰に手を回して僅かに引き寄せると、素直に身体を寄せてきた。
「やっぱり東京とは違うのね、神戸って。思い切って来てみて良かった」
友紀はぽつりとそう言うと、掴んでいる晃一の腕を抱きしめた。先週の友紀の様子では簡単に神戸行きに同意したので、『思い切って』という言葉が意外だった晃一は、友紀は苦労を外に出さないタイプなんだろうな、と思った。
「ねぇ、あっちにも行ってみましょ?」
そう言うと友紀は山側の方に晃一を連れて行った。
「あのね、神戸のポートタワーは海の景色も良いけど、山の景色を見られるタワーなんだ。他にはこんなに山に近いタワーなんて無いんだよ」
「ねぇ、明日行く異人館てどこ?」
「見えるかな?あそこのちょうど山に向かって家が高く並び始めている辺りなんだけど・・・。少し変わった形の洋館なんだけど、樹に隠れてるからわかりにくいかな?」
「うーん、よくわかんない・・・・・」
「ま、明日の楽しみだね」
「そうね、遠くから見ても楽しめないものね。でも神戸って、とっても狭いんだ」
「そう、だから山の上の方まで家が並んでいるだろ?東京の高層ビルからの景色に慣れてる人には意外だろうね」
「うん、あんなところの家の人なんて、どうやって街に通うんだろう?自動車かな?」
「自動車だって、あれだけの斜面を上がったり下がったりって大変だと思うよ。たぶん、何か上手に解決してあるんだろうけど、ここから見ただけじゃ分からないね。でも狭いって大変だよね」
「でも綺麗ね。きっと山の方の家なら景色も良いと思うし」
「そうか、それはそうだよね」
「なんか、ビルがあって高速道路が走ってて、山が近くて、未来都市みたい」
「ん?未来都市?どこ?」
「うん、小さい時に描いたの。未来の街。それに雰囲気が似てたの」
「そうか、確かに全部がコンパクトにまとまってる大都市だものね」
「ねぇ、私たちが乗ってきた新幹線の駅は?」
「それは・・・あそこ、あれが新神戸の駅だよ」
「うーん、あれかな?新幹線は見えないね」
「前後をトンネルに挟まれてるからね・・・・」
ふと気がつくと、さっきまでたくさん人が居たのに、いつの間にか二人の近くは誰も居なくなっていた。友紀はそれに気がつくと、晃一の首に手を回して目をつぶってきた。晃一は少しかがむようにして友紀にキスをした。
「どうしたの?甘えたくなった?」
「部屋に戻りたいの・・・良い?」
友紀はそれだけ少し俯いたまま言った。その時の気持ちは晃一とベッドに入りたいと言うよりは、二人きりの空間に入りたいという感じだった。
「うん、そうだね。でも、お土産とか買わなくて良いの?」
「ここでは買わない」
二人はそのまま展望台を回って下の階からエレベーターに乗り、ホテルへと戻っていった。帰り道、友紀はあまり口を開かなかったが、晃一の腕をしっかりと掴んで歩いていた。
部屋に入ると二人は自然に抱き合い、お互いの唇を何度も確認するように舌を絡め合った。
「まだ食事には少し時間があるよ」
晃一はそう言うと、友紀をソファに誘った。晃一の部屋のソファのようにフラットになるわけでは無いが、幅だけはかなりある大きいソファだ。晃一は友紀を膝の上に横向きに座らせると、キスをしながら優しく胸を愛撫し始めた。
「だめよ、おじさま。こんなことしてたら止まらなくなっちゃう・・・・」
「止めたいの?」
「・・・ううん・・・・」
「それなら良いじゃ無い」
「でも・・・まだこんなに明るくて・・・・・」
確かにこのホテルの部屋は窓が広くて開放感がある。
「大丈夫。直ぐに暗くなるし、それに、この部屋にも慣れるよ」
「ああん、早く暗くなってぇ・・・」
そう言いながらも友紀は晃一の手が優しく胸を触ってくるのに夢中になり始めていた。
「それともベッドに行きたい?」
「だめ、ベッドに行ったら、絶対食事にだって行きたくなくなる」
友紀は胸を撫でられて敏感になってきた感覚に戸惑いながら喘いだ。身体が少しずつ熱くなってくる。
「それじゃ、あんまり夢中にならないようにしなきゃね」