第 11 部

             

            幸一はそのまましばらく久美とのキスを楽しんだ。そしてやっと幸一の唇が久美の唇から離れた時、久美は幸一の手が自分の胸を再びまさぐり始めたことに気が付いた。このまま幸一に任せていれば、この明るい部屋の中で服を脱がされることになってしまう。

            「いや・・・いや・・・やめて」

            その言葉に幸一は問い返した。

            「こうされるのがいや?」

            久美はその言葉に微妙に服従を求める響きが混じっていると感じた。

            「あの・・・いや。こんな所じゃ・・・いや・・・」

            そう言って久美は幸一の手を振り解き、身体を起こそうとした。しかし、一度気持ちを切り替えてしまったからか、先程のベッドの上でのような嫌悪感はなかった。既に一度服を脱がされかかっているので、触られてもその感触に驚かなくなったというのが一番正しいのかもしれない。

            久美が先程ほど嫌がっていないのは幸一にもいち早く伝わっていた。しかし、泣き顔は見たくないので取り合えず時間を少し置くことにした。

            「久美ちゃん、それじゃ、冷蔵庫に果物が入っていたでしょ?一緒に食べようか?」

            その提案に久美は即座に同意した。これで少しは幸一から離れていられる。

            「はい、わかりました」

            久美は立ち上がってリビングに面している対面式のキッチンに行き、冷蔵庫からいくつか果物を取り出して皮をむき始めた。

            「一緒にこっちで食べよう」

            「はい・・・・」

            久美はゆっくりと準備したつもりだったが、盛りつける皿を探すのに少し戸惑った以外はあっという間に準備が終わってしまった。

            用意した更にフォークを添えようとして引き出しを探していると、幸一が様子を見に来た。

            「あ、マンゴーが入っていたと思ったけど、そろそろ食べないと・・」

            「あ・・・はぃ・・・・・」

            「どうしたの?マンゴー、嫌い?」

            「いえ・・・、どうすればいいのか分からなくて・・・」

            「皮を剥いて、真ん中にある大きな種に当たらないようにナイフで削ぎ落とせば良いんだけど・・・」

            「はい、わかりました」

            「お願いね」

            久美はもう一度冷蔵庫を開け、先程手をつけなかったマンゴーを取り出して幸一に言われた通りにした。久美が皿に盛りつけたフルーツを持ってくると幸一は、

            「美味しそうだね。一緒に食べよう」

            と久美を隣に座らせて食べ始めた。

            「うん、美味しい。久美ちゃんもどうぞ」

            そう言って幸一は自分と久美と交互にフォークに指したフルーツを差し出した。

            久美は最初、緊張したままだったのであまり味も分からなかったが、幸一と話をしながらこうやっていることは、あまり嫌な感じがしなかった。

            「久美ちゃんは、学校でクラブとかに入ってるの?」

            「前はブラスバンドに入っていたんですけど、両親が死んでから辞めました」

            「そうか、音楽が好きなんだ」

            「はい」

            「それじゃ、自分の部屋は音楽だらけかな?」

            「そんなこともないです。CDとかはかなりありますけど」

            「音楽はいつも携帯で聴くの?」

            「最近はそうですね」

            「パソコンから移すんだっけ?」

            「パソコンは持ってないんです。欲しいんですけど・・・」

            「家にないんじゃ仕方ないね」

            「いえ、父の使っていたのがあるんですけど、それは父しか使っちゃいけないから、私は動かし方も知らないんです」

            「ご両親は久美ちゃんに買ってくれなかったの?勉強のじゃまになるから?」

            「そうじゃないんです。本当はもうすぐ買ってもらえるはずだったんです。高校に入ったんだからって」

            「そうか、早く買えると良いね」

            「はい」

            「きっとお金だって貯まるから。安心して良いよ」

            その言葉を聞いて、久美は大切なことを確認した。

            「いいんですか?」

            「え?」

            「あんなにたくさん貰っても・・・」

            「うん、全然問題ないよ。それくらいのことを久美ちゃんは十分してるでしょ?」

            「いえ・・・・」

            久美は少し言葉を濁した。そう言われるとお金の分だけのことをしなくてはいけないと言われているみたいで気が重い。

            「久美ちゃん?」

            「はい」

            「久美ちゃんが土曜日にこの家に来てくれて、本当に嬉しいんだ。久美ちゃんと居ると、本当にリフレッシュできるから。でも、さっきみたいにベッドに行くのがどうしてもいやだったら、早く帰っても良いよ。無理には引き留めないから」

            「・・・・はい・・・でも、その分お金は減るんですよね?」

            「それは・・」

            「分かってます。早く帰ってお金は一緒じゃ図々しいですよね」

            「久美ちゃん」

            「どうしても我慢できなかったら帰ります。でも、今はまだ大丈夫です」

            久美はなるべく元気を出して言ったつもりだった。本人が思ったほど力強くはなかったが。でも、今日のお金があれば貯金を下ろさずに電話代と電気、ガス代を払える。

            「いいの?」

            「・・・・・はい・・」

            さすがに久美の返事は小さかった。

            フルーツを食べ終わると、幸一は久美を優しく抱き寄せた。久美の小さな身体が幸一に寄りかかってくる。いろいろ話したおかげで、久美の心の中の抵抗感が小さくなったし、この部屋の環境に少し慣れてきたのも事実だった。

            「久美ちゃん、俺のわがままなのは分かってる。だけど、こうして一緒に過ごして欲しい。できるだけのことはするから。毎週、土曜日に来てくれればそれで良い。他の日は今まで通りにすればいいさ。そしてその代わり、土曜日の半分だけ俺にくれないか?」

            そう言いながら幸一は久美をゆっくりと再び膝の上に寝かせた。膝の上から久美がじっと見つめている。

            「好きなんだ。すごくわがままだけど、久美ちゃんが好きになったんだ。いつからかは分からないけど。久美ちゃんは気が付いていたかもしれないけど、久美ちゃんが思っている以上に好きになってるのは間違い無いよ」

            久美はしばらくじっと幸一を見つめていた。考えてみれば、こんな横暴なやり方はない。お金で抑え付けておいて好きにしようというのだから。心を決めたはずの久美の心には今でも帰ってしまおうかという気持ちがはっきりと疼いていた。いや、今にもそうしたくって堪らなかった。まだ久美は幸一のことをよく知らない。単に身体を自由にされるだけではなく、想像することさえおぞましいことをやろうとするかもしれない。そして、知らないうちに自分がそれに慣れてしまうかもしれない。久美はじっと幸一を見つめていた。

            「久美ちゃん、どうする?」

            そう言うと幸一は久美の返事を待った。

            しばらく時間が過ぎていった。久美にしてみれば一瞬だったかもしれないが、幸一にとっては長く不安で辛い時間だった。

            久美は幸一が返事を求めてきたので迷った。これで何かをされたとしても、承諾してしまってからなら無理矢理訳が分からないうちに乱暴されたとは言えなくなる。しかし、幸一の言葉を信じるしかないと言うことも分かっていた。

            なんと言えばいいのか、しばらく久美は言葉を探していた。しかし、どんな言葉も久美の気持ちを表すことはできそうになかった。そして最後にやっと一言だけ言った。

            「・・・優しくして下さい・・・」

            それは久美の心の悲鳴のようなものだった。何かにすがりつかなくてはいけないのに、それが自分にとっては悪かもしれないのだから。

            「うん、大切にするよ」

            そう言うと、幸一は再び久美にキスをしに行った。今度は久美は少しだけ口を開けて、おずおずと舌を差し出してきた。その可愛らしい舌を慈しむように幸一の舌が絡み合う。同時に幸一の手は久美の胸へと写り、優しく膨らみを撫で始めた。もう、久美の身体は硬く窄まって手を拒むことはなかった。そっと撫でていると少しだけ久美が反応したような気がした。幸一は久美の身体が小刻みに震えていることに気が付いた。『怖くて仕方ないんだ』そう思うと、愛おしさは更に増していくのだった。

            幸一はゆっくりと時間をかけて久美とのキスを楽しんだ。久美はキスをしている間、時間の感覚が麻痺していた。ただ、どうやら幸一は自分をある程度は優しく扱ってくれそうだと言うことだけは理解し、安心した。

            あきれるほど長い間キスを楽しんだ幸一は、唾液が糸を引くくらいの距離で久美に聞いた。

            「久美ちゃん、経験は、あるの?」

            久美の視線が横に逃げ、恥ずかしそうに頭が微かに横に動いた。

            「感じたことは、あるの?」

            今度はもっとはっきり横に動いた。

            「それじゃあね、優しく教えてあげるからね」

            久美の頭が微かに上下に動いたような気がした。

            しかし、幸一の言う『優しく』というのがどういう事なのか全く分からない。それが不安だった。

            「大丈夫。無理矢理なんて事はしないから」

            幸一はそう言ったが、先程無理矢理胸の膨らみをいいように触られたばかりなのだから、久美にとっては信じられるはずがなかった。

            幸一は膝の上に横たわっている少女を今すぐどうこうしようとは思っていなかった。決断はなされたのだ。慌てることはない。ゆっくりと久美を起こしながらもう一度簡単にキスをした。確かに舌をそっと差し出して反応してくれた。

            幸一はこれからゆっくりと時間をかけてこの少女の身体が幸一を受け入れていくように開発していくつもりだった。どういう風に二人の中が発展していくのかは分からなかったが、幸一の好みとしては大人しく、恥ずかしがりながら、それでいて上手にリードすれば大胆になるように開発してみたかった。

            幸一がふと時計を見ると、11時半になっていた。幸一の視線につられて久美も壁に掛かっている大形液晶時計に目がいく。

            「もうこんな時間か。それじゃ、今日は少し早いけどタクシーを呼ぶね」

            「タクシー・・・」

            「言わなかったっけ?タクシーで帰ってって」

            「でも・・・」

            「大丈夫。タクシー代は払わなくて良いから」

            その言葉に久美は少し安心したようだった。

            「はい」

            「これからもこれくらいの時間に帰っても大丈夫?」

            「はい、弟には言ってきたし、夕食も作ってきてあるから」

            「良かった。それじゃぁ、今度の土曜日を楽しみにしてるね」

            「はい、トンカツですね」

            一瞬、幸一は久美が何を言ったのか分からなかったが、久美に頼んだ来週のメニューだと思い出した。

            「そうそう。挑戦してみてね」

            「はい」