第 32 部

             

            久美は食事の間、話が弾んでいる割にはそれほど楽しそうではなかった。確かに笑顔も見せるし笑いもするのだが、久美のほうから話題を余り提供しない。それは、やはり今日のこの後が気になって仕方ないのだ。簡単に食べられるものばかりを揃えたと言うことは、食事の時間が短くなるのだから幸一に抱かれる時間が早くなることを意味する。先週までの出来事から考えて、今日幸一は久美に初体験をさせようとしていることはほぼ間違いなかった。久美としては、何となく分かってはいても、やはり心静かに待っている、と言うわけにはいかなかった。

            しかし、最早久美は嫌がってはいなかった。それどころか、少し楽しみにしていた。年頃の少女にとって、自分がどれくらい感じられるのかはとても気がかりなのだが、幸一はとても上手にそれを教えてくれる。それに幸一は一次的に強圧的な態度を取ったこともあったが今はとても優しいし、殆ど何もせずにいてくれたことだってある。幸一が久美を大切に思っているのは久美も良く分かっていたので、許してもいいと感じるようになっていた。

            ただ、今は同級生がふと話をしていた言葉が気になっていた。それは『女って抱かれると変わるのよねぇ』っと言うたわいのない言葉で、ふとしたときに聞いただけで、その子のことは良く知らないのだが、妙に言葉だけが記憶に残っていた。

            『私って、あんなことされたから幸一さんが好きになってきたのかな』そう思ったりする。しかし、それ以外を知らないのだからいくら考えても分かるはずがなかった。ただ、『今は自分の気持ちを信じよう』と自分に言い聞かせながら食事を終え、後片付けを始めた。

            幸一はシャワーを浴びてガウンに着替えると、いつものようにリビングのソファーに座って大画面テレビを見始めた。最初はいつもCSのワールドニュースだ。

            久美は片付けを終わると幸一の酒のおつまみを準備して自分のジュースと一緒に幸一の前に置くと、

            「こんな感じでいいですか?」

            と聞いて幸一が簡単に礼を言うとシャワーと着替えに向かった。

            その後ろ姿を見送った幸一は久美の考え通り、今日は久美を貫くつもりだった。だからいつもよりも早く帰ってきたし、ケータリングを手配して少しでも久美を抱く時間を長くした。それは久美が予想したとおりだった。ただ、今日の久美の表情が少し曇っていたのが気にはなったが、緊張しているのは久美だけではないのだからもう少し様子を見ようと思った。

            やがて久美が入ってきて、幸一の横にタオルを敷いて座った。しかし、その位置は幸一より少し離れた場所で、幸一が久美の肩に手を回すには少し離れていた。それでも幸一は久美が緊張していることが分かっただけでもよしとして、直ぐに引き寄せたりはしなかった。

            今日の幸一はワインを飲んでいる。食事中はビールだけだったので、酒の強い幸一にしてみればかなりゆっくりとしたペースなのだが、余りピッチを上げないように気をつけていた。

            どうやって話しかけようか迷っていると、

            「幸一さん、どうですか?美味しいですか?」

            と久美のほうから話しかけてきた。

            「うん、チーズも美味しいし、生ハムとキュウリも美味しいよ」

            「まだお代わりありますから、言ってください。直ぐに作れるんです」

            「そうなんだ。久美ちゃん、だいぶ料理になれてきたみたいだね」

            「家でやってるのとは全然違うから最初は分からなかったけど、だいぶ慣れたみたい」

            「やっぱり時間が短くなった?」

            「お吸い物は初めてだから時間、ちょっとかかったけど、でもそれ以外はだいぶ早くなったと思います」

            「良かった。それじゃ、足りなくなったらまた作ってね」

            「はい」

            「・・・・・・・・」

            「ワインには合いますか?」

            「うん、このワインはあんまり強くないから、こんな感じのおつまみがちょうどいいな。赤ワインの強いのとかだったらもっと強いチーズが良いと思うけど」

            「そのチーズ、お店の人に聞いて買ってきただけで良く分かんないんですけど、チーズの強い弱いってどういう事なんですか?」

            「そうか、強いチーズって言うのはもっと匂いとコクの強いチーズで、っていっても言葉だけじゃ分からないよね。ちょっと待って、確か冷蔵庫に入っていたはずだから」

            そう言うと幸一は立ち上がり、冷蔵庫の中から小さくなったチーズの包みを取り出すと切り始めた。

            「あ、私がやります」

            そう言って久美が立ち上がり、キッチンに来ようとするのを押し留め、

            「いいよ。これくらいなら俺だってできるさ。はい、できた」

            幸一はそう言うと小さな更にチーズを載せてソファーに戻ってきた。

            「久美ちゃん、食べ比べてごらん。もっとこっちにおいでよ」

            「はい」

            康司がそう声を掛けると、久美は素直に幸一の隣に来た。今度は幸一にくっつくくらいの距離だ。

            「小さく切ってあるからね。一つだけ食べてごらん」

            幸一がそう言うと久美は興味深げに手を伸ばして一つ口に運んだ。その時少し屈んだ制服の胸元から可愛らしい乳房とその先端の乳首が一瞬だけ見えた。

            「うわ、これ・・・、凄い匂い・・・」

            「ははは、そうだろ?一つだけで良かったろ?」

            「それにしてもこの匂い、なんか腐ってる見たい」

            久美はそう言ってオレンジジュースを飲んだが、まだ匂いが口に残っているのか顔をしかめている。

            「久美ちゃん、ワインを少し飲んでみる?」

            「え・・、だって私まだ・・・・」

            「少しだけ。口の中の匂いが消えるよ」

            久美は少し考えていたが、

            「それじゃ、一口だけ」

            と言って幸一の白ワインを手に取り、恐る恐る口に運んだ。

            「酸っぱい。・・・・でも・・・・、あ、匂いが消えた」

            「そうだろ?だからワインはチーズと一緒に楽しむものなんだ」

            最初はぎくしゃくしていた雰囲気が一気に和やかになり、幸一は嬉しくなった。そしてその口火を切ったのが久美であることがまた嬉しかった。

            久美は夕食の時、かなり自分でも緊張しているのが分かった。『このままじゃ幸一さんに変に思われる』と分かっていても表情が強ばってしまった。しかし、シャワーを浴びている間に決心が付いた。どうせいずれは誰でも経験することだし、それなら今の自分にとって大切な日と、自分に優しくしてくれる人がいい、そう思えたのだ。

            ただ、さすがにいきなり幸一の腕の中に飛び込んでいくように、直ぐ隣にピッタリ座るほど度胸はなかった。しかし、会話が自然に弾んでごく普通に幸一の隣に座ることができ、今は一安心といった感じだった。

            「ワインてこんな味なんだ・・・」

            久美はもう一口飲んでみようと思った。それは無理な背伸びだったのかも知れないが、緊張を解すにはお酒が良い、と聞いたことがあったからだ。しかし、恐る恐る飲んだ一口目と違い、二口目はかなり多くを口に入れた。しかし、飲み慣れない酒を直ぐに飲めるわけがない。アルコールが呼吸器を刺激していきなり咽せてしまった。

            「むほっ、ケホッ、ケホケホッ」

            「ははは、久美ちゃん、無理は止めた方が良いよ」

            「ゴホッ、そうみたい・・・・びっくりした」

            「ねぇ、チーズの匂い、消えた?」

            「はい、ワインが流してくれたみたい」

            「確かめても良い?え?あ・・・」

            幸一は身体を右に捻ると、右側に座っている久美をソファに押し付けるように正面からキスをしに行った。

            「ちょ、ちょっ・・・・んんっ・・・・ん・・・」

            いきなり唇を重ねられた久美は最初少し驚いて身体を引いたが、いったんキスに入ると直ぐに大人しく唇を重ね、少しだけ開いて舌をチロチロと出してきた。その仕草はとても可愛らしい。

            「確かにチーズの匂いはあんまりしないね」

            唇を離した幸一がそう言うと、少しぼうっとした感じの久美は、

            「少ししました?」

            と聞いてきた。

            「んー、それは口じゃなくて息かな?確かめてみようっと」

            幸一はそう言うと再び久美の唇を楽しんだ。

            「もう、幸一さんたら、こんなこといきなりされたら、お酒が一気に回っちゃいます」

            「そう?それじゃ、久美ちゃんを酔わせて、あんなことしちゃおうかな?」

            「あんなこと?」

            久美は少し緊張した。

            「そう」

            「どんなこと?」

            「それはね、まずはこうして・・・・」

            幸一はいつものように身体を少し捻って久美を引き寄せ、久美の背中からピッタリと寄り添う形になってから両手を前に回して制服の前に両手を持ってきた。そして久美の耳元で、

            「こうしてから、どうすると思う?」

            「・・・・・・・・」

            分かりきってはいても緊張しているし、焦らされてもいないのに言えるわけがない。

            「わかんない?」

            「・・・・・・・・・・・・はい・・」

            幸一は両手を久美の腹部に持ってきて、少しずつ上へとずらせながら、

            「これでも?」

            と言う。久美は言わないとこのまま進まないのかと思ったが、

            「こうすれば分かる?」

            と言って少しずつ膨らみの下側から形を確かめるように撫で始めた。安心した久美は目をつぶってあの感覚が湧き上がるのを待つ。普段は素肌の乳房上に制服を着ることが無いので、幸一に制服の上から愛撫される感覚は独特だった。下着のように繊維が柔らかくないので、指先でそっと撫でられても固い感覚がある。そして久美の身体はその感覚を覚え始めており、以前よりも短い時間で固く膨らむようになってきた。

            久美が両足をギュッと閉じたのを確認すると、幸一はさらりとした髪の中に隠れている耳元に口を寄せ、

            「どう?身体が反応し始めたのかな?」

            と囁いた。その吐息がくすぐったかったので久美は思わず首をすくめた。『今日もいっぱい我慢しないといけないんだ・・・・』久美は幸一の愛撫の仕草から、久美を焦らしていることが分かると、どこまで我慢できるか不安になった。やはり何度やってもあの言葉を自分から口にするのは恥ずかしい。身体の中からあの感覚がゆっくりと湧き上がってくる。久美はその感覚に安堵しながらも、幸一におねだりをしなくても良いことを願った。

            しかし、今日の幸一はいつもと違った。制服の下に両手を滑り込ませてお腹に触ると、ゆっくりとそのまま肌の上を滑らせながら膨らみへと向かって上がっていく。

            「ちょ、ちょっと幸一さん・・・」

            「久美ちゃんの肌はとてもすべすべしてるね」

            「そんなこと、いやぁ、服が・・・」

            あっという間に久美のお臍から上の方まで捲れ上がってくる。このままでは乳房が見えてしまう。

            「ダメ、幸一さん」

            「どうすればいいのかな?」

            「手を下ろしてください」