第92部

 

「え?何を?」
「友紀の周りのこと。何となくなんだけど、何か臭うんだよなぁ」
「だから何が」
「ううん、素敵なことがあるかも知れないよ」
「何のことよ。おじさまに何かしてもらえるかもってこと?」
「ううん、そんなことじゃ無いの。気にしないで」
「何か気持ち悪いなぁ、言えば?」
「ごめん、忘れて」
「もう、すっきりしないなぁ」
「本当にごめん。でも、友紀も同じに感じたってことが分かって良かった。行こ?」
菜摘はそう言うと、怪訝な顔の友紀を引きずるようにして店を出た。友紀は訳が分からなかったが、今は明日晃一に会うことだけを考えることにした。
菜摘は友紀と別れてから、明日、どうしようか考えていた。このままでは友紀に嫌われてしまいそうなのだが、それでも正直に言えば晃一の側に居たいという気持ちが強い。菜摘は迷いながら友紀と別れた。
その夜、菜摘は自分が中途半端でふらふらしているような、不安な気持ちでベッドに入った。明日は友紀が晃一に抱かれる。それは分かっては居てもどうすることもできない。先週はまだ彼が板野で、だめとは思っていても何とかしようと思っていたし、自分の気持ちをもう一度彼に向けようと努力もしていたので、友紀が晃一と神戸に出かけると知ってもさほど動揺することは無かった。しかし、結局別れ話をしてしまった以上、もう選択するものなど無い。
夜になって菜摘は明日、あのマンションに友紀が入って行き、晃一に服を脱がされると思うとどうしようも無い思いにさいなまれた。嫉妬というのとは少し違う。羨ましいと言った方が当たっていると思う。自分は晃一に甘えることなどできないのに、友紀は好きなだけ甘えられる。友紀はあの全身を貫くような快感や気怠く甘い愛撫を好きなだけ受けられるし晃一に髪を撫でられながら頬を晃一の胸に擦りつかることだってできるのだ。菜摘は自然にパジャマの中に手を入れると、ベッドの中で自分を慰め始めた。もし晃一のマンションに自分が訪ねていったら晃一は受け入れてくれるだろうか?菜摘の頭の中では、マンションを訪れると晃一が微笑んで目の前に立っていた。
『おじさま・・・・私・・・・良い?入っても良い?』
想像の中の晃一は笑顔で菜摘を迎え入れてくれる。
『ありがと、お邪魔します。全然変わっていないのね』
そう言うと菜摘は想像の中で晃一とソファに隣り合って座った。最初に晃一と過ごした時のように。
『パパ、あの・・・・聞いても良い?』
『なんだい?言ってごらん』晃一の声が菜摘の頭の中で響いた。
『怒ってる?』
『怒ってなんか無いさ。菜摘ちゃんはいろいろ考えたんだろ?年頃なんだからそう言うことだってあるさ』
『パパ、ごめんなさい。私、パパに酷いことしました』
『良いよ、菜摘ちゃん、もう何とも思ってないから』
菜摘の頭の中では晃一が軽く身体を引き寄せた。
『あん、パパ、だめよ。まだ心の準備が・・・』
『そうなの?それなら準備ができるまでこうしていてあげよう』
『お膝の上は・・・・あん、そんな急に胸に・・・まずちゃんとキスをして。ああぁ、パパのキス、素敵。とろけてしまいそう・・・』
次のシーンで菜摘はソファの上に横たわり、晃一に手を頭の上に挙げさせられて制服の上から胸を愛撫されていた。菜摘は頭の中の自分の姿を連想しながらそっと乳房の周りに指を這わせ始めた。弱い感覚が乳房から湧き上がり始める。最初はいつも晃一がするようにわざと乳房の裾野の感覚の鈍いところからだ。
『ああん、パパぁ、そうやってまた焦らすぅ』
菜摘は早く乳首を可愛がりたいのを我慢しながら空想の晃一に言った。
『そうだよ。こうやって菜摘ちゃんの準備ができるのを待ってるんだよ』
『お願い、焦らさないで』
『だめ』
『ああん、パパ、焦れったくなって来たぁ』
菜摘の指はだんだん乳房の中心に向かって動き始めた。
『焦れったくなってきたの?』
『そう、もう準備はできたからぁ』
『それなら制服を脱がすよ。良いね?』
『うん、脱がして』
想像の中で菜摘はブラジャー姿になると、晃一の愛撫をしっかり受け止めようと軽く仰け反った。頭の中では晃一がブラジャーの上から乳房を優しく撫でている。
『あん、パパ、そんなに胸ばっかり触らないで。ちゃんと脱がしてから、ね?良いでしょ?』
『それじゃ、菜摘ちゃんのおっぱいを可愛がってあげる』そう言って想像の晃一は菜摘の背中に手を回しブラジャーのホックを外した。その動きに合わせて菜摘はベッドの中でグッと仰け反った。
『そっとよ、そっとして』
頭の中の晃一は菜摘のブラジャーを外すと、優しく乳房を包んできた。同時に菜摘の指は乳首を優しく転がし始める。敏感になっていた乳首は菜摘の期待通りに快感を沸き上がらせた。
『ああん、パパぁ、ああぁぁぁ、気持ち良い、パパぁ、そんなにしないで』
『ほうら、菜摘ちゃん、感じてごらん』
『パパ、あん、直ぐにお口でしないで、ああぁぁん、パパぁ』
菜摘の左手の指はパジャマの中でそっと乳首を転がし、右手はパンツの中へと入って茂みの中を探り始めた。ねっとりと湿った秘唇の中に細い指が埋まっていき、敏感な部分を刺激し始める。
『パパぁ、もっと優しくして、ああん、下も、下もして・・・』
『菜摘ちゃん、大好きだよ』
『パパ、私も好き、大好き、パパ・・・・』
想像の世界に合わせて指を動かしていると菜摘の秘唇は急激に潤い、指はたちまち液体でぬるぬるになってきた。菜摘はベッドの中で必死に乳首と秘核を可愛がりながら晃一に愛される想像を追いかけていった。
菜摘はオナニーでいくことはない。そのまましばらく一人上手を楽しんだ後、心地良い疲れの中で眠りについた。『パパ、会いたいの・・・・、側に居たいの・・・・』それが眠りに落ちる直前の心のつぶやきだった。
翌日、晃一は友紀と晃一のマンションの近くの駅前で落ち合うと、昼食に出かけることにした。
「友紀ちゃんは何を食べたいの?」
「う〜ん、サンドイッチかハンバーガー、かな?」
「そんなもので良いんだ」
「うん、お昼にたくさん食べたくないし、別に高いものじゃ無くたって良いでしょ?」
友紀は晃一と一緒に居られればそれで良いと言わんばかりの笑顔だ。
今日は晃一も車では無い。遠出する予定も無かったからだが、それでも一応、
「車でも借りて海でも行ってみる?」
と聞いてみた。
「ううん、いいの。これからじゃ遠くには行けないし、渋滞したら時間を気にするのも嫌だから」
「それはそうだよね。それじゃ、とにかくご飯の場所を見つけようか。移動する?」
「うん、ここじゃぁね・・・」
そう言うと二人は電車に乗って少し都心側へと移動した。次の駅が友紀の学校の最寄り駅なのだが、幸いにも知り合いは乗ってこなかったし、たぶん、下校時間はだいぶ過ぎていたので同じ高校の生徒もいないようだった。友紀は慎重に周りを伺って問題無いことを確かめると、晃一の側にぴったりと寄り添った。
幸い、二人は隣町の駅の少し大きなターミナルビルでハンバーガー屋を見つけることができたのでそこに入ることにした。
「久しぶり、ここに来るの」
「友紀ちゃんは来たことあるんだ」
「うん、3回くらいだけど」
「美味しいの?」
「まぁまぁかな。美味しいけど高いから。これなんてスペシャルで大きいけど700円以上もするんだよ。美味しくなかったら詐欺よ」
「そうだね。いろいろあるけど、メインはどれも単品で400円以上って感じか、確かに高いね」
そう言いながら二人は好みのものを注文することにした。
「友紀ちゃん、一個じゃ足りないだろう?」
「そうなの・・・・二つ食べても良い?おっきいのと小さいのと・・・」
「もちろん良いよ。俺も二つだから」
そう言うと二人は二つずつ注文し、晃一は更にセール中のビスクを、友紀はオニオンリングを頼んだ。
「それで、友紀ちゃんは今日はどこか行きたいところ、ある?」
「ううん、特にないの。おじさまの部屋に行きたいかな・・・・。ゆっくりできるし」
「そう、わかった、いいよ、もちろん」
晃一の返事を聞いて、友紀はちょっとホッとしたようだった。
「あのね、麗華のこと、聞いても良い?」
「ああ、もちろん、内容は話せないけどね。だいぶ思い切ったことをしたみたいだよ。それで今、気持ちを確かめてるって言うか、落ち着くのを待ってるって感じかな?」
「そうなんだ。だいぶいろいろ話した?」
「それがね、そんなにたくさんは話してないんだ。元々麗華ちゃんはそんなに細かく相談するタイプじゃ無いみたいで、あんまり恋愛相談て雰囲気でも無かったし。でも、素直にいろいろ話してくれたし、麗華ちゃんでいろいろ気がついたことがあったみたいで、自分からきっかけを見つけて、どんどん自分から行動してたって感じだな。だから俺もよく知らないんだよ。麗華ちゃんが何をしてたのか」
「ふうん、さすが麗華って感じね・・・でもね・・」
「どうしたの?」
「昨日菜摘が言ってたんだ。麗華って彼の周りでは可愛い女の子ってことになってるんだって」
「え?十分可愛いじゃないの」
「見かけじゃ無くて、性格の方。私たちと一緒だとしっかりしてるんだけど、二人だけだと彼に甘えるんだって」
そう言って友紀は晃一をじっと見つめた。麗華に甘えられたりしていないかどうか気にしているのだ。
「そうなんだ。あんまり甘えるようには見えないけどね・・・・・、でも女の子だったらそう言う面だってあるんじゃ無いの?女の子同士とは違った面が」
「そうよね」
友紀は少しホッとしたらしい。
「ま、俺の前ではかなり緊張してたみたいで、かなり強がってたけどね」
どうやら晃一の話から麗華が晃一に甘えたりはしていないことが分かり、友紀は安心したようだ。
「それで、一昨日だったかな、だいぶ良いところまで来たから、もう一回相談に乗って欲しいって言ってたよ」
「うん、わかった。明日?」
「麗華ちゃんから聞いてるの?そうなんだ・・・ま、仕方ないか・・・・。何か、心の整理をしたい雰囲気だったな」
「それで、結局どうなったの、彼と?」
「それは友紀ちゃんが直接聞くべきことだよ。それに、俺だって本当のところは分からないんだから」
「そうか、それもそうね」
友紀は晃一の様子から、どうやら深入りはしていないらしいと思った。それならさほど気にすることでは無いと思った。
「ねぇ、麗華ちゃんて良いところのお嬢様かなんかなの?」
「そうよね、誰だってそう思うよね。名前が麗華であの派手さじゃ」
「ちがうの?」
「全然。一度麗華の家に行ったことあるけど、普通の家だったよ。ちょっと大きかったくらい」
「見た目からすると、ピアノとかバレエのイメージだけど・・・・」
「全然、そんなお嬢様じゃ無いったら。どっちかって言うと、動き回る方が得意よ。気になるんなら、それこそおじさまが直接聞けば良いじゃ無いの」
そう言って友紀は笑った。
「そうだよね。明日、聞いてみるよ」
「どこで会うの?」
「昨日麗華ちゃんと話をした喫茶店。何か、結構人目を気にしてるみたいで、この前もその店に移るときはバラバラで違うルートから入ったんだ」
「そうよね、麗華だったら女子の目より男子の目を気にするでしょうからね」
「へぇ、やっぱり分かるんだ。そうなんだ。俺はちょっとびっくりしたけど。そこまで気にするかなぁって」
「分かってあげなよ。女の子って大変なんだから」
「うん、もちろんそうは思うけど」
そんな話をしているうちに、二人はハンバーガーを平らげた。
「麗華のことはもう良い。行きましょ?」
そう言って友紀は席を立った。
「それじゃ、もう少しハンバーガー買っていこうか?」
「え?まだ食べるの?」
「そう。運動したらお腹が減るんじゃ無い?」
そう言って晃一がウィンクした。友紀は一瞬、何のことか分からなかったが、直ぐに晃一の言う意味が分かったらしく、一気に顔を赤くして俯いてしまった。それと同時に、今日晃一は自分を抱くために会っているのだという事実を思い出させる。それは、あくまで晃一に甘えて愛される手段としてセックスを考えている友紀にとって、まずセックスありきと晃一が考えているような気がして寂しくなった。
「もう・・・そんなのいらない・・・」
友紀はつんと怒った。
「ごめん、ごめん。冗談だよ」
二人は店を出ると、友紀は晃一の耳元でちょっと怒った。
「おじさまって、私のこと、そんな風に見てるの?」
そう言いながらも、『自分で呼び出しておいて部屋に行きたいって良いながら怒るなんて筋違いよね。そんなこと分かってるけど、何もあんなこと言わなくなって良いじゃ無いの。ああん、私、やってることと考えてることが合ってない。もう、何してんのよ』と自分に怒っていた。
「え?そんなこと?」
「私とおじさま、そんなに軽い関係?」
「え?そんなこと無いよ。軽いなんて・・・・」
晃一は驚いたが、友紀はそのまま知らん顔してどんどん先に行ってしまった。晃一は友紀が気分を害したらしいと気がつくと、慌てて友紀の後を追った。
「怒ったの?」
「ううん」
「本当?」
「怒ってない」
「そうなの?怒ってない?本当に?」
「怒ってないってば」
「何か怒ってるみたいだけどなぁ」
「それはおじさまがしつこく聞くから」
「そうか・・・・」
「私が怒ってないとダメなの?」
「そんなことないよ」
「それじゃ、行きましょう?」
「うん」
友紀は無言で晃一と並んで歩きながら、『これって大人の会話ってやつ?軽く受け流さなくちゃいけなかったの?なんか、私の方が引っかかってるじゃ無いの』と考え込んでいた。そして、晃一は自分のような子が好きなのだろうか?と考えてみた。晃一と自分との関係はもともと晃一と菜摘のことがあったからなのかも知れないと思うと、どうも心がすっきりしない。今までの恋愛は自分から積極的に近づいたことは無かったのだが、今回は自分から晃一に近づいて求めている気がする。それは自分の望む恋愛なのだろうかと考えていた。
マンションの最寄り駅まで電車の中では二人は少し離れていた。友紀の気持ち的に甘える雰囲気では無かったのだ。しかし、駅を出て歩き始めると、その雰囲気も変わってきた。やはり、二人の部屋に近づいているという事実が友紀の心を晃一へと近づけていく。やはり二人だけの時間を過ごすと思うと心が弾んでくる。晃一に思い切り愛されたいと思ってしまう。
晃一の部屋に入るなり、友紀は、
「汗かいたからシャワー浴びてくるぅ」
と言ってさっさとシャワーを浴びに行った。それは晃一との時間が待ち遠しい友紀の意思の表れでもあった。思い切りシャワーを浴びるとすっきりとする。実は昼食にハンバーガーを食べたのも、食事で汗をかきたくなかったからだった。今日はいつもより暑い。汗だくになるのでは無いかと思って気を遣っていたのだ。
シャワーから出てくると、友紀はこれで一息ついたと思った。いよいよ二人だけの時間が始まるのだ。制服の下に汗を吸い取るために着ていたTシャツは省略した。制服だけはそのまま着るしか無いが、汗臭くないか入念にチェックして身支度を調えた。そして部屋に二人きりになると、友紀は晃一が引き寄せてくれないか待ち遠しくなった。
しかし、そんな友紀の気持ちに気がつかないのか、晃一は友紀と離れたソファに座り、
「暑かったろう?とにかく少し涼んでゆっくりしようね」
と言って飲み物を取りに行った。そして友紀に冷たい飲み物を渡すと、
「それじゃ、俺もシャワーを浴びてくるかな」
と言って席を立ってしまった。